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heaven or hell
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自分の常識や価値観が間違っているなんて事は、結構良くある。
体質や持病、趣味から家族構成まで。
両親と一世代で暮らしていたり、祖父母と二世代で暮らしている人も。そして、親のどちらか、もしくは両方が欠除している事もある。存在していたとしても、形が歪み、狂っている事もある。そしてそれは、まるでからくりの様に、歯車が噛み合わなければ、家族全てが崩壊してしまう。
その発端が小さな歯車だったとしても、大きな歯車だったとしても、結果は同じ。いつかはズレが大きくなって、崩壊を引き起こす。
日本は世界全体で比較すると、相当平和な国らしい。
けれどだからと言って、不幸な人間がいないわけではない。
例えばボク、菊斯実波なんかがそう。
だだっ広い家に一人暮らし。親はいない。
そして、ボクは一応高校一年生ではあるのだが、『あの時』以来、学校や外に出るのが嫌になってしまった。
それで家に籠って、株とゲームに没頭する日々。株は結構成功していて、贅沢せず暮らすだけなら十分すぎるくらいの額はある。
ゲームの腕もそこそこ良く、界隈ではそこそこ有名人になった。
それでも、正直ちょっと寂しい。話し相手は殆どいないし、ゲームもソロでやってるからか、殆ど無言で寂しくやってる。なんで生きてるのかも分からない位、味気ない生活だった。
けれどある日、ネットで面白そうなゲームを見つけた。
『Heaven or Hell』
『天国か地獄か』、このゲームが、最近話題になってるらしい。
このゲームはバトルロワイヤルのゲームなのだが、コンティニュー機能が無く、一度死んだら即ゲームオーバー、つまりプレイが出来ないという鬼畜仕様に加え、プレイヤーは特殊能力一つ以外に、初期の攻撃手段が無く、通常のゲームの様にマップ上に武器やアイテムが存在しないとの事。
そんな限られた環境で、数百人単位のバトルロイヤルを繰り広げるゲームらしい。
素晴らしい、実に素晴らしい。
特殊能力以外に攻撃手段は無く、さらに一度死んだら終わりという珍しい仕様。とてもゲーマー魂をくすぐるものだ。
と言うわけで早速ダウンロードしよう。
「・・・これでよし」
ダウンロードの文字をクリックすると、表示されたのは、『完了まで2時間』と言うメッセージ。
それからしばらく待ち続けたが、腹の虫がそれをやめさせた。
そう言えば、食料品の買い出し忘れてたし、スーパーまで買いに行こう。
ボクはカバンと財布を掴んで、一ヶ月ぶりに外に出ることになった。
それにしても、少しだけ変わった見た目をしているだけで、周りの注目を集めるようだ。
まあ、白髪に赤目の少女なんてそうそういないからねえ。
別にアルビノというわけでは無いが、『あの時』のショックとストレスから、色素が抜け落ちた・・・らしい。ボクも詳しいことは知らない
赤目の方は、外国人の母の遺伝で元々こうだ。髪も母譲りの茶色だったんだけど、今では絹もビックリのサラサラ純白ヘアーなのだ。
だがどれだけ髪が綺麗でも、胸がないと、なんというか、女子だと思われないんですね。はい。
この貧相な身体がモテ期に到達したことはなく、見事にボッチを形成、そのまま流れるように引きこもり生活を謳歌する日々。
人はそれをみっともない、怠けている、というが、ニートもそんなに楽では無い。
働かないとはいうがなんらかの手段、動画サイトやソーシャルゲームの大会に参加する等、何らかの手段で金を稼がねばならない。それこそ、毎日ゲームで鍛錬なりするレベルの時間と労力が必要。ニートもある意味で仕事人間なのかもしれない。
そんな事を考えていると、ついにスーパーに着いた。
いや、着いてしまったと言うべきだ。
人混みに入るという意味ではなく、戦場に半袖で踏み込んだという意味で。
スーパー。それはコミュ障にとっての試練の場。
ここは通い慣れているからいいけど、このスーパーが無くなったらついに完全なる引きこもりの仲間入り。外出の重要性をかろうじて理解しているボクは、このスーパーの有り難みを一番理解しているのだ。
ともあれ、スーパーに立つだけでは食料品はもらえない。早く諸々買って、家に帰ろう。
買うべきはカップ麺と携帯食、それに生鮮食品を少々。これでも料理はする。自分で言うのもあれだが、料理の腕はそこそこ良いよ自負している。
保存食は安いので、多めに買っておく。
しかし、カップヌードルを作った安藤百福は本当に偉大だ。どんな逆境にも諦めず、あらゆる出来事からアイデアを得るその発想力。ボクにも少し分けて欲しいくらいだ。
まあ、そんな事はあり得ないので、早く家に帰ろう。
そう思って、レジに向かった時だった。
今更ながら違和感に気がついたのだ。
人が誰もいない。
午前10時という時間だから、少ないだけならまだ分かる。だが、人っ子一人居ない。店の店員も、客も、誰も居ない。
流石にこれは異常すぎる。どこのレジも無人なのは異常だ。
買い物カゴを店に置いておいてから一度外に出て、周りを見渡す。
なんと、街にも誰も居ない。街を歩く人間が誰も居ない。いや車は走って・・・
「・・・っ‼」
通り過ぎた一台の車を見て、ボクは血の気が引いた。
車に人が乗って居なかった。無人で勝手に動いていたのだ。
自動運転? いや、この時代にそんな技術はない。だが、車はまるで人が乗っているかのように、普通に走っていた。
「とりあえず、一回店に戻って・・・」
怖くなって店に戻ろうと振り返ると・・・
男が刃物を振り上げ、そして勢い良く振り下ろした。
ボクは間一髪で避けようとしたが、気がつくと地に伏していた。
そしてボクの目には、赤い何かが映り込んでくる。
そこから遅れて、焼けるような激痛が走る。
「・・・が、ああ、痛い・・・‼」
ボクが悶えている間に、男はどこかへ逃げてしまった。
痛い、痛い痛い痛い‼ 死ぬの? こんな訳も分からずに死んでしまうのか?
血がどんどん流れていく。体が冷たく、意識が遠のいて行く。
そんな中、走馬灯の様にボクの脳内に走ったのは、『あの時』の記憶だった。
ボクは、この日本という国に産まれてから15年、実に平凡な女子として生活していた。
「実波、今日はちょっと遅くなるから、母さんと先に食べておいてくれ」
父はそこそこ名のある議員で、家に帰らないのは良くあること。
休日は一緒に遊んでくれるし、ボクにはいつも優しく接してくれる。
そんな優しくも責任感のある父のことが、ボクは大好きだった。
母は遠慮がちな性格だが、面倒見がよく、マメなところがあり、ボクは母の事も好いていた。
でも、それが大切であればある程、人はそれを失うという考えを持たない。持ちたくないのだ。
大切な人が、ある日突然消えたり、あるいは死んでしまったら? もう会えない、触れることも出来ないと、誰が想像するだろう。
今から5年前、ボクは唯一の父親を失った。交通事故だった。なんの前触れもなく、『父が死んだ』と知らされた時は、信じようともしなかった。でも安置所で父の遺体を見て、嫌でもそう信じさせられた。父はもう居ない。この世界のどこにも。
「実波、この人が新しいお父さんよ」
父と死別してから2年ほど経ったある日、母親が紹介したのは、優しい雰囲気を纏った男だった。
「やあ、よろしく」
彼は微笑みながら、ボクに手を差し出した。
それに習って、ボクも手を出した。
また幸せになれる、この時だけは、そう思っていた。
けど、そんな事は許されなかった。
男の正体は、典型的な嗜虐嗜好者だった。
母親をいたぶって、男がケタケタと笑う毎日。
そんな毎日であっても、母はずっと男に従っていた。 母も、すでに狂っているのかもしれない。
だがある日、男はボクにも手を出した。
それを見た母は激怒し、男ともみ合いになった末に包丁を取り出し、男に突きつけた。
母は男に突進し、そして・・・
「・・・っ‼」
目を覚ますと、先ほどの場所に倒れていた。
どうやらボクはまだ生きて・・・
「え・・・!?」
出血があったはずなのに、体はなんともない。それどころか、『どこも出血していない』のだ。
服は切られている。しかもそこから覗く肌は赤いどころか、元の青白い色をしている。
周りも血の跡すらない。まるで最初から切られていないかのようだ。
だが服は実際ボロボロだ。切られた事は事実なのだろう。
「もう帰って・・・まじか」
帰って落ち着こうかと思ったボクの目に、先ほどの男が映る。手には赤い刃物を持っていた。
そして男の顔がこっちに向くと、男は一心不乱に駆け出した。前へ、ボクの元へ。
「ヤバい、ヤバいヤバいヤバい‼」
ボクは全速力で、男と反対の方向へ走る。
だが引きこもりの脚力など高が知れている訳で、ドンドン距離が縮まっていく。
こんな状況で道交法を守れる訳もなく、赤信号を無視してさらに走る。
当然男も信号無視をする訳で、車は足止めにもならない。
男が引かれるのを願ったのだが、そんなうまくいかないか。
男は模範的な信号無視をしながらボクを追いかけ続けた。
もう終わった・・・そう思った時だった。
『タイムアップにより、ゲームを終了します』
どこからともなく、無機質なアナウンスが流れると、男が動きを止めた。
「時間切れとは運が悪い」
男の呟きが終わると、ボクと男の体が光り出し、粒子と待って拡散していった。
「・・・!?」
気が付くと、ボクは買い物カゴを持って立っていた。
無人であると気が付く直前にいた場所に、ボクは立ち尽くしていた。
どうなってる? 今のは夢だったのか?
そう思って胸をなぞったが、服は先程と同じく切り裂かれていた。
さすがにコレは不味いので、パーカーのチャックを閉めて隠す。
男に殺されかけたと思ったらそんなことはなくて、その後男に追い掛け回されて・・・本当に意味が分からない。
とにかく帰って着替えよう。見えてないとはいえ、穴が開いてると着心地が悪い。通気性はいいけどね。
しくじった。
あの時もったいぶらずに『能力』を使えば良かった。
能力を使えば、あの子供を取り逃がすことも無かったはずだ。
だが3人は殺せた。これだけでも充分だから良しとしよう。
このゲームは、他のプレイヤーを一人殺せば、そのプレイヤーの持つポイントを全て奪える上に、ボーナスとして15万ポイントを貰える。 初期ポイントが10万ポイントなので、1試合は平均して約60万ポイント程だろうか。
ポイントとは、このゲーム内でのスコア基準となったり、ゲーム内ストアで銃なんかが買えるようになったりもする。
そしてゲームルール。まず戦場となるフィールドは、各都道府県の市町村からランダムで選ばれ、町全体がフィールドと化す。
フィールド内の住民に関しては俺も詳しくは知らないが、世界中に点在している気象観測衛星と最新技術とやらを利用し、プレイヤー以外をフィールドから隔離しているらしい。
死体はその場から消え去り、建物がどれだけ崩壊しようと修復される。だからどれだけ好き放題やっても一般人にはバレない。
そして、フィールド内にいるプレイヤーが殺し合い、最後の一人になるか、30分の制限時間を生き残るかしない限り、生きて帰ることは出来ない。
何故こんな危険なゲームをするのか。特殊能力が手に入るという理由もあるかもしれない。俺の能力は戦闘には役に立つものだ。
『刃の座長
・分類 念動系
・自分が投げた物体の軌道を操作する』
これが、ゲームを始めた時に与えられた、俺のスキルだ。このスキルを使って、俺は今まで生き残って来た。
因みに分類とは、能力の大まかな性質で区分けしたものの事だ。
俺の『刃の座長』の様に、物質や物体を操作する《念動系》。
発火や落雷と言った物理現象を操る《現象系》。
そして、それらの枠組みに当てはまらない《無系統》、能力はこの3種類の中からランダムで与えられる。
そんな能力にも、欠点がないわけではない。能力を使った後は、何かしらの副作用がある。俺の能力の場合、使った後に頭痛がする。他の能力だと、体力の消耗とか色々あるが、殆どのプレイヤーは気にすらしていない。
そんな風に、このゲームのプレイヤーは、必ず能力が与えられるのだ。それがこのゲームのプレイヤーを増やしている要因の一つだろう。
だがこのゲームのプレイヤーが増え続ける一番の理由は、ゲームのポイントが現金に変換できるからだろう。1ポイント一円。つまり優勝すれば、15万円+αが手に入るということになる。
俺はこれまで4回生き残っているので、すでに約120万を稼いでいることになる。だが、まだ足りない。
俺には母がいるが、もう余命だ僅かなのだ。そして父に関してはすでに死んでしまっており、元々裕福ではなかったために、彼を墓に入れることもできなかった。だから母だけでも、きちんと墓に入れてやりたいのだ。
今まで親孝行出来なかった分、せめてこれくらいはしてやりたい。
そして、もうすぐ金は集まる。あと一回、あと一回勝てば・・・
なんなんだ。本当に何なんだこのゲームは。
家に帰って例のゲームを開いたら、あの通り魔? の件はこのゲームが原因と判明。
ポイント? つまりボクは金儲けの道具にされかけたと? なぜ金のために命を賭けにゃならんのだ。
まあ、特殊能力を使ってバトルロワイヤルをするというのは魅力的だよ?
けど、それはゲームの世界での話であって、現実で殺し合いをしたい訳ではない。
金も株で手に入れたのだから、別にこんなハイリスク・ハイリターンにもほどがある方法で稼ぐ必要もない。
ボクはただ、話題になってるゲームらしいから、ちょっとやってみようかなあ的な気持ちでゲームをダウンロードしただけなのに。
そう言えば、このゲームは特殊能力が与えられるという。ならばボクにも特殊能力が与えられたのではないか?
このゲームに書いてあると思うけど・・・ビンゴ‼
『死者殺し
・分類 無系統
細胞分裂を操ることで、死ぬことが無くなる』
「ええ・・・」
思わず声が出る位、とんでもない内容だった。
どうやら先程の傷はこれが原因なのだろう。
傷は能力で塞がり、服だけが切れたままになった。つまりは、死が唯一のゲームオーバーのこのゲームにおいて、ボクは絶対的な優位性を手にしたわけだ。
・・・いやいや、こんなのゴメンだよ? ボクはともかく、人の命がかかったデスゲームなんてやりたくないし。こんなゲーム消してさっさと・・・
と思ったが、それはどうやら悪手らしい。
『このゲームのアンインストールや、警察や行政機関への通報行為は、アカウント削除、及びゲームオーバーの罰則が与えられます』
このゲームでのゲームオーバー、それはつまり死を意味している。
アンインストールボタンを押すだけでボクは死ぬ。
普通なら信じないで押すところだけど、アレを見た今では分かる。これは事実だと。
ボクはこのゲームから逃れられず、いつかは必ず手を汚す事になる。
「・・・」
『あの時』の二の舞は絶対にゴメンだ。だが、恐らくこの呪縛から逃れることは出来ないのだろう。
それに、いつかここがフィールドに選ばれるかもしれない。
いっその事銃でも買うか? 拳銃くらいなら今のポイントでも買えるし・・・
そう思い悩んでいると、パソコンの通知が鳴った。
『これより5分後、〇〇市をフィールドに指定、及び隔離を開始します。戦闘を回避したいプレイヤーは市内より撤退してください。』
どうやら、今すぐ覚悟を決めなければならないらしい。
5分後に外に出ると、例によって人影は見えず、車も無人で動いていた。
人はまだ見えないが、恐らくすぐに人に見つかるだろう。
「ああ、噂をすれば」
あの男が目に映った。それは向こうも同じだったらしく、彼もこちらに寄ってくる。
どうする? 逃げるか・・・? いや・・・
「戦うのがゲームだよね‼」
ボクはポケットから銃を取り出して、思いっきり引き金を引いた。
当然当たりはしなかったが、それでも抑止力にはなった。男が一瞬止まったスキに、自転車を引き抜いてボクは逃走していった。
男は追いかける訳でも無く、頭を抱えながらふらついていた。
「えっ・・・」
それに気が付いたと同時に、ボクの自転車のタイヤが突然パンクし、地面に横転してしまった。
辺りを見渡すと、男の持っていたナイフが足元に転がっていた。
何故? 男との距離は数十メートル程あるのに。男の能力か?
ボクが慌てていると、男は道端から石を拾ってボクに向かって投げた。その石が上方に飛んだと思うと、空中で不自然に曲がってボクに襲い掛かって来た。
「ヤバ・・・‼」
ボクがギリギリで避けると、石はコンクリートを抉って砕けた。
あんなのが当たればタダでは済まされない。
ボクは改めて銃を向けるが、倫理観と『あの時』の記憶がそれを止めた。
—————人を殺してしまうのか?
—————君の命の危機だ。それに死ぬとは限らない。それに当たるかも分からな
いんだよ?
—————でも当たるかも知れない。
—————そんな引け気味でどうするの? バレなんだから殺したところで
問題ないよ。
「・・・っ‼」
ボクは覚悟を決め、再び狙いを定めた。
男はナイフを拾いなおして構える。恐らく今度は外さないだろう。
男がナイフを投げた瞬間、ボクも引き金を引いた。
すると銃弾とナイフがぶつかり、甲高い音を立てた。
男はもう武器がないが、ボクの銃はまだ弾がある。
ボクは男に一気に詰め寄り、銃口を男に突きつけて言った。
「降参してください。この試合はあと5分で終わります。どこかに隠れれば2人とも生きて帰れます」
これがボクの出した結論。2人とも安全に帰れて、かつ二人とも手を汚さずに帰れる方法。
これなら一番平和にこの争いを終わらせられる。
「・・・いやだ」
だが男は銃を向けられながらも反発した。
「なんでです?」
「金が欲しいんだ」
そんな俗っぽい理由を聞くわけ・・・
「母を、母だけでもちゃんと看取りたいんだよ」
「っ‼」
男は落胆しながら話し続けた。
ボクは両親共にロクに看取ることも出来ずに死別してしまった。
だから、彼の事は共感できる。けれど・・・
「信用出来ません。さっきも入れたら2回も殺されかけましたし、数時間前はマジで三途の川まで行ったんで」
「・・・それは本当に済まない。でも本当に時間がないんだ」
「・・・」
「無理なことを言っているのは分かる。けど頼む。看取った後は何でもいい。それこそ殺してくれたって・・・」
「ダメです‼」
暗いことを言う男に、ボクは勢いよく制止した。
「なんで君が止めるんだ?」
「・・・ボクにも分かるんですよ、大切な人と別れる気持ちは。だからこそ、ちゃんと生きて、ちゃんと見送って、ちゃんと反省してください」
ボクは銃を下げ、男に手を差し伸べた。
「この状況でどうしろと? 俺にはもう諦めるしか道は・・・」
「だ・か・ら、そんな直ぐに諦めないで下さい」
男の諦めの言葉を遮り、ボクは反論を口にした。
「確かに、人には諦めが肝心な時もありますよ。でも、反対に絶対に諦めてはいけない時もあります。例えば今みたいなときがそうです。大切な人を見送るのを簡単に諦めないでください。あなたの母は、ちゃんとあなたに看取って欲しいはずです。きちんと見送れるだけでも、すごく幸せなことなんです」
彼は何かを察したのか、黙ってボクの言葉に聞き入っていた。
「どんな環境でも、親は子の事を想ってくれています。それが親の仕事でもあるんですから。だからその分、いいえそれ以上に、恩返しをするのがボク達の仕事なんです。」
そう言って、改めて彼に手を差し伸べる。
「・・・お人好しがすぎるぞ」
その言葉に思わず苦笑いしてしまった。
まさか自分を殺そうとした相手にこんな事を言われるなんて。
「・・・何をすればいい?」
彼はボクに面向かって、真剣そうな顔で聞いた。
「そうですね。ボクはこのゲーム知らないので、色々教えてください」
ボクが何気なく言うと、男は口を大きく開けてポカンとしていた。
「は? いや、それだけでいいのか? それこそポイントを寄越せとか、なんでも言う事を聞くのに」
いや、そんな事言われても、お金には困ってないし・・・でもかと言ってこれだけ誠意? を見せられてるのに軽い対応するのもなあ。
あそうだ。
「このゲーム、チームを作る機能があるじゃないですか。あれやりましょうよ」
このゲームにも、一般的なバトルロワイヤルゲームと同じく、チームを作る機能がある。チームを組めば、月ごとに集計されるチームランキングに応じて、チームメンバー全員に特典が与えられるらしい。
いや、それが欲しいからだよ? 別に、このゲームもソロプレイは嫌だなあ、て訳では無いよ? 寂しくなんかないよ?
「え、あ、ああ。それは良いんだが・・・」
彼はボクの提案を聞いて、少々言い淀んだ。
なんだ? 何か問題でも・・・ああ‼
「そう言えば自己紹介してませんね。ボクは菊斯実波。これでも高校生です」
「ん? ああ、関崎衆だ。一応フリーター・・・じゃなくて‼」
関崎さんの自己紹介も聞いたし、今日はお開きかなあ、なんて考えていたら、今度は関崎さんがボクを止めた。
「君・・・実波だっけ? チームの設立条件してるか?」
関崎さんが訝しみながらに尋ねた。
チームの設立条件? そりゃあ、まずプレイヤー3人を集め・・・3人?
「人数足らん・・・」
「やっぱりか・・・」
関崎さんは『今更何を・・・』みたいな感じで頭を抱えていた。
ああ、関崎さんがさっきから言おうとしてたのってその事ね。
でもどうしよう。ボク友達いな・・・ゲフンゲフン、このゲームやってる知り合いいないしなあ。
「スカウトするしかありませんね」
「ああ、だな」
なんて話していると、ゲームの制限時間が0になった。
『タイムアップにより、ゲームを終了します』
体質や持病、趣味から家族構成まで。
両親と一世代で暮らしていたり、祖父母と二世代で暮らしている人も。そして、親のどちらか、もしくは両方が欠除している事もある。存在していたとしても、形が歪み、狂っている事もある。そしてそれは、まるでからくりの様に、歯車が噛み合わなければ、家族全てが崩壊してしまう。
その発端が小さな歯車だったとしても、大きな歯車だったとしても、結果は同じ。いつかはズレが大きくなって、崩壊を引き起こす。
日本は世界全体で比較すると、相当平和な国らしい。
けれどだからと言って、不幸な人間がいないわけではない。
例えばボク、菊斯実波なんかがそう。
だだっ広い家に一人暮らし。親はいない。
そして、ボクは一応高校一年生ではあるのだが、『あの時』以来、学校や外に出るのが嫌になってしまった。
それで家に籠って、株とゲームに没頭する日々。株は結構成功していて、贅沢せず暮らすだけなら十分すぎるくらいの額はある。
ゲームの腕もそこそこ良く、界隈ではそこそこ有名人になった。
それでも、正直ちょっと寂しい。話し相手は殆どいないし、ゲームもソロでやってるからか、殆ど無言で寂しくやってる。なんで生きてるのかも分からない位、味気ない生活だった。
けれどある日、ネットで面白そうなゲームを見つけた。
『Heaven or Hell』
『天国か地獄か』、このゲームが、最近話題になってるらしい。
このゲームはバトルロワイヤルのゲームなのだが、コンティニュー機能が無く、一度死んだら即ゲームオーバー、つまりプレイが出来ないという鬼畜仕様に加え、プレイヤーは特殊能力一つ以外に、初期の攻撃手段が無く、通常のゲームの様にマップ上に武器やアイテムが存在しないとの事。
そんな限られた環境で、数百人単位のバトルロイヤルを繰り広げるゲームらしい。
素晴らしい、実に素晴らしい。
特殊能力以外に攻撃手段は無く、さらに一度死んだら終わりという珍しい仕様。とてもゲーマー魂をくすぐるものだ。
と言うわけで早速ダウンロードしよう。
「・・・これでよし」
ダウンロードの文字をクリックすると、表示されたのは、『完了まで2時間』と言うメッセージ。
それからしばらく待ち続けたが、腹の虫がそれをやめさせた。
そう言えば、食料品の買い出し忘れてたし、スーパーまで買いに行こう。
ボクはカバンと財布を掴んで、一ヶ月ぶりに外に出ることになった。
それにしても、少しだけ変わった見た目をしているだけで、周りの注目を集めるようだ。
まあ、白髪に赤目の少女なんてそうそういないからねえ。
別にアルビノというわけでは無いが、『あの時』のショックとストレスから、色素が抜け落ちた・・・らしい。ボクも詳しいことは知らない
赤目の方は、外国人の母の遺伝で元々こうだ。髪も母譲りの茶色だったんだけど、今では絹もビックリのサラサラ純白ヘアーなのだ。
だがどれだけ髪が綺麗でも、胸がないと、なんというか、女子だと思われないんですね。はい。
この貧相な身体がモテ期に到達したことはなく、見事にボッチを形成、そのまま流れるように引きこもり生活を謳歌する日々。
人はそれをみっともない、怠けている、というが、ニートもそんなに楽では無い。
働かないとはいうがなんらかの手段、動画サイトやソーシャルゲームの大会に参加する等、何らかの手段で金を稼がねばならない。それこそ、毎日ゲームで鍛錬なりするレベルの時間と労力が必要。ニートもある意味で仕事人間なのかもしれない。
そんな事を考えていると、ついにスーパーに着いた。
いや、着いてしまったと言うべきだ。
人混みに入るという意味ではなく、戦場に半袖で踏み込んだという意味で。
スーパー。それはコミュ障にとっての試練の場。
ここは通い慣れているからいいけど、このスーパーが無くなったらついに完全なる引きこもりの仲間入り。外出の重要性をかろうじて理解しているボクは、このスーパーの有り難みを一番理解しているのだ。
ともあれ、スーパーに立つだけでは食料品はもらえない。早く諸々買って、家に帰ろう。
買うべきはカップ麺と携帯食、それに生鮮食品を少々。これでも料理はする。自分で言うのもあれだが、料理の腕はそこそこ良いよ自負している。
保存食は安いので、多めに買っておく。
しかし、カップヌードルを作った安藤百福は本当に偉大だ。どんな逆境にも諦めず、あらゆる出来事からアイデアを得るその発想力。ボクにも少し分けて欲しいくらいだ。
まあ、そんな事はあり得ないので、早く家に帰ろう。
そう思って、レジに向かった時だった。
今更ながら違和感に気がついたのだ。
人が誰もいない。
午前10時という時間だから、少ないだけならまだ分かる。だが、人っ子一人居ない。店の店員も、客も、誰も居ない。
流石にこれは異常すぎる。どこのレジも無人なのは異常だ。
買い物カゴを店に置いておいてから一度外に出て、周りを見渡す。
なんと、街にも誰も居ない。街を歩く人間が誰も居ない。いや車は走って・・・
「・・・っ‼」
通り過ぎた一台の車を見て、ボクは血の気が引いた。
車に人が乗って居なかった。無人で勝手に動いていたのだ。
自動運転? いや、この時代にそんな技術はない。だが、車はまるで人が乗っているかのように、普通に走っていた。
「とりあえず、一回店に戻って・・・」
怖くなって店に戻ろうと振り返ると・・・
男が刃物を振り上げ、そして勢い良く振り下ろした。
ボクは間一髪で避けようとしたが、気がつくと地に伏していた。
そしてボクの目には、赤い何かが映り込んでくる。
そこから遅れて、焼けるような激痛が走る。
「・・・が、ああ、痛い・・・‼」
ボクが悶えている間に、男はどこかへ逃げてしまった。
痛い、痛い痛い痛い‼ 死ぬの? こんな訳も分からずに死んでしまうのか?
血がどんどん流れていく。体が冷たく、意識が遠のいて行く。
そんな中、走馬灯の様にボクの脳内に走ったのは、『あの時』の記憶だった。
ボクは、この日本という国に産まれてから15年、実に平凡な女子として生活していた。
「実波、今日はちょっと遅くなるから、母さんと先に食べておいてくれ」
父はそこそこ名のある議員で、家に帰らないのは良くあること。
休日は一緒に遊んでくれるし、ボクにはいつも優しく接してくれる。
そんな優しくも責任感のある父のことが、ボクは大好きだった。
母は遠慮がちな性格だが、面倒見がよく、マメなところがあり、ボクは母の事も好いていた。
でも、それが大切であればある程、人はそれを失うという考えを持たない。持ちたくないのだ。
大切な人が、ある日突然消えたり、あるいは死んでしまったら? もう会えない、触れることも出来ないと、誰が想像するだろう。
今から5年前、ボクは唯一の父親を失った。交通事故だった。なんの前触れもなく、『父が死んだ』と知らされた時は、信じようともしなかった。でも安置所で父の遺体を見て、嫌でもそう信じさせられた。父はもう居ない。この世界のどこにも。
「実波、この人が新しいお父さんよ」
父と死別してから2年ほど経ったある日、母親が紹介したのは、優しい雰囲気を纏った男だった。
「やあ、よろしく」
彼は微笑みながら、ボクに手を差し出した。
それに習って、ボクも手を出した。
また幸せになれる、この時だけは、そう思っていた。
けど、そんな事は許されなかった。
男の正体は、典型的な嗜虐嗜好者だった。
母親をいたぶって、男がケタケタと笑う毎日。
そんな毎日であっても、母はずっと男に従っていた。 母も、すでに狂っているのかもしれない。
だがある日、男はボクにも手を出した。
それを見た母は激怒し、男ともみ合いになった末に包丁を取り出し、男に突きつけた。
母は男に突進し、そして・・・
「・・・っ‼」
目を覚ますと、先ほどの場所に倒れていた。
どうやらボクはまだ生きて・・・
「え・・・!?」
出血があったはずなのに、体はなんともない。それどころか、『どこも出血していない』のだ。
服は切られている。しかもそこから覗く肌は赤いどころか、元の青白い色をしている。
周りも血の跡すらない。まるで最初から切られていないかのようだ。
だが服は実際ボロボロだ。切られた事は事実なのだろう。
「もう帰って・・・まじか」
帰って落ち着こうかと思ったボクの目に、先ほどの男が映る。手には赤い刃物を持っていた。
そして男の顔がこっちに向くと、男は一心不乱に駆け出した。前へ、ボクの元へ。
「ヤバい、ヤバいヤバいヤバい‼」
ボクは全速力で、男と反対の方向へ走る。
だが引きこもりの脚力など高が知れている訳で、ドンドン距離が縮まっていく。
こんな状況で道交法を守れる訳もなく、赤信号を無視してさらに走る。
当然男も信号無視をする訳で、車は足止めにもならない。
男が引かれるのを願ったのだが、そんなうまくいかないか。
男は模範的な信号無視をしながらボクを追いかけ続けた。
もう終わった・・・そう思った時だった。
『タイムアップにより、ゲームを終了します』
どこからともなく、無機質なアナウンスが流れると、男が動きを止めた。
「時間切れとは運が悪い」
男の呟きが終わると、ボクと男の体が光り出し、粒子と待って拡散していった。
「・・・!?」
気が付くと、ボクは買い物カゴを持って立っていた。
無人であると気が付く直前にいた場所に、ボクは立ち尽くしていた。
どうなってる? 今のは夢だったのか?
そう思って胸をなぞったが、服は先程と同じく切り裂かれていた。
さすがにコレは不味いので、パーカーのチャックを閉めて隠す。
男に殺されかけたと思ったらそんなことはなくて、その後男に追い掛け回されて・・・本当に意味が分からない。
とにかく帰って着替えよう。見えてないとはいえ、穴が開いてると着心地が悪い。通気性はいいけどね。
しくじった。
あの時もったいぶらずに『能力』を使えば良かった。
能力を使えば、あの子供を取り逃がすことも無かったはずだ。
だが3人は殺せた。これだけでも充分だから良しとしよう。
このゲームは、他のプレイヤーを一人殺せば、そのプレイヤーの持つポイントを全て奪える上に、ボーナスとして15万ポイントを貰える。 初期ポイントが10万ポイントなので、1試合は平均して約60万ポイント程だろうか。
ポイントとは、このゲーム内でのスコア基準となったり、ゲーム内ストアで銃なんかが買えるようになったりもする。
そしてゲームルール。まず戦場となるフィールドは、各都道府県の市町村からランダムで選ばれ、町全体がフィールドと化す。
フィールド内の住民に関しては俺も詳しくは知らないが、世界中に点在している気象観測衛星と最新技術とやらを利用し、プレイヤー以外をフィールドから隔離しているらしい。
死体はその場から消え去り、建物がどれだけ崩壊しようと修復される。だからどれだけ好き放題やっても一般人にはバレない。
そして、フィールド内にいるプレイヤーが殺し合い、最後の一人になるか、30分の制限時間を生き残るかしない限り、生きて帰ることは出来ない。
何故こんな危険なゲームをするのか。特殊能力が手に入るという理由もあるかもしれない。俺の能力は戦闘には役に立つものだ。
『刃の座長
・分類 念動系
・自分が投げた物体の軌道を操作する』
これが、ゲームを始めた時に与えられた、俺のスキルだ。このスキルを使って、俺は今まで生き残って来た。
因みに分類とは、能力の大まかな性質で区分けしたものの事だ。
俺の『刃の座長』の様に、物質や物体を操作する《念動系》。
発火や落雷と言った物理現象を操る《現象系》。
そして、それらの枠組みに当てはまらない《無系統》、能力はこの3種類の中からランダムで与えられる。
そんな能力にも、欠点がないわけではない。能力を使った後は、何かしらの副作用がある。俺の能力の場合、使った後に頭痛がする。他の能力だと、体力の消耗とか色々あるが、殆どのプレイヤーは気にすらしていない。
そんな風に、このゲームのプレイヤーは、必ず能力が与えられるのだ。それがこのゲームのプレイヤーを増やしている要因の一つだろう。
だがこのゲームのプレイヤーが増え続ける一番の理由は、ゲームのポイントが現金に変換できるからだろう。1ポイント一円。つまり優勝すれば、15万円+αが手に入るということになる。
俺はこれまで4回生き残っているので、すでに約120万を稼いでいることになる。だが、まだ足りない。
俺には母がいるが、もう余命だ僅かなのだ。そして父に関してはすでに死んでしまっており、元々裕福ではなかったために、彼を墓に入れることもできなかった。だから母だけでも、きちんと墓に入れてやりたいのだ。
今まで親孝行出来なかった分、せめてこれくらいはしてやりたい。
そして、もうすぐ金は集まる。あと一回、あと一回勝てば・・・
なんなんだ。本当に何なんだこのゲームは。
家に帰って例のゲームを開いたら、あの通り魔? の件はこのゲームが原因と判明。
ポイント? つまりボクは金儲けの道具にされかけたと? なぜ金のために命を賭けにゃならんのだ。
まあ、特殊能力を使ってバトルロワイヤルをするというのは魅力的だよ?
けど、それはゲームの世界での話であって、現実で殺し合いをしたい訳ではない。
金も株で手に入れたのだから、別にこんなハイリスク・ハイリターンにもほどがある方法で稼ぐ必要もない。
ボクはただ、話題になってるゲームらしいから、ちょっとやってみようかなあ的な気持ちでゲームをダウンロードしただけなのに。
そう言えば、このゲームは特殊能力が与えられるという。ならばボクにも特殊能力が与えられたのではないか?
このゲームに書いてあると思うけど・・・ビンゴ‼
『死者殺し
・分類 無系統
細胞分裂を操ることで、死ぬことが無くなる』
「ええ・・・」
思わず声が出る位、とんでもない内容だった。
どうやら先程の傷はこれが原因なのだろう。
傷は能力で塞がり、服だけが切れたままになった。つまりは、死が唯一のゲームオーバーのこのゲームにおいて、ボクは絶対的な優位性を手にしたわけだ。
・・・いやいや、こんなのゴメンだよ? ボクはともかく、人の命がかかったデスゲームなんてやりたくないし。こんなゲーム消してさっさと・・・
と思ったが、それはどうやら悪手らしい。
『このゲームのアンインストールや、警察や行政機関への通報行為は、アカウント削除、及びゲームオーバーの罰則が与えられます』
このゲームでのゲームオーバー、それはつまり死を意味している。
アンインストールボタンを押すだけでボクは死ぬ。
普通なら信じないで押すところだけど、アレを見た今では分かる。これは事実だと。
ボクはこのゲームから逃れられず、いつかは必ず手を汚す事になる。
「・・・」
『あの時』の二の舞は絶対にゴメンだ。だが、恐らくこの呪縛から逃れることは出来ないのだろう。
それに、いつかここがフィールドに選ばれるかもしれない。
いっその事銃でも買うか? 拳銃くらいなら今のポイントでも買えるし・・・
そう思い悩んでいると、パソコンの通知が鳴った。
『これより5分後、〇〇市をフィールドに指定、及び隔離を開始します。戦闘を回避したいプレイヤーは市内より撤退してください。』
どうやら、今すぐ覚悟を決めなければならないらしい。
5分後に外に出ると、例によって人影は見えず、車も無人で動いていた。
人はまだ見えないが、恐らくすぐに人に見つかるだろう。
「ああ、噂をすれば」
あの男が目に映った。それは向こうも同じだったらしく、彼もこちらに寄ってくる。
どうする? 逃げるか・・・? いや・・・
「戦うのがゲームだよね‼」
ボクはポケットから銃を取り出して、思いっきり引き金を引いた。
当然当たりはしなかったが、それでも抑止力にはなった。男が一瞬止まったスキに、自転車を引き抜いてボクは逃走していった。
男は追いかける訳でも無く、頭を抱えながらふらついていた。
「えっ・・・」
それに気が付いたと同時に、ボクの自転車のタイヤが突然パンクし、地面に横転してしまった。
辺りを見渡すと、男の持っていたナイフが足元に転がっていた。
何故? 男との距離は数十メートル程あるのに。男の能力か?
ボクが慌てていると、男は道端から石を拾ってボクに向かって投げた。その石が上方に飛んだと思うと、空中で不自然に曲がってボクに襲い掛かって来た。
「ヤバ・・・‼」
ボクがギリギリで避けると、石はコンクリートを抉って砕けた。
あんなのが当たればタダでは済まされない。
ボクは改めて銃を向けるが、倫理観と『あの時』の記憶がそれを止めた。
—————人を殺してしまうのか?
—————君の命の危機だ。それに死ぬとは限らない。それに当たるかも分からな
いんだよ?
—————でも当たるかも知れない。
—————そんな引け気味でどうするの? バレなんだから殺したところで
問題ないよ。
「・・・っ‼」
ボクは覚悟を決め、再び狙いを定めた。
男はナイフを拾いなおして構える。恐らく今度は外さないだろう。
男がナイフを投げた瞬間、ボクも引き金を引いた。
すると銃弾とナイフがぶつかり、甲高い音を立てた。
男はもう武器がないが、ボクの銃はまだ弾がある。
ボクは男に一気に詰め寄り、銃口を男に突きつけて言った。
「降参してください。この試合はあと5分で終わります。どこかに隠れれば2人とも生きて帰れます」
これがボクの出した結論。2人とも安全に帰れて、かつ二人とも手を汚さずに帰れる方法。
これなら一番平和にこの争いを終わらせられる。
「・・・いやだ」
だが男は銃を向けられながらも反発した。
「なんでです?」
「金が欲しいんだ」
そんな俗っぽい理由を聞くわけ・・・
「母を、母だけでもちゃんと看取りたいんだよ」
「っ‼」
男は落胆しながら話し続けた。
ボクは両親共にロクに看取ることも出来ずに死別してしまった。
だから、彼の事は共感できる。けれど・・・
「信用出来ません。さっきも入れたら2回も殺されかけましたし、数時間前はマジで三途の川まで行ったんで」
「・・・それは本当に済まない。でも本当に時間がないんだ」
「・・・」
「無理なことを言っているのは分かる。けど頼む。看取った後は何でもいい。それこそ殺してくれたって・・・」
「ダメです‼」
暗いことを言う男に、ボクは勢いよく制止した。
「なんで君が止めるんだ?」
「・・・ボクにも分かるんですよ、大切な人と別れる気持ちは。だからこそ、ちゃんと生きて、ちゃんと見送って、ちゃんと反省してください」
ボクは銃を下げ、男に手を差し伸べた。
「この状況でどうしろと? 俺にはもう諦めるしか道は・・・」
「だ・か・ら、そんな直ぐに諦めないで下さい」
男の諦めの言葉を遮り、ボクは反論を口にした。
「確かに、人には諦めが肝心な時もありますよ。でも、反対に絶対に諦めてはいけない時もあります。例えば今みたいなときがそうです。大切な人を見送るのを簡単に諦めないでください。あなたの母は、ちゃんとあなたに看取って欲しいはずです。きちんと見送れるだけでも、すごく幸せなことなんです」
彼は何かを察したのか、黙ってボクの言葉に聞き入っていた。
「どんな環境でも、親は子の事を想ってくれています。それが親の仕事でもあるんですから。だからその分、いいえそれ以上に、恩返しをするのがボク達の仕事なんです。」
そう言って、改めて彼に手を差し伸べる。
「・・・お人好しがすぎるぞ」
その言葉に思わず苦笑いしてしまった。
まさか自分を殺そうとした相手にこんな事を言われるなんて。
「・・・何をすればいい?」
彼はボクに面向かって、真剣そうな顔で聞いた。
「そうですね。ボクはこのゲーム知らないので、色々教えてください」
ボクが何気なく言うと、男は口を大きく開けてポカンとしていた。
「は? いや、それだけでいいのか? それこそポイントを寄越せとか、なんでも言う事を聞くのに」
いや、そんな事言われても、お金には困ってないし・・・でもかと言ってこれだけ誠意? を見せられてるのに軽い対応するのもなあ。
あそうだ。
「このゲーム、チームを作る機能があるじゃないですか。あれやりましょうよ」
このゲームにも、一般的なバトルロワイヤルゲームと同じく、チームを作る機能がある。チームを組めば、月ごとに集計されるチームランキングに応じて、チームメンバー全員に特典が与えられるらしい。
いや、それが欲しいからだよ? 別に、このゲームもソロプレイは嫌だなあ、て訳では無いよ? 寂しくなんかないよ?
「え、あ、ああ。それは良いんだが・・・」
彼はボクの提案を聞いて、少々言い淀んだ。
なんだ? 何か問題でも・・・ああ‼
「そう言えば自己紹介してませんね。ボクは菊斯実波。これでも高校生です」
「ん? ああ、関崎衆だ。一応フリーター・・・じゃなくて‼」
関崎さんの自己紹介も聞いたし、今日はお開きかなあ、なんて考えていたら、今度は関崎さんがボクを止めた。
「君・・・実波だっけ? チームの設立条件してるか?」
関崎さんが訝しみながらに尋ねた。
チームの設立条件? そりゃあ、まずプレイヤー3人を集め・・・3人?
「人数足らん・・・」
「やっぱりか・・・」
関崎さんは『今更何を・・・』みたいな感じで頭を抱えていた。
ああ、関崎さんがさっきから言おうとしてたのってその事ね。
でもどうしよう。ボク友達いな・・・ゲフンゲフン、このゲームやってる知り合いいないしなあ。
「スカウトするしかありませんね」
「ああ、だな」
なんて話していると、ゲームの制限時間が0になった。
『タイムアップにより、ゲームを終了します』
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