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1.×××ついてます
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「玄奘が! 拝み屋の息子だから!」
僕は、ズビシッとキレのある動きで玄奘を指さしたのだが、玄奘はうんざりと顔に書いただけ。
「うわー。 壮大な言いがかりキタコレ」
冗談めかした言葉ではあるが、抑揚が全くないので早くこの話題を終えたいと思っているのだろう。
僕は、むむうと眉間に皺を寄せる。
今日も僕は、二つ年上の幼馴染・入来院玄奘の家にお邪魔しているわけだが、玄奘の家はでかい。
寺ではないかというくらいの門構えと家なのだが、玄奘の家は寺ではなく、拝み屋をしているらしい。
それも、マジもんで、ガチもんの。
「きっと、お化けとか幽霊とかの霊的なものが、玄奘を怖がって仲のいい僕にも寄ってこないんだと思うんだよ!」
ううっと僕が再びベッドに突っ伏すと、玄奘はぽんぽんと僕の頭を軽く叩いた。
「拝み屋じゃなくて祈祷師な。 一気に怪しくなるから拝み屋はやめて」
僕は、ジッと玄奘の顔を見つめる。
茶髪でピアスがいくつも開いているし、腕にも丸い石の連なりの数珠みたいなアクセサリーをつけていて、学ランだってちょっと着崩している。
この、見た目は今風イケメンの玄奘が坊主と言われるより、拝み屋と言われた方が僕としてはしっくりくる。
だが、玄奘はその拝み屋という言い方が嫌だというのだから、わからない。
祈祷師と言われた方が、霊媒師みたいで胡散臭くないだろうか。
玄奘の家は、密教の一派だという話なのだが、入来院家の人間は【僧侶】と括られるのを好まず、寺も構えず自分たちを【祈祷師】と名乗っているらしい。
玄奘のお父さんは普段は普通のサラリーマンで、お母さんは主婦、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが主に家業を行っている。
玄奘は、見込みがあるだとか必要に迫られただとかで、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに師事したとのことだ。
もともとの資質もあったのだろう。
玄奘は今や、玄奘のお兄ちゃんの鳩摩くんや真諦くんよりも拝み屋としては実力があるらしい。
入来院家では、お祖父ちゃんが主に加持祈祷、お祖母ちゃんが卜を生業にしているようで、政治家のお偉いさんとかどっかの社長さんも顧客だって話を聞いた。
僕と玄奘が幼馴染なのもその辺の事情からで、殿上家が入来院家の顧客だったことが一因らしい。
因みに、殿上家は遥か昔から入来院家と懇意にしていたようで、入来院家のひとたちは玄奘以外みんな、僕のことを【若】と呼ぶ。
僕のお父さんもお祖父ちゃんも、入来院家のひとからそんな風に呼ばれたことはなかったらしいが、まあ別になんと呼ばれたところで僕は僕なので気にしていない。
【オカルト王子】に関しても然りだ。
「にしても、将臣。 いつもだけど、変なところで鋭いね」
僕は、感心したような玄奘のその一言で意識を引き戻された。
そのとき、僕の中の疑惑が確信に変わった、と言っていいだろう。
だから、声高に非難した。
「やっぱり玄奘が僕の夢を追い払ってるんじゃないか!」
「変なモノに夢抱くなよ頼むから」
目を伏せてがしがしと頭を掻いた玄奘は、呆れ顔というかほとんどげっそりとしている。
それは、玄奘だから言えることなのだと思う。
身近にあるものに夢など抱きようがない、というのは僕の持論だ。
知らないことだからこそあれこれと想像を膨らませて楽しむことができる…。
とすると、あれ?
もしかして僕、視えないままの方が幸せなのかな?
なんてことを考えていると、また玄奘がぽつりと気になることを口にした。
「それに、追い払ってるのは俺じゃあ、ない」
その言い回しが、妙に引っかかって、僕は、なんだろう、と考える。
玄奘もしゃべらないし、僕もしゃべらなくて、部屋の時計が秒針を進める音だけが大きく聞こえる。
顎に手を当てて、俯いて、眉根を寄せて考えていた僕だったが、気づいて、ハッと顔を上げた。
「…俺じゃ?」
僕の問いに、玄奘はふっと笑った。
それを見ると、僕はいつも誇らしい気分になる。
玄奘は、顔はそこそこいいのに、表情筋がないというか、あまり表情を変えない。
その玄奘が笑ってくれると、ほかの誰に褒められるより、嬉しい気持ちになるのだ。
むずむずするような気分でいると、玄奘の手が伸びてきて、ぽんぽんと僕の頭を撫でる。
「…もうそろそろ、言ってもいいか」
玄奘の言っている意味がわからなくて、僕は目を瞬かせた。
「玄奘、僕に何か秘密にしてることあるの?」
「んー…、まあ、そうだな。 秘密にしろって言われてたから、秘密にしてた。 アイツ、お前を草葉の影から見守るだけで十分とか言ってさぁ…」
草葉の影から見守る???
え、それって死んでるじゃん。
一体何のこっちゃ、と僕が首を傾げていると、玄奘が僕の目を真っ直ぐに見つめて、告げた。
「お前な、すっげぇ強ぇの、ついてるんだよ」
すっげぇ、強ぇの。
そう言われて、僕はまた、首を傾げた。
「…SPはつけないで、ってお願いしたはずなんだけど…」
先述したように、僕が生まれた殿上家は、そこそこの資産家で、出資をするのが趣味の祖父や父は、入来院家の上客だ。
まあそういうわけで、オプション的には僕はお坊ちゃん、ということになるのだろう。
しかも、顔が顔なもので、幼い頃は――僕は全く覚えていないが――変質者に絡まれたり、身代金目当ての誘拐に遭いそうになったりと割と大変だったらしい。
ということで、SPがついた。
中学校からは一人で登校することが許されたが、小学校まではSPに送り迎えをしてもらって、不審者対策にもなると、学校の教師たちからは有難がられたものだったなぁ…と懐かしく思う。
だが、家族には、僕ももういい年なのだから、SPだけは勘弁してくれと言っていたのに。
「違ぇ」
ぐぬぬ、と僕が唇を引き結んで拳を震わせていると、玄奘が否定した。
「違うの? じゃあ、何がついてるのさ」
僕が問いを重ねると、玄奘はいつもの真顔で、はっきりと告げた。
「守護霊」
僕は、ズビシッとキレのある動きで玄奘を指さしたのだが、玄奘はうんざりと顔に書いただけ。
「うわー。 壮大な言いがかりキタコレ」
冗談めかした言葉ではあるが、抑揚が全くないので早くこの話題を終えたいと思っているのだろう。
僕は、むむうと眉間に皺を寄せる。
今日も僕は、二つ年上の幼馴染・入来院玄奘の家にお邪魔しているわけだが、玄奘の家はでかい。
寺ではないかというくらいの門構えと家なのだが、玄奘の家は寺ではなく、拝み屋をしているらしい。
それも、マジもんで、ガチもんの。
「きっと、お化けとか幽霊とかの霊的なものが、玄奘を怖がって仲のいい僕にも寄ってこないんだと思うんだよ!」
ううっと僕が再びベッドに突っ伏すと、玄奘はぽんぽんと僕の頭を軽く叩いた。
「拝み屋じゃなくて祈祷師な。 一気に怪しくなるから拝み屋はやめて」
僕は、ジッと玄奘の顔を見つめる。
茶髪でピアスがいくつも開いているし、腕にも丸い石の連なりの数珠みたいなアクセサリーをつけていて、学ランだってちょっと着崩している。
この、見た目は今風イケメンの玄奘が坊主と言われるより、拝み屋と言われた方が僕としてはしっくりくる。
だが、玄奘はその拝み屋という言い方が嫌だというのだから、わからない。
祈祷師と言われた方が、霊媒師みたいで胡散臭くないだろうか。
玄奘の家は、密教の一派だという話なのだが、入来院家の人間は【僧侶】と括られるのを好まず、寺も構えず自分たちを【祈祷師】と名乗っているらしい。
玄奘のお父さんは普段は普通のサラリーマンで、お母さんは主婦、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが主に家業を行っている。
玄奘は、見込みがあるだとか必要に迫られただとかで、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに師事したとのことだ。
もともとの資質もあったのだろう。
玄奘は今や、玄奘のお兄ちゃんの鳩摩くんや真諦くんよりも拝み屋としては実力があるらしい。
入来院家では、お祖父ちゃんが主に加持祈祷、お祖母ちゃんが卜を生業にしているようで、政治家のお偉いさんとかどっかの社長さんも顧客だって話を聞いた。
僕と玄奘が幼馴染なのもその辺の事情からで、殿上家が入来院家の顧客だったことが一因らしい。
因みに、殿上家は遥か昔から入来院家と懇意にしていたようで、入来院家のひとたちは玄奘以外みんな、僕のことを【若】と呼ぶ。
僕のお父さんもお祖父ちゃんも、入来院家のひとからそんな風に呼ばれたことはなかったらしいが、まあ別になんと呼ばれたところで僕は僕なので気にしていない。
【オカルト王子】に関しても然りだ。
「にしても、将臣。 いつもだけど、変なところで鋭いね」
僕は、感心したような玄奘のその一言で意識を引き戻された。
そのとき、僕の中の疑惑が確信に変わった、と言っていいだろう。
だから、声高に非難した。
「やっぱり玄奘が僕の夢を追い払ってるんじゃないか!」
「変なモノに夢抱くなよ頼むから」
目を伏せてがしがしと頭を掻いた玄奘は、呆れ顔というかほとんどげっそりとしている。
それは、玄奘だから言えることなのだと思う。
身近にあるものに夢など抱きようがない、というのは僕の持論だ。
知らないことだからこそあれこれと想像を膨らませて楽しむことができる…。
とすると、あれ?
もしかして僕、視えないままの方が幸せなのかな?
なんてことを考えていると、また玄奘がぽつりと気になることを口にした。
「それに、追い払ってるのは俺じゃあ、ない」
その言い回しが、妙に引っかかって、僕は、なんだろう、と考える。
玄奘もしゃべらないし、僕もしゃべらなくて、部屋の時計が秒針を進める音だけが大きく聞こえる。
顎に手を当てて、俯いて、眉根を寄せて考えていた僕だったが、気づいて、ハッと顔を上げた。
「…俺じゃ?」
僕の問いに、玄奘はふっと笑った。
それを見ると、僕はいつも誇らしい気分になる。
玄奘は、顔はそこそこいいのに、表情筋がないというか、あまり表情を変えない。
その玄奘が笑ってくれると、ほかの誰に褒められるより、嬉しい気持ちになるのだ。
むずむずするような気分でいると、玄奘の手が伸びてきて、ぽんぽんと僕の頭を撫でる。
「…もうそろそろ、言ってもいいか」
玄奘の言っている意味がわからなくて、僕は目を瞬かせた。
「玄奘、僕に何か秘密にしてることあるの?」
「んー…、まあ、そうだな。 秘密にしろって言われてたから、秘密にしてた。 アイツ、お前を草葉の影から見守るだけで十分とか言ってさぁ…」
草葉の影から見守る???
え、それって死んでるじゃん。
一体何のこっちゃ、と僕が首を傾げていると、玄奘が僕の目を真っ直ぐに見つめて、告げた。
「お前な、すっげぇ強ぇの、ついてるんだよ」
すっげぇ、強ぇの。
そう言われて、僕はまた、首を傾げた。
「…SPはつけないで、ってお願いしたはずなんだけど…」
先述したように、僕が生まれた殿上家は、そこそこの資産家で、出資をするのが趣味の祖父や父は、入来院家の上客だ。
まあそういうわけで、オプション的には僕はお坊ちゃん、ということになるのだろう。
しかも、顔が顔なもので、幼い頃は――僕は全く覚えていないが――変質者に絡まれたり、身代金目当ての誘拐に遭いそうになったりと割と大変だったらしい。
ということで、SPがついた。
中学校からは一人で登校することが許されたが、小学校まではSPに送り迎えをしてもらって、不審者対策にもなると、学校の教師たちからは有難がられたものだったなぁ…と懐かしく思う。
だが、家族には、僕ももういい年なのだから、SPだけは勘弁してくれと言っていたのに。
「違ぇ」
ぐぬぬ、と僕が唇を引き結んで拳を震わせていると、玄奘が否定した。
「違うの? じゃあ、何がついてるのさ」
僕が問いを重ねると、玄奘はいつもの真顔で、はっきりと告げた。
「守護霊」
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