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2月15日(月) 17:30
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2月15日(月)
17:30
「ひさびさ~!」
いきなりの言葉に、思わず「ビクッ!」とさえ答えそうになった。
2月中旬の夕暮れ、逃げた太陽に変わって寒さが主役となり始める時間。人間の声なんてあまり聞くことはないはずだった。
脅えた捨て犬のように顔をあげた僕。
「そんなにびっくりしなくてもいいんじゃない?」
バス亭にある唯一の電灯の光が逆行となっていてその姿はわからなかったが、話しかけている声は僕とは対称的な生気に満ち溢れた女性のものらしい。
「あれ、私のこと忘れっちゃたのかな…」
その女性は首を少し傾げた。
ほとんど女性の知り合いなんていなかった僕は、一瞬で脳内のデータフォルダーを隅々まで検索できた。
その中から、目の前にいるシルエットや仕草から割り出される人物をヒットさせることは出来なかった。
でも…その特徴的な声だけは見事に1件だけヒットした。僕の知っているモノだった。
「杏!!あんずだよ!!!」
大きな声出した杏はしゃがんでこちらを向いた。
そこにいたのは正真正銘の杏だった。
腰までのロングだった髪型はバッサリとショートに切られていて、年頃らしいメイクがされている。年齢に合わないような真っ黒な服装をしているが僕を見つめるその顔は、その瞳は、僕に向けられていたその笑顔は、杏そのものだった。
高校1年の2月、僕は彼女に7年半ぶりの2回目の初恋をしてしまったのだった。
「では…改めまして!扇高校1年D組、須藤杏です。本当に久しぶりだねっ!!涼ちゃん!」
唐突の再会でギクシャクしている僕をよそ目に、彼女は軽い自己紹介をした。
僕と杏が初めて出会ったのは…7年半前の小学3年生の夏、とても暑い病室の中だった。
お互い病室が向かいになっていて、また同じ年頃の子どもということもあって、最初は親同士が仲良くなっていた。僕の母親は専業主婦で僕が一人っ子ということもあって、毎日何時間も病室にいたが、彼女の親は両親とも共働きで(確か、父は海外へ単身赴任中であった)何時間も病室にいることはできなかった。なので気がついた時には、日中は僕の母が彼女の面倒も見ることになっていた。
「涼ちゃんさ、こんなところで何してたの?」
その爽やかな笑顔はズルいくらいで、当たり前のことを尋ねてきた。
確かに、ここは人がいるような場所ではなかった。
吐く息を白く見せる冷え切った空気。山の麓の寂れた廃バスのバス停。この時期にこんなところにくる人なんて普通じゃない。
第一、どうしてここにいるのか自分でもよくわかっていなくて、彼女がどうしてここにいるのかさえ疑問である。
「あ…まあいいや、とりあえずちょっと話そうよっ!」
彼女は答えに窮している僕の手を引く。少し強引だけれど嫌味のない言動に僕は身を任せて、やっと立ち上がることができた。
一瞬の暖かさが風となって二人を包み込んだような錯覚に、少し立ちくらみを覚える。
「あ、言い忘れてたけど…ここ立ち入り禁止なんだよ」
彼女は僕の方を振り向いて、いたずらをした後の笑顔をしていた。
僕たちはバス停のベンチに座りなおし、杏は改めて自分のことを話し始めた。
杏は通っている高校は、この月明町ではなく隣街の公立高校であること、チアリーダー部に所属していて今の時期は自主練であること、趣味は意外にも手芸であることなど彼女は自分の普段の生活を次から次へと話してくれた。
そんな彼女を見て、僕はなぜか安堵と似た懐かしい気持ちを抱いていた。彼女は、その中身は7年半前と何一つ変わっていないように思えた。
自分の話がある程度ひと段落ついたのか、カバンから水筒を出して暖かいお茶を口に含んだ。
そして、彼女はその愛嬌のある丸い目をパチパチと瞬きさせて訪ねてきた。
「涼ちゃんは…この冬、何かするの??」
僕の顔を覗き込みながら、、、。
僕はまたも何も答えることができなかった。どうしてか自分でも全くわからないのだが、何一つまともに考えられない。
「涼ちゃん??もう、緊張しすぎ!私たちって幼馴染みたいなもんじゃん?てか、親友じゃん?3ヶ月間毎日一緒に一つ屋根の下で過ごした仲じゃん?」
少しおどけたような表情で僕のことを見上げてくる。
せこいな…と思った。無駄な冷静感を装ったけれど…寒さだけでは隠せないほど心拍数は上がり、顔は紅潮し、息も浅くなっていた。
そんな僕の様子に満足したのか、彼女は得意げな顔を見せたかと思うと、今度は大きな瞳を一段と大きくさせて
「それじゃさ…なんか今年の冬に思い出作ろうよ、一緒に!」
僕は思わず彼女の表情の変化に目を奪われる。
本当にせこい…感情を前面に出したその表情は僕を困らせるのに十分過ぎる。
「ん?聞いてる??」
困っている僕に畳み掛けるように尋ねてくる無垢な声。思わず笑ってしまいそうにもなる。
だから、余計になんと答えたらよいのかわからなくなってくるのだけれど…
こんな時間が一番幸せだなと思うのだけれど…
そんな僕が照れ隠しのために、少し顔を背けた。その先には1枚のポスターがあった。
『月明雪見花火大会 2/14(日)』
僕は『花火』に、その言葉の響きに完全に魅せられていた。
『花火』が僕を掴んで離さなかった。
「あ、花火…」
僕はそのポスターをじっと見つめていたのか、彼女の声で我に返った。その声は彼女のものにしては細く聞こえた気がした。
「うん!それじゃあ、花火しようよ!」
そう言って、背伸びをした彼女のカバンから携帯電話のバイブレーションの音がなった。
時間は、もう20時をまわっていた。どうやら僕らは話し過ぎていたらしい。
「あ、もう帰らなきゃ…」と言いながら身震いをし、こちらを振り返った。
「お腹減ったし、寒くなって来ちゃったし…また明日ね!約束だから。」
とだけいうと、僕が瞬きをした瞬間に彼女の姿はどこにも見えなくなっていた。
刺激的な一日に僕は食欲を完全に失っていた。
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「ひさびさ~!」
いきなりの言葉に、思わず「ビクッ!」とさえ答えそうになった。
2月中旬の夕暮れ、逃げた太陽に変わって寒さが主役となり始める時間。人間の声なんてあまり聞くことはないはずだった。
脅えた捨て犬のように顔をあげた僕。
「そんなにびっくりしなくてもいいんじゃない?」
バス亭にある唯一の電灯の光が逆行となっていてその姿はわからなかったが、話しかけている声は僕とは対称的な生気に満ち溢れた女性のものらしい。
「あれ、私のこと忘れっちゃたのかな…」
その女性は首を少し傾げた。
ほとんど女性の知り合いなんていなかった僕は、一瞬で脳内のデータフォルダーを隅々まで検索できた。
その中から、目の前にいるシルエットや仕草から割り出される人物をヒットさせることは出来なかった。
でも…その特徴的な声だけは見事に1件だけヒットした。僕の知っているモノだった。
「杏!!あんずだよ!!!」
大きな声出した杏はしゃがんでこちらを向いた。
そこにいたのは正真正銘の杏だった。
腰までのロングだった髪型はバッサリとショートに切られていて、年頃らしいメイクがされている。年齢に合わないような真っ黒な服装をしているが僕を見つめるその顔は、その瞳は、僕に向けられていたその笑顔は、杏そのものだった。
高校1年の2月、僕は彼女に7年半ぶりの2回目の初恋をしてしまったのだった。
「では…改めまして!扇高校1年D組、須藤杏です。本当に久しぶりだねっ!!涼ちゃん!」
唐突の再会でギクシャクしている僕をよそ目に、彼女は軽い自己紹介をした。
僕と杏が初めて出会ったのは…7年半前の小学3年生の夏、とても暑い病室の中だった。
お互い病室が向かいになっていて、また同じ年頃の子どもということもあって、最初は親同士が仲良くなっていた。僕の母親は専業主婦で僕が一人っ子ということもあって、毎日何時間も病室にいたが、彼女の親は両親とも共働きで(確か、父は海外へ単身赴任中であった)何時間も病室にいることはできなかった。なので気がついた時には、日中は僕の母が彼女の面倒も見ることになっていた。
「涼ちゃんさ、こんなところで何してたの?」
その爽やかな笑顔はズルいくらいで、当たり前のことを尋ねてきた。
確かに、ここは人がいるような場所ではなかった。
吐く息を白く見せる冷え切った空気。山の麓の寂れた廃バスのバス停。この時期にこんなところにくる人なんて普通じゃない。
第一、どうしてここにいるのか自分でもよくわかっていなくて、彼女がどうしてここにいるのかさえ疑問である。
「あ…まあいいや、とりあえずちょっと話そうよっ!」
彼女は答えに窮している僕の手を引く。少し強引だけれど嫌味のない言動に僕は身を任せて、やっと立ち上がることができた。
一瞬の暖かさが風となって二人を包み込んだような錯覚に、少し立ちくらみを覚える。
「あ、言い忘れてたけど…ここ立ち入り禁止なんだよ」
彼女は僕の方を振り向いて、いたずらをした後の笑顔をしていた。
僕たちはバス停のベンチに座りなおし、杏は改めて自分のことを話し始めた。
杏は通っている高校は、この月明町ではなく隣街の公立高校であること、チアリーダー部に所属していて今の時期は自主練であること、趣味は意外にも手芸であることなど彼女は自分の普段の生活を次から次へと話してくれた。
そんな彼女を見て、僕はなぜか安堵と似た懐かしい気持ちを抱いていた。彼女は、その中身は7年半前と何一つ変わっていないように思えた。
自分の話がある程度ひと段落ついたのか、カバンから水筒を出して暖かいお茶を口に含んだ。
そして、彼女はその愛嬌のある丸い目をパチパチと瞬きさせて訪ねてきた。
「涼ちゃんは…この冬、何かするの??」
僕の顔を覗き込みながら、、、。
僕はまたも何も答えることができなかった。どうしてか自分でも全くわからないのだが、何一つまともに考えられない。
「涼ちゃん??もう、緊張しすぎ!私たちって幼馴染みたいなもんじゃん?てか、親友じゃん?3ヶ月間毎日一緒に一つ屋根の下で過ごした仲じゃん?」
少しおどけたような表情で僕のことを見上げてくる。
せこいな…と思った。無駄な冷静感を装ったけれど…寒さだけでは隠せないほど心拍数は上がり、顔は紅潮し、息も浅くなっていた。
そんな僕の様子に満足したのか、彼女は得意げな顔を見せたかと思うと、今度は大きな瞳を一段と大きくさせて
「それじゃさ…なんか今年の冬に思い出作ろうよ、一緒に!」
僕は思わず彼女の表情の変化に目を奪われる。
本当にせこい…感情を前面に出したその表情は僕を困らせるのに十分過ぎる。
「ん?聞いてる??」
困っている僕に畳み掛けるように尋ねてくる無垢な声。思わず笑ってしまいそうにもなる。
だから、余計になんと答えたらよいのかわからなくなってくるのだけれど…
こんな時間が一番幸せだなと思うのだけれど…
そんな僕が照れ隠しのために、少し顔を背けた。その先には1枚のポスターがあった。
『月明雪見花火大会 2/14(日)』
僕は『花火』に、その言葉の響きに完全に魅せられていた。
『花火』が僕を掴んで離さなかった。
「あ、花火…」
僕はそのポスターをじっと見つめていたのか、彼女の声で我に返った。その声は彼女のものにしては細く聞こえた気がした。
「うん!それじゃあ、花火しようよ!」
そう言って、背伸びをした彼女のカバンから携帯電話のバイブレーションの音がなった。
時間は、もう20時をまわっていた。どうやら僕らは話し過ぎていたらしい。
「あ、もう帰らなきゃ…」と言いながら身震いをし、こちらを振り返った。
「お腹減ったし、寒くなって来ちゃったし…また明日ね!約束だから。」
とだけいうと、僕が瞬きをした瞬間に彼女の姿はどこにも見えなくなっていた。
刺激的な一日に僕は食欲を完全に失っていた。
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