森と花の国の王子

あーす。

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決戦

入城

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 エウロペも気づいた。
が、ギュンターも振り向く。

背後、続々続く、バルバロッサ王の騎兵達の数が、どっ!と増えてることに。

ラステル配下を先頭に、裏門へと回り込む。
城の見張りが軍勢に気づき、慌ただしく正面門の横の塔から鐘を鳴らし始める間に、もう。
ラステル配下とバルバロッサ王、エウロペらは開け放たれた裏門を潜り、城内へと雪崩れ込む。

一気に庭園挟んだ向こう。
白石の正面玄関目指し、馬を駆る。
門を潜ったばかりの他のラステル配下も、後続部隊へと叫ぶ。
「こちらにも玄関があります!」
別のラステル配下も叫ぶ。
「こっちには下働きの通用入り口が!」

先導するラステル配下に道を示され、門へと突入した後続部隊は続々別れ行く。

ギュンターもゼイブンも、ラフォーレンもが。
後続部隊がラステル配下に連れられ、分散して行く様子を伺う。
皆暗黙の内に入り口を分担し、無駄なく城内への突入準備にかかる。

バルバロッサ王が正面玄関前から正面門の広い道へと馬を乗り入れる。
後続部隊も一斉に後に続く。
が、背後から多数の警備隊が、剣を抜いて襲いかかって来た。

後続部隊ら数名は次々馬から飛び降り、剣を抜いてその敵と戦い始める。

エウロペは命を下さなくとも、直ぐ様背後を護る王の騎兵らの俊敏さに、目を見開く。
目前の王は。
振り向きもせず馬から飛び降り、正面玄関の階段を駆け上る。
エウロペも瞬間馬の背から身を滑り落とし、王の後を追った。

王が閉まってる玄関扉の前に立つと。
直ぐ背後から体格良い王の騎兵が進み出て、大勢が一気に体当たりし、玄関扉を強引にこじ開けにかかる。

どぅん!
どぅん!
どぉっ!!!

体当たり三回目で扉が開き、閉じていた横棒がひしゃげ、裂けているのを見。
一人が避けた木を掴み、退け、一人が足で蹴って、玄関扉を大きく開く。

王は剣を抜くと、開いた扉を一気に中へと駆け進む。
エウロペは併走するものの、直ぐ目前から斬りかかって来る敵の剣を、頭を下げて避け様、喉に剣を振り切った。

ざっっっ!!!

王はとっくに二人の敵を斬り殺し、先へと進む。
ギュンターもラフォーレンも剣を振ったが、併走する王の騎兵が周囲を護るように進み出て、襲いかかって来る敵を、片っ端から叩き斬ってくれた。

ゼイブンも短剣を抜いて手に握り込むものの、褐色の肌の王の騎兵らが次々襲いかかって来る敵を斬り裂き、道を空けてくれるのを見て
「ありがたい…」
と呻き、短剣持つ手を下げ、王とエウロペの背を追った。

エウロペは、先頭を走り斬りかかる敵を素早い一刀の下、斬り捨てて進む王の頼もしい背を見つめ
「(反乱を、成功させるはずだ…!)」
と内心感嘆した。

これ程命無くとも統制が取れ、素早く強い軍隊に、攻め込まれたらひとたまりも無い。

バルバロッサは背後に振り向き、エウロペ、ギュンター、ラフォーレン、ゼイブンを見つめ、脳裏に叫ぶ。
“ベラとか言う、指令官はどこだ?!”

直ぐ様、オーレの声が響く。
“光で知らせる!”

王は部下らが襲い来る敵を斬り殺し、見渡せるようになった玄関広間から、階段の上を見上げる。

“違う!
地下だ!”
声がした後、右の広い廊下で光が点滅しているのを見つける。

“付いて来い!”

ギュンターとラフォーレンは、王の背に続くエウロペの背を追い始め、直ぐ気づき。
同時に背後に振り向く。

だれきるゼイブンは遅れ始め、二人同時に背後に取って戻り、両側からゼイブンの腕を掴むと、強引に引きずって連行した。

オーレはその様子をギュンターとラフォーレンの意識から読み取り、呆れてゼイブンに告げる。
“これから会える相手は、入ってる人間こそ男だが。
お前の大好きな、女じゃないか!”

が、ゼイブンは歯を剥いた。
“『麗しの赤い魔女』の事、あんたどれだけ知ってるんだ!
あの女はな!美女に化けられるからそう呼ばれてるだけで!
呪文ブツけると、本来の姿に戻るんだぞ?!”

オーレは呆れ果てぼやく。
“…『影』は大抵光当てると、本性は醜いと相場が決まってる”

ゼイブンはまだ脳裏に怒鳴る。
“麗しの赤い魔女は!
あばたとイボだらけの、醜い通り越した凄いご面相なんだぞ?!
あんなん見たら、ショックで女が一発で嫌いになり、ギュンターがやたら麗しく見えるだろう!
俺は男に、絶対走りたくない!
しかもギュンターみたいな乱暴者は、死んでも嫌だ!
だから女よりギュンターが美しく見えるなんて事態は、できうる限り避けたい!”

ラフォーレンは脳裏の叫びを聞き、あいだのゼイブン通り越した向こうの、ギュンターの横顔を見た。

ギュンターが即座に言い返す。
“安心しろ!
お前が俺に蹌踉めきそうになったら!
遠慮無く殴って、また女が良くなるようにしてやる!”

ゼイブンはそれを聞くなり、腕掴むギュンターの手首を外そうと、もがき始めた。

素早くエウロペが速度落とし、ギュンターからゼイブンの腕を引き受け、横に併走し、脳裏に囁く。
“君が、頼りなんだ。
その魔物を倒さないと、城が襲撃され、王子らが危ない!
夕べ君は、犯されてるミラーシェンを見、犯す男に短剣投げつけたいほど下衆げすと、言い捨てたろう?
王子が奪われれば、そんな下衆が大陸の実権を握る!”

言われた途端、ゼイブンは真顔で横のエウロペを見た。
次にラフォーレンに
「放せ。
自分で走る」
と告げ、再びエウロペに視線を戻す。

エウロペはにっこり微笑むと、ゼイブンの腕を放した。
三人は王の背を追って速度を上げ、ギュンターはエウロペの横を走りながら小声で呟いた。
「俺は女垂らしだが、あんたは野郎でも垂らせるな」

ラフォーレンは真顔で真剣に走るゼイブンの、向こう横を走るエウロペを見、感激に包まれて叫ぶ。
「来て下さって、ほんっとに感謝です!」

けれど広い二部屋分の扉を通り過ぎ、先の扉が開くと。
敵が一気に踊り出て、進路を塞ぐ。
バルバロッサ王は剣を振り被り、ギュンター、エウロペも剣を持ち上げ迎え討とうとした。

しゅっ!
しゅっしゅっ!

短い風切る音と共に駆け来る敵の、先頭三人が喉に短剣喰らい倒れ伏し。
驚く後続の敵が浮き足立つ間に、王は剣を振り下ろす。

ざっしゅっ!!!
「ぎゃっ!」
続き、ギュンターも豪快に剣を振り切り、エウロペもが瞬殺する。
「ぎゃっ!」
「ぅ………!」

王はさっさと死体を跨いで先へと走り、遅れて部屋から飛び出す敵が目前に飛び出すのを見たラフォーレンは、慌てて剣を振り上げる。
が、エウロペはさっと前に出ると、短く剣を振り切る。

ざっっっ!
どっ!
エウロペが
「飛んで!」
と叫ぶ声と同時。
ラフォーレンは剣を持ったまま、足元に転がる敵の死体を跨ぎ飛んだ。

ゼイブンが横を走りながらそれを見、脳裏に唸る。
“糞…エウロペには俺でも惚れそうだぜ…”

ラフォーレンは
“ああそうか。
こっちでも通じてるんだ。
エウロペ殿、ありがとうございます!”
そう脳裏に呟いた後。
エウロペが返答を返す、その前に。
“じゃ、顔がギュンターで性格がエウロペ殿なら。
男に趣旨替えしちゃいます?!”
そうゼイブンに問う。

“……………………………”

ゼイブンが沈黙するので、とうとうギュンターが脳裏に怒鳴った。

“真剣に、吟味するな!”
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