森と花の国の王子

あーす。

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大国オーデ・フォール

王城目指して

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 翌朝、北の離宮の二階の左右の居室きょしつでは、どちらも従者らが王子を急き立て、支度を促していた。

…と言うのもラステルが顔を出し
「午後には王宮に着きたいので、急いで出立の準備をなさって下さい!」
と戸口で叫び、右のオーデ・フォール中央王国の部屋ではデルデロッテが飛び起き、左のシュテフザイン森と花の王国の部屋でエウロペが起きると、真っ先に王子の部屋へ出かけ、揺り起こし始めたから。

レジィリアンスは緊張が一気に解けたのか、まだかなり眠そう。
朝食の食卓では横でテリュスが、寝ぼけまなこのレジィリアンスにフォークやスプーンを手渡し、世話をしていた。

右の居室ではデルデロッテとロットバルト、二人がかりでエルデリオンを起こしにかかる。
が、起きては直ぐ、くにゃっ!と布団に沈むエルデリオンに、手を焼くロットバルトから
「飲ませすぎたんじゃ無いか?!」
と文句を言われ、ルデロッテは不満げに
「逃げたくせに…」
とぼやき、ロットバルトに知らん顔された。

既に用意の出来た騎兵らが、とても広い門前広場にずらりと騎乗し、居並ぶ中。
二人の王子と三人の従者らは、玄関扉を開けた途端あたふたと走るのを止め、威厳を保って極力優雅に玄関階段を降り、その後、馬丁から手綱を受け取り、ゆっくりと騎乗した。

エルデリオンは朝食もそこそこに。
馬に跨がったのはいいけれど、空腹で。
けれど少し離れた場所でレジィリアンスが馬に乗ろうとする際、目が合ったので、幸福感に包まれて微笑みかけた。

レジィリアンスは恥ずかしげに俯いた後、あぶみに足をかけ、一気に跨がった後。
エルデリオンに視線を向けて、微笑を返す。

途端、エルデリオンは空腹も忘れ、一気に浮かれ気分に成り、先頭のラステルに続いて走り始めた後、横からバケットを差し出すデルデロッテに気づかず、とうとう
「お食べにならないんですか?!」
と凄まれ、受け取って揺れる馬上で齧り付いた。

ラステルは背後をチラと見、エルデリオンが食べ終わったのを確認すると、一気に速度を上げる。

かなり横幅の広い、草原の田舎道を。
王子ら一行と大勢の騎兵らは、草原の遙か先。
王城目指し、ひた走り始めた。

やがてぽつり、ぽつりと建っていた家々が、都に近づくにつれ、道に沿ってずらりと並び始める。

早朝だったが、商人や農夫らがその物々しい一行を、目を見開いて見つめ、慌てて横に避け、道を空けた。

レジィリアンスは馬車が四台並んで走れそうな、その広い道幅に目を見張る。
やがて茶レンガの大きな建物が、右手に見えて来る。
入り口は橋で、壁の周囲には堀が掘られ、水車が水を汲み上げ、掘りには水が張られていた。

後続の騎兵らが道を逸れて橋へと向かうのを、レジィリアンスは振り向いて見つめる。
先を走ってたエウロペが速度を落とし、レジィリアンスの斜め前に付くと
「騎兵らの、駐屯地でしょうね。
…だから大軍が、たいして時間もかからず我々の領土に攻め込めたんです」

それを聞いてレジィリアンスは改めて…大国の軍事力に、驚いた。
けれどその駐屯地を過ぎると、道は馬車三台がやっとすれ違う程度に、狭くなる。

豪奢な屋敷が道の沿道に並び始めると、道はレンガが敷かれ、とてもお洒落な町並みに変わり始める。

が、先頭のラステルは、背後にまだかなり大勢の騎兵を引きつれた将軍に合図を送ったかと思うと、脇道の林の中へと王子ら一行を先導する。

レジィリアンスが背後に振り向くと、あれ程たくさんの騎兵らが続いていたのに、今や十数騎に減り、警護の為付いて来てるように見えた。

林の道は、馬車が二台すれ違えるギリギリの広さで、通行人は殆どいない。
やがてなだらかな坂道を上がり始め、その坂道は延々と続いていた。

横に少し広い草地が見えると、ラステルは手を上げ合図を送り、横に反れて休憩に入る。
レジィリアンスは背後からついて来た、引き締まった顔付きの騎兵らもやって来て、離れた場所の小さな小川で、馬に水を飲ませたり、石の上に腰掛けたりするのを見た。

横でテリュスが皆の手綱を預かり、小さな川へと馬を連れ、騎兵らと並んで馬に水を飲ませ始める。

エリューンはレジィリアンスの側から離れず、エウロペはラステルと話し込んで、これからの予定を聞いてる様子。

エルデリオンは幾度もこちらに視線を送り、側に来たそうな様子を見せたので…レジィリアンスはつい、頷いて微笑んだ。
エルデリオンはとても嬉しそうに側にやって来る。

「…よく、眠れましたか?」
「はい。
ぐっすり!
あの…北の…離宮って、素敵なお城ですね?」

笑顔を向けるレジィリアンスに、エルデリオンは心から嬉しそうに言葉を返した。
「寛いで頂けたのなら、とても嬉しいです。
王族が泊まるので、質の良い布団を使っていますから…。
けれど王宮でも同等の品質のものを使ってますので、ゆっくりお休み頂けると思います」

レジィリアンスは目を見開き、その後、頷いた。
「こちらの王国は…とてもお金持ちなんですね?」

エルデリオンは意識した事が無くて、返答に一瞬詰まった。
が、戸惑いながら囁く。
「確かに豪華ですが…。
けれどシュテフザイン森と花の王国は、ここと比べれば質素かもしれませんが、とても居心地の良い雰囲気があるので…」

レジィリアンスは自国を褒められ、にっこりと微笑んだ。
その笑顔が、あんまり可憐で愛らしく、そして美しかったので…。
エルデリオンは頬を染めて見とれてしまい、横のエリューンに睨み付けられ、デルデロッテに背後から
『もう、場を外せ』
と腕を引かれ、レジィリアンスの前から会釈して立ち去った。

その後、エルデリオンは背後でエリューンが、レジィリアンスに小声で
「…まだそんな年頃に達していないから、あなたには想像付かないと思いますが。
あの年頃の男はほぼ、油断なりません」
と告げてるのを聞き、顔を赤らめて下げた。

デルデロッテに
「…警戒心を抱かせたら、あなたの欲する事は…」
と呟かれ、エルデリオンは頷き倒した。

「…分かってる。
今後、気をつける」

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