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第2章 サンドリヨンが王子様に捕まってから
1,000回カウンター裏話。
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「一年もすれば、私かアシュリーに似た、可愛くて聡明な子どもができて、もう一年もすれば生まれてくるんだね…」
夫婦の寝室の、夫婦のベッドに腰かけたクレイディオは、脚の間にアシュリーを座らせて後ろからぎゅっと抱きしめてアシュリーの平らな腹を撫で回している。
幸せだ…と妄想するクレイディオには悪いが、【可愛くて聡明な子ども】と決めつけてもらっては困る。
「五体満足で、元気で生まれてきてくれたら、私はそれ以上に望みません。 あまり期待しては、生まれてくるのが嫌になってしまうかもしれませんよ?」
アシュリーはそう、未だ影も形もないが、いつかの未来に誕生する子どもに思いを馳せた。
ただでさえ、アシュリーとクレイディオの子どもは、順当にいけばオキデンシアの王太子となるのだ。
それだけでも生まれてくる子どもにとっては重圧だと思うのに、【可愛くて聡明】なんて決めつけられてしまってはつらいだろう。
アシュリーの言葉に、クレイディオはしばし考え、想像したに違いない。
「それは困る」
そう告げて、アシュリーを抱きしめる腕に力を込めてきた。
思いがけず可愛らしく思えて、ふふっとアシュリーが笑うとクレイディオが耳元で柔らかく笑う気配がした。
そんな風にのほほんと和んでいたのが、アシュリーは急にふと思い出した。
クレイディオの台詞の中で、何かほかにも違和感を覚えた気がするのだが、何だったろう。
「あと、二年くらいかな。 待ち遠しいね」
考えるアシュリーの耳に、幸せな妄想に再び浸りだしたらしいクレイディオの声が届いて、アシュリーは違和感が何かに気づいた。
「あの、一年とおっしゃいました?」
クレイディオを振り返りながらアシュリーが確認すると、クレイディオは軽く目を見張って一・二度瞬きをした。
問い返される意味がわからない、とでも言ったところだろうか。
「そうだね」
こっくりと頷くクレイディオに、アシュリーはアシュリーで疑問符を浮かべながら問いを重ねる。
「どんな計算式を使われたのですか?」
クレイディオは、一年程度でアシュリーが妊娠し、一年程度で子どもが誕生すると確信しているらしいが、おかしくはないだろうか。
子が、十月十日で生まれてくるのを、ざっくり一年、と表現したのは、まあいい。
問題は、一年程度でアシュリーが妊娠する、という方だ。
アシュリーは、オキデンシアの皇太子であるクレイディオの妃に納まってはいるが、生物学的な性別は男だ。
オキデンシアは男と男が婚姻可能な国ではないが、アシュリーは今まで女として生きてきたし、女にしか見えない。 加えて、書類上は女ということで、クレイディオもアシュリーもそれを利用しているのだ。
話は逸れたが、アシュリーは男なので本来妊娠などできないのだが、クレイディオがどうしてもアシュリーとの子が欲しくて男でも妊娠可能な魔法式を開発したらしい。
これはもう、頭脳と才能と運だけではなく、熱意と執念の為せる業だったと言っていいだろう。
さて、そのアシュリーが妊娠可能な魔法式だが、クレイディオがアシュリーに千回精を注いだら、アシュリーが妊娠するというものだ。
男と女では、身体の造りが違う。
クレイディオの開発した魔法式は、男であるアシュリーの身体を妊娠可能なように対応させるところから始まる。
その為に、千回というカウンターを用意したということだ。
そう。 だから、アシュリーが妊娠するには、千の夜が必要だ、ということになると思うのだが、クレイディオはケロリとして宣った。
「千を三百六十五で割ったら出てくるよ?」
いや、そんなことはアシュリーとてわかっている。
「えっと…、………私の計算では、二年と半年以上かかるのですが?」
計算が間違えていますよ、とは言えなくて、アシュリーはどう告げたものだろうと考えながら、可能な限り穏便な言い方でクレイディオに伝えた。
そもそも、毎夜するとして、の計算なので、本当は三年以上はかかるものだとアシュリーは思っているのだけれど。
だが、クレイディオは心底から不思議そうな顔で、首を揺らすのだ。
まるで、アシュリーの計算こそが間違っているとでも言いそうな様子で。
「それは、毎日するとして、一日に二回もしくは三回すれば、クリアになるよね?」
クレイディオのこの発言を耳にしたときのアシュリーの心中を想像してほしい。
推し量ってほしい。
目から鱗と腑に落ちるが同時に起きたが、咄嗟に言葉が出ないのはもちろんのこと、ドン引きしてしまった。
アシュリーがなぜ身動きが取れなくなっているのか、まるでわかっていないらしいクレイディオは、不思議そうにアシュリーの顔を覗き込みながら不思議そうに口にするのだ。
「アシュリーに花は落ちないから、毎夜できるでしょう?」
まるで、それが当然の如く。
なんだかとんでもないことを求められている!!
このままこの王子サマの腕の中にのほほんと納まっていては、自分の身が危ない!!!
「…陛下っ…いえ、王妃様っ…!?」
誰かに助けを求めなければ、とアシュリーは立ち上がって駆けだそうとした。
この、理解不能で恐ろしい生き物から逃れるために。
だが、それは、アシュリーの手首を掴んだ手に阻まれた。
そのまま引き寄せられて、アシュリーは結局、元居た位置に戻されてしまう。
そして、後ろからぎゅっと抱きすくめられる。
否、拘束された、とアシュリーは思った。
耳元で、低くて甘く、夢見心地のような声が揺れる。
「父も母も、孫の誕生を心待ちにして楽しみにしているから、頑張らないとね」
その、クレイディオの発言に、アシュリーはサーッと血の気が引くのを感じた。
陛下も王妃様も、孫の誕生を心待ちにして、楽しみにしている、なんて、アシュリーの味方がどこにもいないではないか!!!
夫婦の寝室の、夫婦のベッドに腰かけたクレイディオは、脚の間にアシュリーを座らせて後ろからぎゅっと抱きしめてアシュリーの平らな腹を撫で回している。
幸せだ…と妄想するクレイディオには悪いが、【可愛くて聡明な子ども】と決めつけてもらっては困る。
「五体満足で、元気で生まれてきてくれたら、私はそれ以上に望みません。 あまり期待しては、生まれてくるのが嫌になってしまうかもしれませんよ?」
アシュリーはそう、未だ影も形もないが、いつかの未来に誕生する子どもに思いを馳せた。
ただでさえ、アシュリーとクレイディオの子どもは、順当にいけばオキデンシアの王太子となるのだ。
それだけでも生まれてくる子どもにとっては重圧だと思うのに、【可愛くて聡明】なんて決めつけられてしまってはつらいだろう。
アシュリーの言葉に、クレイディオはしばし考え、想像したに違いない。
「それは困る」
そう告げて、アシュリーを抱きしめる腕に力を込めてきた。
思いがけず可愛らしく思えて、ふふっとアシュリーが笑うとクレイディオが耳元で柔らかく笑う気配がした。
そんな風にのほほんと和んでいたのが、アシュリーは急にふと思い出した。
クレイディオの台詞の中で、何かほかにも違和感を覚えた気がするのだが、何だったろう。
「あと、二年くらいかな。 待ち遠しいね」
考えるアシュリーの耳に、幸せな妄想に再び浸りだしたらしいクレイディオの声が届いて、アシュリーは違和感が何かに気づいた。
「あの、一年とおっしゃいました?」
クレイディオを振り返りながらアシュリーが確認すると、クレイディオは軽く目を見張って一・二度瞬きをした。
問い返される意味がわからない、とでも言ったところだろうか。
「そうだね」
こっくりと頷くクレイディオに、アシュリーはアシュリーで疑問符を浮かべながら問いを重ねる。
「どんな計算式を使われたのですか?」
クレイディオは、一年程度でアシュリーが妊娠し、一年程度で子どもが誕生すると確信しているらしいが、おかしくはないだろうか。
子が、十月十日で生まれてくるのを、ざっくり一年、と表現したのは、まあいい。
問題は、一年程度でアシュリーが妊娠する、という方だ。
アシュリーは、オキデンシアの皇太子であるクレイディオの妃に納まってはいるが、生物学的な性別は男だ。
オキデンシアは男と男が婚姻可能な国ではないが、アシュリーは今まで女として生きてきたし、女にしか見えない。 加えて、書類上は女ということで、クレイディオもアシュリーもそれを利用しているのだ。
話は逸れたが、アシュリーは男なので本来妊娠などできないのだが、クレイディオがどうしてもアシュリーとの子が欲しくて男でも妊娠可能な魔法式を開発したらしい。
これはもう、頭脳と才能と運だけではなく、熱意と執念の為せる業だったと言っていいだろう。
さて、そのアシュリーが妊娠可能な魔法式だが、クレイディオがアシュリーに千回精を注いだら、アシュリーが妊娠するというものだ。
男と女では、身体の造りが違う。
クレイディオの開発した魔法式は、男であるアシュリーの身体を妊娠可能なように対応させるところから始まる。
その為に、千回というカウンターを用意したということだ。
そう。 だから、アシュリーが妊娠するには、千の夜が必要だ、ということになると思うのだが、クレイディオはケロリとして宣った。
「千を三百六十五で割ったら出てくるよ?」
いや、そんなことはアシュリーとてわかっている。
「えっと…、………私の計算では、二年と半年以上かかるのですが?」
計算が間違えていますよ、とは言えなくて、アシュリーはどう告げたものだろうと考えながら、可能な限り穏便な言い方でクレイディオに伝えた。
そもそも、毎夜するとして、の計算なので、本当は三年以上はかかるものだとアシュリーは思っているのだけれど。
だが、クレイディオは心底から不思議そうな顔で、首を揺らすのだ。
まるで、アシュリーの計算こそが間違っているとでも言いそうな様子で。
「それは、毎日するとして、一日に二回もしくは三回すれば、クリアになるよね?」
クレイディオのこの発言を耳にしたときのアシュリーの心中を想像してほしい。
推し量ってほしい。
目から鱗と腑に落ちるが同時に起きたが、咄嗟に言葉が出ないのはもちろんのこと、ドン引きしてしまった。
アシュリーがなぜ身動きが取れなくなっているのか、まるでわかっていないらしいクレイディオは、不思議そうにアシュリーの顔を覗き込みながら不思議そうに口にするのだ。
「アシュリーに花は落ちないから、毎夜できるでしょう?」
まるで、それが当然の如く。
なんだかとんでもないことを求められている!!
このままこの王子サマの腕の中にのほほんと納まっていては、自分の身が危ない!!!
「…陛下っ…いえ、王妃様っ…!?」
誰かに助けを求めなければ、とアシュリーは立ち上がって駆けだそうとした。
この、理解不能で恐ろしい生き物から逃れるために。
だが、それは、アシュリーの手首を掴んだ手に阻まれた。
そのまま引き寄せられて、アシュリーは結局、元居た位置に戻されてしまう。
そして、後ろからぎゅっと抱きすくめられる。
否、拘束された、とアシュリーは思った。
耳元で、低くて甘く、夢見心地のような声が揺れる。
「父も母も、孫の誕生を心待ちにして楽しみにしているから、頑張らないとね」
その、クレイディオの発言に、アシュリーはサーッと血の気が引くのを感じた。
陛下も王妃様も、孫の誕生を心待ちにして、楽しみにしている、なんて、アシュリーの味方がどこにもいないではないか!!!
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