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34話、ソラマメのコロッケと羊のひき肉団子
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オアシスを後にして箒で飛び続けること数時間。
そろそろ夕刻になる頃合いに、川沿いに栄える町をなんとか発見できた。
箒で飛んで分かったが、この砂漠地帯は本当に砂ばかりが広がっている。正直飛びながら町なんて本当にあるのか不安になってしまっていた。
でもこんな砂漠の中でも大きな川が流れていて、川沿いには植物が息づいていた。
当たり前の話だが、人の生活に水はかかせない。もし町があるとしたらきっと川沿いにあるだろうと考え、私は川に沿って飛んでいたのだ。
そしてようやく見つけた町に降り立ち、もう少しで日が落ちて夕食頃になるので、情報収集がてら観光することにした。
平らな砂岩が敷き詰められた地面は歩きやすく、立ち並ぶ家々も砂岩によって作られている。こんな砂漠にあるというのにかなり近代的な町並みだ。
適当な露店や商店の商品を物色しながら、店員さんにこの町のことを色々聞いてみる。
どうやらこの町の名はルシャと言うらしく、ガラスを使った装飾品や工芸品が有名のようだ。
昔ここら一帯で薄黄色の天然ガラス、通称デザートグラスというガラスが良く取れ、それを使った指輪やペンダントなどの高級装身具を売って町は潤っていたらしい。
だけどデザートグラスはかなり希少な物で、今はほとんど取れないとのこと。
そこで今は砂漠の砂からデザートグラスに似た人工ガラスを作り、それを加工した装飾品をメインに売買しているようだ。
そして今では人口ガラスがデザートグラスと呼ばれ、元々デザートグラスと呼ばれていた天然ガラスは純デザートグラスと呼ばれているみたい。
……なんかすごくややこしい。
まあとにかく、ガラスを使った工芸品が売りの町で、交易も盛んで食材はかなり豊富らしい。これは食事にも期待できそうだ。
せっかくだからガラスを使った工芸品とやらを買ってみることにする。
天然ガラスは皆薄黄色のようだが、人口ガラスは様々な色を持たせることができ、それが売りにもなっているようだ。
青、赤、黄色、紫、果ては二種類以上の色が絶妙に混じりあったガラスまであった。
色自体は鮮やかで、ガラスが持つ透明感にうまく混じっている。パッと見宝石と見間違うほどだ。
私の使い魔でカラスのククルちゃんは、こういうキラキラした物が好きだ。ククルちゃんへのお土産用に、色んなガラス玉を買っておいた。
このガラス玉は手の平に五個以上乗せることができるほど小さめで、飾って楽しむ物のようだ。
そのほかガラス玉をあしらったネックレスや指輪もいくつか買っておいた。人口ガラスなのでお値段も手ごろだ。
ちなみに天然ガラスで作られた工芸品もあったが、非常にお高い。普通に宝石が買えるくらい。さすがに買わなかった。
さて、衝動買いも終わったことだし、そろそろ夕食の時間にしよう。
日も落ちて辺りは薄闇に包まれていく。町中に設置されているガラスで作られた照明が次々と点灯していき、ほのかな明かりが夜の始まりを告げた。
妖精のライラもいることだし、ここは気安い食事処で周りを気にせずごはんを食べたいところだ。
そういうところは普段この町の人々が食べる気取らない料理を提供しているはずだ。そういった物はだいたいおいしいに決まっている。
適当に町中を歩いていると、オープンテラスの落ち着いた雰囲気のお店を発見した。直感的にこのお店に入ることにする。
砂漠の夜は昼と違ってかなり冷える。だけどまだ夜になったばかりなので、冷たい風が心地いいくらいだ。
一人用のテーブル席に座り、メニューを眺めてみる。
さて、何を食べようかな。
「ライラ、食べたい物ある?」
「人間の料理はよく分からないから、リリアに任せるわ」
ライラにお任せされたので、私はメニューを見て気になった料理を注文することにした。
注文したのは、ソラマメのコロッケと羊のひき肉団子。どちらも中々私の興味をそそってくるメニュー名だ。
コロッケは通常、ひき肉と潰したポテトを混ぜ、円盤状に成型して油で揚げる料理だ。
普通のコロッケは食べたことがあるが、ソラマメを使ったコロッケなんて食べたことが無い。
それと羊のひき肉団子とやら。まず私は羊肉を食べたことがないと思う。普段そこまでお肉の種類を意識してないので、知らないうちにどこかで食べたことがあるかもしれないが……まあ記憶にない。
そういった理由で頼んだ二つの料理は、ほどなくして私の前に運ばれてきた。
ガラス製の食器に入ったソラマメのコロッケと羊のひき肉団子。あと、料理を頼んだら付け合わせでついてくると思われる、膨らんだパン。
しかしガラスが有名な町とはいえ、お皿もガラスなんて驚いた。
これ、落としたら一発で割れるよね……? 取扱いには気を付けよう。
ソラマメのコロッケは、見た目は特に変なところはない。手の平サイズの小さい小判状で、カリっと揚げられてある。
羊のひき肉団子の方は、予想していた見た目と大分違っていた。
団子と書いてあるので丸い団子状だと思っていたのだが、実際は楕円系のひき肉団子が串に刺さっていた。もしかして串焼きなのかな、これ。
しかしそれ以上に見た目で驚いたのは、付け合わせのパンだ。このパンはなぜかぷっくりと膨れていてかなり大きい。
メニューを開いてこのパンの名称を確認してみると、薄焼きパンと書かれていた。
……全然薄くないんですけど?
中に具でも詰まってたりするのかな、と思い、パンを少しちぎってみる。
すると、パンは見る間にしぼんでいった。不思議に思ってちぎった断面図を見ると、パン生地の上下の間に空洞があった。
なるほど。このパンの中は空洞になっていて、焼くと中の空気が熱で膨張しパンを膨らませるのか。
焼く前の生地段階では薄いので、それで薄焼きパンという名前なのかもしれない。
でもなんでパンに空洞を作っているんだろう。
その私の疑問は、周囲で食事をする人たちを観察したらすぐに分かった。
周りの人は皆、パンの空洞に注文した料理を詰め、具入りのパンを作って食べていたのだ。
どうやらそれがこの町での一般的な食べ方らしい。ちょっと面白いな。
今までスープにパンを着けて食べたり、具入りのパンを食べたことはあったが、自分で具を詰めるパンは初めてだ。旅をして知る様々な食文化に新鮮な気持ちを抱く。
なら私もその食文化に習って食べてみよう。
……と、その前に。まずは一口普通に食べて料理の味を確かめておこう。
まずはソラマメのコロッケからだ。ライラの分と私の分を一口サイズに切り分けて、二人で食べてみる。
「なんだかすごく甘いわね、このコロッケ」
ライラが言う通り、ソラマメのコロッケは甘かった。
しかしそれは砂糖のような甘さではなく、ソラマメ自体の甘さだ。
ソラマメだけでなくポテトも使っているようで、ただ甘いだけのコロッケにはなっていない。
普通のコロッケとは違うが、これはこれでおいしかった。
次は羊のひき肉団子を食べてみることにした。
「ん、結構香辛料の匂いがするな」
羊のひき肉団子は、香辛料の独特な風味がかなり効いたパンチのある肉料理になっている。
塩気はそこまで強くないが、香辛料が強く効いているので、肉自体の旨みが引き出されていた。
羊肉は牛や鳥とはまた違った風味と味だ。なんだろう、ちょっと獣っぽいというか、独特なクセがある。
香辛料がかなり効いているのは、そのクセとうまく調和させるためなのだろうか。私は料理人ではないので分からない。
一つ分かるのは、この羊のひき肉団子は結構おいしいということだった。
塩気がそこまでないけど肉の味がしっかりとしているから、クセがありつつも次々食べられる感じだ。
ライラの方はというと。
「結構クセがあるわね……まあ、おいしいけど」
どうやら獣っぽいクセは苦手らしい。もしかしたら、ライラはお肉系自体が苦手なのかな。だとすると、それってなんかちょっと妖精っぽいかも。
二つの料理を味わったところで、ここからが本番だ。
私は薄焼きパンを雑にちぎって三つに分け、その中にソラマメのコロッケと羊のひき肉団子を詰めていく。
一つはコロッケだけ、一つはひき肉団子だけ、残り二つは両方を。
そしてそこから更にライラの分を取り分けた。
さて、パンに詰めるとどんな味がするのやら。
期待を胸に、作成した具入りパンを食べていく。
パンに詰めて一緒に食べると、これがまた一段とおいしくなる。
薄焼きパン自体は素朴な小麦の味で、中に詰められる具材の味を邪魔することがない。
コロッケの方はソラマメの甘みとパンの素朴な味が絶妙にマッチしているし、羊のひき肉団子はクセのある肉の味をうまくやわらげてくれる。
コロッケとひき肉団子、両方詰めたパンの方はというと……なんか甘くて肉の味は強くてで、ちょっと微妙な感じ。具材は別々の方が味がまとまっていた。
でもこういうまとまりが無い味も悪くない。
ライラもおいしそうに具材入り薄焼きパンを食べていた。
人前で平気で食事をするライラだが、周りの人々は特に私たちに注目していなかった。
実は妖精が見えない人々は、目の前で妖精の起こした行動をはっきりと観測できないのだ。
例えば、私の向かい側でパンを手にしている女性。
妖精が見えない彼女のパンをライラが目の前で半分食べたとしたら、普通彼女の目にはパンが勝手に消えていくようにうつるのだが、それを変に思ったりしないのだ。
これはライラの行動をはっきりと観測できないから起こる現象で、魔女の間ではこの現象を妖精のイタズラと呼んでいる。
ただ、後々妖精の起こした行動の結果はしっかりと観測できるので、ライラが離れた後にパンがいつの間にか食べられていることに気づくだろう。
ようするに、人目があるからといってライラの行動に気を使う必要は無いのだ。だからこうして人前で食事をさせても問題ない。
……でも人前であけっぴろげにライラと会話をすると、周りの人からは私が独り言を言っているように見えるので、そこだけは気を付けないといけないけど。
ちなみに、なぜ妖精の起こした行動をはっきりと観測できないのかは、まだ分かってない。
おそらく妖精がなんらかの魔術的現象を引き起こしているのだろう、と魔女の間では言われている。
……妖精って、本当不思議なのだ。
食事を終えたライラと私は、一息ついた。
今日のごはんはかなり満足。食後のお茶なんかも飲みたくなってくる。
ということで紅茶を頼んでみた。
ここの紅茶は結構風変わりしている。ガラスのコップに熱々の紅茶が注がれていて、砂糖がたっぷりと入っているのだ。
当然、かなり甘い。しかもガラスのコップだから熱くて持ちにくい。
ガラスに熱々の紅茶って飲みにくいと思うんだけど……なんか、文化の違いってやっぱり不思議かも。
甘い紅茶を飲みながら、そんなことを思った。
そろそろ夕刻になる頃合いに、川沿いに栄える町をなんとか発見できた。
箒で飛んで分かったが、この砂漠地帯は本当に砂ばかりが広がっている。正直飛びながら町なんて本当にあるのか不安になってしまっていた。
でもこんな砂漠の中でも大きな川が流れていて、川沿いには植物が息づいていた。
当たり前の話だが、人の生活に水はかかせない。もし町があるとしたらきっと川沿いにあるだろうと考え、私は川に沿って飛んでいたのだ。
そしてようやく見つけた町に降り立ち、もう少しで日が落ちて夕食頃になるので、情報収集がてら観光することにした。
平らな砂岩が敷き詰められた地面は歩きやすく、立ち並ぶ家々も砂岩によって作られている。こんな砂漠にあるというのにかなり近代的な町並みだ。
適当な露店や商店の商品を物色しながら、店員さんにこの町のことを色々聞いてみる。
どうやらこの町の名はルシャと言うらしく、ガラスを使った装飾品や工芸品が有名のようだ。
昔ここら一帯で薄黄色の天然ガラス、通称デザートグラスというガラスが良く取れ、それを使った指輪やペンダントなどの高級装身具を売って町は潤っていたらしい。
だけどデザートグラスはかなり希少な物で、今はほとんど取れないとのこと。
そこで今は砂漠の砂からデザートグラスに似た人工ガラスを作り、それを加工した装飾品をメインに売買しているようだ。
そして今では人口ガラスがデザートグラスと呼ばれ、元々デザートグラスと呼ばれていた天然ガラスは純デザートグラスと呼ばれているみたい。
……なんかすごくややこしい。
まあとにかく、ガラスを使った工芸品が売りの町で、交易も盛んで食材はかなり豊富らしい。これは食事にも期待できそうだ。
せっかくだからガラスを使った工芸品とやらを買ってみることにする。
天然ガラスは皆薄黄色のようだが、人口ガラスは様々な色を持たせることができ、それが売りにもなっているようだ。
青、赤、黄色、紫、果ては二種類以上の色が絶妙に混じりあったガラスまであった。
色自体は鮮やかで、ガラスが持つ透明感にうまく混じっている。パッと見宝石と見間違うほどだ。
私の使い魔でカラスのククルちゃんは、こういうキラキラした物が好きだ。ククルちゃんへのお土産用に、色んなガラス玉を買っておいた。
このガラス玉は手の平に五個以上乗せることができるほど小さめで、飾って楽しむ物のようだ。
そのほかガラス玉をあしらったネックレスや指輪もいくつか買っておいた。人口ガラスなのでお値段も手ごろだ。
ちなみに天然ガラスで作られた工芸品もあったが、非常にお高い。普通に宝石が買えるくらい。さすがに買わなかった。
さて、衝動買いも終わったことだし、そろそろ夕食の時間にしよう。
日も落ちて辺りは薄闇に包まれていく。町中に設置されているガラスで作られた照明が次々と点灯していき、ほのかな明かりが夜の始まりを告げた。
妖精のライラもいることだし、ここは気安い食事処で周りを気にせずごはんを食べたいところだ。
そういうところは普段この町の人々が食べる気取らない料理を提供しているはずだ。そういった物はだいたいおいしいに決まっている。
適当に町中を歩いていると、オープンテラスの落ち着いた雰囲気のお店を発見した。直感的にこのお店に入ることにする。
砂漠の夜は昼と違ってかなり冷える。だけどまだ夜になったばかりなので、冷たい風が心地いいくらいだ。
一人用のテーブル席に座り、メニューを眺めてみる。
さて、何を食べようかな。
「ライラ、食べたい物ある?」
「人間の料理はよく分からないから、リリアに任せるわ」
ライラにお任せされたので、私はメニューを見て気になった料理を注文することにした。
注文したのは、ソラマメのコロッケと羊のひき肉団子。どちらも中々私の興味をそそってくるメニュー名だ。
コロッケは通常、ひき肉と潰したポテトを混ぜ、円盤状に成型して油で揚げる料理だ。
普通のコロッケは食べたことがあるが、ソラマメを使ったコロッケなんて食べたことが無い。
それと羊のひき肉団子とやら。まず私は羊肉を食べたことがないと思う。普段そこまでお肉の種類を意識してないので、知らないうちにどこかで食べたことがあるかもしれないが……まあ記憶にない。
そういった理由で頼んだ二つの料理は、ほどなくして私の前に運ばれてきた。
ガラス製の食器に入ったソラマメのコロッケと羊のひき肉団子。あと、料理を頼んだら付け合わせでついてくると思われる、膨らんだパン。
しかしガラスが有名な町とはいえ、お皿もガラスなんて驚いた。
これ、落としたら一発で割れるよね……? 取扱いには気を付けよう。
ソラマメのコロッケは、見た目は特に変なところはない。手の平サイズの小さい小判状で、カリっと揚げられてある。
羊のひき肉団子の方は、予想していた見た目と大分違っていた。
団子と書いてあるので丸い団子状だと思っていたのだが、実際は楕円系のひき肉団子が串に刺さっていた。もしかして串焼きなのかな、これ。
しかしそれ以上に見た目で驚いたのは、付け合わせのパンだ。このパンはなぜかぷっくりと膨れていてかなり大きい。
メニューを開いてこのパンの名称を確認してみると、薄焼きパンと書かれていた。
……全然薄くないんですけど?
中に具でも詰まってたりするのかな、と思い、パンを少しちぎってみる。
すると、パンは見る間にしぼんでいった。不思議に思ってちぎった断面図を見ると、パン生地の上下の間に空洞があった。
なるほど。このパンの中は空洞になっていて、焼くと中の空気が熱で膨張しパンを膨らませるのか。
焼く前の生地段階では薄いので、それで薄焼きパンという名前なのかもしれない。
でもなんでパンに空洞を作っているんだろう。
その私の疑問は、周囲で食事をする人たちを観察したらすぐに分かった。
周りの人は皆、パンの空洞に注文した料理を詰め、具入りのパンを作って食べていたのだ。
どうやらそれがこの町での一般的な食べ方らしい。ちょっと面白いな。
今までスープにパンを着けて食べたり、具入りのパンを食べたことはあったが、自分で具を詰めるパンは初めてだ。旅をして知る様々な食文化に新鮮な気持ちを抱く。
なら私もその食文化に習って食べてみよう。
……と、その前に。まずは一口普通に食べて料理の味を確かめておこう。
まずはソラマメのコロッケからだ。ライラの分と私の分を一口サイズに切り分けて、二人で食べてみる。
「なんだかすごく甘いわね、このコロッケ」
ライラが言う通り、ソラマメのコロッケは甘かった。
しかしそれは砂糖のような甘さではなく、ソラマメ自体の甘さだ。
ソラマメだけでなくポテトも使っているようで、ただ甘いだけのコロッケにはなっていない。
普通のコロッケとは違うが、これはこれでおいしかった。
次は羊のひき肉団子を食べてみることにした。
「ん、結構香辛料の匂いがするな」
羊のひき肉団子は、香辛料の独特な風味がかなり効いたパンチのある肉料理になっている。
塩気はそこまで強くないが、香辛料が強く効いているので、肉自体の旨みが引き出されていた。
羊肉は牛や鳥とはまた違った風味と味だ。なんだろう、ちょっと獣っぽいというか、独特なクセがある。
香辛料がかなり効いているのは、そのクセとうまく調和させるためなのだろうか。私は料理人ではないので分からない。
一つ分かるのは、この羊のひき肉団子は結構おいしいということだった。
塩気がそこまでないけど肉の味がしっかりとしているから、クセがありつつも次々食べられる感じだ。
ライラの方はというと。
「結構クセがあるわね……まあ、おいしいけど」
どうやら獣っぽいクセは苦手らしい。もしかしたら、ライラはお肉系自体が苦手なのかな。だとすると、それってなんかちょっと妖精っぽいかも。
二つの料理を味わったところで、ここからが本番だ。
私は薄焼きパンを雑にちぎって三つに分け、その中にソラマメのコロッケと羊のひき肉団子を詰めていく。
一つはコロッケだけ、一つはひき肉団子だけ、残り二つは両方を。
そしてそこから更にライラの分を取り分けた。
さて、パンに詰めるとどんな味がするのやら。
期待を胸に、作成した具入りパンを食べていく。
パンに詰めて一緒に食べると、これがまた一段とおいしくなる。
薄焼きパン自体は素朴な小麦の味で、中に詰められる具材の味を邪魔することがない。
コロッケの方はソラマメの甘みとパンの素朴な味が絶妙にマッチしているし、羊のひき肉団子はクセのある肉の味をうまくやわらげてくれる。
コロッケとひき肉団子、両方詰めたパンの方はというと……なんか甘くて肉の味は強くてで、ちょっと微妙な感じ。具材は別々の方が味がまとまっていた。
でもこういうまとまりが無い味も悪くない。
ライラもおいしそうに具材入り薄焼きパンを食べていた。
人前で平気で食事をするライラだが、周りの人々は特に私たちに注目していなかった。
実は妖精が見えない人々は、目の前で妖精の起こした行動をはっきりと観測できないのだ。
例えば、私の向かい側でパンを手にしている女性。
妖精が見えない彼女のパンをライラが目の前で半分食べたとしたら、普通彼女の目にはパンが勝手に消えていくようにうつるのだが、それを変に思ったりしないのだ。
これはライラの行動をはっきりと観測できないから起こる現象で、魔女の間ではこの現象を妖精のイタズラと呼んでいる。
ただ、後々妖精の起こした行動の結果はしっかりと観測できるので、ライラが離れた後にパンがいつの間にか食べられていることに気づくだろう。
ようするに、人目があるからといってライラの行動に気を使う必要は無いのだ。だからこうして人前で食事をさせても問題ない。
……でも人前であけっぴろげにライラと会話をすると、周りの人からは私が独り言を言っているように見えるので、そこだけは気を付けないといけないけど。
ちなみに、なぜ妖精の起こした行動をはっきりと観測できないのかは、まだ分かってない。
おそらく妖精がなんらかの魔術的現象を引き起こしているのだろう、と魔女の間では言われている。
……妖精って、本当不思議なのだ。
食事を終えたライラと私は、一息ついた。
今日のごはんはかなり満足。食後のお茶なんかも飲みたくなってくる。
ということで紅茶を頼んでみた。
ここの紅茶は結構風変わりしている。ガラスのコップに熱々の紅茶が注がれていて、砂糖がたっぷりと入っているのだ。
当然、かなり甘い。しかもガラスのコップだから熱くて持ちにくい。
ガラスに熱々の紅茶って飲みにくいと思うんだけど……なんか、文化の違いってやっぱり不思議かも。
甘い紅茶を飲みながら、そんなことを思った。
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