死因研究所

Primrose

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秘密の子供①

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 白雪紅葉は雨天の中、洗濯物の回収に勤しんでいた。
 血痕は専用の薬品を使わなければ中々落ちず、苦労して物干し竿に置いたらこれだ。
「はあ、やはりケチらずに、金を払って掃除屋に頼むべきでしたね」
 死体処理を主な業務とし、紅葉達に協力する通称『掃除屋』。彼らは別料金を払えば、血糊や銃弾の跡といった物も消してくれる。
 紅葉も金が無い訳ではない。むしろ依頼料はそこそこ高い上に、全財産を紅葉に譲られることもある。だが紅葉は出生の関係もあり、金銭を渋る傾向にある。
 その気になれもっと良い建物を買えるのに、わざわざ裏路地の目立たないマンションをまるまる一棟買い、そこに『死因研究所』の支部を作った。
 その上アシスタントも雇わず、数年間もの間一人で切り盛りしていた。
 『死因研究所』は裏社会には留まらず、表社会でも都市伝説として語られる程の人気で、殺しにかかわる事なら何でもするという職業だ。暗殺から介錯まで、殺しの依頼を受けては成功させる、現代の暗殺者集団。
 その中でも紅葉は、介錯や合意の上での暗殺を主に請け負っており、掃除屋と連携して文字通り人間を『消す』事から《死体喰いハイエナ》という二つ名でも呼ばれている。
 白雪紅葉という美しい名前と容姿を持つ女性は、貪欲に死体を求める獣として生きているのだ。
 そして今日も、インターホンが餌の訪れを告げる。
「今日はどう殺して差し上げようかなあ、感電死? それとも焼死? ああ、中から爆発させるのも・・・」
 依頼人の殺害方法を思い浮かべながら、紅葉は上機嫌でインターホンを起動する。
『はあい?』
「あの、僕を弟子にしてください‼」
 インターホン越しにそう言うのは、中学生らしき少年だった。
 少年を訝しみながらも、紅葉は少年を家に入れてお茶を出す。因みに得用のドクダミ茶だ。
「で、弟子にしたいというのは、つまりここでアシスタントとして働かせろ、という解釈でいいですか?」
 紅葉の確認に、少年は真剣な顔で頷く。
「はい、そのつもりで来ました」
 少年はハッキリとした声で紅葉に言う。
 対して紅葉は、彼を雇うこと自体も含め、給料や何をさせるかを考える。
 少年少女が裏社会で働くことはよくあることで、親が関わっていたり、金が欲しかったりと理由は様々だが、紅葉にはこの少年は、それとは何か違う目的を持っているように見えた。
「なんでここに来たか、聞いてもいいですか?」
 ドクダミ茶を飲みながら、紅葉は少年を見つめる。
 少年はお茶に手も付けず、聞かれたことに淡々と正直に答えていった。
「他に行く当てがないんです」
「何があったの?」
「親が亡くなって、里親に引き取られたんです。でも、その人達が嫌になって、それでここの噂を聞いて、ここで働こうと思ったんです」
 まるでアルバイトの面接の様な光景に、紅葉は呆れながら聞き続ける。
「そんな思い付きで来ていい場所じゃないですよ? ここは人を殺すのを仕事にしてる。君がここで働くことになったら、いずれ君も人を手にかけることになる。君にその覚悟はあるの?」
 紅葉が最も知りたく、そして最も重要な事。命を刈り取り、《死体喰い》の一人となる責任と覚悟が、目の前の少年にあるのか。紅葉はそれが知りたかった。
 その質問を投げられた少年は、一瞬言い淀んだ後、覚悟の決まった顔で言った。
「はい、殺す覚悟も、殺される覚悟もあります」
 少年がそういうと、紅葉も満足したように微笑んで応じる。
「そういえば、名前を聞いていませんでしたね」
「そうでしたね。僕の名前はジャック。切崎きさきジャックです」
 ジャックの名前を聞くと、紅葉は再び微笑んで手を差し出した。
「それはそれは、なんともこの仕事に向いている名前ですね。では、宜しくお願いしますよ、ジャック君」
 そしてジャックが紅葉の手を取ろうとした時だった。
 紅葉の手の異変に気が付いたジャックは、伸ばした手を止めた。
 紅葉の右手には、
 それに気が付いた紅葉は、小指があるべき場所をさすりながら答えた。
「知りたいですか? なんで私には小指が欠けてるのか」
「・・・はい」
 ジャックの答えを聞くと、紅葉は語り始めた。
「じゃあ教えるよ、私の過去を」
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