森と花の国の王子

あーす。

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宿屋での取り決め

階上と階下

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 エリューンとテリュスはラステルに勧められるまま、一階食堂のテーブルに座って、エウロペを待つ。

少し離れた場所に立つ、ロットバルトと話し込むエルデリオンの姿を。
エリューンは喰い入るように見つめた。

テリュスが口を開こうとした時。
エルデリオンが声高にロットバルトに問う声が響く。

「…エウロペ?
森と花の王国〔シュテフザイン〕の従者を…レジィリアンスの元へ行かせたのか?!」

異論を唱えるその口調。

テリュスは横に座るエリューンの琥珀の瞳が、きつくエルデリオンを睨めつけるのを見た。
整いきった美青年。
優しげで綺麗な顔立ちをしていたけれど、いつも控えめで強さもある。
剣を抜けば勇猛果敢。
無口だが…いつも優しい笑顔で、レジィリアンスと接していた。
自分もそうだが…エリューンも素直で可愛いレジィ(レジィリアンスの愛称)が、可愛くて仕方ない。

ロットバルトは低い声音の、早口で言い返してる。

「…お忘れか。
レジィリアンス殿はまだ少年。
更に父王を、貴方が軍を進めたため負傷。
…なのに貴方は、彼に看病もさせずロクに会話すらさせず、王城から連れ出したのです。
せめて不安を軽減させるため、見知った者を側へ置く配慮は、されないと…」

くぐもった声だった。
が、エリューンもテリュスも聞き耳立てたので、何とか聞き取れた。

エルデリオンはロットバルトの、叱咤と非難を含む言葉を咄嗟、遮る。
「分かった!
…了承する。
…だが私では…レジィリアンスは不安なままと…そう、言いたいのか?」

エルデリオンの言葉を聞き、ロットバルトは大きなため息を吐く。

その後、エリューンとテリュスが聞き取れないほどの小声で二人は話し始め、やがてエルデリオンは幾度も首を横に振り出した。

「…ダメだそれは…」
「いや、どうしていけない?」
「…悪いが、それは無理だ」


階上の部屋で。
レジィリアンスはエウロペが、頬を伝う涙にそっと指を触れ
「…助けてあげられなかった…」
そう呟くのを聞く。

レジィリアンスはどれ程…ほっとした事だろう。
エウロペのその手を両手で握り込み
「…側に…いてくれるだけでいい…。
貴方が私から取り上げられたら…」
そう言った後。
考えたくも無い、と言うように、再び泣きそうに顔を歪め、首を幾度も横に振る。

「…貴方が助けを叫んだ時…私は駆けつけようとした」
エウロペの告白に、レジィリアンスは顔を上げ、必死に首を横に振って叫んだ。
「ダメ!
そんな事をしたら…貴方は国に返されてしまう…!
ぼく…一人で中央王国〔オーデ・フォール〕に残るなんて…!」

絶対嫌だというように、首を激しく横に振って示す。

エウロペは今にも泣き出しそうなレジィリアンスの、そんな可憐な姿を見つめ、短いため息を吐いて囁く。
「…ではやはり…私が処分を受けると心配して、助けを叫ぶのを我慢していらっしゃった?」

けれどレジィリアンスは必死に首を横に振り続ける。
「嫌だったけれど…!
でも貴方がいなくなるのは、もっと嫌!!!」

エウロペはとうとう、まだ年若く頼りない少年王子の頭に手を回し、そっ…となぜた。
「私は…居なくならない。
例え中央王国〔オーデ・フォール〕王城から追い出されようが…。
貴方のお側を離れません」

レジィリアンスは涙をこぼしそうな大きな青い瞳を向け、尋ねる。
「…変そう…して?」
エウロペが、微笑んで頷く。
その時、レジィリアンスは涙で潤んだ瞳のまま、それでもようやく…笑顔を見せた。

「…下に降りませんか?
エリューンとテリュスも心配してる」

レジィリアンスはいっぺんに、顔を下げて問う。
「…二人とも…軽蔑…してない?」
その不安げな問いに、エウロペは即答した。
「分かっていらっしゃるはずだ。
貴方が泣いたりしたら…二人がどれほど心配するかを」

レジィリアンスは思い出したように、こくん。と頷く。

エウロペに促されて寝台から立ち上がると、一緒に戸口へと、歩き出した。
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