オヤジとJK、疾る!

柊四十郎

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マヤ

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 マヤ……。
 あ、誰かが私を呼んでる。
 私はそれを誰だか知っている。
 でも、名前も顔も思い出せない。
 声は、懐かしいその声は、よく知っている。
 気持ちの中を、優しい風が通り抜けていくような、そんな声。
 私はあなたを知っているの。
 でも、知らないの。
 ごめんなさい。
 
 目が覚めた。
 初めて見る夢だな。
 でも、懐かしい声だったなぁ。
 あ、学校行かなきゃ!
 そうだ、しばらく学校はお休みしなさいって義母ママが言ってたな。
 そっか。
 ユリちゃんやケイコ、みっちーにののちゃん。
 しばらく会えないんだな。
 寂しいな。
 後でLINEしとこう。
 そう言えば、みっちーに小学校の時のこと聞かれて、答えられなかったっけ。
 十四歳の時、義父と義母パパとママに会うまでの記憶が私にはない。
 こないだ十七歳になったばかりだから、私はまだ三年も生きていない、そんな気がする。
 なんで記憶がないの? って義父パパに聞いたら、事故で頭を怪我して、ずっと病院で寝ていたんだって、教えてくれた。
 じゃあ私は義父と義母パパとママに出会う前は、どんなだったの? 本当のパパとママはどうしたの? って聞いたら、教えてくれなかった。
 二十歳までは秘密だって。
 病院の先生が、二十歳になるまではおしえちゃだめだって言ってたからって。
 あはは。
 そんなこと真に受ける程、私はおバカじゃないけど、今がとっても幸せだから、それでいいと思う。
 義父と義母パパとママは優しいし、大切な友達もいるし。
 今を壊したくない。
 だから、知らなくていいの。
 でもね。
 たまにね。
 本当にたまにだよ?
 みんなをコロシタクなるの。
 あ、本当にコロシタりしないよ。
 思うだけ。
 私そんなひどい子じゃないからね。
 でもそんな時ってね、夢を見るの。
 いつも同じ夢。
 なんか、砂漠? みたいなところとか、ジャングルなのかなぁ? なんかそんな森の中とかにいるの。
 時間はお昼とか夜とかいろいろ。
 でね、チカチカといろんなところが光ってて、私の周りをピュンピュン何かが飛んでるの。
 そこで、鬼ごっこみたいなのをするんだ。
 みんな私から逃げたり、私を捕まえにきたり。
 すごく楽しいんだよ。
 でもね、追っかけて行って私がタッチすると、みんな赤くなって消えちゃうの。
 で、最後はみんな消えちゃって、私一人になっちゃうの。
 だから私はいつも鬼なんだよね。
 変な夢だよね。
 あ、でも最近見ないかな?
 あんまり見たくないな。
 コロシタクなっちゃうから。

 マヤ。
 私の名前。
 マヤ。
 マヤちゃん。
 マヤさん。
 マーヤ。
 マヤっち。
 みんないろんな呼び方をしてくれるけどね。
 時々思う。
 本当は、マヤじゃないんじゃないかなって。
 鬼ごっこの夢を見た後、みんなをコロシタクなった時、私の頭には決まって同じ数字がうかんでくるの。
 四と二と九。
 四百二十九なのかなぁ?
 とにかくね、それが私の名前じゃないかなって思うときもあるんだ。
 でも私はマヤがいいな。
 うん、マヤが好き。

 コロシタクなった時、でもほんとにコロシタらだめなのはわかってる。
 我慢しなきゃいけないんだけど、我慢できないの。
 そんな時はね、セックスするんだ。
 コロシタクなくなるまで。
 大変なんだよ、だって一回や二回じゃだめなんだもん。
 最初は義父パパがたくさんしてくれたけど、そのうちそれじゃ足りなくて、いろんな人とする様になったな。
 男の人でも女の人でもいいんだけどね。
 あ! 勘違いしないでね。
 夢を見てコロシタクなった時だけなんだからね。
 コロシタクさえならなきゃ、セックスなんてしたくないだもん。
 私はそんな女の子じゃないんだから。

 いろいろ考えてたらお腹減ったな。
 パジャマから着替えて、部屋から下に降りて行ったらさ、玄関に誰か来てた。
 お客さんかな? て思った。
 そしたら義母ママがね、私にお金をいっぱい渡してきて、逃げろって言うの。
 なんでって聞いたら、なんでもいいから、だって。
 どこにって聞いたら、とにかく、だって。
 義父と義母パパとママはどうするのって聞いたら、気にしなくていい、だって。
 もう!
 なんだかわからないけど、逃げればいいのね?
 私、運動神経いいんだ。
 二階の自分の部屋の窓から屋根に登って、おとなりさんちの屋根にジャンプ!
 そのまま路地に飛び降りて、街の方に走ってく。
 あはは、忍者みたいだったなぁ。
 義父パパたちどうなるのかな?
 殺されたりするのかな?
 だったら私がコロシテあげたかったなぁ。
 その方が、偽父と偽母パパとママも嬉しいよね?
 
 さっき目が覚めならね、コロシタクなってた。
 だって、鬼ごっこの夢、見たんだもん。
 起きたら車の中で寝てたみたい。
 あ、四と二と九だ。
 久しぶりだな。
 隣におじさんがいる。
 運転してる。
 誰だっけ?
 そうだ、デラちゃん!
 私を助けてくれたおじさん。
 この人はコロシちゃダメだもんね。
 恩人だし。
 それに優しいし、カッコいいし。
 ちょっとスキかも。
 してくれるかな、セックス。
 お願いしたらしてくれるよね、男の人って。
 でも断られたらどうしよう?
 優しい人だから断ったりしないよね?
 今まで断られたことないし。
 それに、断っちゃうとアレだよ。
 私、あなたをコロサなくちゃいけなくなる。
 久しぶりだから、言うの恥ずかしいな。
 でも頑張って言わなきゃ。
 じゃないとコロシテしまうから。
「ねー、デラちゃん、セックスしようよ」
 やった、言えた!
 これでシテくれるよね?
 コロサなくて済むよね?


 
 
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