森と花の国の王子

あーす。

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アールドット国王の別邸

現在置かれている状況を見る、オーレとラステル

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 けれどその時、レジィからシャーレの精神が光の放射を飛ばし、ミラーシェンを包み込む。

エディエルゼは腕に抱いていた…夢の中のミラーシェンが、宙に浮くシャーレの光に包み込まれ、寄り添って…安らかな眠りに就くのを、呆然と見上げた。

とても…安心で安全な、白い光の繭の中。
痛みを分け合ったシャーレと共に、小さな子供のように丸まって。
ミラーシェンは瞳を閉じ、眠っている。

エディエルゼはため息吐くと、ぽん…と肩を、バルバロッサ王に叩かれ…振り向いて見上げた途端…夢の中から弾き飛ばされ、その後…起きること無く深い眠りに沈み込む。

オーガスタスが
“やれやれ…”
と呟き、エウロペも眠たげな声で答えた。
“やっと…安眠ですね…”

けどその後、オーレとラステルが…バルバロッサ王の城の上空に浮かび、東を見つめる映像が。
まだ微かに意識のある者らの脳裏に、うっすら浮かび上がる。

森の中に這う、幾本もの両側が崖の通路は。
到底通れないほど山と積まれた石を、オーデ・フォール中央王国の騎士達とラステル配下。
そしてバルバロッサ王の偵察隊が、双方向から必死で退けていた。

広い通路には大木が何本も横たわり、オーデ・フォール中央王国軍の騎士らが必死で斧を振り下ろし、切り裂いている。
切られた木はどんどん後ろに運ばれるものの、山のような大木は、やっと人の背の高さに減った程度。
とても馬は通れない。

その他の、二つの通路も。
やはり石が積まれ、皆が必死で退けていた。

北は一面、木々で覆われた深い森。
森の向こうは、やはり一面切り立つ高い崖。

南は…森が広がり、森のその向こうにやっと平地が見え、住居と田畑、果樹園の間に幾本かの広い道が。
更にその南は…アースルーリンドの周囲を取り巻く、広大な樹海…。

そして反乱軍の拠点在る、西に視点を移すと。
まばらな木々の間に幾本もの道が延び、所々木々に囲まれた屋敷がポツン…ポツン…と伺い見えた。
やっとなだらかな丘が見えたかと思えば、その向こうは突然大地が無くなり…。
切り立った、深い渓谷。
滝と湖。

今居る城の周囲の森を目指し、反乱軍の兵らが続々、集まり来るのが見える。
細い…森の中の道を使って。

“まだ…勝てる人数だ。
あれ…が来なければ”

渓谷に囲まれた湖の南岸に、大きな灰色の城が見える。
その城の塀の中に、大勢の肌の浅黒い兵士達。
アッハバクテスを取り戻そうとする、かつてのアールドットの、貴族達が集結していた。

けれどオーレが南を指し示す。
アースルーリンドを取り巻く樹海から。
名だたる盗賊らが、あちこちから樹海を掻き分け、この城目指し、やって来る。
軍隊とは違い、50名ほどの大きな群れから、20人程の少数の群れ。
それが幾グループも。

多分、紅蜥蜴ラ・ベッタが指示を出したのだろう。
どの盗賊らも、一人でもいいから王子を拉致しようと…褒美欲しさにやって来る。

逆に西の最果て。
渓谷手前の崖上の、ファントール大公の城はラステル配下が制圧し、森の中の偵察隊と連絡を取りながら、この場を離れ、戦いに参戦するかどうかを伺っている。

オーレがラステルに囁く。
“待機、と告げてあるんだな?”
ラステルは頷く。
“彼らは隠密隊。
正規の騎士と違い、正面だって戦う要員じゃ無い。
森の中に潜んでる者らには、できる限り敵の数を減らせとは、命じてありますが…”

オーレは笑った。
“無理はするな?”
ラステルは頷く。
が、森の中に蠢いていた、無数のヤッハ族は逆に。
腐抜けてその場にへたり込み、皆ほとんど動かない。

まるで魂が、抜け出たように、呆然として。

オーレが、樹海の向こう。
高い崖に覆われた秘境アースルーリンドへと、精神を飛ばす。

崖を超え、渓谷を抜けるとなだらかな平地。

その、北東の城から数騎。
馬で駆け出す騎士ら。

ギュンターが、一人を見て叫ぶ。
“ローランデ?!”
ゼイブンも、歓喜にむせび叫ぶ。
“アイリスだっ!!!”

オーガスタスが、はっ!とする。
“ディアス!!!
来るな!”

ディアスと呼ばれた男は、一際長身。
黒く長い縮れ毛を靡かせ、軽く手綱を握ってる。

オーレが、オーガスタスに説明する。
“『闇の第二』の痕跡を消すため、神聖騎士に要請されたんだ”

オーレの視界を通じて見ると、ディアスの周囲を、とても眩しい白金の光が包んでいて…。
広い光の回路を通じ、異次元の…大きな光竜と、繋がっているのが見えた。

皆、『光の国』に住む光竜の姿を見、目を見開く。

とてつもなく、大きい…。
竜なのに神々しく、そして…黄金色でとても美しかった。

その竜と回路は繋がり、その光でディアスと言う名の男は包み込まれ、護られてる。

オーガスタスが、焦りきって叫んだ。
“ダメだディアス!!!
この地は今、敵だらけなんだぞ?!
一触即発の、危険地帯だ!”

けれどオーレも唸る。
“…だからこそ…ヤッハ族から祓われ、力を弱めて獲物を求め彷徨う、『闇の第二』の格好の餌食。
何としても、『影の国』とこの地の回路を閉じ、『闇の第二』が湧いて出られないよう封印しないと!
それで左将軍みずから、駆けつけて来てくれている!”

オーガスタスは、けれど舌打った。
“ディアス!
いっくらアンタが強くとも!
供はローランデとアイリスだけか?!
ローランデはそりゃ、腕が立つ!
が、幾ら何でも少なすぎる!”

少し遅れた背後から、銀髪の美青年が、遅れて走り来る馬に振り向き、栗毛の男を急かせてる。

“…どうしてシェイルを連れて来る!”
ローフィスが突然怒鳴ると、オーガスタスも唸った。
“…確かにディンダーデンは強い。
が、性格に問題ありすぎる!”

けれどディアス…ディアヴォロス左将軍は、オーガスタスに向け、微笑んだ。
“我々は神聖騎士の目を通じ、『闇の第二』の回路を探し出して封印する!
君に会えるかどうかは分からないが、はっきり言って状況は、君の方がより危険だ”

が、その時。
一番最後尾、栗毛の体格良い美男が怒鳴る。
“右将軍が、来たい、ってってるのに!
なんでそれを断って、嫌々な俺を強引に指名する!
あいつ、大好きなんだぞこういう危険な冒険!
俺と違って!”

銀髪小柄、妖精のような美青年シェイルは呆れた。
“左将軍ばかりか、右将軍まで国を離れたら!
誰が軍を統べるんだ!
馬っ鹿じゃないの?!”

けれどゼイブンは、無視して狂喜乱舞し、叫ぶ。
“アイリスとディアヴォロス左将軍が向かってる以上!
もう俺達は『闇の第二』の心配しなくて済んだぞ!!!
それは頼りになる、力強い助っ人だからな!”

その声と共に、シュテフもル・シャレファ金の蝶らも、一斉に歓喜に包まれた。
“やったっ!
『闇の第二』に出会うなんて、俺は絶対ごめんだぜ!”

レンフのがなり声の後、シュテフも喜んで叫ぶ。
“これで安心して、治療だけしていられる!”
ミラーレスも、喜び勇んで叫ぶ。
“ありがたい!
『闇の第二』がまた来たら。
どうやって治療の光減らし、神聖騎士召喚するか。
もう悩まなくてもいい!”

デルデロッテに似ている。
と言われてるアイリスが、ゆったり優雅に告げた。

“逆にオーガスタス、君らと合流しないよう、祈っててくれ。
君らと私達が出会うと言う事は…”

ディアヴォロス左将軍が、はっきり響く、低音の男らしい声音を響かせる。
“『闇の第二』が、君らに迫ってる。
と言う事。
それは何とか避けたい”

最後に、オーレが囁いた。
“反乱軍はどうやら。
南の、アッハバクテスの軍隊が来るのを、待ってるらしい…。
良かったな。
ヤッハ族が『闇の第二』に操られたままだったら。
今夜襲われ、俺達は命の危機。
王子らは…奪われていたかも”

エウロペの笑顔が浮かび上がる。
テリュス、エリューン、ラウールの笑顔も。

ラフォーレンだけが
“でもオーデ・フォール中央王国軍が来ない限り。
完全に安全じゃ、無いですよね…”
と呻き、ノルデュラス公爵も。
紅蜥蜴ラ・ベッタは厄介極まりないぞ…”
と、寝言のように呻いた。

ラステルはそれを無視し、王子エルデリオンに、笑顔で告げた。
“貴方が、体張って罠を演じてくれたお陰です!”

けれどエルデリオンもデルデロッテも沈黙。

ロットバルトだけが。
たいそう複雑な、深いため息を吐き出した。
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