FUCK LIFE !!

週刊 なかのや

文字の大きさ
上 下
31 / 37

26話 バランス悪い奴現る

しおりを挟む

薄暗い風呂場、照明には電気が通っておらず壁に設置されたスイッチはカチカチと鳴らすだけの玩具に過ぎない。
床のタイルは若干のヌメリ気が靴越しに不快感を与えて来る。
カビ付いたシャワーノズル、使い古した垢擦りボディタオル、湯汲みのタライ。山田の探偵事務所にもある普通の家に置いてある物達が床の隅で乱雑に転がっている。
風呂の浴槽には赤カビの付着したシャッター式の蓋。

「山田探偵、出番ですね」

「分かってるって、今…今開く。」
「キイィッッショ!!」

浴槽の中はヘドロのような液体が詰まっており、持っていた携帯のライトで照らすことにより それが血液が固まって出来たドロドロの物だと気が付くことで山田は嫌悪の叫び声を上げた。

「おぇえええ、なんで俺ばっかりこんな目に。」
「気持ち悪っ!」

「泥?血?」
「いずれにしろ趣味の悪い物でしょう」

「何でそんなに冷静なん、ワトソン医者設定だっけ…主人公交代でいいよ俺付き添いするから探索筆頭を一任したいよ」

「慣r……いや横でこんなに騒がれたら冷静にもなりますよ」

『何かあったのか?』
『今けたたましい叫び声が聞こえたが…』

耳に入って来たのは山田を心配した巴月の声。

「口にするのも嫌な物を見ただけです」
「其方の状況は、何かありましたか?」

『嗚呼、実は……』


~数分前~

『はい、なんとかして……ミ…ススス』

「山……消えた。」
「あ、通話。山田……ノイズが酷い」ザーーー

扉の前から飛び退いた時に咄嗟に掴んだ放浪者の服を離して状況を確認する。

「痛っ。何をするか!!」

「五月蝿い。我達以外の者が消えた…我が掴んでいなければ、お前も山田達と同じく此処には居なかったと思うが感謝は無いのか?」

「別に助けてくれとは頼んでいない。」
「勝手に……待て、今聞こえたか?」

「嗚呼、我も聞こえた」
「そう遠くは無い…左の扉か」

言い合いの最中、壁越しに誰かが口論する声が一瞬二人の耳に入る。すぐに今居る廊下、左の壁に設置された扉を静かに開いて室内へ侵入した。
中は長い廊下だった。突き当たり正面と扉を開いて左側に2つ扉が有り、宛らネットカフェよりは狭い廊下に隣接するアパートの部屋に見える。そして突き当たる部屋から右側には廊下が続いており、声の主はその奥にいるだろうと2人は考える。
そろりそろりと足音を立てずに話し声の方へと進む、2人の四角となる位置から聞こえる声の主は金井 潤だろう。

「ま、ま…待ってくれ!話が違うじゃないか俺は言うことを聞いた筈だ!」
「冗談じゃない、此処に連れてくれば俺の身の安全は保証してくれるんじゃなかったのか!?」

(やはり我達を呼んだ黒か。とすれば今争ってる相手が宮本彩花を追っている者…)

(……。)

「金井!!聞こえてるんだろ??」
「何処かで俺を見ているんだろ!!」

(本人が監視中なら奴は誰と言い争って…)

「コイツをどうにk......。」と何かを言い終える前に、凄まじい炸裂音と共にグチャりと何かが地面を叩く音が聞こえる。
飛び散った少量の血飛沫が死角から2人の足元に付着する。
巴月は死角の場所で行われたのは恐らく金井が殺され、地面に叩きつけられたのは金井だった肉片だと想像した。
数秒の沈黙後に壁越し、死角に居た金井を殺した何かが動き出す。それは此方に歩いて来ている。1歩…また1歩とのそりのそりと歩幅は大きく足は遅い。
パカパカと電力が足りないのか蛍光灯の方が壊れているのか、今にも切れそうな照明の少ない光が遮られたことで巴月と西園寺の下に影が出来る。
頭を上げれば何かが居るだろう、影の大きさと気配から人より大きく背は天井に達していることに違いない。耳に障る汚らしい咀嚼音は金井だった骨付き肉を頬張る音だ、不快な嚥下音は食い残しの無いよう肉片のこびり付いた骨を舌の上で転がし啜った後に何度も何度も聞こえてくる。
声を出しては駄目だ、気配を殺して息を殺す。横を通り過ぎて行くか元の道を帰るのか、それは神のみぞ知るだろう。
巴月は西園寺に《下を向いていろ》と指で指示を出す。この女が疑わしいことは何も変わっていないが、傍らの化け物を見て声を出され自身が危険な目に遭うのはごめんだ。
しかし西園寺は指示を無視して上を向いてしまう、巴月にその行動は到底理解出来ない事だろう。危険な状況で自ら死にに行く西園寺は化け物を視界に収めてしまった。
体躯は約3m毛皮は無く被っているのは人間の皮膚か筋肉、肩幅は廊下狭しと肩が前に突き出しており、頭部は西園寺の身長と同じくらいの大きさもある鹿と山羊を合わせた形で身体のバランスがおかしい変な生き物。
前方に突き出した両手が殺した獲物を何度も引き千切り、地面のそこらじゅうに細かくなった肉や骨を散らばしている。
この化け物は目が悪いのか自身を恐怖の眼差しで見つめる女を知覚していない、西園寺が叫び声を上げるまで化け物は何も気付かず2人の前をゆったりと歩く…それだけだった。
「ヒッ」小さな悲鳴、2人を通り過ぎる直前で左斜め下から女の声に反応し西園寺程の大きさもある化け物の頭部が此方を向いて舌舐めずりをする。
しおりを挟む

処理中です...