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石に花咲く
31.*
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早々に逃亡に失敗したシィーファは、ラディスに捕捉され、捕獲され、馬車に押し込まれてしまった。
…ラディスは、一言も発さない。
馬車の中の空気が、とんでもなく重くて、薄いような気がする。
呼吸が儘ならなくて、具合が悪くなりそうだ。
逃亡を企てたのが、そもそもの間違いだったのだろうか…。
ぐるぐると悩み始めたシィーファの隣に座っていたラディスが、シィーファに向き直る気配がする。
シィーファは、一瞬呼吸の仕方を忘れるほどだった。
がちがちに身体を強張らせて、身を縮ませるしかないシィーファの視界に、ラディスの手が伸ばされるのが映る。
殴られるか叩かれるかするのだろう、と身構えたシィーファだったが、覚悟した衝撃はなかった。
代わりに、頭部の窮屈さがなくなって、ふぁさ…と髪が落ちてくる。
驚いて、ラディスを見ると、ラディスがシィーファの被っていた帽子を取り去り、帽子の中に入れていた髪を手櫛で梳いてくれているところだった。
ラディスの手が、いつも通り優しいので、シィーファは拍子抜けしてしまった。
逃走を企てたことについて、無言の圧力と怒りを向けられていると思ったのは、シィーファの気のせいだったのだろうか。
そう、考え始めたときだった。
微笑んだラディスの、綺麗な紫紺の瞳が鋭い光を放った気がした。
例えるなら、光を反射する、刃物のような鋭さだ。
微笑みを維持したままで、けれど瞳は鋭い光を宿し、ラディスは形の良い唇を動かした。
「…これでもねぇ、私は怒っているんだよ? わかっている?」
声も、甘く優しいのに、どうしてこんなに圧を感じるのだろう。
シィーファはびしりと固まってしまった。
どうやら、ラディスが怒っていないと思ったことが気のせいだったらしい。
今、当のラディス本人が、「怒っている」と言ったのだから間違いない。
シィーファは居心地が悪くなって、ラディスから正面へと顔を戻して、視線を落とす。
「ご…、ごめんなさい…」
ラディスが、怒っているのがわかったから、ラディスに悪いことをしたと思ったから、シィーファは謝罪したというのに、ラディスは容赦なかった。
目を細めて微笑んだままで、更にシィーファを追究する。
「形だけの謝罪ならいらないよ。 何について謝っているか理解している?」
「あ…貴方のお家から、…出ていこうとしたこと…」
逃げ出そうと、という言葉を使ったら、火に油を注ぐような気がして、シィーファは別の言葉を探した。
そんなシィーファの小賢しさを、ラディスは寛容な心で見逃してくれたのだろう。
少なくとも、シィーファには、そのように思えた。
ラディスは、身体をシィーファの方に向けて、ジッとシィーファを見つめているのだろう。
そう思ったら、全身がチクチクするような気がして、落ち着かなくなる。
何か、何か言わないと、沈黙に押し潰されそうで、シィーファが必死に話題を探していると、ふぅ、と小さな溜息のような音が耳に届く。
「…こんな形で、私が準備した衣装を着てもらうことになるとは思わなかった」
ごめんなさい、と言おうとして、シィーファはラディスを見たのだが、言葉を発そうとして薄く開いた唇は、そのまま言葉を失った。
ラディスの瞳から、鋭い刃のような光が消えて、やわらかく微笑んでいたのだ。
「でも、思った通り、似合っている」
シィーファは瞬きをして、ラディスを見つめる。
もう、怒っていないのだろうか、と思うだけならよかったのに、その気持ちは言葉になって口から出ていたらしい。
「…もう、怒っていない?」
耳に届いた自分の声に、慌てて口を噤むも、時すでに遅し。
シィーファの耳に届いたということは、ラディスの耳にも届いたということに他ならない。
シィーファの問いに、目を丸くしたのはラディスだ。
思いがけないことを言われた、とでも思ったのだろうか。
ふっと吹き出すように優しく笑う。
「まだ、少し怒っている、と言ったら、お仕置きをさせてくれる?」
お仕置き、という穏やかではない単語に、シィーファはすぐに身構えた。
「…拒否権は」
恐る恐る尋ねると、ラディスは微笑んだままで首を揺らした。
「あると思う?」
「…ですよね…」
まあ、それはないと思ってはいたけれど。
あまり、痛いことはされないといいなぁ…、と思っていると、ラディスの手がシィーファに向かって伸びてくる。
「シィーファは、西洋風の下着が苦手だったよね。 まさか、下には何もつけていないの?」
さわ、と衣装の上から、胸の膨らみに触れられて、シィーファはびくりとする。
「…ぁ、だめ、ぅむ」
思わず、声を上げると、ラディスの手にぱっと口を塞がれた。
ああ、どうやら、言葉だけの脅しではなく、本当にお仕置きをされてしまうらしい。
シィーファが絶望的な気持ちになっていると、ラディスはシィーファの胸の膨らみに触れた手を離した。
人差し指を立てて、自らの口元に持って行き、唇に当てると、シィーファの目と鼻の先で囁く。
「シィーファ、しー、だよ。 ウーアに貴女の可愛い声、聞かせないで」
ここで逆らったらえらいことになる、と本能が警告したので、シィーファは小刻みに、首を縦に振った。
そうすれば、ラディスは満足したらしく、シィーファの口から手を外し、再びシィーファの胸の膨らみを手で覆う。
「ん…」
シィーファは今、釦のついた前開きの袖のある白い衣装に、栗色の袖のないワンピース風の衣装を重ねて着ている。
西洋風の下着であるコルセットの役割とはだいぶ大きいらしく、あれをつけないだけで身体の自由が利く感じがする。
だが、逆に、胸元が多少心許ない、とは思っていたのだ。
実際に触れられてみれば、わかる。
布を二枚隔てたくらいでは、触れられていることがこんなに伝わってくるものなのか、と。
同じことを、ラディスも思ったのだろう。
興味深そうに、あるいは、シィーファに思い知らせるように、シィーファの胸の膨らみをこね回している。
「やわらかいし…、触ると、ここが固くなっているの、わかるね。 こんなに淫らな格好で外に出たらだめだよ。 あっという間に犯されてしまう」
ラディスの愛撫に反応して尖り始めた胸の先を、あっという間に探り当てられて、摘ままれてしまった。
びりり、と快感が走るから、シィーファは慌てて唇を引き結ぶ。
「ん…」
ここは、馬車の中ではあるが、薄い壁を隔てた向こうで、ウーアが馬車の御者をしているはずなのだ。
がたごとと馬車の揺れる雑音で、馬の足音で、幾らか消されるかもしれないが、情時の声を聴かれるのはやはり恥ずかしい。
だから、やめてほしい、とラディスに訴えようとした。
ラディスだって、わかってくれるはずだ、と思ったのだ。
「ね…、声、出ちゃう、から…、今は」
ラディスの目を見つめて、ふるふると首を小さく横に振ったのだが、ラディスはきょとんという顔をした。
しかも、シィーファの胸を弄る指はそのまま動き続けているので、シィーファはすぐに唇を噛む。
「ん、ふ」
「でも、シィーファ、今止めたら、お仕置きにならないし…」
シィーファの発言にこそ困ったようなラディスの返答に、シィーファはハッとした。
というか、ようやく一本の線に繋がって、理解したのだ。
馬車の中で、ウーアやほかの人間に気づかれないかとひやひやしながら、ラディスの愛撫を受けることが、ラディスの言う、【お仕置き】らしい、と。
お仕置きと言えば、痛いこと、苦しいこと、つらいことだというシィーファの固定概念を覆す、お仕置き論で、しばし呆然としてしまった。
気づくのが遅いという苦情は受け付けよう。
だが、こんなお仕置き、初めてだったのだから仕方がない。
シィーファがそんなことを考えている間に、ラディスの左手はシィーファの衣装の裾を持ち上げて、裾の膨らみを出すために、幾重にもなった布の間にシィーファの脚を見つけたようだ。
膝の上まで裾をたくし上げられて、ラディスの手は、シィーファの太腿の内側を滑り、太腿の隙間に差し込まれる。
「ぁう…」
敏感な、小さな粒に触れられながら、指を滑らされて、思わず声を上げてしまったシィーファは、慌てて口を手で覆う。
ラディスはと言えば、シィーファの耳に唇を寄せて、甘く囁く。
もちろん、ぬめりを纏わせた指で、シィーファの割れ目を、上下に擦りたてながら…。
「こんなに濡れているんだもの、やめたくないよね?」
きっとラディスは、シィーファが返す答えなど、お見通しなのだ。
…ラディスは、一言も発さない。
馬車の中の空気が、とんでもなく重くて、薄いような気がする。
呼吸が儘ならなくて、具合が悪くなりそうだ。
逃亡を企てたのが、そもそもの間違いだったのだろうか…。
ぐるぐると悩み始めたシィーファの隣に座っていたラディスが、シィーファに向き直る気配がする。
シィーファは、一瞬呼吸の仕方を忘れるほどだった。
がちがちに身体を強張らせて、身を縮ませるしかないシィーファの視界に、ラディスの手が伸ばされるのが映る。
殴られるか叩かれるかするのだろう、と身構えたシィーファだったが、覚悟した衝撃はなかった。
代わりに、頭部の窮屈さがなくなって、ふぁさ…と髪が落ちてくる。
驚いて、ラディスを見ると、ラディスがシィーファの被っていた帽子を取り去り、帽子の中に入れていた髪を手櫛で梳いてくれているところだった。
ラディスの手が、いつも通り優しいので、シィーファは拍子抜けしてしまった。
逃走を企てたことについて、無言の圧力と怒りを向けられていると思ったのは、シィーファの気のせいだったのだろうか。
そう、考え始めたときだった。
微笑んだラディスの、綺麗な紫紺の瞳が鋭い光を放った気がした。
例えるなら、光を反射する、刃物のような鋭さだ。
微笑みを維持したままで、けれど瞳は鋭い光を宿し、ラディスは形の良い唇を動かした。
「…これでもねぇ、私は怒っているんだよ? わかっている?」
声も、甘く優しいのに、どうしてこんなに圧を感じるのだろう。
シィーファはびしりと固まってしまった。
どうやら、ラディスが怒っていないと思ったことが気のせいだったらしい。
今、当のラディス本人が、「怒っている」と言ったのだから間違いない。
シィーファは居心地が悪くなって、ラディスから正面へと顔を戻して、視線を落とす。
「ご…、ごめんなさい…」
ラディスが、怒っているのがわかったから、ラディスに悪いことをしたと思ったから、シィーファは謝罪したというのに、ラディスは容赦なかった。
目を細めて微笑んだままで、更にシィーファを追究する。
「形だけの謝罪ならいらないよ。 何について謝っているか理解している?」
「あ…貴方のお家から、…出ていこうとしたこと…」
逃げ出そうと、という言葉を使ったら、火に油を注ぐような気がして、シィーファは別の言葉を探した。
そんなシィーファの小賢しさを、ラディスは寛容な心で見逃してくれたのだろう。
少なくとも、シィーファには、そのように思えた。
ラディスは、身体をシィーファの方に向けて、ジッとシィーファを見つめているのだろう。
そう思ったら、全身がチクチクするような気がして、落ち着かなくなる。
何か、何か言わないと、沈黙に押し潰されそうで、シィーファが必死に話題を探していると、ふぅ、と小さな溜息のような音が耳に届く。
「…こんな形で、私が準備した衣装を着てもらうことになるとは思わなかった」
ごめんなさい、と言おうとして、シィーファはラディスを見たのだが、言葉を発そうとして薄く開いた唇は、そのまま言葉を失った。
ラディスの瞳から、鋭い刃のような光が消えて、やわらかく微笑んでいたのだ。
「でも、思った通り、似合っている」
シィーファは瞬きをして、ラディスを見つめる。
もう、怒っていないのだろうか、と思うだけならよかったのに、その気持ちは言葉になって口から出ていたらしい。
「…もう、怒っていない?」
耳に届いた自分の声に、慌てて口を噤むも、時すでに遅し。
シィーファの耳に届いたということは、ラディスの耳にも届いたということに他ならない。
シィーファの問いに、目を丸くしたのはラディスだ。
思いがけないことを言われた、とでも思ったのだろうか。
ふっと吹き出すように優しく笑う。
「まだ、少し怒っている、と言ったら、お仕置きをさせてくれる?」
お仕置き、という穏やかではない単語に、シィーファはすぐに身構えた。
「…拒否権は」
恐る恐る尋ねると、ラディスは微笑んだままで首を揺らした。
「あると思う?」
「…ですよね…」
まあ、それはないと思ってはいたけれど。
あまり、痛いことはされないといいなぁ…、と思っていると、ラディスの手がシィーファに向かって伸びてくる。
「シィーファは、西洋風の下着が苦手だったよね。 まさか、下には何もつけていないの?」
さわ、と衣装の上から、胸の膨らみに触れられて、シィーファはびくりとする。
「…ぁ、だめ、ぅむ」
思わず、声を上げると、ラディスの手にぱっと口を塞がれた。
ああ、どうやら、言葉だけの脅しではなく、本当にお仕置きをされてしまうらしい。
シィーファが絶望的な気持ちになっていると、ラディスはシィーファの胸の膨らみに触れた手を離した。
人差し指を立てて、自らの口元に持って行き、唇に当てると、シィーファの目と鼻の先で囁く。
「シィーファ、しー、だよ。 ウーアに貴女の可愛い声、聞かせないで」
ここで逆らったらえらいことになる、と本能が警告したので、シィーファは小刻みに、首を縦に振った。
そうすれば、ラディスは満足したらしく、シィーファの口から手を外し、再びシィーファの胸の膨らみを手で覆う。
「ん…」
シィーファは今、釦のついた前開きの袖のある白い衣装に、栗色の袖のないワンピース風の衣装を重ねて着ている。
西洋風の下着であるコルセットの役割とはだいぶ大きいらしく、あれをつけないだけで身体の自由が利く感じがする。
だが、逆に、胸元が多少心許ない、とは思っていたのだ。
実際に触れられてみれば、わかる。
布を二枚隔てたくらいでは、触れられていることがこんなに伝わってくるものなのか、と。
同じことを、ラディスも思ったのだろう。
興味深そうに、あるいは、シィーファに思い知らせるように、シィーファの胸の膨らみをこね回している。
「やわらかいし…、触ると、ここが固くなっているの、わかるね。 こんなに淫らな格好で外に出たらだめだよ。 あっという間に犯されてしまう」
ラディスの愛撫に反応して尖り始めた胸の先を、あっという間に探り当てられて、摘ままれてしまった。
びりり、と快感が走るから、シィーファは慌てて唇を引き結ぶ。
「ん…」
ここは、馬車の中ではあるが、薄い壁を隔てた向こうで、ウーアが馬車の御者をしているはずなのだ。
がたごとと馬車の揺れる雑音で、馬の足音で、幾らか消されるかもしれないが、情時の声を聴かれるのはやはり恥ずかしい。
だから、やめてほしい、とラディスに訴えようとした。
ラディスだって、わかってくれるはずだ、と思ったのだ。
「ね…、声、出ちゃう、から…、今は」
ラディスの目を見つめて、ふるふると首を小さく横に振ったのだが、ラディスはきょとんという顔をした。
しかも、シィーファの胸を弄る指はそのまま動き続けているので、シィーファはすぐに唇を噛む。
「ん、ふ」
「でも、シィーファ、今止めたら、お仕置きにならないし…」
シィーファの発言にこそ困ったようなラディスの返答に、シィーファはハッとした。
というか、ようやく一本の線に繋がって、理解したのだ。
馬車の中で、ウーアやほかの人間に気づかれないかとひやひやしながら、ラディスの愛撫を受けることが、ラディスの言う、【お仕置き】らしい、と。
お仕置きと言えば、痛いこと、苦しいこと、つらいことだというシィーファの固定概念を覆す、お仕置き論で、しばし呆然としてしまった。
気づくのが遅いという苦情は受け付けよう。
だが、こんなお仕置き、初めてだったのだから仕方がない。
シィーファがそんなことを考えている間に、ラディスの左手はシィーファの衣装の裾を持ち上げて、裾の膨らみを出すために、幾重にもなった布の間にシィーファの脚を見つけたようだ。
膝の上まで裾をたくし上げられて、ラディスの手は、シィーファの太腿の内側を滑り、太腿の隙間に差し込まれる。
「ぁう…」
敏感な、小さな粒に触れられながら、指を滑らされて、思わず声を上げてしまったシィーファは、慌てて口を手で覆う。
ラディスはと言えば、シィーファの耳に唇を寄せて、甘く囁く。
もちろん、ぬめりを纏わせた指で、シィーファの割れ目を、上下に擦りたてながら…。
「こんなに濡れているんだもの、やめたくないよね?」
きっとラディスは、シィーファが返す答えなど、お見通しなのだ。
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