FUCK LIFE !!

週刊 なかのや

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17話 五所川原

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17話

車に戻った2人は買った土産物をフードコーナーの席に全て置いてけぼりにした事に気が付かずに乗り込み、更にペーパードライバー山田が長時間運転で疲れた野原を労わって運転を交代した結果、五所川原にある巴月の家に不時着することとなった。
1度来たことのある野原は元々近くの駐車場に停める予定であったが、後部座席から指示した声に山田は全く従わずというか手元が狂いまして駐車場を通り越してマップに表示された巴月邸の門に車のバンパーがひしゃげてめり込んだ。

「だ~から運転は俺がすると言ったんだ!!」
「修理代はマイルドに払わせるからな!もしアイツが死んでいたら勿論お前に請求してやる!!」

「えー困るよ俺はどうやって青森から帰ればいいんだよ」

「こっちのセリフだ馬鹿探偵!!」
「お前のゴミテクニックで俺の車は大破だ!!ふざけるなよ!!」

「マイルド生きててくれよぉおお」

「全く、マイルドも巫山戯た野郎を俺に任せたもんだ…レッカー車を呼ぶ。。しかないよな」
「トホホ……。」

タクシーがもう使い物にならない事に落ち込みながらもその場を離れてレッカー車を呼びに行く野原と、エアバッグから抜け出して車を降りたばかりの山田。
突っ込んだ塀はコンクリート製なのだろう傷はあるが内側に向かって倒れてはおらず、破壊されたのは車の方で巴月邸はほぼ無傷だ。
門の入口脇に呼び出しのスイッチが設置されているが何度押しても中にいる筈の巴月は来ない。この場で待てば良いのだが不意に門の入口の柵に手を掛けると、なんと鍵は掛かっておらず押せば普通に開き中に入れた。しかし中といっても家と門までの間の庭というのだろう。
邸宅は広く家の扉までの距離はざっと30mで池に鹿威しがカポンッと音を鳴らして水を流し、進む道を囲むように幾千の花達が並んでいる。

「すみません、巴月さんのお宅ですよね。ご友人のマイルドさんから貴方に会えと言われたのですが……って居なさそうなんだよな」
と言って扉を叩いてみる。が、返事は無く不気味なくらい静かな中に先程まで鳴っていた鹿威しの音が消える。それに山田が気付き何かあると踏んで確認の為に振り向いた背後には自身と同じくらいの身長の日本人、黒髪のマイルドに比べ此方の男は髪を金に染めているのか遠目で見れば外人に見えるだろう。
その男にはマイルドのような紳士的な部分は一切無い、初対面で何故そんなことを言えるかと思うだろうが山田の首元には抜刀された刃が今にも触れてしまいそうな距離で近付けられており敵意が剥き出しだ。不法侵入者に容赦が無いのは誰でもそうだが…と山田は後に思う。

相手がマイルドならコーヒー片手に「どうかしたか?」とか言いそうだが、これは俺の走馬灯か?いや今は見てる場合じゃない。

男は溜め息混じりに山田へ問いた。

「我(わ)の家に何用だ?クッキー売りじゃ無さそうだが」

「……マ、マイルド」

「フン」

山田が咄嗟にマイルドの名前を出すと眼前の男は刀を美しい所作で納刀して腕を組む。それはまるで古風溢れる剣術を極めたような若しくは時代劇の侍のように現代にて見ることの無い動きをした男は名を名乗る。

「我は巴月…巴月 涼」
「マイルドの友人か?見たところマイルドは此処に居なさそうだが、この近くに自販機は無い筈だ。まさかコンビニまで歩いた訳では無いだろうな」

「カフェオレ好きは昔からなのか」
「マイルドは来てませんね、今来てるのは俺ともう1人の運転手ですよ」
「まぁ彼は今レッカー車を呼んでいて此処には居ませんが」

「タクシードライバーが俺の家の門に突っ込んだのか?免許返納申請して来いと言っておけ」
「マイルドは何をしているのか言える範囲で教えて貰えるか?」
「嗚呼、外で話すのは辞めよう。」

扉を開いて山田の前を歩いて家へと入った巴月の後を追って中に入ると、中はとても美しく整備され良く磨かれた床は澄んだ湖が景色を鏡のように映すように2人と周囲にある柱や棚を反射する。家の中を一通り説明されて歩いたが山田は気が付く、この家に巴月 涼の他に誰もいないということに。広々とした家に1人で生活する彼は先程出会った時、家の扉から出て来た訳では無く背後から来たのだが門から扉までの間に人の気配は一切感じ無かった。
そしてこの家、掃除が隅から隅まで行き届いているがあまりにも綺麗過ぎる。台所の洗った食器を入れるカゴには皿や箸が1つも入っておらず洗面所も風呂場も水滴1つ無かった。

客間へと案内された山田は目の前に座る巴月に聞く。

「巴月さんは本当に、此処に住んでいますか?」

「どうしてそう思う?」

「庭もそうですが、家の中も人が長期に渡って住んでいるにしてはあまりにも綺麗過ぎます。」
「普通掃除好きの者でも潔癖症の者でも何かしらの汚れやホコリは何処かにあると俺は考えています、しかし巴月さんの家は違う。毎日の掃除は間違い無くしていると考えられるが食器等、生きる為に必要な物の片付けが無い。」
「今日に限って何も食べていないという事も此処を見ただけでは可能性として有り得ない話では無いとなりますが、巴月の服に付着した胸元のオレンジ色の斑点はケチャップによるもの。掠れ具合と色の濃さから付いたのは今日、それも数時間前。昼食はオムライスかな?」
「であれば冷蔵庫には卵やケチャップ等が入っているにも関わらずコンセントが纏まって冷蔵庫脇に隠されていたのはおかしい。」
「食器もそうだ。昼に食った物が皿を必要とするなら洗い物を入れるカゴに置かれていないのはおかしく思う。仮に食器乾燥の機械があれば話は違うがどこを見ても見当たらなかった…大体は台所にあると俺は考える」
「それに…」

「なるほど、マイルドから聞くだけはあるらしい。」
「君の話はよく彼から聞くよ、何でも私立探偵をしているらしい論争厨の名探偵だと……そう名前は、山田 悠斗。」
「我はテレビやネットをあまり見ない故、君の活躍は知らないんだ。すまなんだ。」

「あ、いえ……大丈夫です。」
「あとさっき聞いて来た話ですが、マイルド実は今生きているか不明で…」

「待て、何があったんだ?」
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