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宿屋での取り決め
デルデロッテの本音
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エルデリオンがロットバルトの背を追おうとした時。
ふとレジィリアンスが自分を見つめているのに気づき、慌てて誤解を解こうと、レジィリアンスのテーブルへ駆け寄ろうとする。
けれどレジィリアンスは咄嗟、エルデリオンから顔を背け、それを目にした途端。
デルデロッテはすっ…と横にずれ、エルデリオンの進路を塞いだ。
「…デル…」
「…慣れぬ境遇に戸惑いきってる花嫁に、安心出来る休憩を与えてあげようとは、お思いにならない?」
エルデリオンですら、見上げる程の長身。
背を覆う濃い艶やかな栗毛の美丈夫、デルデロッテは頑としてその場を動かない様子で、エルデリオンは戸惑いながらも顔を下げ、尋ねる。
「…君…も、ロットバルトと同意見か?」
「…いいえ」
その返答にほっとして、エルデリオンは笑顔でデルデロッテを見上げる。
が、デルデロッテのすました美貌に温かさは見当たらない。
デルデロッテはエルデリオンを見下ろすと、低い声で一気に言い放った。
「彼はエリューン殿が剣を抜きかける、うんと前に。
私に馬車に乗り込み、貴方を止めろと命ずるべきだった」
“王子の護り刀”と呼ばれるその剣豪の言葉に、エウロペですら目を見開き、エリューンは喰い入るようにそう告げたデルデロッテを見た。
エルデリオンは友で理解者の筈のデルデロッテの言葉に、目を見開き微かに震える。
レジィリアンスはその時の状況が、よく分からずにいたけれど…。
その場からこちらに顔を向けている、エルデリオンの表情がよく見えて…。
苦痛を感じるように…部下の筈の長身のデルデロッテを真摯に見つめる姿に、尚も驚いた。
エウロペやエリューン、テリュスの位置から、デルデロッテの横顔は良く見えた。
エリューンに立ちはだかり、エルデリオンの行為を護ったその護衛の本音に、皆が内心驚きを隠せない。
そんな中、デルデロッテの艶を含んだ低音の声が響く。
「ロットバルトは貴方に甘すぎる」
エルデリオンはびっくりしてデルデロッテを…ヘイゼルの瞳で、喰い入るように見つめた。
ロットバルトはテラスの入り口の柱に背をもたせかける、ラステルの横まで来ると、チラ…とデルデロッテに視線を送り、ラステルに小声で告げる。
「…怒ってるな」
ラステルは頷く。
「これだけ大騒動し、相手国の国王に重傷を負わせた上…結果があれですからね」
と、女のような艶をまとい、まるで力なく、打ちひしがれたようなレジィリアンスに視線を送る。
「…彼も、鬱憤たまりまくり。
限界突破でしょう」
ロットバルトはそれを聞くなり、顔を下げて大きなため息を吐き出した。
デルデロッテは驚くエルデリオンの、色白で端正な顔を見つめながら言葉を放つ。
「頭の良いあなたの事だ。
当然、解っていらっしゃると思うが……」
そう口火を切ったデルデロッテの声はひどく静かで、おそろしく丁重。
「心の底からお願いと言われ、それを聞き入れなければ。
相手の好意も誠意も、思いやりですら期待出来ないって事は、とっくにご存じのはず」
その言葉使いは、とても優しかった。
が、声音は冷たい。
森と花の王国〔シュテフザイン〕の従者らも、レジィリアンスですら。
そう言ったデルデロッテを目で追った。
長いダークブラウンの波打つ艶やかな髪。
すらりとした体付きの、その動きはしなやかで隙がなく、とても洗練されてる。
綺麗な鼻筋の、美しい顔立ちをして、彼が首を傾ける度、夜闇のような濃紺の瞳がキラリと光る。
優美な宮廷人に見えたれど、隙のなさが彼を凄腕の剣士に見せていた。
デルデロッテは良く響く低い声で、更にエルデリオンに告げる。
「嫌がる相手に無理強いをする。
そんなとんでもない事をすればどうなるか、お利口な貴方は解っていらっしゃるはず。
貴方なら、そんな相手をどう思われます?
貴方が酷く不快な事をされ、何度制止しても聞き入れられないとしたら?
…そんな相手は最低で。
更に最悪!!!…だとは思いませんか?!」
ぴしゃり。と容赦無く、叩き付けるような物言いに。
エルデリオンの顔が一気に、蒼白になった。
美しい顔で語られる、冷たく響く言葉は、剣で斬りつけられるような凄みがあって、温情で説得するロットバルトとは正反対。
いつもは友のように親しい雰囲気をまとうデルデロッテのその冷たい態度に。
エルデリオンはとうとう、狼狽え始めた。
…つまりそれ程、デルデロッテは怒っていたのである。
ふとレジィリアンスが自分を見つめているのに気づき、慌てて誤解を解こうと、レジィリアンスのテーブルへ駆け寄ろうとする。
けれどレジィリアンスは咄嗟、エルデリオンから顔を背け、それを目にした途端。
デルデロッテはすっ…と横にずれ、エルデリオンの進路を塞いだ。
「…デル…」
「…慣れぬ境遇に戸惑いきってる花嫁に、安心出来る休憩を与えてあげようとは、お思いにならない?」
エルデリオンですら、見上げる程の長身。
背を覆う濃い艶やかな栗毛の美丈夫、デルデロッテは頑としてその場を動かない様子で、エルデリオンは戸惑いながらも顔を下げ、尋ねる。
「…君…も、ロットバルトと同意見か?」
「…いいえ」
その返答にほっとして、エルデリオンは笑顔でデルデロッテを見上げる。
が、デルデロッテのすました美貌に温かさは見当たらない。
デルデロッテはエルデリオンを見下ろすと、低い声で一気に言い放った。
「彼はエリューン殿が剣を抜きかける、うんと前に。
私に馬車に乗り込み、貴方を止めろと命ずるべきだった」
“王子の護り刀”と呼ばれるその剣豪の言葉に、エウロペですら目を見開き、エリューンは喰い入るようにそう告げたデルデロッテを見た。
エルデリオンは友で理解者の筈のデルデロッテの言葉に、目を見開き微かに震える。
レジィリアンスはその時の状況が、よく分からずにいたけれど…。
その場からこちらに顔を向けている、エルデリオンの表情がよく見えて…。
苦痛を感じるように…部下の筈の長身のデルデロッテを真摯に見つめる姿に、尚も驚いた。
エウロペやエリューン、テリュスの位置から、デルデロッテの横顔は良く見えた。
エリューンに立ちはだかり、エルデリオンの行為を護ったその護衛の本音に、皆が内心驚きを隠せない。
そんな中、デルデロッテの艶を含んだ低音の声が響く。
「ロットバルトは貴方に甘すぎる」
エルデリオンはびっくりしてデルデロッテを…ヘイゼルの瞳で、喰い入るように見つめた。
ロットバルトはテラスの入り口の柱に背をもたせかける、ラステルの横まで来ると、チラ…とデルデロッテに視線を送り、ラステルに小声で告げる。
「…怒ってるな」
ラステルは頷く。
「これだけ大騒動し、相手国の国王に重傷を負わせた上…結果があれですからね」
と、女のような艶をまとい、まるで力なく、打ちひしがれたようなレジィリアンスに視線を送る。
「…彼も、鬱憤たまりまくり。
限界突破でしょう」
ロットバルトはそれを聞くなり、顔を下げて大きなため息を吐き出した。
デルデロッテは驚くエルデリオンの、色白で端正な顔を見つめながら言葉を放つ。
「頭の良いあなたの事だ。
当然、解っていらっしゃると思うが……」
そう口火を切ったデルデロッテの声はひどく静かで、おそろしく丁重。
「心の底からお願いと言われ、それを聞き入れなければ。
相手の好意も誠意も、思いやりですら期待出来ないって事は、とっくにご存じのはず」
その言葉使いは、とても優しかった。
が、声音は冷たい。
森と花の王国〔シュテフザイン〕の従者らも、レジィリアンスですら。
そう言ったデルデロッテを目で追った。
長いダークブラウンの波打つ艶やかな髪。
すらりとした体付きの、その動きはしなやかで隙がなく、とても洗練されてる。
綺麗な鼻筋の、美しい顔立ちをして、彼が首を傾ける度、夜闇のような濃紺の瞳がキラリと光る。
優美な宮廷人に見えたれど、隙のなさが彼を凄腕の剣士に見せていた。
デルデロッテは良く響く低い声で、更にエルデリオンに告げる。
「嫌がる相手に無理強いをする。
そんなとんでもない事をすればどうなるか、お利口な貴方は解っていらっしゃるはず。
貴方なら、そんな相手をどう思われます?
貴方が酷く不快な事をされ、何度制止しても聞き入れられないとしたら?
…そんな相手は最低で。
更に最悪!!!…だとは思いませんか?!」
ぴしゃり。と容赦無く、叩き付けるような物言いに。
エルデリオンの顔が一気に、蒼白になった。
美しい顔で語られる、冷たく響く言葉は、剣で斬りつけられるような凄みがあって、温情で説得するロットバルトとは正反対。
いつもは友のように親しい雰囲気をまとうデルデロッテのその冷たい態度に。
エルデリオンはとうとう、狼狽え始めた。
…つまりそれ程、デルデロッテは怒っていたのである。
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