【R18】呪われた(元)王子の最低な求愛

環名

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心が真ん中、真心の愛(上)

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 シェイラは最近、ひとつの疑念というか妄執というかに囚われている。


「シェイラ!」


 自分の部屋へと向かうべく、階段を上っていたシェイラだったのだが、なぜかオリヴィエに呼び止められた。
 階段の途中でシェイラが立ち止まり、声のする方――シェイラの背後――を振り返ると、慌てて階段を駆け上がって来たらしいオリヴィエがいた。
「なんですか」
 問うシェイラを、オリヴィエは背後からそっと支える。
「危ないから、二階になんて上がったらだめだよ」

 オリヴィエは近距離で、シェイラの身を案じるような表情で言うのだが、どうして二階に上がったらいけないのか。
 少し悩んだけれど、全く理由がわからない。
「…言葉の意味が理解できないのは、わたしの耳がおかしいのでしょうか? それともオリヴィエの頭? わたしの部屋は、二階なのですが?」
「どちらも悪くないと思うけど」
 きょとんとしているオリヴィエに、シェイラは訊き方を変えることにした。


「二階で何か危険な動物でも飼い始めたのですか? 何か、わたしが二階に上がると都合の悪いことでも?」


 自分で言いながら、シェイラは気づいてしまった。
 二階には、オリヴィエの部屋もある。

 まだ、シェイラとオリヴィエは結婚をしたわけではなく、【精霊の戒め】はシェイラの指にもオリヴィエの指にもある。
 どうやら、オリヴィエはどこかに家を建てており、その完成を待ってシェイラと結婚してそちらに移るつもりらしい。 「そうしたら、家中どこでも愛し合えるね」と言われて、シェイラは固まるほかなかったが、オリヴィエ以外の誰かと結婚する自分はもう、考えられない。

 だが、シェイラとオリヴィエは、まだ結婚していない。
 こうなってくると、オリヴィエの女好きが再燃して、オリヴィエが二階に誰かシェイラに会わせたくない人物を連れ込んでいるのでは、と邪推してしまう。

 なんでも、この【精霊の戒め】、浮気はアウトなのだが、肉体関係が生じなければ発動しないらしい。
 それも、当人が拒絶しなければ、挿入以外はセーフだというのだ。
 ソースはシェロンであるのが、信じていいのかどうか微妙なところではあるが。

 つまり、戒めで繋がった相手以外とのキスも触りっこも、したくてするのならば何ら問題ないということになる。

 なんていったってオリヴィエは、その素行の悪さから、女性化の呪いをかけられた女好きで女たらしでゲスでクズの元第二王子なのだ。
 そろそろ、シェイラだけでは満足できなくなってきたのかもしれない…。

 そんな思いが過ったときだ。

 オリヴィエがシェイラの腰を抱いて、階下に誘導し始めた。
「万が一、階段から落ちでもしたら大変。 今日から私と君の部屋は、一階にしようね」


 シェイラの身を案じるような表情のオリヴィエが、嘘をついているようには見えない。
 けれど、シェイラが階段から落ちるのが心配だから、シェイラとオリヴィエの部屋は一階に…って。
 どうして突然そんなに過保護になった!

 何か裏があるのでは、と思いつつ、シェイラは慎重にオリヴィエを観察する。
「わたし、そんなに鈍いと思われているのですか?」

 心外だという気持ちをオーバーに込めれば、オリヴィエはそっと微笑んだ。
 静かに、だが、この上なく、嬉しそうに。


「だって、シェイラのお腹には、私たちの子どもがいるでしょう…? 万が一」


 シェイラはクッと目を見張る。
「え? わたし、妊娠しているのですか? きちんとお薬飲んでるのに」
 あまりにあり得ないことをオリヴィエが言い出すので、シェイラは思わずオリヴィエの言葉を遮ってしまった。
 遮られたオリヴィエが瞠目してシェイラを凝視するものだから、シェイラはハッとして口を押える。
 何だかよくはわからないが、オリヴィエの様子を見れば、シェイラがうっかり、余計な情報を流してしまったことだけはわかった。


 シェイラの直感は正しかったようで、オリヴィエはぐっとシェイラに迫ってきた。
 階下にたどり着いていてよかった、と思う。
 これが階段の途中だったら、シェイラはオリヴィエに突き落とされる事態になっていたかもしれない。
 がしっと両肩を掴まれて、ずずいとオリヴィエに顔を近づけられた。

「待って、シェイラ。 何を飲んでいるって?」

 気のせいかもしれないがオリヴィエの表情は怒っているようにも見える。
 オリヴィエが怒っているところを、シェイラは実はまだ見たことがない。
 シェイラが何を言っても、何をしても、オリヴィエは気にしていないようで笑って終わりにしてくれるのだ。
 だから、オリヴィエは怒っていないのかもしれないが、雰囲気が変わったのはわかった。

「…避妊薬、です」
 シェイラは、慎重に返答する。
 オリヴィエが逆上してシェイラに手を上げるとは思わないが、わざわざ怒らせるようなことを口にしたくはない。

 だが、その返答はオリヴィエの望んだものではなかったらしく、更に問いが投げられた。
「違う。 誰が、君にそんなもの」
「わたし、シェロンには溺愛されていますから」


 シェイラが応じると、オリヴィエの端麗でクールな美貌が、一瞬だが黒に染まる。
「シェロンめ、あのシスコン、余計なことを…」
 中音域の声も、いつもより低い。


 ええと、それは、つまり。
 オリヴィエに、避妊する様子がないのは、最初からのことだったが、最初からシェイラを妊娠させようとしていたということか。
 シェイラは、心の中で異母兄に手を合わせた。

 お異母兄様、いつも鬱陶しいうざったいと思っていてごめんなさい、一生感謝します…!

 それは、シェイラだっていつかはオリヴィエとの子どもがほしいとは思っている。
 だが、それは、今ではない。
 それには理由だってきちんとある。


「それで、どうしてわたしが妊娠したと思われたのです?」
 問えば、オリヴィエはさらりと即答した。
「花が落ちていないよね?」


 花が落ちる、はこの世界では生理がくることだ。
 確かに、シェイラに花が落ちてはいないが、先にも言ったように妊娠ということはありえない。
 異母兄がシェイラの為に用意してくれている避妊薬が、ぱちもんでないことは、はっきりしている。
 オリヴィエとするようになってからも、一度花が落ちているからだ。


「あの、わたし、花の巡りは不順なだけで…、あの、でも、そうではなくて」
 そう、問題はそこではない。
「殿下、どうしてそんなことまでご存じなのです?」


 シェイラは、オリヴィエにいちいち「花が落ちました」なんて報告はしていない。
 オリヴィエに、「今日はごめんなさい」と言ったことは、花が落ちてから消えるまでの期間に何度かあったかもしれないが、まさか、その記録でも取っておいて日数計算でもしていたと?

 シェイラがぞぞぉっ…として青くなっていると、オリヴィエは微笑んだ。
「毎日同じベッドに入って色々としていて、気づかない方がおかしいよ」

 オリヴィエは、自分の部屋があって、自分の部屋にはきちんと寝室もあるというのに、夜はシェイラの部屋に来ない日はない。
 花の期間であっても、確かに一緒に寝てはいた。

 どうして自室で寝ないのか、と訊いたら、「シェイラが私の部屋に来ないから」と言われてしまったので、それ以来訊いていない。
 オリヴィエの部屋で一緒に寝ないシェイラが悪いような気分にさせられたからだ。

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