転生ご令嬢はのんびり天然でも錬金術(Ex)と植物魔法(Ex)で美と癒しを届けます

きっこ

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第1話「花ひらく時、記憶は戻る」

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 ぱんぱん、と手を打ち鳴らす音が、静かな聖堂に響いた。

 天井の高い礼拝堂には、色とりどりのステンドグラスから陽の光が差し込んでいて、それを浴びた私の銀髪がきらきらと輝いていた。

「アリーセ・フォン・リューエン殿。祭壇の前へ」

 神官の声に促されて、私は一歩前に出る。
 金糸で縁取られた白い礼服に身を包んだ小さな身体が、厳かな雰囲気の中に浮かび上がるようだった。

 ――アリーセ、五歳。リューエン侯爵家の三女。

 でも、その実態は少し違う。
 この世界の言葉も習慣も、どうしてか私は自然に理解できた。
 理由はずっと曖昧なままだったけれど、それが今、はっきりしている。

(そうか……思い出した。私、前の世界では日本に住んでた)

 お風呂あがりのスキンケアを欠かさず、週末は料理を楽しみ、たまに自分用に手作りコスメなんかも作っていた――そんな、ごく普通の社会人だった。

 どうやら私は、転生してこの世界に来ていたらしい。

 思い出したのは、祭壇の光を浴びたその瞬間だった。
 身体の芯にあたたかな光が宿ると同時に、頭の奥でパチンと何かが弾けた。

 記憶の洪水が押し寄せてきて、それと同時に、何か“新しい力”が胸の奥に根づいたのを感じた。



「スキル確認……!」

 神官が魔石板を掲げて私の頭上にかざし、小さく息を飲む。
 だが次の瞬間、戸惑ったように眉をひそめた。

「スキル名が……読めない?」

 ちらりと私を見る神官の目が、どこか困惑している。

 ――そう、スキルは確かに手に入れた。
 私の中にははっきりと存在している。

 《錬金術(Ex)》と《植物魔法(Ex)》。
 けれど、このスキルは他人からは内容も名前も見えないようになっているらしい。

(秘匿……たぶん、神さまの配慮ってやつだ)

 記憶が戻ったと同時に、自然と理解していた。
 そして私は、にこにこと笑って手を振った。

「ありがとーございます、かみさまー」

 聖堂の空気が、ぽかんとした空気に包まれる。

「……な、なんとも愛らしいお嬢様ですね……」

「スキル内容は“非公開”……か。稀にあるが、ここまでの秘匿性は……」

「天啓……いや、まさかね……」

 ざわめく大人たちをよそに、私はふんわりと頭を傾ける。

「うち、かえったら……なに作ろっかなぁ」



 帰りの馬車のなか、姉たちはひそひそと話していたけれど、私は座席にちょこんと座りながら、窓の外を見ていた。

 金の髪を結った貴婦人が通りを歩いていた。お肌はつやつや、けれど目元には小さな乾燥の影。
 ふと、記憶の中の“前世の自分”がつぶやいた。

 ――あれ、クリームでケアできそう。

 すぐに脳内に、使う素材の組み合わせが浮かんだ。
 ミルクの油分。蜂蜜の保湿成分。ラベンダーの鎮静作用。
 錬金術スキルが、レシピを構築してくる。

(わぁ……すごい。つくってみたい)

 わくわくして、手を握った。
 何かを作りたいという気持ちが、内側からふつふつと湧いてくる。
 まるで、長い冬を越えてようやく芽吹いた春のつぼみのように。



 家に帰ると、私はまっすぐに自室へ向かった。
 メイドのエマが心配そうについてきたけれど、私はふにゃっと笑って、

「おへやで、ちょっとだけ、おはなと あそんでくる~」

 そう言って部屋の扉を閉める。

 部屋の片隅、小さな植木鉢にそっと手を伸ばす。
 試しに、力を込めてみた。

 ――すくすく育て、ラベンダーさん。

 ぽわん、と手のひらから光が広がる。

 数秒後、植木鉢の中で小さな芽がぐんと伸びた。
 あっという間に、淡紫の花が咲く。

「……うわぁ、かわいい……」

 私の顔が自然とほころぶ。

 次に育てたいのは、ミルクの実。
 牛乳と似た成分をもつ植物性ミルクの実を、記憶の中のイメージから再構成する。
 ふわふわの白い実が、ぽとんと土の上に転がった。

 ――あとは、蜂蜜の花。とろりと甘い蜜が取れる黄色い花。

 すべて、植物魔法で育てられた。しかも、ほんの数分で。



 素材がそろえば、あとは“調理”。
 でもこれは、魔法のような調理――そう、錬金術(Ex)。

 必要な分量、抽出方法、加熱温度、冷却時間……すべて脳内に“浮かんでくる”。
 まるで、作るべきものが私に語りかけてくるみたい。

 温かいミルクと蜜を混ぜ、ラベンダー精油を加えて、ゼラチンでとろみを調整。
 すり鉢で丁寧に練り、湯煎で溶かして、最後に冷やして固める。

 ふわりと甘く、やさしい香りが部屋いっぱいに広がった。

 ――できた。前世で作っていた、手作りハンドクリーム。

 私の指先はべたつかず、すっと潤う。
 小さな手が、まるで魔法を使ったみたいに、ふわふわになった。

「えへへ……つくれた」

 にんまりと笑いながら、私はそっと自分の頬にも塗ってみる。

「……やわらかい~」

 それは、誰にも頼まれてない。
 でも、自分で作りたかったから作ったもの。

 気がつけば、心の中にあたたかい灯が灯っていた。

 これから、もっといろんなものを作ってみたい。
 お肌にいいもの、おなかにおいしいもの――
 のんびり、ゆっくり、私らしく。



 こうして、アリーセの錬金術ライフは、静かに幕を開けた。

 この手から生まれる“美”と“癒し”は、やがて貴族の館から町へ、そして――世界すら越えていくことになる。

 でも、今はまだ、小さな部屋の、小さな手の中の、小さな奇跡。
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