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ジェドの眼
王族と贈り物②
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それから、アセトもテティーシェリへの贈り物は手ずから運ぶようになったのだが、アセトの場合、テティーシェリへの贈り物に関しては、「これがテティに似合うと思う」が優先される。
ここが、王との決定的な違いだと、ジェドは思っている。
王の器用なところは、「これがテティに似合うと思う」と「これをもらったテティは喜ぶと思う」の使い分けが巧いところだ。
今回、アセトがテティーシェリへのプレゼントにと選んだサンダルについては、色とりどりの石たちが一見して宝石とはわからないような加工が施されていることが賢しい。
賢しい、と思うと同時に、テティーシェリを低く見積もっている、とジェドは思ってしまう。
あの程度の細工で、テティーシェリの目が誤魔化されると、本当に思っていたのだろうか。
そう考えていたジェドだったが、廊下へと続く出入り口の紗の向こうで、気配が動いたのを感じて、居住まいを正す。
ジェドは、表向きはテティーシェリ個人の侍女だが、テティーシェリの警護も兼ねている。
だが、そのことを知っているのは、今やテティと将軍だけだ。
だから、侍女とテティーシェリしかいないテティーシェリの居室の前を、いつも兵士が守っている。
その、兵士が動いた。
だが、彼らに緊張感はあるが、緊迫感はない。
だから、ジェドは近づいているのが誰かをすぐに察した。
「私の可愛いキティ、入るぞ」
間を置かずに、よく通る凛とした声が届いて、テティーシェリも背筋を伸ばして長椅子に座り直した。
因みに言うのなら、テティーシェリの隣に腰かけたアセトは、舌打ちでもしそうな形相である。
「! はい! お兄様」
テティーシェリが声を上げると、兵士が紗を上げ、王の姿が覗いた。
相変わらず、惚れ惚れする美男子っぷりだ、とジェドは思う。
ジェドは、王に好意めいたものを持っているわけではないが、自分が男としての生を歩めていたとしたら、自分がなりたかった理想の男性像とは王のようなものだ。
まだ幼い時分に、男である象徴を失ったからなのか、ジェドは身体があまり大きくない。
周囲に女として思わせておけるのもそのおかげといえば、そのおかげだ。
身体が大きくないので力で劣る部分はもしかしたらあるかもしれないが、身軽で俊敏な動きが可能なのも利点だと思っている。
それでも、肩幅が広く、胸板が厚く、鍛え上げられた男らしい身体には羨望に近いものを覚える。
この時代の男の衣装は、腰布と呼ばれるが、王が身に着けるものに限っては多少様相が異なり、腰布と呼ばれる。
身体のほとんどの部分が露出しているからこそ、体格に目が行くというのもあるのかもしれないが、本当に羨ましいものだ、と思う。
ジェドの身体は、どれだけ鍛えたところで、王のようにはならない。
その、王の、太い腕輪がついた腕には、布に包まれた何かが抱えられている。
アセトが、細めの腕輪を幾重にも重ねて身に着けるのを好むのに対し、王は太い腕輪で飾ることを好む。
あれが手首の血管を守る役目を果たしているのだろう、というのは、ジェドの見解だ。
王は、首や足首も、太い環状の装飾で飾る。
権威を象徴する装飾具として、防具とは思わせずに、周囲を警戒しているのが王らしい。
また、アセトの身に着ける、幾重にも重ねられた細身の腕輪は、しゃらしゃらと音を立てるが、王の装飾具はそういったこともない。 王が周囲に自分の居場所を悟られないようにしている証拠だ。
ここが、王との決定的な違いだと、ジェドは思っている。
王の器用なところは、「これがテティに似合うと思う」と「これをもらったテティは喜ぶと思う」の使い分けが巧いところだ。
今回、アセトがテティーシェリへのプレゼントにと選んだサンダルについては、色とりどりの石たちが一見して宝石とはわからないような加工が施されていることが賢しい。
賢しい、と思うと同時に、テティーシェリを低く見積もっている、とジェドは思ってしまう。
あの程度の細工で、テティーシェリの目が誤魔化されると、本当に思っていたのだろうか。
そう考えていたジェドだったが、廊下へと続く出入り口の紗の向こうで、気配が動いたのを感じて、居住まいを正す。
ジェドは、表向きはテティーシェリ個人の侍女だが、テティーシェリの警護も兼ねている。
だが、そのことを知っているのは、今やテティと将軍だけだ。
だから、侍女とテティーシェリしかいないテティーシェリの居室の前を、いつも兵士が守っている。
その、兵士が動いた。
だが、彼らに緊張感はあるが、緊迫感はない。
だから、ジェドは近づいているのが誰かをすぐに察した。
「私の可愛いキティ、入るぞ」
間を置かずに、よく通る凛とした声が届いて、テティーシェリも背筋を伸ばして長椅子に座り直した。
因みに言うのなら、テティーシェリの隣に腰かけたアセトは、舌打ちでもしそうな形相である。
「! はい! お兄様」
テティーシェリが声を上げると、兵士が紗を上げ、王の姿が覗いた。
相変わらず、惚れ惚れする美男子っぷりだ、とジェドは思う。
ジェドは、王に好意めいたものを持っているわけではないが、自分が男としての生を歩めていたとしたら、自分がなりたかった理想の男性像とは王のようなものだ。
まだ幼い時分に、男である象徴を失ったからなのか、ジェドは身体があまり大きくない。
周囲に女として思わせておけるのもそのおかげといえば、そのおかげだ。
身体が大きくないので力で劣る部分はもしかしたらあるかもしれないが、身軽で俊敏な動きが可能なのも利点だと思っている。
それでも、肩幅が広く、胸板が厚く、鍛え上げられた男らしい身体には羨望に近いものを覚える。
この時代の男の衣装は、腰布と呼ばれるが、王が身に着けるものに限っては多少様相が異なり、腰布と呼ばれる。
身体のほとんどの部分が露出しているからこそ、体格に目が行くというのもあるのかもしれないが、本当に羨ましいものだ、と思う。
ジェドの身体は、どれだけ鍛えたところで、王のようにはならない。
その、王の、太い腕輪がついた腕には、布に包まれた何かが抱えられている。
アセトが、細めの腕輪を幾重にも重ねて身に着けるのを好むのに対し、王は太い腕輪で飾ることを好む。
あれが手首の血管を守る役目を果たしているのだろう、というのは、ジェドの見解だ。
王は、首や足首も、太い環状の装飾で飾る。
権威を象徴する装飾具として、防具とは思わせずに、周囲を警戒しているのが王らしい。
また、アセトの身に着ける、幾重にも重ねられた細身の腕輪は、しゃらしゃらと音を立てるが、王の装飾具はそういったこともない。 王が周囲に自分の居場所を悟られないようにしている証拠だ。
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