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第1話「扉の向こうは、知らない空と、私の未来」
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第1話「扉の向こうは、知らない空と、私の未来」
「お誕生日おめでとう、結花」
祖母から譲り受けたソファの上で、私はふわっと微笑んだ。兄姉たちが囲む中、両親がそっと大きな箱をテーブルに置いた。
「大げさだよ、こんな包装……」
「いいから、開けてごらん」
母の優しい声に押されて、私は包装紙をゆっくりほどく。
中に現れたのは──ため息が出るほど繊細な装飾のドールハウスだった。
「……これ、私の?」
「ロンドンの工房に特注したの。家具から壁紙までオーダーメイドよ」
母の玲子(れいこ)が微笑み、父・一志(かずし)が補足する。
「設計図の一部は陽翔が監修したんだ。小さな店舗に改装したコンセプトだって聞いたよ」
「へぇ……そうだったんだ」
兄姉の気配を背に、私はそっと玄関のドアに手を伸ばす。小さな金色の取っ手をつまんで、そっと開けた。
──その瞬間。
「……え?」
視界が反転するような感覚のあと、私は知らない空間に立っていた。
床も壁も、あのドールハウスと同じ造り。棚、カウンター、照明。夢のように可愛い雑貨屋。
けれど、窓の外には石畳の通りと馬車、異国のような街並みが広がっていた。
「どこ……ここ……?」
怖くなって、「帰りたい」と強く念じた──
──気がつけば、元のリビングにいた。
***
数日後、私はこっそりとその“ドア”を何度も試した。
分かったのは、次のこと。
・異世界に繋がっているのは、店舗のような空間
・“私”と、“持っていきたい物”だけが一緒に行ける
・人は連れて行けない
・スマホは持ち込め、写真も動画も撮れる
・異世界側では“言葉と通貨”がなんとなく理解できるスキルのような補正がある
私は、試しに日本のクッキーを缶ごと持ち込み、試食用をお皿に並べて棚に設置した。
──来訪者は、すぐに現れた。
落ち着いたドレス姿の女性がふらりと入ってきて、試食をつまみ、目を輝かせてくれた。
「こんなに美味しいお菓子、初めて……! いくらかしら?」
私は指差しで値段を示すと、彼女は革袋から銀貨を出してくれた。
そのとき、一瞬だけ“観察スキル発動”の文字が視界に浮かんだ。
──本当に、売れた。
私はお店を一旦閉じ、スマホの映像と写真を確認した。
──証拠はそろった。話そう。
***
「……っていうわけで。これが、その映像」
私が動画を再生すると、リビングの空気が一気に変わった。
「まさか……本当に異世界に?」
母・玲子が目を丸くする。
父・一志は無言でじっと動画を見つめていたが、再生が終わるとおもむろに言った。
「結花、君は今まで体が弱くて、外に出ることも限られていた。けれど──これは、結花だけが持てた特別な可能性だ」
「……うん。でも、私はひとりじゃ何も作れない」
すると、長女・玲奈(れいな)が笑った。
「一人でやる必要なんてないよ。商品開発は私たちが手伝う。香水、アクセサリー、包装、デザイン──なんでも揃ってるじゃない」
次男の奏汰(そうた)も腕を組んで頷く。
「異世界素材が手に入れば、加工して面白いものも作れるかもしれない」
蒼(あおい)はすでにパッケージ案のデザインアプリを立ち上げていた。
「動画から抜いた画像で仮パッケージ作るね。データあれば海外観光客向けにもいける」
そして、父が小さな冊子の束を私の前に置いた。
「結花、これは商品カタログ。仕入れのサンプルだ。食材から雑貨、文房具まで扱っている。選んで、リストを作ってくれ」
「えっ……私が?」
「君の店だから、君が決めなさい。お母さんが、発注や支払いは全部やってくれる」
母が優しく微笑む。
「“やりたい”って顔してるわ、今の結花。──それが何より嬉しいのよ」
──胸が熱くなった。
私は、いつも守られてばかりだった。
でも今は、守られてる上で、何かができる。自分の意思で、やってみたいと思える。
「ありがとう……じゃあ、注文します。お菓子は缶入りと量り売り両方にしたいし、ペンや便箋、あと……香水瓶も可愛いの、揃えたい」
兄姉と両親が、微笑んでうなずいた。
小さなドールハウスの扉は、きっと“お店”の形をした夢の入り口。
それは、家族みんなと一緒に叶える、私の新しい世界だった。
「お誕生日おめでとう、結花」
祖母から譲り受けたソファの上で、私はふわっと微笑んだ。兄姉たちが囲む中、両親がそっと大きな箱をテーブルに置いた。
「大げさだよ、こんな包装……」
「いいから、開けてごらん」
母の優しい声に押されて、私は包装紙をゆっくりほどく。
中に現れたのは──ため息が出るほど繊細な装飾のドールハウスだった。
「……これ、私の?」
「ロンドンの工房に特注したの。家具から壁紙までオーダーメイドよ」
母の玲子(れいこ)が微笑み、父・一志(かずし)が補足する。
「設計図の一部は陽翔が監修したんだ。小さな店舗に改装したコンセプトだって聞いたよ」
「へぇ……そうだったんだ」
兄姉の気配を背に、私はそっと玄関のドアに手を伸ばす。小さな金色の取っ手をつまんで、そっと開けた。
──その瞬間。
「……え?」
視界が反転するような感覚のあと、私は知らない空間に立っていた。
床も壁も、あのドールハウスと同じ造り。棚、カウンター、照明。夢のように可愛い雑貨屋。
けれど、窓の外には石畳の通りと馬車、異国のような街並みが広がっていた。
「どこ……ここ……?」
怖くなって、「帰りたい」と強く念じた──
──気がつけば、元のリビングにいた。
***
数日後、私はこっそりとその“ドア”を何度も試した。
分かったのは、次のこと。
・異世界に繋がっているのは、店舗のような空間
・“私”と、“持っていきたい物”だけが一緒に行ける
・人は連れて行けない
・スマホは持ち込め、写真も動画も撮れる
・異世界側では“言葉と通貨”がなんとなく理解できるスキルのような補正がある
私は、試しに日本のクッキーを缶ごと持ち込み、試食用をお皿に並べて棚に設置した。
──来訪者は、すぐに現れた。
落ち着いたドレス姿の女性がふらりと入ってきて、試食をつまみ、目を輝かせてくれた。
「こんなに美味しいお菓子、初めて……! いくらかしら?」
私は指差しで値段を示すと、彼女は革袋から銀貨を出してくれた。
そのとき、一瞬だけ“観察スキル発動”の文字が視界に浮かんだ。
──本当に、売れた。
私はお店を一旦閉じ、スマホの映像と写真を確認した。
──証拠はそろった。話そう。
***
「……っていうわけで。これが、その映像」
私が動画を再生すると、リビングの空気が一気に変わった。
「まさか……本当に異世界に?」
母・玲子が目を丸くする。
父・一志は無言でじっと動画を見つめていたが、再生が終わるとおもむろに言った。
「結花、君は今まで体が弱くて、外に出ることも限られていた。けれど──これは、結花だけが持てた特別な可能性だ」
「……うん。でも、私はひとりじゃ何も作れない」
すると、長女・玲奈(れいな)が笑った。
「一人でやる必要なんてないよ。商品開発は私たちが手伝う。香水、アクセサリー、包装、デザイン──なんでも揃ってるじゃない」
次男の奏汰(そうた)も腕を組んで頷く。
「異世界素材が手に入れば、加工して面白いものも作れるかもしれない」
蒼(あおい)はすでにパッケージ案のデザインアプリを立ち上げていた。
「動画から抜いた画像で仮パッケージ作るね。データあれば海外観光客向けにもいける」
そして、父が小さな冊子の束を私の前に置いた。
「結花、これは商品カタログ。仕入れのサンプルだ。食材から雑貨、文房具まで扱っている。選んで、リストを作ってくれ」
「えっ……私が?」
「君の店だから、君が決めなさい。お母さんが、発注や支払いは全部やってくれる」
母が優しく微笑む。
「“やりたい”って顔してるわ、今の結花。──それが何より嬉しいのよ」
──胸が熱くなった。
私は、いつも守られてばかりだった。
でも今は、守られてる上で、何かができる。自分の意思で、やってみたいと思える。
「ありがとう……じゃあ、注文します。お菓子は缶入りと量り売り両方にしたいし、ペンや便箋、あと……香水瓶も可愛いの、揃えたい」
兄姉と両親が、微笑んでうなずいた。
小さなドールハウスの扉は、きっと“お店”の形をした夢の入り口。
それは、家族みんなと一緒に叶える、私の新しい世界だった。
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