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第1章 サンドリヨンが王子様に捕まるまで
21.王子様が身の回りの世話をしようとしています。
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そうして、アシュリーは、お城に軟禁され…ではなく、滞在させていただくことになった。
オリヴィエに聞いて、なんとなくアシュリーの家庭での立ち位置は察しているのだろう。
クレイディオは、ゴーシュ――アシュリーの父に了解を得たとは言ったが、モンスター家族の話はしなかった。
国王ご夫妻は始終ご機嫌で、その夜は国王ご夫妻とクレイディオ、アシュリーで夕食を囲んだ。
思っていたよりも国王ご夫妻の夕食は質素だったが、それでも十分アシュリーにとっては豪華なもので、久々に食べた自分以外の誰かが作った食事は美味しかった。
アシュリーの部屋はクレイディオの部屋の隣に用意された。
クレイディオが、そんな説明をしながら、アシュリーを部屋へと送ってくれて、ずかずかと室内にまで入ってくる。
クレイディオにとってアシュリーは婚約者であり、こうやって部屋に出入りするのも普通のことなのかもしれない。
「あの、いいのですか? 本当に、私で」
気づけば、アシュリーの唇からはそんな問いが零れていた。 振り返ったクレイディオが怪訝そうな顔をしているので、アシュリーは真っ直ぐにクレイディオを見つめる。
「何度も言いますが、私、男です」
わからないのだ。
クレイディオが、アシュリーの何を気に入ったのか。
男だから気に入ったのか。 女性にしか見えない外見を気に入ったのか。 クレイディオや国王夫妻はよくても、国民は果たして、それでよいのか。
クレイディオはアシュリーをクレイディオの【運命】だと言った。
けれど、はっきりとクレイディオの口から、アシュリーの何を気に入ったのか、そのことを聞いていない。
どんな顔をして、アシュリーはクレイディオを見ていたのだろう。
クレイディオは、落とすように静かな微笑を浮かべた。
「…どうして神様は選ばせてくれないのだろうね」
「え?」
唐突な発言に、アシュリーは目を丸くする。
「生まれてくる家も、親も、自分の髪の色も目の色も、顔も、体格も、性別も私たちは選べない。 そう生まれただけで、【男の子らしく】【女の子らしく】と強要されるんだ。 そこに自由はあるのかな?」
静かに微笑んだままで、紡がれる言葉。 静かな、静かな声なのに、どうしてだろう。
その言葉が、ひとつひとつ、重く、アシュリーの中に沈む。
「だから、私は私の好きなように、君を好きになるよ。 君も、好きな格好をして、好きなものに囲まれて、好きなものを口にすればいい」
ここで、赤鉄鉱の瞳が、真っ直ぐにアシュリーを見つめる。
「君がありたい君でいてほしい。 男だから、女だからではなくて、君らしい君が、好きなんだ」
この言葉が、アシュリーにとってどれほど嬉しかいものだったか、きっとクレイディオは知らないだろう。
不覚にも、きゅんと来たし、ぐらっと来た。
投げかけた問いに対する、明確な答えを返してもらえていないということにすら、そのときは気づけなかったほどに。
「では、アシュリー。 入浴をしようか」
そんなアシュリーでも、クレイディオのこの発言が、前後のつながりを全く無視したものだということには気づくことができた。
もちろん、クレイディオの発言の意図はわからない。
「…はい?」
なぜかクレイディオは、アシュリーの部屋のバスルームへと足を踏み入れて、アシュリーのためにバスタブにお湯を溜め始める。 まさか、クレイディオ自身がここで入浴するつもりではないと思いたい。
「あの、貴方のお部屋はお隣ですよね?」
控えめに確認すると、クレイディオはそうだね、と頷きながらバスルームから出てくる。
「今、君につける人間の選定を行っているところだから、君の身の回りのことをする人間が必要だろう?」
君の秘密を口外せず、君のことを崇拝しはしてもやましい気持ちは一切抱かずに命に代えても守ってくれる女性がいいよね、とクレイディオが頷いている。
君の秘密を口外せず、はいいとしても、その後の言葉を何一つおかしいと思わずにすらすらと紡げるこの男の神経がすごい。
「だから、適任が見つかるまで、私が君の身の回りのことをしよう」
微笑んで、それがさも当然のことの――あるいはそれ以外の選択肢は存在しない――ように語っているが、そんなわけがあるはずがない。
アシュリーの身の回りのことをする人間が、仮に、本当に必要だとしても、それが畏れ多くもオキデンシアの王太子殿下であるクレイディオである必要は、どこにもないと思う。
オリヴィエに聞いて、なんとなくアシュリーの家庭での立ち位置は察しているのだろう。
クレイディオは、ゴーシュ――アシュリーの父に了解を得たとは言ったが、モンスター家族の話はしなかった。
国王ご夫妻は始終ご機嫌で、その夜は国王ご夫妻とクレイディオ、アシュリーで夕食を囲んだ。
思っていたよりも国王ご夫妻の夕食は質素だったが、それでも十分アシュリーにとっては豪華なもので、久々に食べた自分以外の誰かが作った食事は美味しかった。
アシュリーの部屋はクレイディオの部屋の隣に用意された。
クレイディオが、そんな説明をしながら、アシュリーを部屋へと送ってくれて、ずかずかと室内にまで入ってくる。
クレイディオにとってアシュリーは婚約者であり、こうやって部屋に出入りするのも普通のことなのかもしれない。
「あの、いいのですか? 本当に、私で」
気づけば、アシュリーの唇からはそんな問いが零れていた。 振り返ったクレイディオが怪訝そうな顔をしているので、アシュリーは真っ直ぐにクレイディオを見つめる。
「何度も言いますが、私、男です」
わからないのだ。
クレイディオが、アシュリーの何を気に入ったのか。
男だから気に入ったのか。 女性にしか見えない外見を気に入ったのか。 クレイディオや国王夫妻はよくても、国民は果たして、それでよいのか。
クレイディオはアシュリーをクレイディオの【運命】だと言った。
けれど、はっきりとクレイディオの口から、アシュリーの何を気に入ったのか、そのことを聞いていない。
どんな顔をして、アシュリーはクレイディオを見ていたのだろう。
クレイディオは、落とすように静かな微笑を浮かべた。
「…どうして神様は選ばせてくれないのだろうね」
「え?」
唐突な発言に、アシュリーは目を丸くする。
「生まれてくる家も、親も、自分の髪の色も目の色も、顔も、体格も、性別も私たちは選べない。 そう生まれただけで、【男の子らしく】【女の子らしく】と強要されるんだ。 そこに自由はあるのかな?」
静かに微笑んだままで、紡がれる言葉。 静かな、静かな声なのに、どうしてだろう。
その言葉が、ひとつひとつ、重く、アシュリーの中に沈む。
「だから、私は私の好きなように、君を好きになるよ。 君も、好きな格好をして、好きなものに囲まれて、好きなものを口にすればいい」
ここで、赤鉄鉱の瞳が、真っ直ぐにアシュリーを見つめる。
「君がありたい君でいてほしい。 男だから、女だからではなくて、君らしい君が、好きなんだ」
この言葉が、アシュリーにとってどれほど嬉しかいものだったか、きっとクレイディオは知らないだろう。
不覚にも、きゅんと来たし、ぐらっと来た。
投げかけた問いに対する、明確な答えを返してもらえていないということにすら、そのときは気づけなかったほどに。
「では、アシュリー。 入浴をしようか」
そんなアシュリーでも、クレイディオのこの発言が、前後のつながりを全く無視したものだということには気づくことができた。
もちろん、クレイディオの発言の意図はわからない。
「…はい?」
なぜかクレイディオは、アシュリーの部屋のバスルームへと足を踏み入れて、アシュリーのためにバスタブにお湯を溜め始める。 まさか、クレイディオ自身がここで入浴するつもりではないと思いたい。
「あの、貴方のお部屋はお隣ですよね?」
控えめに確認すると、クレイディオはそうだね、と頷きながらバスルームから出てくる。
「今、君につける人間の選定を行っているところだから、君の身の回りのことをする人間が必要だろう?」
君の秘密を口外せず、君のことを崇拝しはしてもやましい気持ちは一切抱かずに命に代えても守ってくれる女性がいいよね、とクレイディオが頷いている。
君の秘密を口外せず、はいいとしても、その後の言葉を何一つおかしいと思わずにすらすらと紡げるこの男の神経がすごい。
「だから、適任が見つかるまで、私が君の身の回りのことをしよう」
微笑んで、それがさも当然のことの――あるいはそれ以外の選択肢は存在しない――ように語っているが、そんなわけがあるはずがない。
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