探偵はお好きですか?

Primrose

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探偵はお好きですか?

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 カレーうどんは、カレーなのかうどんなのか。この話題は、一見単純に見えてとても複雑なものだ。
 カレーとうどん、主食に分類される二つを組み合わせたそれは、どの料理に分類されるのか曖昧な部分がある。
 カレーがかかっているからと言ってカレーなのだろうか。うどんが使われているからと言ってうどんに分類されるのだろうか。この問題を解くには、カレーうどんがどこで販売されているかを考えると、その答えが分かる。
 カレーうどんは、一般的にはうどん専門店で販売されており、カレー専門店ではあまり見かけない。
 以上の事から、カレーうどんはうどんである。以上、QED。
 こうして今日も新たな謎を解決した俺、探妥務は、この解帝大学ミステリー研究会の部長を務めている。
 そして今日は、先月から入学した新入生への部活動勧誘週間である。だがそんな中、俺は校内の学生食堂でくつろいでいた。
 本来なら俺も勧誘をするべきだろう。第一ミス研の部員は俺だけだし、一人でも部員を増やさねば廃部とすると学長からのお達しもある。
 こうなった以上、振りでもするべきだろうか。そう考え、俺は重い腰を上げた。
 まずいったん部室に戻り、活動報告書の一部を持ってこよう。そう考えて部室に戻ると、部室の前に女生徒が立っていた。
 彼女は俺に気が付くと、近づいてミス研部長の所在を尋ねた。
「ミス研部長は俺です。入部希望ですか?」
「あ、はい。私は秋元明奈と言います。ミス研に入部希望です」
「俺は探妥務です。それなら、まず活動内容を説明しますね」
 俺は棚から幾つかのファイルを取り出す。
 それは活動報告書を束ねたもので、今まで俺が関わった事件切り抜きや報告書が並んでいた。
「窃盗に傷害に人探し。色々やってるんですね」
「ああ、従姉の詩織さんが警察で働いててね。たまに向こうから話が来る事もあるんだよね」
「警察の守秘義務はどうなってるんだ・・・」
 秋元さんは頭を抱えて呆れていた。
 まあ確かに従姉の本田詩織は、面倒な事件は俺に丸投げするのがテンプレになりつつあるくらいだ。
「まあ、このファイルの四割位は向こうから依頼されたものかな」
「うへえ、大変ですね・・・あれ?」
 資料を見つめる秋元さんの手が止まった。そして彼女はある事件をずっと見つめていた。
 その事件は、先週あった傷害事件の報告書だった。被害者は男性二人。新聞にも載ったが切り抜きは張っていない。
「この事件、傷害事件じゃなくて殺傷事件でしたよね? それに被害者も三人だったはずです」
 この人記憶力良いんだなと思いながら、俺はどう説明するか悩んだ。
 ここは正直に言うべきか? いや、言ったところで彼女は信じるだろうか?
「秋元さん、『深瀬エミリー』って聞いたことある?」
 秋元さんはその人物を聞いたことがある様で、頷いて自分の持つ情報を語った。
「都市伝説の界隈で『現代のモリアーティ』とも呼ばれている、一流の犯罪コンサルタントですよね」
 そう、俺がミス研を設立してからずっと追っている相手。彼女が関わった事件は今まで三件解決しているが、取り逃した事件はもっと多い。
「一般人が殺人に関わるのは余り聞こえが良くないし、それにエミリーが実在するは警察でも十数人しか知らない」
「まあ、都市伝説の存在なんて普通は信じないですよね」
「ああ、けど彼女は存在する。それは間違いない」
 そう言い切る俺に、秋元さんは首をかしげる。
 確かに彼女は、世間一般では都市伝説の存在でしかない。
 だが彼女は実在する。何故なら・・・
「エミリーがらみの事件で、俺の家族が殺された」
 その言葉に秋元さんは絶句していた。
 二年前の夏の事だ。彼女は快楽放火魔を介して、母と妹を炎に飲み込ませた。
 俺は部活動の練習で家に帰るのが遅かったから生き残ったが、帰る家と家族を失った。
 父親も4年前に交通事故で死んでいる。なので今は、従姉の詩織さんの家に居候している。
「後で詩織さんに聞いたんだ。あの事件にもエミリーが関わってるって。だから俺は、彼女の関わった事件を解決して、そしてエミリーを捕まえる。それがミス研の、そして俺の目的」
 秋元さんは、俺の話を黙って聞いていた。そして聞き終わると、彼女は俺と向き合った。
「探妥さん、改めて言います。私をミス研に入れて下さい。必ず貴方の力になります」
 その言葉を受けて、俺は入部を許すか考えた。
 部費は活動費として重宝しているし、彼女が入部してくれるのなら、ミス研も来年まで存続させる事も出来る。だが彼女を入部させるという事は、エミリーの事件に彼女が関わる事を意味する。
 エミリーの事件は通常の事件よりも、複雑さは当然の事、危険性や規模も大きくなってくる。そんな危険な場所に一般人を送るのは危険ではないだろうか。
「心配してくれるんですか?」
 俺の様子を見かねた秋元さんは、下から俺をのぞき込む様に見た。
 そしてその顔は、月夜の様に美しい笑みを浮かべていた。
「一つ、聞いていい?」
「ええ、どうぞ」
「ミス研に来た理由は?」
 彼女は沈黙し、そして気まずそうに眼をそらした。
「・・・貴方と同じですよ」
 その言葉に、今度は俺が言葉を失った。
 彼女もエミリーの毒牙にかかった被害者なのだ。そして俺と同じ理由でミス研に入り、彼女を追おうと考えた。
「なるほど。じゃあ、一つ約束してください」
「? なんです?」
「事件の調査をする時は、俺の言うことを聞いてください。絶対に、絶対に聞いてください」
 俺は秋元さんに念を押す。
 もし調査で秋元さんが怪我でもしたら溜まったものではない。
「? まあいいですけど」
「なら良いです」
 俺はその返事に満足すると、秋元さんに向けて手を伸ばす。
「では、ミス研へようこそ」
 それに秋元さんも応じ、俺達は握手を交わした。
 これが、ミス研の本当の始まりだ。
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