森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

エルデリオンの決心

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 ラステルがエウロペを連れ、王子の居室をノックする。
クリーム色に銀の彫刻の彫り込まれた、大変豪華な両開きの扉。

エウロペはオレシニォン西の客用離宮が、田舎者の自分らに合わせ、華美な装いを抑えていたと気づく。

「どうぞ」
扉が開くと、客室。
ソファも椅子も、枠は全て美しい彫刻で飾られ、張られた布は光沢あるサテンで、金と銀の刺繍で飾られていた。

天井にはシャンデリア。
壁の飾りランプも、どれも手の込んだ豪華な品物。
エウロペは内心
「(…どれも宝石が嵌め込まれてるから、燭台一つ盗んでも貧乏人には一財産。
見張りが、付くはずだ…)」
と呟いた。

が、そんな感想などおくびにも出さない。

エルデリオンは光沢ある紫の、足元まですっぽり隠れる、長いローブのような部屋着を着ていた。
二人が入って来ると振り向き、ラステルを見つめ、一瞬気まずそうな表情を見せる。
が、努めて冷静さを保ち、告げる。

「ご苦労。
エウロペ殿と、二人で話したいので」
「退出致します」

一礼して下がるラステルを、エウロペは振り向いて見送る。

改めて、ソファに座らずその横に立つ、エルデリオンを見つめた。

エルデリオンは目を伏せていたけれど。
とても言いにくそうに囁く。

「…貴方には…私を裁く権利がある」
エルデリオンの唐突な言葉に、エウロペは眉も動かさず、言葉を返す。
「…そうかもしれません」

エルデリオンは俯いたまま…微かに頷く。
そして決意したように、顔を上げる。

「…貴方に裁かれたい。
貴方は、はっきりした言葉で私に、待てと言った」
「…覚えておられるのか?」

エルデリオンは、頷いた。
「…おぼろだが。
貴方の言葉は、はっきり脳裏に響いたから。
…けれど待てそうにない。
私の…せいだ。
それは分かってる…。
ずっと貴方は、あのお方を必死に護ってきたのに」

エウロペは否定しなかった。
「…その通りだ」
「貴方に…いきどおられても仕方無い。
言ったように…貴方には権利がある。
私がレジィリアンスにした事。
…そして誘拐犯がレジィリアンスにした事を、私に仕返す資格が」

エウロペは初めて、眉根を寄せた。
「…誘拐犯の分まで…貴方が裁きを受ける気ですか?」

エルデリオンは俯いて、頷く。

やはり…やつれて見えた。
心なしか、少し痩せたようにも。

傍目から見ても、エルデリオンは自分を責め続け…心の平静を欠いているように見えた。
そして多分、ロクに平安な眠りも取れず、食事も喉を通らない…。

「…夕食は?」
自分では意図しない質問が、口を突いて出た。
エルデリオンは首を横に振る。

そして…横に首を振り続け、悲鳴のような声で叫んだ。
「頭から…離れない!!!
恐ろしい目に遭い…記憶を無くすほどの暴行を受けた…あのお方の悲惨な姿が…!
泣き叫ぼうが…誰も助けてくれない!
どころか…男の一物で口を塞がれ……」

そこでエルデリオンは、ふら…と倒れそうになる。
咄嗟エウロペは駆け寄ると、倒れかかるエルデリオンを支えた。

エルデリオンは腕を掴むエウロペの手に、もう片手を添え、顔を上げる。
「…私を…犯して欲しい…!
貴方なら出来るし、その資格がある…!」

エウロペは言い淀んだ。
今にも泣き出しそうな、エルデリオンのヘイゼルの瞳。

『彼は罰を受けたい。
そうすれば…心の中で自分を責め続けなくて済むから…!』

それは…分かっていた。
だが………。

エルデリオンは身を起こし、支えるエウロペを促しながら
「…こちらに…」
と導き、部屋を出ようとする。
エウロペは仕方なく、エルデリオンに付き合い、彼を支えながら部屋を出た。

天井がガラスで明かり取りのある中庭を抜け、扉を開ける。
室内に入ると、レンガの壁。
質素なテーブルと寝台。

そしてずらりと性具の並ぶ棚。

テーブルの上には薬坪。
そして練られた薬。

更には…梁型。
手足を拘束する革紐。
それに…性奴隷遊びが好きな者らが集めそうな、破廉恥はれんちな拘束具もが並べられている。

エウロペは目を見開く。
寝台の四隅に、革紐が括られていて…その先は、手足を拘束するベルトが。

そして薬坪の横に、羊皮紙。

「…ラステルからの報告書で…知りうる限りの、レジィリアンス様が受けた陵辱の内容が書かれています。
それ以上でも…甘んじて受けますから…。
どうぞ貴方が私を、裁いて下さい」

エウロペは羊皮紙を取り上げ、書かれている文字を目で追う。

ひとしきり読むと、ため息を吐いた。

エルデリオンは俯き、小声で囁く。
「勿論…私が馬車でしたことから初めても、構いません…。
私は…一度も男とは…。
だから、条件としてはレジィリアンスと同じ」
「年が違う。
経験も」
「では、誘拐犯がした事から。
どうぞ、始めて下さい」

そう言ったエルデリオンは、ローブのような部屋着を、するりと肩から滑り落とした。

素っ裸で…エウロペは眉を寄せる。

エルデリオンは今にも泣きそうな表情で、エウロペを見つめた。

「もちろん…私のような者に、貴方が欲情するのは…無理かもしれない。
ですから、それから教えて下さい。
手でも、口でも。
貴方が私を犯せるように致します」

エウロペは動かないエルデリオンを見つめ、言い放った。
「それすら…恥辱を覚えるやり方をして欲しいと…私に望んでる?」

エルデリオンは最早瞳に涙を浮かべると、こっくりと頷く。

見ていて、心が潰れそうに。
エウロペは感じた。

綺麗な青い紙置きを、嬉しそうにレジィリアンスの為に、プレゼントした彼を思い返すと。

純粋で一途。
だからこそ…今彼の心は、砕けそうになってる。

分かってた。
体に罰を与えることで、彼の心は救われる。

それでもエウロペは、躊躇った。
それで試しに、挑発に出る。

「…本当に、覚悟は出来てますね?
一旦始めれば私は。
途中、どれだけ貴方が後悔し、泣き叫んでも止めませんよ?」

エルデリオンは俯いたまま、頷く。
「…構いません。
それにこの部屋では。
私がどれほど叫んでも、誰にも聞かれません…」

即答され、エウロペは内心、“お手上げだ”と呟き、腹を括ってエルデリオンの手首を握り、引く。

エルデリオンはされるがまま。
エウロペに、引き寄せられた。
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