森と花の国の王子

あーす。

文字の大きさ
242 / 418
エルデリオンの辛い毎日

エルデリオンの告白

しおりを挟む
 デルデロッテは縋り付くエルデリオンの、背に腕を回し抱き込んで、囁く。
「…私がずっと…貴方をお慕い申し上げてると告げたら…」

エルデリオンは、ぎゅっ!といっそう力込めてデルデロッテに抱きつき、そして気づいて…顔を上げる。

「え…えっ?!」

驚かれたものの、エウロペ程の男に“腹を括れ”と言われ、デルデロッテは告らざるを得なかった。

「…ずっと貴方が好きだった。
本当に抱きたかったのは、貴方だった…。
が、許される筈も無くそれで…虚しい気持ちで乞われる女性を渡り歩いてた」

エルデリオンはヘイゼルの瞳を見開く。
そしてだんだん、潤ませて掠れた声で囁く。

「嫌ってたんじゃ…無いの?
私が…女々しくて…不甲斐ない男だから…。
貴方は失望して…それで…」

デルデロッテはそれを聞いて、目を見開く。
「…そんな事、誰が?」
「…ラザフォードが…。
あまり貴方が私に顔を見せないのは…。
折角あれ程大変な思いをして従者になったのに、仕え甲斐の無い腑抜けだと………。
それで女性と、遊びまくってるって…。
ラステルは時々
“そんな事ありません。
が、私の仕事を手伝って貰ってるので。
それで忙しいんですよ”
って。
ロットバルトは…。
一番…優しいロットバルトは…。
“そのままの貴方でいい”
って…笑って言ってくれて…。
“デルデロッテが姿をあまり見せないのは、貴方のせいじゃない。
彼はラザフォードに嫌われてるから”って…。
けどラザフォードは第一従者になって…。
彼を退けたり出来なくて…。
時々
“貴方はデルデロッテが嫌いなの?”
って聞くと
“嫌ったりはしていない。
が、彼は女性達と…それは不潔な遊びに明け暮れてるから。
国王ですら眉をひそめ、その影響から貴方をお守りするようにと、言われてます。
けれど…面と向かって年頃の男に、不摂生は控えるように”
とは…なかなか言えないものです。
あの年頃の、性を覚え始めた男には、良くある事ですから…”
って」

デルデロッテは呆れて言った。
「彼が惚れてる女性に、私が誘われたから。
それも三人。
それ以来、彼は完全に私を敵対視し、徹底的に貴方から引き離そうと、あの手この手使いましたからね。
表立ってやると、ロットバルトに喰ってかかられるから」

エルデリオンはデルデを見つめる。
「…だっ…ラザフォードは………。
私が貴方より、剣の腕も劣ってるし…。
見栄えも…男らしくないし。
それに女性にだって…貴方にほど、乞われないから…。
貴方は私を、内心軽蔑してる…って……。
でもそんな事無いって…思って、貴方に近づくけど。
貴方はいつも…従者然として…敬語を使って距離を取る…から………。
やっぱり…嫌われ…てるのか…って………」

エルデリオンがどんどん、顔を下げるので、デルデロッテはとうとう、言った。
「聞いてました?
私が最初、言った言葉」

エルデリオンは、ばっ!と顔を上げ、デルデロッテのとても整いきって男らしく美しい顔を見つめ、ぼっ!と頬を染める。

そして、蚊の泣くような声で言った。

「…思ったこと…無い…事…無い…。
あ…の…。
貴方が抱いてる女性に…成り代われたら…どんな…だろう…って………」

頬を真っ赤に染め、俯いて言われ、デルデはじっ…とエルデリオンを見る。

そうしていると…はにかみやで大人しげで…素直で心優しい、幼少期に出会ったエルデリオン、そのものに見えた。

「………でも…。
ラザフォードは…女性相手に夢中な男は、男なんて眼中に無い…って…。
でもあの…エドアルド公子息に乞われて…彼も抱いてる…って聞いた時。
ラザフォードに
“名だたる美姫を制覇したから。
今度は美少年ですか。
本当に、節制の無い…”
って…言われてて…。
でも貴方は少年も相手に出来るんだ…ってその…。
一度……思い描いて………」

デルデは目を見開く。
「まさか、私に抱かれてる想像して、自慰したんですか?」

エルデリオンが真っ赤になって頷く。
それが…あんまり恥ずかしそうで、デルデはそんな彼が、可愛くてたまらなくなった。

「…でも………。
花嫁を探して来い。
って父様に言われ…ラザフォードにも
“丈夫な跡継ぎを産める女性はそうそういません。
その上、知性も教養もあって、更に気品溢れ、美しい女性となると、稀少きしょうですから”
って…。
でも宮廷には…なかなかそんな女性はいなくって…。
時々、貴方を思い浮かべてたら、ラザフォードは心を読んだように怪訝けげんな顔をするから…。
必死で、思いを隠して…。
でも、一生懸命花嫁を探したんだけど………」

「それで、レジィリアンス殿に出会って、惚れ込んだんですか?」

エルデリオンはその時、瞳を潤ませた。
「だって!
貴方には到底手が届かない…!
貴方が相手してくれるなんて…一生かけても無理だって…!
レジィ殿は…愛らしくって…。
まるで幸福の女神の化身みたいに…見えた…。
腕に抱けるし…口づけだって…!
どれだけ焦がれても、近寄れない貴方と違って!」

エルデリオンに、胸に顔を突っ伏され…デルデロッテは呆然とした。
「…そんなに…私を、好きだった?」

エルデリオンは突っ伏したまま、頷く。
「でも恥ずかしい事だって…!
分かってた!!!
貴方は…いつも女性の手を取って優雅に…男らしく………。
せめて…せめて貴方のように、女性の扱いも剣も…上手くなって…並んで歩ける男になろうと…!
必死で…!」

「ちょっと待って」

デルデは言うと、胸からエルデリオンの顔を引き剥がし、顔を見つめて問うた。
「…じゃ…私と交われない欲求不満から…一度触れる事の出来たレジィ殿を、抱くことに夢中になった…って事ですか?!」

「だっ…!
ラザフォードはレジィ殿が少年なのは不満そうだったけど。
これ程美しい少年はどこにも居ないから。
花嫁に相応しい…って!
だけど王子と分かった途端、父様も母様も、味方になってくれない!
どうしても…欲しくなって!
必死で!」

「…私が貴方に、振り向かないから?!」

エルデリオンは震えながら目を見開く。

そして…呟いた。

「…あ…………」

そして目を見開いたまま、次にくしゃっ!と顔を歪め、泣き顔をする。
「…私は…なんて事を…!
あのお方に、一生かけて償わなければ…!」

「…それで…つまり本心では私を好きで。
無理だから諦めて。
レジィ殿を手に入れようとなさって…彼を酷い目に遭わせ…それでご自身を、責め続けていらした?」

エルデリオンは俯いて…今にも大粒の涙が零れそうなぐらい、瞳を潤ませた。

「…あのお方に夢中になってる間だけ…忘れられた。
私は…貴方の尊敬に値しない男で…王子と言う身分だけの存在で…。
少しも眼中に無い……劣った…女々しい…男…………」

そしてエルデリオンは顔を下げたまま、とうとう頬に大粒の涙を、伝わせた。

「……でもそんな…私の“逃げ場”…に…レジィ殿を勝手に据えて…。
王子という身分だけであのお方を手に入れようとした…報い…を…。
私で無く、あのお方が受けて!!!
耐えられない!
幸福の…象徴のようなあのお方が無残に下賤げせんの男に…引き裂かれ…粉々にされるなんて!
私を拒絶なさっても…無理は無い…!
当然の…………」

それだけ言うと、顔を上げてデルデロッテに縋り付く。
「だから…軽蔑しきってる私に貴方が腹を立て、非情な事をするのも当然と…悲しかったけど。
でもそうじゃなくて…。
折角必死に護ったのに、私がみずから台無しにしたって…怒って…くれて…。
嬉しかった………」

デルデロッテはそれを聞いた途端、エルデリオンを抱きしめた。
「…ずっと…好きだった。
苦しいほどに。
けれどたくさんの者が貴方を王子と敬い…世継ぎを望んでた。
だから…私の我が儘で、貴方を一人占め出来ないと…恋心を隠した」

エルデリオンは顔をくしゃっ!と歪めた。

「ほん…とう?」
「嘘じゃない」

エルデリオンはぎゅっ!とぎゅっ!と。
デルデロッテに抱きついた。

夢では無く生身の彼だと、確かめるように。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

雄牛は淫らなミルクの放出をおねだりする

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...