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プロローグ

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家から離れた繁華街、誰も他人を気にしない夜の街。
親の財布から盗んだ2万円とさっき働いた?働いてはいないか、ネットで知り合ったおじさんにバイトをして貰った3万円を愛用のガマ口財布に入れて今日の夜ご飯はパーッとやろう。とか思ってたりする。
携帯を開けば親からの通知が鳴り止まない。高校生になったのに親は「門限を守れ」だの「非行に走るな」だの五月蝿い。最も言われるのは勉強、勉強勉強勉強だ。僕の母親は毒親だ。家から出ると八方美人で街の中で僕の母を嫌いな人間は居ないだろう。自慢じゃない、だって家の中では暴君だから。何処かのトランプ兵を率いる女王様みたいな人間で自分が気に食わなければ相手が折れるまで攻撃する性格だからか、それとも母が浮気性だからか家を出て行ってしまった。訂正する父が出て行ったのは後者のせいだ。
だから僕はと言っても良いだろうか、家に帰りたくない理由を語ろうとしたが結局のところ早い話家に帰りたくないのだ。母が嫌いで母の連れてくる彼氏も嫌い、雇われ家政婦も隣の家の人間も僕の家付近の人間が全て嫌いだから。
頭の中で自分はこうだとか周りはこうだとか思いながら歩くと中央公園に付いた。この街の真ん中にあるから中央なんだろうけど、都市計画をした人間に街を好きな人間はいなかったんだろうなと思う。憩いの場だとか言う癖にそんな広くないし中央にある噴水は掃除を怠ったのか苔むして材料の大理石は緑色に変色している。
ベンチに座ると見える景色が変わる。いや僕の背丈だと座ってもそこまで変わらないか。噴水前には都会でも無いのに人目をはばからずに2人だけの世界に入り込んだカップルがキスをしている。見えていないのか?隣に座ったこの場所にそぐわないボロボロの服を着たホームレス。イチャイチャしてる暇があるなら幸福を1mmでも分けてやれ、どうせこの後はホテルに行って「好きだよ」とか「もっと頂戴」とか言って汚いプロレスをおっぱじめるんだから。
ほらホームレスが見ているぞ、お前らは目に悪いんだ。お前らのようなカップルが1組存在するだけでこの街の環境汚染が進む。僕は金を持っているけど成人していないし僕はお前らより年下だから金は有るだろ?年上は敬えって僕の常連も僕の髪を掴んで喉を使うよ。と僕が口に出さずとも周りの人間は僕と同じ気分だと信じてるよ。さ、そろそろ行きつけのラーメン屋にでも行こうかな。ホテル代には全然間に合うし残りは貯金だな。身体を売ってでも僕は街から離れたい。母さんも周りも僕は大嫌いなのだ。
立ち上がろうとしていると僕の前から声が聞こえた。男の声、あまり絡まれたくない人種の高い声だ。こういう僕の利益になることの無い声は遮断するべきなのだが、目の前にベンチに座る僕を囲むように3人大学生くらいの男が立っていたので無視は宜しくない。
「お姉さん暇なの?待ち合わせかな?」と、アホみたいな言葉を僕に向けて言ってくるアホ。猿。僕の何処を見たら「お姉さん」に見えたのだろう。どこからどう見ても中学生の女の子だ。自慢じゃないが顔はロリに属すると周りから評価されており、メイクも服装だってバリバリの地雷系にしているのに「お姉さん?」馬鹿なのか?アホなのか?この街の大学は少なくとも下でBラン大学なのにコイツらの目は節穴なのだろうか。性欲で頭が馬鹿になるのは分かるが脳味噌が下半身に付いているのか。3人いたら1人くらいマトモな奴が居たっていいんじゃないのか?囲むように来るなら話し合いでもして来いよ、下手くそか。良かったこの人達に出会えて決意が固まった。こんな頭が悪い人間になってしまう前にこの街を出よう。反面教師もいい所だ。

「え、もしかして俺ら喋れない子に話しかけちゃった?」

「マジ?このイヤホンも補聴器だったりして」

「えー聞こえてないのかよぉ、あでも聞こえないから何してもOKじゃね」

猿がなんか言ってる。会話に参加する気は無いが何も話さずに僕をこのベンチから出してくれることは無いだろう。腕時計の針は7時30分を刺す15分前、15分耐えれば街を巡回する警官がここに来る。僕は大体補導される側だが今日は違う。補導ついでに助けて欲しい。取り敢えず僕が今すべきことは15分耐える前に逃げることが出来るなら逃げる行動をすることだ。

「いえ、話せます。が用事があるので退いて貰えますか?」どうだ?

男達は僕を立ち上がらせてくれはしたのだが囲ったままで僕を出してはくれなさそうだ。それに僕の肩に手を乗せて「そんな事言わないで俺達と遊ぼうよ」と言ってくる始末。

「てかさぁ、声低いね。低音女子っていうの?顔こんなメンヘラっぽいのにギャップ良いね、なんかエロい」

「だよなマジそれ分かる」

「お前こういうのタイプなん?マジ草なんだが」

ニヤニヤしてんじゃねえよ気持ち悪ぃんだよ。3人揃って馬鹿しか居ない。顔だって中の下の下、どうせサークルも入りそびれて大学じゃ女子から「アイツらと遊ぶのおもんない」とか「三軍なりかけ」とか言われてんだろ。全く変な奴らに話し掛けられた。語尾にwとか笑とか多用してそうな独特な雰囲気で高校時代は陰キャで大学デビューしようとして失敗って所かな。

「あの、すみません。僕急いでいるので通して貰えませんか。邪魔なので退いて貰えないなら警察に電話しますよ」

少し睨んで上を見上げたが3人の男が此方を見下ろすように目の前の獲物を蹂躙する獣、特に群れから離れた草食動物や無抵抗の雌を襲う雄の顔が僕を舐めるように見ていた。背筋辺りがゾクゾクする。ベッドの上や扉の閉められた小部屋で金を渡される手前、今僕が断らなければ性行為に呑まれてしまうんじゃないかと思うバイト中の雰囲気を3人の雄に向けられて腰が抜けてしまった。両隣りの男が僕の細い腕を強い男の手で握った。警官が来る時間まで残り3分、間に合わない。
連れていかれる…と思った時、急に僕の右腕を握る男の後ろに長身のガラの悪い男が酔っ払って近付いた。男は「お兄さん達ここで何しちょるん?んあ、聞こえねえ。何言ってんの日本語話してくださいどうぞ~」と僕の腕を握っていた腕を払って囲ってた男の1人を地面に投げ捨てた。残りの2人が突然の出来事にフリーズ、勿論僕も何が起きたのか分からなかった。

「痛っ!?何急に警察呼びますよ!!」

「警察呼ばれる事をしようとしてた餓鬼が何言ってんの」

フラフラと酔っ払いの男は地面で這いつくばっている男の所に行き「酔いが覚めるように頭冷やそうね」と頭を掴み上げて噴水の池に体ごと投げ飛ばした。

「オゥラッ」バシャーン

狂気の所業である。僕だけじゃない僕の周りの公園で休憩や待ち合わせしていた人間は皆揃って大学生くらいの男が酔っ払いに噴水の池へ投げ捨てられるのを目撃した。最も1番驚いたのは噴水前で座っていたホームレスのおじさんだろう。
フラフラ、フラフラと酔っ払いが此方に近付いて来る。僕は腰が抜けていたが僕の前にいる男2人も腰が抜けていた。酔っ払いは次に僕の目の前の男の襟を掴んで耳に口を近付けると、

「成人した人間が未成年の中学生をレイプしてもいいんですかあ~」と大声で叫んだ。

「ひっ、ししてない!!」

「しようとしてただろうが」

尻もちを着いて怯える男の肩に手を回して酔っ払いが何か小声で言い聞かせている。僕には聞こえなかった。

「それも3人でホテルに連れて、お前らの常套手段だもんな。被害者の女の子はみーんな中高生だから見付けるのも早かったなぁ」

「ゆ、ゆるしてください金なら」

「さぁどうだろうな警察は金を受け取ってくれるのかな少年。」

パンっと膝を叩いて「よっこらせ」と酔っ払いが立ち上がった瞬間、巡回中の警官が猛スピードで走って来て酔っ払いに激突した。乗って来た自転車は投げ捨てらている。

「非行さん確保!!もう何で20歳越えてるのに授業中どっか行っちゃうの!!さっき非行さんの雇い主から電話来て『またか』ってなったんだよ!?何度目?」

「佐々木さん佐々木さん」

「何?まさかトイレに行こうとして道に迷ったとか言うんじゃないよね?生徒の家のトイレ使えば用足せるだろ!!」

「いやあれ」と肩を掴まれてぐわんぐわんと首を揺らされていた酔っ払いが噴水の池に浮かぶ男を指さした。警官の佐々木さんが指のさした方を見て絶句する。

「うあああああああ!!し、死体!?」

「一応警察なんだから死体にビビらないで下さいよ。まだ生きてます、救急車と警官の応援は必要無いと思いますがこの男2人と今噴水に浮かんでる男は連続○姦事件の加害者で間違いないでしょう。犯人の顔の似顔絵と一致する筈です。例え一致しなくてもコイツらが中高生をナンパしてる様子を街の人間が見ているので目撃した人間の電話番号と住所を家に帰り次第メールで送ります」

「あ、あぁ…そうなの?じゃあこれ僕の手柄か、ヤッター。出世街道レールに乗っちゃった?バンザーイ…って、それとこれとは違うから!!非行さん仕事から抜け出して何しているのかな?」

「え、見逃して貰えない感じ?」

「見逃せる訳無いだろ!!こっちは君が働き初めてから何回呼び出しを食らってると思ってるんだ!補導です、強制連行!あとそこの座ってる子、今応援呼ぶから来た警官の指示に従って家に帰ること。残りの3人は署までご同行願おうか!!」

急な展開だった。一瞬の出来事でドラマの撮影かと思ったくらいのテンポの良さだ。数分後、公園の入口にパトカーが並び警官が僕達の方へやって来た。あとの流れは刑事ドラマとかでよく観る被害者の僕は婦警さんと現場から離れてミニパトに乗り家に帰され、ナンパしてきた3人は警官と共にパトカーで夜の警察署へランデブーした。酔っ払いの男と警官さんはパトカーを見送ると警官さんの自転車に背中を追いかけられながら酔っ払いが前を走る形で夜の街に消えて行った。
家に着いてから何があったのかは言うまでもない。
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