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第8話『香りがつなぐ、ご縁のフルコース』
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土曜の午後。カフェ「Morning Dew」は、普段の週末とは違うざわめきに包まれていた。
「Yuto, are you ready?」(悠人、準備はいい?)
シャーロットがエプロンを締めながら声をかける。
悠人は深く頷き、厨房に立った。
「Yes. I’ll give it my best.」(はい、全力でやります)
鍋の中では、昨日仕込んだスパイスベースが静かに煮立っていた。
あとはチキンと野菜を入れて、最後の仕上げを行うだけだ。
(緊張、してる。でも……やれる)
これまで何度も思い知らされてきた。豪運は、動いた先にしか発動しない。
だから今は――目の前の鍋に、集中するだけ。
⸻
開店の1時間前から、外にはすでに人だかりができていた。
カレンのSNSの影響に加え、「カフェが見つけたラッキーシェフ」という口コミが地域掲示板でも話題になっていたらしい。
「Is this the curry guy?」「I saw the post!」「Hope I can taste it!」(この人が例のカレーの?/投稿見た!/食べられたらいいな)
そんな声が、ガラス越しに聞こえてくる。
⸻
午後1時。ついに試食会が始まった。
シャーロットが丁寧に整えたプレートに、悠人の作った“幸運カレー”が一皿ずつ盛られていく。
お皿の中央に小さめのライス、その上に香り高いチキンカレー、彩りのピクルスとハーブ。見た目は控えめだが、香りは抜群。
(今、いけ……!)
祈るような気持ちで悠人は客席を見つめた。
⸻
最初のひと口を口に運んだ客が、スプーンを止めたまま動かない。
やがて、ふわっと頬が緩み、笑みがこぼれる。
「This is… something else. It’s not spicy-hot, but full of flavor.」(これは……ただの辛さじゃない。旨味がすごい)
「I feel… comforted. Like I’m eating a memory.」(なんか、安心する……まるで懐かしい記憶を食べてるみたい)
店内のあちこちから、驚きと感動の声が立ち上がる。
子ども連れの母親は「普段カレー嫌がるのに、この子が黙々と食べてるのよ」と言い、年配の男性は「これぞ家庭料理の理想形だ」とカウンターで語っていた。
⸻
そして、さらに運命が動く。
「Excuse me… are you the chef?」(すみません……あなたが料理した方?)
声をかけてきたのは、少し年上の男性。細身の体にシンプルなシャツ、手には小さなノート。
「Yes, I’m Yuto Asahina.」(はい、朝比奈悠人です)
「I’m Oliver Grant. I work with the local food magazine “Flavor Trail”.」(僕はオリバー・グラント。“フレーバー・トレイル”っていう地元のフード雑誌の記者なんだ)
悠人は思わず目を見開いた。
「This curry… it’s not just good. It’s meaningful. There’s a warmth to it that’s rare.」(このカレー、ただ美味しいだけじゃない。あたたかさがある。とても貴重だ)
「May I feature you in our next issue? A piece on cultural fusion through food.」(次号で取り上げさせてもらえないかな?“料理がつなぐ文化の融合”って特集を考えてて)
「……え? 本当に、僕でいいんですか?」
「Absolutely. And I believe your luck is more than chance. It’s intentional.」(もちろん。君の“運”は、偶然じゃない。選ばれた流れだと思うよ)
⸻
試食会は成功のうちに幕を閉じた。
客の数は想定の倍以上。追加で炊いたご飯が足りなくなるほどだった。
厨房の片づけを終えた悠人に、シャーロットが紅茶を手渡す。
「Yuto, you didn’t just cook. You created a moment.」(悠人、あなたが作ったのは料理じゃない。“時間”そのものよ)
悠人は照れくさそうに微笑みながら、その言葉を噛み締めた。
⸻
その夜。
部屋に戻った悠人は、スマホを開いて澪にメッセージを送った。
> 「試食会、成功したよ。お客さん、倍以上来て、ローカル雑誌の記者に声かけられた」
すぐに既読がつき、通話がかかってきた。
「……ずるい。全部、悠人先輩の世界だけで起きてるみたいで」
画面の向こうの澪が、少し拗ねたように言う。
「そんなことない。ちゃんと、澪に一番に伝えてるだろ?」
「うん……でもね。ちょっとだけ、寂しい」
「……じゃあ、こうしよう」
悠人は、立ち上がってベッドの上にあったノートを持ってくる。
「このノートに、毎日一言、何か書くよ。料理のこと、気づいたこと、思ったこと……で、帰ったときに全部渡す」
「……えっ、私に?」
「うん。“全部伝えたい”って思ったから」
澪は、画面の中で言葉を失い、小さく頷いた。
「……それ、ズルいくらい嬉しい」
⸻
豪運スキルがもたらす出会いと奇跡。
でも――本当に守りたいのは、たった一人への想いだった。
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土曜の午後。カフェ「Morning Dew」は、普段の週末とは違うざわめきに包まれていた。
「Yuto, are you ready?」(悠人、準備はいい?)
シャーロットがエプロンを締めながら声をかける。
悠人は深く頷き、厨房に立った。
「Yes. I’ll give it my best.」(はい、全力でやります)
鍋の中では、昨日仕込んだスパイスベースが静かに煮立っていた。
あとはチキンと野菜を入れて、最後の仕上げを行うだけだ。
(緊張、してる。でも……やれる)
これまで何度も思い知らされてきた。豪運は、動いた先にしか発動しない。
だから今は――目の前の鍋に、集中するだけ。
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開店の1時間前から、外にはすでに人だかりができていた。
カレンのSNSの影響に加え、「カフェが見つけたラッキーシェフ」という口コミが地域掲示板でも話題になっていたらしい。
「Is this the curry guy?」「I saw the post!」「Hope I can taste it!」(この人が例のカレーの?/投稿見た!/食べられたらいいな)
そんな声が、ガラス越しに聞こえてくる。
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午後1時。ついに試食会が始まった。
シャーロットが丁寧に整えたプレートに、悠人の作った“幸運カレー”が一皿ずつ盛られていく。
お皿の中央に小さめのライス、その上に香り高いチキンカレー、彩りのピクルスとハーブ。見た目は控えめだが、香りは抜群。
(今、いけ……!)
祈るような気持ちで悠人は客席を見つめた。
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最初のひと口を口に運んだ客が、スプーンを止めたまま動かない。
やがて、ふわっと頬が緩み、笑みがこぼれる。
「This is… something else. It’s not spicy-hot, but full of flavor.」(これは……ただの辛さじゃない。旨味がすごい)
「I feel… comforted. Like I’m eating a memory.」(なんか、安心する……まるで懐かしい記憶を食べてるみたい)
店内のあちこちから、驚きと感動の声が立ち上がる。
子ども連れの母親は「普段カレー嫌がるのに、この子が黙々と食べてるのよ」と言い、年配の男性は「これぞ家庭料理の理想形だ」とカウンターで語っていた。
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そして、さらに運命が動く。
「Excuse me… are you the chef?」(すみません……あなたが料理した方?)
声をかけてきたのは、少し年上の男性。細身の体にシンプルなシャツ、手には小さなノート。
「Yes, I’m Yuto Asahina.」(はい、朝比奈悠人です)
「I’m Oliver Grant. I work with the local food magazine “Flavor Trail”.」(僕はオリバー・グラント。“フレーバー・トレイル”っていう地元のフード雑誌の記者なんだ)
悠人は思わず目を見開いた。
「This curry… it’s not just good. It’s meaningful. There’s a warmth to it that’s rare.」(このカレー、ただ美味しいだけじゃない。あたたかさがある。とても貴重だ)
「May I feature you in our next issue? A piece on cultural fusion through food.」(次号で取り上げさせてもらえないかな?“料理がつなぐ文化の融合”って特集を考えてて)
「……え? 本当に、僕でいいんですか?」
「Absolutely. And I believe your luck is more than chance. It’s intentional.」(もちろん。君の“運”は、偶然じゃない。選ばれた流れだと思うよ)
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試食会は成功のうちに幕を閉じた。
客の数は想定の倍以上。追加で炊いたご飯が足りなくなるほどだった。
厨房の片づけを終えた悠人に、シャーロットが紅茶を手渡す。
「Yuto, you didn’t just cook. You created a moment.」(悠人、あなたが作ったのは料理じゃない。“時間”そのものよ)
悠人は照れくさそうに微笑みながら、その言葉を噛み締めた。
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その夜。
部屋に戻った悠人は、スマホを開いて澪にメッセージを送った。
> 「試食会、成功したよ。お客さん、倍以上来て、ローカル雑誌の記者に声かけられた」
すぐに既読がつき、通話がかかってきた。
「……ずるい。全部、悠人先輩の世界だけで起きてるみたいで」
画面の向こうの澪が、少し拗ねたように言う。
「そんなことない。ちゃんと、澪に一番に伝えてるだろ?」
「うん……でもね。ちょっとだけ、寂しい」
「……じゃあ、こうしよう」
悠人は、立ち上がってベッドの上にあったノートを持ってくる。
「このノートに、毎日一言、何か書くよ。料理のこと、気づいたこと、思ったこと……で、帰ったときに全部渡す」
「……えっ、私に?」
「うん。“全部伝えたい”って思ったから」
澪は、画面の中で言葉を失い、小さく頷いた。
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