アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第四章『晩餐での冒険』

子供達を必死に探す大人達

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 アイリスの、叫ぶ声が聞こえた途端。
ゼイブンは狭い室内の、横の隠し戸の中へと向かう、ローランデを遮二無二押し退けようとした。

ローランデは大人一人がやっと通れる、狭い戸の入り口に、ゼイブンが脇から無理矢理体を入れてくるのに顔をしかめ、その体を押しどけながら怒鳴る。
「無理だ!ゼイブン!」
だがアイリスの叫び声が、その奥から再び響く。
「聞こえたら返事をしておくれ!」

いてもたってもいられぬような、アイリスの動揺しきった声に煽られ、ゼイブンはそれでも前を塞ぐローランデの体を押し退けて進もうとし、とうとう後ろからギュンターに襟を掴まれ、引き戻された。
「それ以上くっつくと、本気で噛みつくぞ!」

顔が間近でギュンターに引き戻されて怒鳴られ、だがゼイブンは目前で歯を剥く金髪美貌の猛獣より、滅多に取り乱す事の無いアイリスの声音に、動揺しまくった。
「あの、アイリスが、叫んでるんだぞ!」

情けなく、歪みきった顔の美男を見つめ、それでもギュンターは怒鳴った。
「俺にだって、耳はある!」

またローランデの方へと駈け出そうとするゼイブンに、ギュンターは掴んだ襟首を、咄嗟体ごと引き戻して怒鳴る。
「…一人ずつだ!順番を、待て!」


「アイリス!」
ローフィスが叫ぶ。
ローランデはシェイルの背後に立った時、天井から洩れ差す月明かりに照らされた巨大な空洞と、その周囲に並ぶ、螺旋階段の扉の数を見、呆然と口を開けた。
「…どうするんだ?」
ローランデに背後から聞かれ、シェイルは彼を見つめた。
「…アイリスは片っ端から、開けて回る気だ」
アイリスが螺旋階段を上へと駈け登り、ローフィスは仕方無さそうに、下へと駆け下りる。

「手分け、するしか無いようだ」
言ってシェイルがローフィスの後へと続くのを見、ローランデはアイリスの後を追って、階段を駈け登った。

ゼイブンとギュンターがその扉が閉じかかるのを、寸でで開けて覗くと、やはりその場の様子に呆けた。
が、上下二手に別れる先鋭隊が、それぞれその巨大な空洞の周囲に並ぶ、幾つもある扉をバタンバタンと開け閉めしているのに気づき、慌てて階段を駆け上がる。

ローフィスの、ぼやき声が下から響く。
「どこも一部屋しか無い。
この階段からしか入れない部屋だなんて、呆れるぜ。
一体どういう目的で…」

階上から、アイリスの声も、響く。
「こちらも同じだ!
でも全部そうなら、どこかにテテュスが居るかもしれない…!」

ローランデを追って階段を駆け上がるギュンターが、隣に並ぶゼイブンに怒鳴る。
「二手に別れるなら、お前は下だろう?!」
だがゼイブンはその野獣に、喰ってかかった。
「…どうして下だ!俺のカンは上だ!」

ローランデは彼らの一階上から、振り向いて怒鳴った。
「その縁の扉は確認しそびれた。
言い争ってないで、開けてみてくれ!」
二人は言われて、階段の横に続く廊下の先の扉を見つけ、一緒に気の進まぬ様子で進むと、扉をそっ、と開けた。

「…真っ暗だな」
ギュンターが言うと、ゼイブンが小声で呼んだ。
「ファントレイユ。かくれんぼしてる場合じゃ、ないぞ?」

だが、暗闇に二人同時にそろりと中を進むと、バタン!と背後で大きな音がした。
背後の扉が閉まったが、二人は気にする事無く壁を伝って、中へと進む。
ギュンターが、後ろに続くゼイブンに唸った。
「並んで進んで、どうする。お前は反対側から来い!
ローフィスの言った通り、一部屋しか無いなら途中で俺とかち合う筈だ」
「思ったより、かしこいな」
ゼイブンに言われ、ギュンターは思い切り目を剥いた。

ギュンターは扉が閉まり、真の闇に成り果てた室内で、ゼイブンの指が目を突き刺そうとするのに思い切り顔をしかめ、その彷徨う手を、掴んだ。
途端、ゼイブンのとぼけた声がする。
「…ごつい手だな。握られるんなら、女がいい」
ギュンターは思い切りその手を振り放すと、怒鳴った。
「こんな時に、贅沢言うな!」

二人はやはり、扉が見つけられずにやれやれ。と、閉まった扉の方へと肩を並べ、進んだ。
「…結局、一部屋か?
ローフィス達はどうして開け様、中の様子が解るんだ?」
ゼイブンの声にギュンターがふと、思い出した。
「…確か、反射してたが…あれは…鏡か?」
ゼイブンが、ギュンターの顔があるだろうと思われる方向に顔を、向ける。
「…じゃ、空洞に差す月の光を鏡で反射させて、室内を覗いていたのか?」
ギュンターが返答した。
「…多分な」
「鏡なら、持ってる」
ゼイブンがそれをギュンターの手に当て、ギュンターはそれを振り払って怒鳴った。
「もう、遅い!」
そして、扉の取っ手に手を掛ける。
ゼイブンはじっ。と待った。
がちゃがちゃと。
音はするのに一向に、青白い月明かりが拝める様子無く、ついぼやく。
「近衛の隊長が。
扉の一つも、開けられないのか?」
「近衛の隊長が関係あるか!
…だがこれは………」

まだがちゃがちゃ言わせるギュンターに、ゼイブンはとうとうその取っ手を引ったくると言った。
「壊すなよ!」
ギュンターが、何か言いかけた。
が、ゼイブンも取っ手を回すが、悪戯に音が、鳴るばかりで、引っかかっている金具が取っ手の回しと共に、外れる気配が、全く、無い。

いきなり真っ暗な中、ゼイブンにぽん。と、ギュンターは肩を叩かれる。
「扉を蹴破るのは、得意技だろう?」
ギュンターは唸ったが、とっととこのふざけた男とおさらばしたかった。
少し下がると、いきなりがん!と扉を蹴る。
結構な音が、した筈だったのに、扉は裂ける様子が、無い。
ゼイブンがそっと、ささやいた。
「…まさか、ジャイムの木で、出来てないよな?」
ギュンターもそれを口に、しようとした所だった。
「…鋼鉄のようなジャイムなら、さすがのお前も蹴破れないだろう?」
ゼイブンに言われた途端、ギュンターがもう一度、蹴り倒した。
今度は体を傾け、思いっきり。

がんっ…!!!

だが…。
派手な音はしてもやはり扉は、裂けなかった。
「…ジャイムだな」
ギュンターが言うと、ゼイブンは唸った。
「これだけ大きな音だ。
ローフィス位が、気づいても良さそうだろう?」
「あっちも忙しいんだろう?」
ギュンターは言うと、もう一度、渾身の力でその扉を、蹴り倒した。

何か音がした気がしたが、ローフィスは並ぶ扉の数を数え、うんざりして上に向かい怒鳴った。
「そっちはどうだ?!」
ローランデの、返答が返って来た。
「どこにも居ない!」
ローフィスは一階下の、壁に伝う廊下に並ぶ幾つもの扉を見つけ、焼け糞で駆け下りた。

ローフィスが音を蹴立てて階段を駆け下り様、シェイルはどん!と、派手な、何かにぶつかる音に気づき、目線を上に、向けた。
「…何の、音だ?」
だが音はそれきり止んで、シェイルは肩をすくめてローフィスの背を、追った。

「…どうして、止める?」
ゼイブンの声に、ギュンターがぼやいた。
「そう思ったら、今度はお前が蹴れ」
「…ジャイムを蹴るだなんて、馬鹿なマネはしたくない」

ギュンターはもう、きっちりキレた。
「俺に三度もその、馬鹿なマネをさせといて言うセリフか?!」
ゼイブンは、心からべそをかきそうになった。
「…こんな事なら、あの美女の内の一人でも連れ込むんだった。
一緒なら暗闇だろうが、どれだけ閉じこめられようが。
全然平気だったのに」

ギュンターも唸った。
「…俺だって今、何でお前でローランデで無いのか。
神を呪いそうになったぜ!」

二人は真っ暗闇の中、ほぼ同時に、悲嘆のため息を吐き出した。

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