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商売人
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インターネットの普及によって、この世界には数多くの都市伝説が出回るようになった。
それは単なる狂言から生まれたや、児童への教訓の為に大人が流したもの、多種多様な理由で多種多様な都市伝説が生まれていった。だがその多くは偽物で、実際には存在していない。ある二つを除いて。
《人狼》
そう呼ばれる都市伝説は、実在の殺人鬼を示していた。
彼、あるいは彼女は、世界中の至る所で無差別殺人を繰り返し、しかも証拠は一切残さない。ある事件は自殺、またある事件は事故として処理され、世間からも忘れ去られた。
だが彼らだけは、《人狼》の事を忘れはしない。
《秘密組織》と名乗る組織は、少数精鋭の暗殺集団として、裏社会で活躍していた。
個性や性格もバラバラな彼らに共通しているのは、皆《人狼》を恨んでいるという事。家族や友人、思い人を《人狼》に殺され、復讐の刃を手に取った者たちが集まる集団。
長年の努力で培った経験と技術を活かし、これまでで1000件もの依頼を達成してきた。だがそれでも《人狼》だけは見つからない。
神出鬼没で正体不明の殺人鬼について分かっている事はたった二つ。一つは変装の達人であるという事。本人と見分けがつかない程の精度で、声色すら完璧に重ねる事が出来る。
そして二つ目は、殺人を失敗した事が無いという事。これまで分かっているだけで82人もの人を手にかけ、未確定を含めると数百人が《人狼》によって殺されていると思われている。
そんな凶悪犯を追うために、彼らは日夜活動している。
日本のある山の奥に、古く大きな屋敷がある。
第一次大戦前に物好きな豪商が別荘として建てさせ、GHPに知られもせずにポツリと佇でいた。約100年もの間、誰にも手を付けられる事もなく。
そして現在、ある少年が格安でそこを山ごと買った。有用性が無いとはいえ山はとても高価だ。それを未成年が買えたとなると、普通の環境にいないのは明白だ。
例えば、特殊な職に就いている、とか。
少年の名は《商売人》、本当の名前を知る者は、もう誰も居ない。
彼は裏社会で売買を行っている。それも銃や個人情報といった、一般の市場にはとても出せない品を主に扱っている。彼がそれらで得た利益は、優に20億円を超えている。
彼がそんな事をしているのは、ある人物を追い、そして殺す為だ。
都市伝説の世界で《人狼》と呼ばれている殺人鬼を、彼は追っている。
人狼は神出鬼没で正体不明、そして変装と殺しの達人であるという事以外、何も分かっていない。
商売人もまた、両親を人狼に殺されている。6年前の事だ。彼はそれ以来、裏社会で彼、あるいは彼女の事を調べつつ、そして犯罪に手を染め続け、手を汚していった。
「質が悪い」
そして今日は、闇市場で出回っている偽札を眺め、その質の悪さにため息を吐いていた。
先日偽札取引を止めてくれとの依頼があり、証拠の押収ついでに偽札の一部を持って行ったのだが、思っていた以上に悪質なものであった。
偽札から目を外すと、パソコンのチャットが起動した。
チャットの相手は通話を要求し、商売人もそれに応じる。
通話を始めると、スピーカー越しに女性の声が聞こえた。
『やあ、偽札の件はどうだった?』
偽札事件の依頼を持ってきた彼女は、通話越しでも分かるほどの上機嫌で聞いてきた。
「そっちも分かってるだろ。阿呆の作った偽札に期待をした俺が馬鹿だった」
『ハハ。どの道質が良いものでも、使う気は無かっただろうに』
その言葉に商売人は鼻を鳴らす。その様子は外観よりも大人びた印象を与える。
「で、用件は何だ。冷やかしに来ただけなら切る・・・」
『ああ待って待って‼ 今日は依頼を持って来たんだよ。いつもの事だけどね』
「なら早くそれを言え」
商売人の不満が爆発する前にと、女性は依頼内容を話す。
『依頼内容は、反社会組織のリーダーを暗殺してほしいという暗殺依頼。どうやら人身売買に手を出したらしくてね。警察も目を付けてる事案らしいよ』
女性の説明に、商売人は目をつむって熟考する。
警察も関わっている事案となると難易度も高いが、その分報酬の額も大きい。
「なるほどね。で、標的の所在は?」
商売人が聞くと、女性は気まずそうに言葉を詰まらせた。
『それがねえ、この反社会組織の居場所が、何時まで経っても掴めないんだよ』
女性の言葉に商売人は納得する。
彼は物流の捜査に関しては世界一とも言えるレベルで精通している。そしてその組織は人身売買を行っているとの事なので、そこから組織を捜せという事だろう。
「分かった。引き受けよう」
『ありがとう、報酬は弾んでおくよ』
商売人は鼻を小さく鳴らして、通話を終了した。
商売人は椅子に体を預けると、今までの事を思い出す。
人狼に両親を殺されて、復讐の為にこの世界に来た。最初は暗殺や闇取引に抵抗があったが、今ではその行為に何の感情も抱かない。自分でも分かるほどに、心が冷め切っている。
「人は変わるものだな・・・」
そうポツリと呟くと、商売人は仕事の顔を作る。
過去でどんな人間だったかなんて関係ない。この世界で関係あるのは、実力と冷酷さのみ。
それ以外は、何も必要ない。
それは単なる狂言から生まれたや、児童への教訓の為に大人が流したもの、多種多様な理由で多種多様な都市伝説が生まれていった。だがその多くは偽物で、実際には存在していない。ある二つを除いて。
《人狼》
そう呼ばれる都市伝説は、実在の殺人鬼を示していた。
彼、あるいは彼女は、世界中の至る所で無差別殺人を繰り返し、しかも証拠は一切残さない。ある事件は自殺、またある事件は事故として処理され、世間からも忘れ去られた。
だが彼らだけは、《人狼》の事を忘れはしない。
《秘密組織》と名乗る組織は、少数精鋭の暗殺集団として、裏社会で活躍していた。
個性や性格もバラバラな彼らに共通しているのは、皆《人狼》を恨んでいるという事。家族や友人、思い人を《人狼》に殺され、復讐の刃を手に取った者たちが集まる集団。
長年の努力で培った経験と技術を活かし、これまでで1000件もの依頼を達成してきた。だがそれでも《人狼》だけは見つからない。
神出鬼没で正体不明の殺人鬼について分かっている事はたった二つ。一つは変装の達人であるという事。本人と見分けがつかない程の精度で、声色すら完璧に重ねる事が出来る。
そして二つ目は、殺人を失敗した事が無いという事。これまで分かっているだけで82人もの人を手にかけ、未確定を含めると数百人が《人狼》によって殺されていると思われている。
そんな凶悪犯を追うために、彼らは日夜活動している。
日本のある山の奥に、古く大きな屋敷がある。
第一次大戦前に物好きな豪商が別荘として建てさせ、GHPに知られもせずにポツリと佇でいた。約100年もの間、誰にも手を付けられる事もなく。
そして現在、ある少年が格安でそこを山ごと買った。有用性が無いとはいえ山はとても高価だ。それを未成年が買えたとなると、普通の環境にいないのは明白だ。
例えば、特殊な職に就いている、とか。
少年の名は《商売人》、本当の名前を知る者は、もう誰も居ない。
彼は裏社会で売買を行っている。それも銃や個人情報といった、一般の市場にはとても出せない品を主に扱っている。彼がそれらで得た利益は、優に20億円を超えている。
彼がそんな事をしているのは、ある人物を追い、そして殺す為だ。
都市伝説の世界で《人狼》と呼ばれている殺人鬼を、彼は追っている。
人狼は神出鬼没で正体不明、そして変装と殺しの達人であるという事以外、何も分かっていない。
商売人もまた、両親を人狼に殺されている。6年前の事だ。彼はそれ以来、裏社会で彼、あるいは彼女の事を調べつつ、そして犯罪に手を染め続け、手を汚していった。
「質が悪い」
そして今日は、闇市場で出回っている偽札を眺め、その質の悪さにため息を吐いていた。
先日偽札取引を止めてくれとの依頼があり、証拠の押収ついでに偽札の一部を持って行ったのだが、思っていた以上に悪質なものであった。
偽札から目を外すと、パソコンのチャットが起動した。
チャットの相手は通話を要求し、商売人もそれに応じる。
通話を始めると、スピーカー越しに女性の声が聞こえた。
『やあ、偽札の件はどうだった?』
偽札事件の依頼を持ってきた彼女は、通話越しでも分かるほどの上機嫌で聞いてきた。
「そっちも分かってるだろ。阿呆の作った偽札に期待をした俺が馬鹿だった」
『ハハ。どの道質が良いものでも、使う気は無かっただろうに』
その言葉に商売人は鼻を鳴らす。その様子は外観よりも大人びた印象を与える。
「で、用件は何だ。冷やかしに来ただけなら切る・・・」
『ああ待って待って‼ 今日は依頼を持って来たんだよ。いつもの事だけどね』
「なら早くそれを言え」
商売人の不満が爆発する前にと、女性は依頼内容を話す。
『依頼内容は、反社会組織のリーダーを暗殺してほしいという暗殺依頼。どうやら人身売買に手を出したらしくてね。警察も目を付けてる事案らしいよ』
女性の説明に、商売人は目をつむって熟考する。
警察も関わっている事案となると難易度も高いが、その分報酬の額も大きい。
「なるほどね。で、標的の所在は?」
商売人が聞くと、女性は気まずそうに言葉を詰まらせた。
『それがねえ、この反社会組織の居場所が、何時まで経っても掴めないんだよ』
女性の言葉に商売人は納得する。
彼は物流の捜査に関しては世界一とも言えるレベルで精通している。そしてその組織は人身売買を行っているとの事なので、そこから組織を捜せという事だろう。
「分かった。引き受けよう」
『ありがとう、報酬は弾んでおくよ』
商売人は鼻を小さく鳴らして、通話を終了した。
商売人は椅子に体を預けると、今までの事を思い出す。
人狼に両親を殺されて、復讐の為にこの世界に来た。最初は暗殺や闇取引に抵抗があったが、今ではその行為に何の感情も抱かない。自分でも分かるほどに、心が冷め切っている。
「人は変わるものだな・・・」
そうポツリと呟くと、商売人は仕事の顔を作る。
過去でどんな人間だったかなんて関係ない。この世界で関係あるのは、実力と冷酷さのみ。
それ以外は、何も必要ない。
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