アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第七章『過去の幻影の大戦』

虚を覆う天空の亀裂 3

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 メーダフォーテはぎり…!と唇を噛む。
召喚主の自分にすら、明かさなかった事項だ。
今更…聞いた所で奴が明かすか?

アイリスには当然、聞けない…!
ディアヴォロスを、殺る為の策だ。

メーダフォーテはもう一度、どうすればディスバロッサへ解答出来るかを、思案した。


 ダンザインは顔上げる。
もう…後少しだった。

ワーキュラスが“里”の者から光を受け、ディアヴォロスを癒やしながら無言の警告送る。

ダンザインはディングレーを見る…。
まだ…抉れた深い刀傷は完全に盛り上がっていない。
今止めれば、引き攣れたような痛みが襲うはずだ。

オーガスタスを見やる。
その背の深く長い傷は、良く鍛えられた筋肉のみで無く、骨迄も傷つけていた。

ひどい痛みの筈だ…。
が痛みに慣れ、戦う時の習性か…オーガスタスはその痛みをほぼ、見せない。
先に傷付いた骨を埋める。
神経を護る為に。
が抉れた肉を防ぐには、まだかなりの時間を要する。

二度目、ワーキュラスからの無言の警告。
高速で飛来する敵の気配。
結界を張るか?
が途端、自分に牙剥く、暗く赤い魔のぎらり…!とした殺気に気づく。
が…あと少し…!
治しきる迄…!

ワーキュラスから三度目の鋭い警告!
咄嗟、ダンザインは歯をぎり!と噛んで、飛んでいた。

目前、真っ黒な蛾が高速で飛来する、その中に強引に突っ込む。
中で瞬間、全身から力放出し、発光する。

かっ……………!

光落ち…周囲見ると、殺ったのは中心近くの蛾だけ。
遠くの蛾は瞬時に散り、光を止めた自分に再び寄って来る。

ダンザインは光に群がるように寄り来る蛾が、充分集まる迄待った。
大きな力は使えない。
天空の亀裂をこれ以上、広げない為にも。
力を…集まる蛾の一匹一匹に向けそして…。

再び…かっ!と光った。

が、発光が終わると、再びどこからともなく蛾が集まり来る。
ダンザインは再び待った。

根比べだ。

操る者を誘き出し掴まえるには…蛾の、数を減らすしか無い。
蛾の数がそのまま奴の力。
数が減れば敵は衰え…蛾の中に隠した本体を、曝す事だろう………。

つくん…。つくん。つくん…。
集まり来て、自分の周囲の光に隔てられ、それでも光の外側に触れる蛾の、その微かな接触で、その“障気”が凄まじいと解る。
もし人間がこれに触れたら…それだけで、気が触れたり全身“障気”に包まれ、操り手の配下と下るだろう………。

たった、一匹でこれだ。
が幸い、ワーキュラスからの知らせは、蛾は皆の元には行かず狙いはどうやら、自分だけのようだ。

“何としても!
私を彼らの守護から引かせたいようだ………!”

言って再び発光する。


 ワーキュラスはそのダンザインの声に、無言で頷いた。

…悲しかった。
当人の要請とはいえ…ディアヴォロスの消耗ぶりには、涙が出た。

こんなに…弱った彼は幼かった頃…見て以来…。

立て続けの鍛錬に彼は疲労し…幾度筋肉痛を癒やしても彼は立ち向かい…自分の重さに歯噛みして、それでもくたくたの体を引きずり…微笑った。

“待ってて…ワーキュラス。
今貴方はほんの僅かしか私の中に居られない…。
でももっと…!
もっとこの世界を貴方に直に…見せるから………!”

ほんの少し…呟いただけだったのに…。
光の民とも違う…荒くて粗雑で…けれど生き生きと逞しい…。
この地に住む人々のエネルギーをもっと…鮮明に見られた日は、もう遠い過去だ…と…………。

過去を懐かしみ、だった…それだけ…………。

幼いディアヴォロスは無心で問うた。
「…今は違うの?
どうしたら…鮮明に見える?」

私は…言わなかった。
もっと君と深く同化したら………。

言葉に出さなかったのに君は、察した。
そして…微笑った………。

鮮明にその目で見る事の出来る…人々の美しい生体から発する歌うような光…。
なんと生き生きとし…光と影に溢れている事か………。
それを…ディアヴォロスは感じ、見て…微笑ったのだ………。

どれ程自分が彼らに取って重いのか…思い知っていたから、子供の君にうんと…気を遣ってそっと…そっと寄り添うだけだったのに………。

君は必死に自分を鍛え、傷だらけの体で自分の中の、開けた場所指し示して笑う。
“少しは…大きくなった?”

けれど君は、自分が感じ取った私の大きさと…自分の中に作った、私の入れる余地の小ささに、溜息付く。

まだまだだね…。
苦笑交じりに告げて…鍛錬を休まない。
少しも…少しも………。

時間があれば崖を登り…森を駆け回り…襲い来る獣に剣を振る。
君は夢も見ず眠りに付く…。
疲れ…きって。

どれだけ癒やしても…君は回復すると直ぐ、立ち向かう…。
守護の光解けば…指も動かせまい…。
それ程体が疲れ切っても君は止めない………。

ワーキュラスが、静かに泣いた。

今…君は無くしたくない者らの為、自らの命懸けている…。
どれだけムストレスらに攻撃されようと…自分に捧げる忠誠を…裏切った事無い仲間の為に………。

ディアヴォロスが、顔上げる。
そして…やっぱり微笑む。
「ありがとう…。
随分と、楽だ」

まだ…!
無理だ…………。

君は知ってるのか?
私の目から君は鮮明に見える。
その…酷い消耗が………。

立っているのが、やっと………。
なのに…君は微笑う…。
それだけでも十分だと…………。

オーガスタスが、立ち上がる。
ギデオンが寄るが、その差し出す手を振り払い、少しヨロめいた…が、断固とした足取りで、自分を背に庇い戦い抜いた主、ディアヴォロスの方へと歩み寄る。

ギデオンはその背を見送り、ディングレーに近寄る。
ディングレーは顔を上げ、苦しげな表情で、でも笑った。

「…神聖騎士は、忙しいらしいな………」

戦場の遙か先、その向こうに聳え立つレアル城背景に、また空中で、かっ!と白く光った。

「………多分、相当厄介なんだろうな………」
ギデオンの呟きに、ディングレーは一つ、頷く。

手を地に付いて、身を起こそうと力込めるが途端、顔を苦痛に歪める。
ギデオンが、慌てて駆け寄りその背を抱き支える。
ディングレーは有り難い。
と横で身を支える「右の王家」アルファロイスの息子を間近で見…つい目を、見開いた。

「………こんな美人は見た事無い…」
どさっ!
「いてっ!」

突然落とされ、ディングレーは地に転がり、叫んだ。

ギデオンは怒って背を向けていたが、振り向き言い渡す。
「悪いが、これでも抑えてる。
顎が割れなかっただけでも、有り難いと思ってくれ」
「……………顎って…美人っつったら、もしかして殴るのか?」
「そうだ」

ディングレーは瞬間青冷め、俯いて呟く。
「………………二度と言わない」

ギデオンは背を向けたまま無言で頷くと、くるりと踵返し再び屈んで、ディングレーの腕を抱え、背を抱き支えた。

ディングレーはギデオンの綺麗な美女顔を、間近に見たものの今度は、沈黙を貫いた。


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