【R18】石に花咲く

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石に咲いた花は

石に咲いた花は

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「おはよう」
 瞼に感じる光が明るくて、シィーファが瞼を上げると、唇に柔らかい感触が降る。
「…おはよう…」
 ぼんやりとしながらそう返したシィーファだが、唐突に昔のことを思い出して、笑ってしまった。


「? 何か可笑しかった?」
 不思議そうな顔でシィーファの顔を覗き込んでくるラディスに、シィーファは微笑む。
「…約束、ずぅっと守ってくれてるなぁって」
「当たり前だよ。 忘れるわけないでしょう?」
 ラディスは、何でもないことのように、笑う。
 そのことこそが奇跡だと、シィーファは思うのだ。


 ラディスは、シィーファにプロポーズをするときに、「私が、毎朝キスで起こしてあげる」と言ったのだが、あれからずっとラディスは、それを律儀に守ってくれている。
 忘れるわけないでしょう? と言ったラディスには、いまいちシィーファの言いたいことは伝わらなかったらしい。
 あんなに小さな、約束とも言えないような約束を大切にして、ずっと守り続けてくれるラディスが、稀有な存在だ、と言いたかったのだ。


 ラディスは、そっとベッドから抜け出すと、サッとカーテンを開ける。
 そして、いつの間に置いていたのか、出窓のところにあった鉢を持ってきた。


「シィーファ。 これ、なんだと思う?」
 シィーファは、身体を起こして、ラディスが持った鉢を見た。
 そこには、シィーファの髪に似た色の、ごつごつと石のような塊がある。
 石を鉢の土の上に置いてどうするんだろう、と思いながら、シィーファは視線をラディスに戻す。


「石、ですか?」
「植物だって。 花も咲くらしい」
「花、が」
 ラディスの説明に、シィーファは驚いて、鉢に視線を戻した。


 植物、と言われてみれば、そう見えないこともないけれど、こんな植物があることが、驚きだ。
 シィーファが瞬きを繰り返していると、ラディスが柔らかな微笑みをその植物に落とした。
「シィーファの瞳と同じ、蜂蜜色の、タンポポみたいな花が咲くんだって。 きっと可愛いよ。 いつか、シィーファと一緒に見られたらいいな」
 そして、その微笑みを、シィーファへと向けてくれる。


 また、シィーファの胸の奥が、きゅううとなる。
 石のようだけれど、石ではなく、花を咲かせる、植物。


 何となく、だけれど、ラディスは、再会したその日に、シィーファが言ったことを覚えてくれていたのかな、と思った。


 シィーファは、自分の名を、「石なのに、花を売る」と言ったのだ。
 でも、ラディスは、「石のようなのに、花を咲かせる植物」をシィーファに見せてくれた。
 こういう意味かもしれないよ、と示されたような気分に、なったのだ。


「…じゃあ、大切に、育てなきゃ。 …ありがとう、ラディス」
「うん、楽しみだね」
 シィーファが微笑んで言ったお礼に、ラディスは安堵したように笑う。


 ラディスは、シィーファに結婚を申し込んだ日、「絶対に後悔させないから」、とも言った。
 こんなの、後悔なんてしようがない。


 シィーファは、もう、ラディスの前では石の心を保てない、けれど。
 ラディスと一緒にいるためなら、石の心を保っていける。 そう思うのだ。

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