16 / 42
第1章 サンドリヨンが王子様に捕まるまで
15.王子様が荒れています。
しおりを挟む
「殿下、どうされました?」
主役がなかなか戻らない、婚前に何かあっては大変だ、ということで、いつもの如くヒューは王子探しに駆り出されていた。
王子個人の従者にして右腕を自負しているヒューだ。
それは、王子も認めるところであるらしく、王子はヒューに王子の居場所がわかる目印を与えてくれている。
そのおかげで、王子の姿が見えないときの探索はヒューの役目だし、今回もやはりあっさりと、女性用手洗いの前で佇む王子を見つけることができた。
ヒューが先のように王子に尋ねたのは、王子がとても殺伐とした空気を纏って微笑んでいたからだ。
このひとは、心象が荒れているときほど、美しく微笑む。
あれはきっと、何かがあって、相当にキている。
さて、何があったのやら。
そう、周辺を見回す。
そして、気づく。
王子がほとんど無理矢理に婚約者と定めて、外堀を埋めるために衆人環視の中で婚約者と紹介した、不運で不憫で魅力的な女性が見当たらない。
「…貴方の婚約者は、どちらに?」
問いかけただけ、なのに。
ずん、と空気が重くなる。
濃厚で重い魔力に、呼吸が少しだけ難しいような錯覚を覚える。
ここにいるのがヒューだったからよいようなものの、中途半端に魔力を持っているような者だったら王子の魔力に当てられて卒倒していることだろう。
「…どうやら逃げられたようだ」
逃げられた、と言っているのに、王子はさほど残念そうではない。
ということは、実は逃げられたわけではないのではないだろうか。
「…中から出てこられない? 中でお倒れになっているという心配は?」
「ない」
控えめに問えば、断言された。
どうしてそんな確信が持てるのだろう…と考えて、ハッと思い至る。
真っ直ぐに王子を見据えて、問う。
「…まさか、殿下が中に入られた?」
「【遠視】の魔法を応用しただけだよ」
さらりと応答する王子に、ヒューは絶句した。
何か問題が?くらいの感じで口にしているが、【遠視】の魔法の応用、とは、【千里眼】の魔法ではないだろうか。
日常で使用してはならない魔法のひとつである。 といっても、【遠視】ももちろん【千里眼】の魔法など、使えるのは国内に片手の数ほどいるかどうかだ。
だが、日常使用が禁じられている魔法をほいほいと使ったことを、ぺろりと暴露しないでいただきたいものだ。
「…私を巻き込まないでいただきたい」
小さなヒューの主張は、残念ながら王子には聞かなかったものとされたらしい。
外に面したガラスに背を持たれていた王子は、姿勢を正してヒューの方へと向かってきた。
かと思えば、するりとヒューの横を通り過ぎる。
「オリヴィエを見かけたら、私のところまで連れてくるように」
すれ違いざまに、王子は低く、ヒューに命じた。
【オリヴィエ】、その名前が出たことにも驚いたが、あのひとは今度は一体何をやらかしたのか、という懸念に一瞬にして凌駕されたのだった。
主役がなかなか戻らない、婚前に何かあっては大変だ、ということで、いつもの如くヒューは王子探しに駆り出されていた。
王子個人の従者にして右腕を自負しているヒューだ。
それは、王子も認めるところであるらしく、王子はヒューに王子の居場所がわかる目印を与えてくれている。
そのおかげで、王子の姿が見えないときの探索はヒューの役目だし、今回もやはりあっさりと、女性用手洗いの前で佇む王子を見つけることができた。
ヒューが先のように王子に尋ねたのは、王子がとても殺伐とした空気を纏って微笑んでいたからだ。
このひとは、心象が荒れているときほど、美しく微笑む。
あれはきっと、何かがあって、相当にキている。
さて、何があったのやら。
そう、周辺を見回す。
そして、気づく。
王子がほとんど無理矢理に婚約者と定めて、外堀を埋めるために衆人環視の中で婚約者と紹介した、不運で不憫で魅力的な女性が見当たらない。
「…貴方の婚約者は、どちらに?」
問いかけただけ、なのに。
ずん、と空気が重くなる。
濃厚で重い魔力に、呼吸が少しだけ難しいような錯覚を覚える。
ここにいるのがヒューだったからよいようなものの、中途半端に魔力を持っているような者だったら王子の魔力に当てられて卒倒していることだろう。
「…どうやら逃げられたようだ」
逃げられた、と言っているのに、王子はさほど残念そうではない。
ということは、実は逃げられたわけではないのではないだろうか。
「…中から出てこられない? 中でお倒れになっているという心配は?」
「ない」
控えめに問えば、断言された。
どうしてそんな確信が持てるのだろう…と考えて、ハッと思い至る。
真っ直ぐに王子を見据えて、問う。
「…まさか、殿下が中に入られた?」
「【遠視】の魔法を応用しただけだよ」
さらりと応答する王子に、ヒューは絶句した。
何か問題が?くらいの感じで口にしているが、【遠視】の魔法の応用、とは、【千里眼】の魔法ではないだろうか。
日常で使用してはならない魔法のひとつである。 といっても、【遠視】ももちろん【千里眼】の魔法など、使えるのは国内に片手の数ほどいるかどうかだ。
だが、日常使用が禁じられている魔法をほいほいと使ったことを、ぺろりと暴露しないでいただきたいものだ。
「…私を巻き込まないでいただきたい」
小さなヒューの主張は、残念ながら王子には聞かなかったものとされたらしい。
外に面したガラスに背を持たれていた王子は、姿勢を正してヒューの方へと向かってきた。
かと思えば、するりとヒューの横を通り過ぎる。
「オリヴィエを見かけたら、私のところまで連れてくるように」
すれ違いざまに、王子は低く、ヒューに命じた。
【オリヴィエ】、その名前が出たことにも驚いたが、あのひとは今度は一体何をやらかしたのか、という懸念に一瞬にして凌駕されたのだった。
6
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
騎士は魔石に跪く
叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。
魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。
他サイト様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる