オヤジとJK、疾る!

柊四十郎

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ミヤと蜜蜂

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 キャサワリーは立射体勢で対物ライフルへカートⅡのスコープを覗いていた。
 へカートⅡのスコープの倍率は十倍。
 十分に望遠鏡たりえる。
 福井県側から冠山峠を登ってきたキャサワリー達は、山頂にいた。
 ここからは、揖斐川町に向かう下りの道がよく見える。
 その途中に、一台のステーションワゴンが、ハッチバックを跳ね上げたまま停車している。
 小野寺の車である。
 キャサワリーは先ほどからその車を、スコープ越しに注視し続けている。
「ねえ、ミヤ」
 スコープを覗いたまま、キャサワリーはミヤに声をかけた。
「はい?」
 山頂の道路脇に咲いている花の蜜を集める蜜蜂を、物珍しげに眺めていたミヤが振り向いた。
「おそらくだけどね」
 レティクル越しに、車が激しく揺れている。
「はい」
 ミヤは花の元を離れ、キャサワリーの側にやってきた。
 キャサワリーは銃を下ろし、呆れたように笑った。
「セックスしちゃってるわよ、あの二人」
 見る? というように銃をミヤに差し出すが、ミヤはそれを断った。
「あれは、しかたありません。マヤの殺意を治めるための行為です」
「セックスできるのね、あなた達」
 車のボンネットに腰掛け、キャサワリーはミヤの身体に目を向ける。
「脳の七十二パーセントと骨格以外、基本的にはあなたがたと変わりはありません。性行為も、それにともなう快感も同じです。妊娠も可能です」
 ミヤは視線から逃れるように、キャサワリーに背を向けた。
「快楽殺人的嗜好はマヤの能力の引き出すために与えられたものです。それを自制するために彼女が見つけ出した代替行為が、性行為なのでしょう」
「いい歳なのに、オノデラサンも大変ね。あ、実は役得だったりしてね」
 キャサワリーは再び銃を構える。
「終わるまで待ってないといけないの?」
「殺意が消えるまではダメです。どのくらいで治るのかは、私は知りませんが」
「人の情事を待つ時間って、無駄な時間だと思わない?」
 しかし、往来がない林道とはいえ、このような場所で、昼間に堂々と。
 笑ってしまうが、大した男だと、キャサワリーは感心してしまう。
 普通はできるものではない。
「キャサワリー、車が来ます」
 ミヤが小野寺達の二百メートルほど後ろを指差して言う。
 キャサワリーはそちらにスコープを向ける。
 黒のBMW。
「ミヤ、黒のBMWって公安よね?」
 へカートⅡのボルトハンドルを引き、薬室に弾丸を装填するキャサワリーを見て、少し驚いたような顔でミヤは答える。
「ナンバーが8527なら公機捜ですが、撃つんですか?」
「成り行き次第ね」
「それに、立射でへカートⅡを?」
「任しなさいな、お嬢ちゃん」
 立射姿勢のまま、スコープを覗き、狙いを定める。
 背筋を伸ばしてスタンスを広く取り、百四十センチ近い対物ライフルを構えるキャサワリー。
 赤い髪が風になびく。
 抜群のプロポーションを持つキャサワリーのその姿は、彫像の様に美しい。
 見惚れる思いで、ミヤはキャサワリーを見つめる。
「アナタの事だから、車の運転くらいできるんでしょう?」
 覗いたまま、キャサワリーはミヤに聞く。
「はい。じゃあスタンバイしておきます」
 ミヤは運転席に座り、エンジンを始動させた。
「グローブボックスに銃が入ってるわ。アナタ一応持ってなさいな。アナタの事だからーー」
「はい、扱えます」
 そう答えて、ミヤが運転席からグローブボックスを開けると、中には大型のリボルバーの姿があった。
 トーラス・レイジングブルModel500。
 ブラジル製の五十口径リボルバーである。
 五十口径が好きなのかしらね、あの人。それに……。
 キャサワリーのショルダーホルスターに納められていたスミス&ウェッソンのM19もリボルバー。
 ライフルはボルトアクション、拳銃はリボルバー。案外、手堅い人ね。
 信用できそうだ、と感じた。
 小野寺達から死角になりそうなあたりの場所にBMWが停車した。
 助手席から一人の男が降りてくるのが見えた。
 片手に拳銃を持っている。
 運転手は、逃走された時に備えての待機しているのであろう。
 ナンバープレートの確認はしていないが、あの動きは紛れもなく、公安。
 小野寺が黙ってマヤを渡すとは思えないが、公安の名でどんな口車にに乗るかわからない。
 ましてや相手は銃を持っているが、小野寺達は丸腰である。
 後は、マヤが普通に戻っているのかいなか?
 それによって、標的も変ってくる。
 全員殺して、マヤだけ確保してもいいが、それはスマートではない。
 じゃあまずは……。
 キャサワリーはへカートⅡの狙いを定めた。
Commençons à danser.ダンスを始めましょう
 キャサワリーは呟いて、下唇を軽く噛み、トリガーに指をかけた。

 
 
 
 
 
 
 
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