森と花の国の王子

あーす。

文字の大きさ
67 / 418
大国オーデ・フォール

デルデロッテの忠告

しおりを挟む
 かなり速度を上げ、休みも取らず、一行は森の中を駆け続けた。
やがて昼をかなり過ぎた頃、鬱蒼とした森を抜け、木々もまばらな草原に出る。
上下に起伏の激しい岩道を抜けた後、その丘に出た。

進み出たエウロペは、背後のレジィリアンスの横に避け、レジィリアンスは馬上でその景色を眺めた。

丘の目前に、一気に広がる広大な風景。
高いその場所から眼下に見下ろす、どこまでも広がる景色の、遙か遠い先。
遠目からでもその大きさが推し量れる、高台に白石で出来た荘厳な城が、そびえ立っていた。

高台の下には、数え切れない程の屋敷や街が。
くねった細い道々は、城を中心に幾つもその裾野すそのを広げてる。

道に沿って小さな建物が無数に見え、その家々はこちらに向かう程だんだん、まばらに、小さくなっていく。

その間に荘園や草原。
小さな林、まばらな木々が、なだらかな曲線の上に緑のアクセントを散りばめていた。

『これが、オーデ・フォール中央王国

木々に囲まれ、起伏が多くて平地の少ないシュテフザイン森と花の王国と違って、広々と広がる平地の王国。

国の中心に位置する高台には、美しくも立派で荘厳な白亜の城。
けれどここはまだ、王都に過ぎない。
この東西に、オーデ・フォール中央王国の領土は広がっていく…。

一行は丘を駆け下り、王城へ向かう道をひた走る。
降りきった広い草地で、やっと休憩を取った。

レジィリアンスは空の馬車を引く御者の背後、ずらりと群れるオーデ・フォール中央王国の騎兵らの、数の多さに目を見張った。
ずっと森の中を走っていたから、木々に隠れて背後に続くその数が、どれ程多いのかを目にしたのは、初めて。

エルデリオンは馬上で、先に馬から降りたロットバルトに木筒の飲み物を渡され、一気に喉を潤した。
ラステルがバスケットを広げ、折りたたみ用の椅子をも広げ、待っているので馬から降りて歩み寄る。
エルデリオンの視線が、少し離れた場所でやっぱりバスケットから食べ物を出して囲む、シュテフザイン森と花の王国の皆を見やる。

レジィリアンスはピクニックのようなその昼食に、はしゃぐ様子すら見せ、エウロペやテリュス、エリューンに順繰りに、笑顔を向けていた。
そうする気は無かったけど、気づくとエルデリオンは腰を浮かせ、デルデロッテに袖を掴まれ、囁かれていた。
「邪魔は無粋。
レジィリアンス殿をもっと元気にしたいのなら。
しょっ中顔を出してはいけません。
貴方の、逆をしないと」

エルデリオンは浮かせた腰を椅子に落とすと、横のデルデロッテに振り向く。
「逆?」
デルデロッテは具材を挟んだバケットを囓りながら、頷く。
「しょっ中顔を見れば、やがて見飽きます。
けれど貴方は二ヶ月間もレジィリアンス殿を見られず、結果思いが募って恋い焦がれてる。
もし、貴方が暫く姿を消したら。
レジィリアンス殿は貴方のように、思いは募らせないとは思いますが、たいそう気になさるでしょうね。
どちらがいいんです?
鬱陶うっとおしがられるのと。
姿が見られず、寂しく思われるのとでは?」

結果、エルデリオンはそのまま椅子から立たず、憮然と昼食を終えた。
出立の為、馬に寄って騎乗しようと手綱を握った時。
視線に気づいて振り向くと、レジィリアンスと目が合う。
彼は恥ずかしげに頬を染めて俯いた後、微笑んで頷いた。

エルデリオンは心が浮き立ち、全開の微笑を送って頷き返した後、横に騎乗したデルデロッテに、馬に乗りながら弾んだ声で報告した。
「君の、言うとおりだった!」
デルデロッテは頷きながら、尋ねる。
「…ラザフォード(追い出された従者頭)はこんな場合、どう勧めましたか?」

エルデリオンは少し考え込むように顔を下げ、その後デルデロッテの整いきった男らしい美貌を目にし、囁く。
「特には…。
けど彼は…気に入った女性がいたら、できうる限りお側に控え、何かとお世話をして、自分を印象づける事が大切だと…」

デルデロッテは大きく頷く。
「彼が憧れの女性にそれをして…三度、振られてるのを私は見ている。
女性は鬱陶しがってるのに、まるで気づかず、ずっと付きまとうものだから」

エルデリオンはそれを聞いて、青ざめて顔を下げた。
それを見たデルデロッテは、小声で尋ねる。
「今まで貴方はどんな女性でも、あちらの方から寄って来て、気を引きたいなんて思った事すら、無いでしょう?」

エルデリオンは無言で頷いた。

やがてラステルを先頭に、一行は走り出す。
エルデリオンはどうしても振り向いてしまい、再びエウロペの背後から馬で駆けてるレジィリアンスの姿を盗み見た。

もう、怯えたうさぎのようでは無くなって、朗らかに横のテリュスの言葉に、笑顔を向けている。

金の波打つ髪が馬上で散り、大きな青い瞳は輝き、可愛らしい唇は赤く染まっていた。

エルデリオンは心からほっとして、内心デルデロッテに、こっそり礼を告げた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

雄牛は淫らなミルクの放出をおねだりする

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...