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3 ギデオンとグエン=ドルフの悪友達
しおりを挟むファントレイユは階段脇に見慣れたテテュスの衣装箱を見つけ、暫く呆然とした。
およそ彼の、しそうにない事だった。
嫌な予感に厩に駆け込むが、繋がれた馬達の間にテテュスの馬の姿もある。
荷物を残して、馬に乗る筈も無い。
ファントレイユは厩から出ると、卒業で荷運びに行き交う同級の一人を見つけ、咄嗟に腕を引いて叫ぶ。
「テテュスを見なかったか?」
いつも大人しく優雅なファントレイユの、珍しく慌てた様子に。
通りかかる数人がつい足を、止めて振り向いた。
「え…あの……。グエン=ドルフと一緒に……」
「どっちだ?!」
尚も腕をきつくファントレイユに掴まれ、彼はしどろもどろに言葉を繋げようとした、その時。
「門を、出たのを見たぞ!」
アドルフェスが、ファントレイユの様子に後ろから声をかけた。
ファントレイユが振り返ると、長身でがっしりした体格の黒髪の尊大な男前は。
顎をしゃくって門を示して言った。
「戻ったら知らせてくれと、ギデオンに頼まれてる」
ファントレイユが咄嗟叫ぶ。
「どこに行くか、言っていたか?!」
喰ってかかるようにそう言われ、アドルフェスはファントレイユの、見た事の無い剣幕に目を見開いたものの、言った。
「…いや?」
だがその時、アドルフェスの後ろから声がする。
「…テテュスがどうか、したのか?」
その体格良いアドルフェスの、長身の後ろからやって来たのはギデオンだった。
金の、小刻みに波打つ長髪。
青緑の宝石のような瞳。
この猛者ばかりの教練の、大輪の花のような素晴らしい、美少女と見まごうばかりのその容貌。
…でありながら、ここの誰よりも彼は一番の猛者だった。
容貌とは裏腹の、右の王族(金髪の一族)たる尊大な態度で、ギデオンは真っ直ぐファントレイユを見つめていた。
ファントレイユはだが、ギデオンに見惚れている場合じゃなかった。
どんな時もギデオンを見ると、その時だけは彼の性格を綺麗に忘れて一瞬、見とれてしまうからだ。
「テテュスが、どこに行ったか解らない」
ファントレイユの慌てた様子は、一緒に付いてきたギデオンの取り巻きの、シャッセルもレンフィールにも解ったようだった。
「…だが別に、グエンに拉致された訳でも何でも、無いんだろう?」
ギデオンよりほんの少し高いだけの身長の、銀の髪。
グレーの瞳の狐のような細面のレンフィールが、とぼけたように言い。
テテュスの実力を良く知る、アドルフェスに並ぶ長身の、金髪碧眼、湖水のような静かなる騎士、シャッセルはつぶやいた。
「テテュスを拉致するなんて、想像出来ない。
大人しく捕まるような奴なんかじゃない筈だ」
ギデオンもシャッセルの言葉に頷く。
「グエンとどこか、出かけたんじゃないのか?」
「…だから!それが大問題なんだ!!!」
四人共が、叫ぶファントレイユを押し黙って見つめた。
ずっとテテュスと一緒で、素晴らしい騎士を従えた姫君のように綺麗でそれは大人しいファントレイユが。
取り繕いもせず、ひどく慌ててる。
だがそういう方面にそれは鈍いギデオンより、アドルフェスが気づいて問い返す。
「…つまりグエンがテテュスに、悪さすると思って慌ててるのか?」
三人が、そう言うアドルフェスを一斉に見た。
シャッセルとレンフィールはつい、あのテテュス相手にいくらグエンでも。
と、取り合う気は無いようだったがファントレイユは本気だった。
「あんな野獣と二人きりにしたら、あいついつ牙を剥くか解ったもんじゃない!」
断固としてそう叫ぶファントレイユに、レンフィールがつい顔を下げてシャッセルに、ぼそりと言った。
「…いつもと、逆のようだな」
シャッセルもレンフィールのその言葉に、頷いた。
大抵、綺麗なファントレイユの方が乱暴者にちょっかいかけられ、テテュスが慌ててファントレイユを探している。
というのが日常だったからだ。
「グエンがどこにテテュスを誘ったのか、知りたいと言う事か?」
ギデオンにそう問われ、ファントレイユは頷いた。
「…なら近衛宿舎だな。
グエンの友人が山程居るし、グエンがこっちに来た時どこに泊まるかくらい、知ってる筈だ」
まるで付き合うというように、先に厩に進むギデオンについ、ファントレイユは後を付いて、尋ねた。
「付き合ってくれるのか?」
ギデオンはほんの少しだけ自分よりは背の高い、その綺羅綺羅しく隙無く整った美貌をふと見返すと
「私も、テテュスに会いたいし」
そう言って、厩に入る。
ファントレイユはそのギデオン後に、付いて行った。
アドルフェスが、彼らに続こうとした。
が、レンフィールがつぶやいた。
「…じゃあ、いざとなったら戦う相手はグエンなのか?」
アドルフェスの、足がピタリ…!と止まる。
シャッセルも下を、向いた。
あの学年一暴れん坊で遊び人グエンの、テテュスは大本命だと言われ続け、でも手を出されてる様子も無く、グエンが一年大人しく我慢し、その本懐をやっと遂げようとするのを邪魔しになんか入ったら………。
つい、三人共背筋にぞっと悪寒が走ってその場に、凍り付いた。
馬を飛ばしてくれ。
と言う迄も無くギデオンは疾風のようで、教練より直ぐの近衛宿舎に飛び込んだのは直だった。
庭に彼らが降り立ち、木に馬を繋ぎ宿舎の玄関に足を運ぶ間。
彼らに振り向いたのはその庭に居た者だけで無く、宿舎の窓はあっという間に顔で溢れ返った。
それは人望厚かったかつての右将軍の一人息子、ギデオンを眺めようとして集まったのか。
それとも、その、いかにも男ばかりの宿舎には珍しい、素晴らしく美しい、華やかな美少女のような容貌のギデオン見たさに、集まったのか。
どちらにしろ、ファントレイユはギデオンに注目が集まるのを、見慣れて知っていたので驚いたりはしなかったし、ギデオンも、この辺りで王子に次ぐ身分の高さ故、いつも注目を浴び馴れていたので、気にする風も無かった。
階段を上がる。そして玄関広間に。
次々に彼らが進む先の男達は振り向きはした。
が、道を開けて二人を通した。
ギデオンが、その一人に尋ねる。
「ターレフの部屋を知りたいんだが」
男は右の廊下を、指した。
「行って、二つ目の扉だ」
廊下に並ぶ扉を見つけ、ギデオンは一つ、感謝するように頷いた。
扉をノックすると直ぐにとぼけた声がし、扉が開く。
相手は来訪者を見るなり、ぎょっとした。
「…ギデオン…………」
そのまま固まるその男に、ギデオンは告げた。
「君に用があるのは、彼なんだ」
体を空けて後ろの、ファントレイユをターレフに見せる。
ターレフは明らかに、見慣れた顔に安堵した。
ファントレイユはギデオンの向こう、自分を凝視するターレフを見つめ返す。
グエンの一番親しい男で、テテュスといつもグエンの部屋を訪れる度、見知っている顔だった。
黒っぽい巻き毛のとても気さくな男で、ファントレイユに顎をしゃくって尋ねる。
「どうした?“お綺麗さん”。卒業後は近衛所属だそうだな?
先輩の俺に、聞きたい事でも出来たのか?」
「あんたがテテュスは『光の塔』に行くと、グエンに知らせたのか?」
ファントレイユが憮然とそう言うのを聞いて、ターレフはすっとんきょうな声を、上げた。
「グエン…?確かに知らせたのは俺だが…」
「グエンが来て、テテュスをどこかに連れ出したようだが、行き先に心辺りはないか?」
ギデオンにそう問われ、ターレフは二人の後ろの廊下に、人が鈴なり集まり来るのを目にし、慌てて扉を開けて言った。
「…まあ、入ってくれ」
ギデオンはすっと中へと入り、ファントレイユはまだ不機嫌なまま後に続いた。
寝室は別にあるらしく、そこには椅子とテーブルがあり来客を通す部屋のようで、椅子には三人の先客が掛けて来訪者に軽く、挨拶がわりに頷いた。
あまり掃除のされていない部屋のようで、物が乱雑に飛び散っていた。
ターレフは、ファントレイユはともかく、ギデオンのようなとびきり美人の高貴な少年を通す部屋じゃないな。
と首を掻いたが、慌てて取り繕うのを放棄して、腕組みしつぶやいた。
「…茶くらい出すが」
「急いでいる」
ギデオンが言うと、ターレフの目が見開かれた。
「…つまり………つまり…」
そして、同級の先客三人に目を向け、ぼそっと言った。
「グエンが誰かを連れ込む先なんて、この辺りに山程あるよな?」
「…グエンが、来てるのか?」
明るい栗毛の男も、ファントレイユは見覚えがあった。
ターレフが叫んだ。
「テテュスを、かっさらった!」
がたっ!はじに座っていた男がやおら立ち上がると、扉を開けて出て行った。
残った男二人がそれは嬉しそうな表情を見せるのに、ファントレイユの怒りがめらめらと燃え上がった。
「…じゃ、あいつやっと腰上げたのか!」
「…呆れたぜ!絶対!純愛なんて似合いそうも無い男だからな!」
ファントレイユが男達に、叫ぼうと口を開けた瞬間、扉が開いて別の男達が雪崩れ込んで来た。
「おい…!グエンがとうとうテテュスを、落としたって?」
「くそっ!あいつテテュスの親父のアイリスが怖くて絶対手が出せないと、踏んだのに!」
「一年に振ったのは俺だ!賭けは俺の総取りだな!」
「待てよ!俺も一年に賭けたぞ!」
「お前は、三ケ月だったろう?」
じゃらじゃらと金を出す音がし、一年に賭けた男の両手に硬貨が、落とされ始めてようやく、ファントレイユは怒りに煮えたぎって怒鳴った。
「まだだ!金を引っ込めろ!
そんなマネは死んだってさせないからな!」
いつも人形のように大人しいファントレイユが、年上の男達を怒鳴りつける様を。
ギデオンは、それはぎょっとして見つめた。
が、男達は彼の、綺羅綺羅しい外見とはかけ離れたいい性格なのを、よく知っているようだった。
「…諦めろ。いくらお前だって、もう無理だ」
「…一年だぜ?
いくらお前が頑張って見張ってたって、どうせグエンが本気なら阻止なんて出来なかったぞ?」
皆がそうだそうだと相づちを打ち、グエンの本気を舐めてやがるな。
さすがに一級下の甘い坊やだ。
と、笑った。
ギデオンはファントレイユを見たが、彼は目をつぶって、肩と握った拳をわなわなと震わせていた。
「いいからとっとと場所を教えろ!カタっぱしから尋ねて回ってやる!」
ターレフは、肩をすくめた。
「…グエンは手が早いし、あいつに口説かれてその気にならない相手は………」
ファントレイユの凄まじい瞳に、その気のいい男は一瞬すくみ、やれやれと頭の髪を掻き上げると、言った。
「…付いて来い」
ギデオンは馬を走らせ、後ろを振り向いた。
賭けをしたというグエン=ドルフの同級の、今では近衛連隊の隊員達がぞろぞろと。
後から馬を走らせ付いて来ていた。
ファントレイユはだが、きつい瞳をしてターレフの後に続き、少しでも速度を上げろとせっつく。
ターレフは一つ、大きなため息を吐くと、拍車を掛けて遮二無二、馬を飛ばし始めた。
当然ファントレイユは続き、ギデオンも後に続いた。
がその後に、10は確実に超える男達もが一斉に速度を上げて駆け出し、後に続いたのだった。
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