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記憶を無くしたレジィリアンス
髭を剃ったテリュス
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トラーテルでは女中が、夕飯を知らせる鐘を鳴らす。
デルデロッテは主寝室に戻って、レジィリアンスの横で寝入ってしまったけれど。
身を起こしてレジィの様子を伺う。
かなり大きな鐘の音も、聞こえないみたいに寝入っていた。
それでデルデは身を起こし、扉を開けて居間へと進む。
暖炉の炊かれた広い居間の、窓辺近くに、食事用のテーブルが置かれている。
エウロペも北の寝室の扉を開け、出て来たところ。
エリューンが廊下から姿を見せ、皆テーブルに着く。
エウロペは女中に
「給仕は私がするから。
もう下がって休んで下さい」
と声かける。
赤ら顔で田舎のおばちゃん風女中は、にこにこと頷く。
「…お偉い方だと伺っていたけれど。
お優しいお方だねぇ…」
そう言って、室内から出て行く。
デルデは椅子を引き、エウロペの横に腰掛けると、先に座って瓶からグラスに飲み物を注ぐエウロペに告げた。
「…とか言って、ホントは。
私がレジィと始めると…嬌声が響き渡って、バツが悪いからだろう?」
エウロペは座りかけるデルデを見やる。
「その通り」
けれどエリューンは、腰掛けながら年上の美丈夫に告げた。
「いつものエウロペの対処ですよ。
その気配りで、彼はどこでも、誰にでも大人気ですから」
デルデはエウロペの向かいに腰掛ける、エリューンを見ながらナプキンを取り上げ、膝に広げながらぼやく。
「彼、君の熱烈ファンだね」
その返答は、エウロペで無くエリューンが返した。
「大国の貴方方にしたら、大した事無いかも知れないけど。
我が国でエウロペは、誰もが近くで仕えたいと願う、人望溢れる偉人です」
デルデはそのエウロペからグラスを受け取りながら、言い返す。
「それは大変、失礼した」
が、エリューンはデルデを睨んだ。
「それ、ちっとも気持ち、こもってませんね?!」
デルデは突っかかられ、睨んでるエリューンに向かって顔を上げ、言葉を返そうと口を開き…後、思いっきり目を見開く。
エリューンはデルデのその反応の、意味が分からず首捻ったけど。
エウロペまでが自分の背後を見てるので、振り向いた。
見た途端、エリューンは冷静な声で尋ねる。
「…どうしたんです?
さっき笑われたの、堪えたから?」
廊下からやって来たテリュスは、エリューンの問いに頷く。
そしてエリューンの横の椅子を引くと腰掛け、目をまん丸に見開く、デルデを睨み付けた。
「…こいつが言うだけなら剃らなかった!
だがお前も!
エウロペですら!
似合ってないと、内心思ってたんだな?!」
エウロペが、呆れたように呟く。
「…何も、全部剃らなくても…。
テリュス、シュテフザインで君はただの、軟弱な青年。
が、この国では。
君は女性と見まごう、美少年扱いされる。
身の危険が増すから。
いつにも増して、下品な言動と態度を心がけないと」
テリュスが即、言葉を返す。
「…つまりもっと。
地を出せと?!」
エウロペは黙して頷いた。
デルデはまだ、マジマジとテリュスを見つめてる。
テリュスが、穴が開くほど見てるデルデを激しく睨むので。
とうとうエウロペはデルデの腕を、肘で小突いた。
デルデはエウロペに振り向く。
「…ああ、失礼。
可愛らしい顔だとは、予想していたけど。
こんな…少女に見える程の美少年だとは…意外すぎて。
口を利かなきゃ、宮廷の美少年好きが、こぞって彼を口説きそう。
…で、ホントに私と同い年?」
テリュスが睨み付ける。
「…口を利かなきゃ?
つまり、下品って事か?」
「…その口調は明らかに私の知ってるテリュスだけど。
その顔は全く見慣れない」
エリューンは頷く。
「綺麗すぎて?」
デルデは即、訂正した。
「綺麗は君で。
テリュスは美しくて可愛らしい」
テリュスはぶすっ垂れた。
「それ、女に使う形容詞だろう?!」
デルデは頷く。
「美少女にしか、見えない」
テリュスはテーブルの下の、デルデの足を、思いっきり蹴りつけた。
が、察したデルデは蹴られる前に、足を後ろに引いて、避ける。
「…昔よく、少女達をからかって蹴られた経験から。
避ける癖がついてるから、簡単に蹴られない」
けれどテリュスは憤慨した。
「避けてんじゃ、ねぇ!!!」
デルデはエウロペに振り向く。
「髭剃った方が、口がもっと悪いって…どうして?」
エウロペはすまして言った。
「君みたいに、素顔をからかう男がたくさんいるから」
デルデは思わず、納得して頷いた。
廊下の手前にある玄関扉が開いて、ラステルが居間にやって来る。
「ああ、良かった!
部下を寄越したいところだけど、どうしても私が来たかったので。
こんな時間になってしまった。
食事はまだ?
食後は時間出来ます?」
言いながら、テーブルに近づき、エウロペの前に進み出て…。
気づいて座るテリュスにふと振り向き、エウロペに顔を戻し。
その後、目を見開いてゆっくり、テリュスへ振り向く。
「……………………あ、で?
食後の御予定は?」
ラステルの、何も見なかったような笑顔を向けられ、エウロペは暫く、そう言ったラステルの顔をじっ…と見た。
直ぐ後からロットバルトも来ると
「やれやれ。
食事前でした?
私もこちらで頂いても、構わな…」
と、ラステルの横に来て、テーブルに着く四人を見た後
「ああ、初めまして。
…あ、テリュス殿はどちらに?」
と尋ねるものだから、ラステルに視線で、髭を剃ったテリュスを目で示され、ロットバルトは意味を図りかねて
「お風呂ですかね?
いい酒があるので、食後ご一緒に…」
と言うものの、ラステルにまた。
視線でテリュスを示される。
そこでようやくロットバルトは
『初めまして』と挨拶した人物に振り向く。
暫く見つめ、どんどん目がまん丸に見開かれて行き…。
その後、沈黙するので。
テリュスは言った。
「美味い酒なら、ご相伴にあずかる」
ロットバルトは口を開けたものの、まだ言葉が出ず。
ラステルに肘で小突かれ。
やっと、言葉を吐いた。
「あ、ああ…ぜ…ひ………。
…髭でかなり…顔を長く見せてました?
と言っても、顎髭がかなり長かったから。
…殆どどこが顎か、分かりませんでしたけど」
テリュスは嫌味で笑いながら聞く。
「…つまり想像よりうんと、童顔だったか?」
ロットバルトは素直に頷く。
「…私はまた。
ぱっちり愛らしい瞳と対照的な、長い顎を隠すために髭を伸ばしていたのかと………。
つまり予想より、うんと顎髭、長かったんですね?
まさか触って、顎がどこにあるのか、確かめるなんてそうそう出来ませんし…」
エリューンが顔を上げ、直ぐ横に立つロットバルトに告げる。
「…敬語になってるのは、どうして?」
とうとうエウロペが、ぷっ!と吹き出した。
その時、主寝室からレジィが寝ぼけ眼で姿を見せ、テリュスを見た途端
「わーい!
僕の良く知ってるテリュスだ!」
と、笑顔で駆け寄った。
テリュスはまだ、驚きに目を見開くロットバルトを、睨んでる。
レジィは背後からエウロペの背に抱きつくと、尋ねた。
「なんでテリュス、髭剃ったの?
もうこの国では、軟弱ってナメられないから?」
エウロペが口を開く。
が、ラステルが言葉をかっさらった。
「いや、この国では危険が増すでしょう。
テリュス殿にも警護を付けないと」
ロットバルトはまだ、テリュスを凝視してる。
テリュスがとうとう、怒鳴った。
「言っていいぞ!!!
どう思ったか!!!」
ロットバルトは促されて呟く。
「…こんな美少女では…今までみたいな口の利き方が出来ない」
テリュスは即、怒鳴り返した。
「女じゃない!!!」
とうとうエリューンがくすくす笑い始め、テリュスに
「それ以上笑ったら、殴るぞ!!!」
と怒鳴られたけど、もっと爆発的に笑いこけ、テリュスに胸ぐら掴まれても笑い止まなかった。
デルデロッテは主寝室に戻って、レジィリアンスの横で寝入ってしまったけれど。
身を起こしてレジィの様子を伺う。
かなり大きな鐘の音も、聞こえないみたいに寝入っていた。
それでデルデは身を起こし、扉を開けて居間へと進む。
暖炉の炊かれた広い居間の、窓辺近くに、食事用のテーブルが置かれている。
エウロペも北の寝室の扉を開け、出て来たところ。
エリューンが廊下から姿を見せ、皆テーブルに着く。
エウロペは女中に
「給仕は私がするから。
もう下がって休んで下さい」
と声かける。
赤ら顔で田舎のおばちゃん風女中は、にこにこと頷く。
「…お偉い方だと伺っていたけれど。
お優しいお方だねぇ…」
そう言って、室内から出て行く。
デルデは椅子を引き、エウロペの横に腰掛けると、先に座って瓶からグラスに飲み物を注ぐエウロペに告げた。
「…とか言って、ホントは。
私がレジィと始めると…嬌声が響き渡って、バツが悪いからだろう?」
エウロペは座りかけるデルデを見やる。
「その通り」
けれどエリューンは、腰掛けながら年上の美丈夫に告げた。
「いつものエウロペの対処ですよ。
その気配りで、彼はどこでも、誰にでも大人気ですから」
デルデはエウロペの向かいに腰掛ける、エリューンを見ながらナプキンを取り上げ、膝に広げながらぼやく。
「彼、君の熱烈ファンだね」
その返答は、エウロペで無くエリューンが返した。
「大国の貴方方にしたら、大した事無いかも知れないけど。
我が国でエウロペは、誰もが近くで仕えたいと願う、人望溢れる偉人です」
デルデはそのエウロペからグラスを受け取りながら、言い返す。
「それは大変、失礼した」
が、エリューンはデルデを睨んだ。
「それ、ちっとも気持ち、こもってませんね?!」
デルデは突っかかられ、睨んでるエリューンに向かって顔を上げ、言葉を返そうと口を開き…後、思いっきり目を見開く。
エリューンはデルデのその反応の、意味が分からず首捻ったけど。
エウロペまでが自分の背後を見てるので、振り向いた。
見た途端、エリューンは冷静な声で尋ねる。
「…どうしたんです?
さっき笑われたの、堪えたから?」
廊下からやって来たテリュスは、エリューンの問いに頷く。
そしてエリューンの横の椅子を引くと腰掛け、目をまん丸に見開く、デルデを睨み付けた。
「…こいつが言うだけなら剃らなかった!
だがお前も!
エウロペですら!
似合ってないと、内心思ってたんだな?!」
エウロペが、呆れたように呟く。
「…何も、全部剃らなくても…。
テリュス、シュテフザインで君はただの、軟弱な青年。
が、この国では。
君は女性と見まごう、美少年扱いされる。
身の危険が増すから。
いつにも増して、下品な言動と態度を心がけないと」
テリュスが即、言葉を返す。
「…つまりもっと。
地を出せと?!」
エウロペは黙して頷いた。
デルデはまだ、マジマジとテリュスを見つめてる。
テリュスが、穴が開くほど見てるデルデを激しく睨むので。
とうとうエウロペはデルデの腕を、肘で小突いた。
デルデはエウロペに振り向く。
「…ああ、失礼。
可愛らしい顔だとは、予想していたけど。
こんな…少女に見える程の美少年だとは…意外すぎて。
口を利かなきゃ、宮廷の美少年好きが、こぞって彼を口説きそう。
…で、ホントに私と同い年?」
テリュスが睨み付ける。
「…口を利かなきゃ?
つまり、下品って事か?」
「…その口調は明らかに私の知ってるテリュスだけど。
その顔は全く見慣れない」
エリューンは頷く。
「綺麗すぎて?」
デルデは即、訂正した。
「綺麗は君で。
テリュスは美しくて可愛らしい」
テリュスはぶすっ垂れた。
「それ、女に使う形容詞だろう?!」
デルデは頷く。
「美少女にしか、見えない」
テリュスはテーブルの下の、デルデの足を、思いっきり蹴りつけた。
が、察したデルデは蹴られる前に、足を後ろに引いて、避ける。
「…昔よく、少女達をからかって蹴られた経験から。
避ける癖がついてるから、簡単に蹴られない」
けれどテリュスは憤慨した。
「避けてんじゃ、ねぇ!!!」
デルデはエウロペに振り向く。
「髭剃った方が、口がもっと悪いって…どうして?」
エウロペはすまして言った。
「君みたいに、素顔をからかう男がたくさんいるから」
デルデは思わず、納得して頷いた。
廊下の手前にある玄関扉が開いて、ラステルが居間にやって来る。
「ああ、良かった!
部下を寄越したいところだけど、どうしても私が来たかったので。
こんな時間になってしまった。
食事はまだ?
食後は時間出来ます?」
言いながら、テーブルに近づき、エウロペの前に進み出て…。
気づいて座るテリュスにふと振り向き、エウロペに顔を戻し。
その後、目を見開いてゆっくり、テリュスへ振り向く。
「……………………あ、で?
食後の御予定は?」
ラステルの、何も見なかったような笑顔を向けられ、エウロペは暫く、そう言ったラステルの顔をじっ…と見た。
直ぐ後からロットバルトも来ると
「やれやれ。
食事前でした?
私もこちらで頂いても、構わな…」
と、ラステルの横に来て、テーブルに着く四人を見た後
「ああ、初めまして。
…あ、テリュス殿はどちらに?」
と尋ねるものだから、ラステルに視線で、髭を剃ったテリュスを目で示され、ロットバルトは意味を図りかねて
「お風呂ですかね?
いい酒があるので、食後ご一緒に…」
と言うものの、ラステルにまた。
視線でテリュスを示される。
そこでようやくロットバルトは
『初めまして』と挨拶した人物に振り向く。
暫く見つめ、どんどん目がまん丸に見開かれて行き…。
その後、沈黙するので。
テリュスは言った。
「美味い酒なら、ご相伴にあずかる」
ロットバルトは口を開けたものの、まだ言葉が出ず。
ラステルに肘で小突かれ。
やっと、言葉を吐いた。
「あ、ああ…ぜ…ひ………。
…髭でかなり…顔を長く見せてました?
と言っても、顎髭がかなり長かったから。
…殆どどこが顎か、分かりませんでしたけど」
テリュスは嫌味で笑いながら聞く。
「…つまり想像よりうんと、童顔だったか?」
ロットバルトは素直に頷く。
「…私はまた。
ぱっちり愛らしい瞳と対照的な、長い顎を隠すために髭を伸ばしていたのかと………。
つまり予想より、うんと顎髭、長かったんですね?
まさか触って、顎がどこにあるのか、確かめるなんてそうそう出来ませんし…」
エリューンが顔を上げ、直ぐ横に立つロットバルトに告げる。
「…敬語になってるのは、どうして?」
とうとうエウロペが、ぷっ!と吹き出した。
その時、主寝室からレジィが寝ぼけ眼で姿を見せ、テリュスを見た途端
「わーい!
僕の良く知ってるテリュスだ!」
と、笑顔で駆け寄った。
テリュスはまだ、驚きに目を見開くロットバルトを、睨んでる。
レジィは背後からエウロペの背に抱きつくと、尋ねた。
「なんでテリュス、髭剃ったの?
もうこの国では、軟弱ってナメられないから?」
エウロペが口を開く。
が、ラステルが言葉をかっさらった。
「いや、この国では危険が増すでしょう。
テリュス殿にも警護を付けないと」
ロットバルトはまだ、テリュスを凝視してる。
テリュスがとうとう、怒鳴った。
「言っていいぞ!!!
どう思ったか!!!」
ロットバルトは促されて呟く。
「…こんな美少女では…今までみたいな口の利き方が出来ない」
テリュスは即、怒鳴り返した。
「女じゃない!!!」
とうとうエリューンがくすくす笑い始め、テリュスに
「それ以上笑ったら、殴るぞ!!!」
と怒鳴られたけど、もっと爆発的に笑いこけ、テリュスに胸ぐら掴まれても笑い止まなかった。
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