赤い獅子と淑女

あーす。

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花祭り

花祭り 6

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 馬車が自宅に着き、皆が馬車を降り始める。
騎乗して付いて来ていたオーガスタスは、素早く馬から降りると、エレイスに続き、アンローラが馬車を降りた後。
ステップに足を着き、身を乗り入れてマディアンに、両腕差し出す。

ローフィスは横のラロッタに続き、降りようとして…。
マディアンが、待ちかねた歓喜の表情で、オーガスタスの腕を迎え入れるのを見た。

が、オーガスタスはまるで…恋人を受け入れるような、そんなマディアンを見て。
少し悲しげに俯き、そして顔を横に背け…。
マディアンはそんな彼を見て、一瞬で悲しげな表情を浮かべる。

ローフィスが前を向くと。
前に居たラロッタは、アンリースに続いて馬車を降りかけ。
けど顔だけ振り向いて、それを見ていたし。
とっくに先に降りてた、エレイスもアンローラも、少し離れた位置から、それを見ていた。

アンリースだけが、後ろに振り向いて、降りようとしないラロッタを
“なんで降りてこないの?"
な顔で、見つめた。

ローフィスはラロッタが動かず、つっかえ。
まだ馬車内に居る自分に、オーガスタスが振り向くのを見て。
姉の悲しげな表情に目が釘付けで、固まってるラロッタを、そっと促し、彼女を先に降りさせて、自分も降りた。

オーガスタスが、マディアンを抱き上げて馬車から出ると。
皆、少し離れた場所から、とても長身で畏怖堂々とした、オーガスタスを無言で見上げた。

その腕に危なげなく抱き上げられた、マディアンは悲しそうで…。
オーガスタスは、少し辛そうに眉を寄せ、苦い表情で。
それでもとても丁重に、マディアンを玄関へと運び始めた。

オーガスタスの横に、アンローラ、エレイスも並び歩き。
ラロッタもオーガスタスの横に付いて歩くと、腕に抱かれたマディアンを見上げる。

アンリースだけが、後ろを歩くローフィスの横に並んで。
姉たちの沈黙に、疑問の視線を向けていた。

ローフィスは微かに微笑むだけで。
アンリースの疑問に、口を開かなかった。

慌ただしく母が玄関で一行を出迎え
「食事の仕度が、出来た所です!!!」
と叫んで、一行をそのまま、食堂へと導く。

けれど夕食のテーブルは…珍しく静かで。
母はいつもかしましい、娘達の様子に首を捻る。
「…どうしたの?
今日は静かね?」

姉妹達の中で一番男勝りの、ラロッタが顔を上げる。
「オーガスタス様が!
結婚より戦う事を使命としていらっしゃって、姉様を失恋させるから!!!」
と叫び、オーガスタスは目を見開く。
母親の視線を感じ、凄く決まり悪げに顔を下げると、下を向いてるローフィスに二度、顔を向ける。

ローフィスは三度目に
『何とかしろ』
と言うオーガスタスの要請に従って、顔を上げた。

「近衛の男を旦那に選ぶなら、戦場で死にそうに無い男を選ぶしかありません。
…つまり、どんな卑怯(ひきょう)な手を使っても生き残ろうとする、最低な男です」

それを聞いて、とうとう母親までもが顔を下げ、お通夜のような食卓を目にして、オーガスタスはローフィスを睨み付ける。

ローフィスはオーガスタスを斜(はす)に見つ返すので、オーガスタスは仕方無げに吐息吐き、ぼそり。と告げた。

「生き残る。
とお約束は出来ませんが、自分が亡くなったら悲しむ者がいる。
と思うと、ギリギリの瞬間男達は必死で、死を回避する努力を。
全力でするでしょうね」

この言葉に、女性達は一斉に顔を上げ、笑顔になるもんだから、オーガスタスはローフィスに顔を向けると
『どうしてこれくらいの事が言えない?!』
と首を振る。

ローフィスはオーガスタスに答えず
「これだけ戦い慣れた、勇猛な男の言葉だ。
お墨(すみ)付きですよ」
そう言って、食卓の女性達の笑顔をもっと華やかにし、オーガスタスの顔を下げさせた。



 食後、オーガスタスはマディアンを、寝台まで抱いて運ぶ。
そっ…と降ろすと、マディアンはオーガスタスの首に絡ませた、腕をなかなか放そうとしなかった。

オーガスタスが、困惑して告げる。
「…あの………離して頂かないと、顔が上げられません」

マディアンは間近で、オーガスタスの整った小顔を見つめ、呟(つぶや)く。
「…もうご存知ね?
お付き合いなんてしなくても私、貴方の訃報(ふほう)を聞いたらきっと、悲しみで胸が潰(つぶ)れてしまうわ…!」

けれどオーガスタスは困り切って、囁く。
「言ったように…最大限の、努力をします」

けれどマディアンはまだ、腕を解かず。
オーガスタスはどうしていいのか解らない顔で、狼狽(うろた)えきる。

「…どうして離して下さらないんです?」
「考えていたの」
「何を?」
「貴方が命を落としそうな瞬間、どうしたら私の顔が浮かんで、貴方が危険を回避されるかを」

言って、そっ…。
と、オーガスタスの唇に、口付ける。
そして、顔を見つめ、囁いた。
「これで、思い出せそう…?」

オーガスタスが、一瞬がくん!と大きく身を揺らし、小声で…そして早口で囁く。
「年頃の男を寝台の上で、煽(あお)るものじゃありません。
私はこれでも男ですから…!」

マディアンは目を、見開く。
「…私に、襲いかかりそう?」

オーガスタスは怖いくらいの顔付きをすると、素早く囁く。
「…衝動で、貴方を抱きたくない…!」

けれどマディアンは、うっとりと見惚れるくらいの美しい微笑を湛え、オーガスタスを見つめ返す。

オーガスタスはそれを見、頬を染めると囁く。
「…貴方が悲しむと覚えて置いて、命を無くす無茶を控える。
と私に、約束させるまで。
離してくれないおつもりですか?」

けどその時マディアンは、心配事で彼らしからぬ戦い様をする…。
それが残念で、ローフィスは
『命を大切にしろ』
と彼に、言えないのだと気づく。

マディアンは溜息と共にオーガスタスの首を放し、オーガスタスは安堵(あんど)の吐息と共に、身を起こす。

マディアンは自分を見つめるオーガスタスの顔がやっぱり…とても愛しくて
「どれだけ貴方の事が、とても好き。と伝えたら…。
貴方を、振り向かせることが出来るのかしら…」

そう、呟いて寝台に頭を落とし、眠るように目を、閉じた。

オーガスタスは吐息と共に、寝入っていくマディアンの…。
その優しい表情を目に焼き付け、戸口へと歩き、振り向くと、そっ…と目を瞑る愛しい美女に囁く。

「…もうきっと。
俺は貴方の事は忘れられない。
それほど俺の気持ちに、貴方は入り込んでいる」

それが、マディアンに聞こえたかどうかは解らなかった。

オーガスタスは月光で僅(わず)かに照らされた、暗い室内で安らかな寝顔を見せる、マディアンを見つめ顔を下げると、扉を閉めて、室内を出て行った。


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