アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第七章『過去の幻影の大戦』

帰還

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 皆が眠る寝台横。

…びっちり目には見えない茨で取り囲まれていた…その茨が透けて消え行き、一人一人が目を開ける姿に、“里”の癒やし手達が狂喜乱舞し、飛びはね大声で歓声を上げていた。

その大騒動の中、次々に皆が身を、起こし始める。

「…やたら五月蠅いな…」
ディンダーデンが唸って額に手をやりながら、身を起こす。

ディングレーが目を開けた時、冷静な筈のミラーレスが、横で全開の笑顔でぴょんひょん飛び跳ねてるのを見、目を見開き見つめ、視線が吸い付いて離れないのを感じた。

アイリスは飛び起きると叫ぶ。
「テテュス!」
そして首振り、周囲に姿が無いのに寝台から飛び起き…だが長い間眠っていた為、足がもつれ転び駆けても構わず、叫ぶ。

「テテュス!!!」

転び駆ける様を抱き止めた“里”の者が見かねて、テテュスの寝室へとアイリスを、一瞬で送った。

ローランデは目を覚ますと、ギュンターに、きっ!!!と振り向き、オーガスタスもローフィスも憮然。と身を起こしてやはり、ギュンターに怒鳴り付けようとし、ローランデに先越された。

「たかかキスくらい!!!
どうして君はさっさと出来ないんだ!!!」

直ぐ様飛び起きたラフォーレンとスフォルツァが追随する。

「天下の垂らしでしょう!!!」(ラフォーレン)
「相手がアイリスってだけで、あの“間”の長さは、何だ!!!」(スフォルツァ)

最後に追随して、アシュアークまで叫んでた。
「どうして私が相手じゃ、ないんだ!!!」

「………………………」

スフォルツァとラフォーレンが同時に、叫ぶアシュアークに振り向き、どっちがアシュアークに説明するかを譲り合った。

オーガスタスとローフィスは口開けたまま怒鳴り付けそびれ、はっ!と気づくオーガスタスへ、ローフィスが顎しゃくり、促す。

オーガスタスは寝台飛び出し、“里”の者が気を利かせ、ディアヴォロス、アルファロイス、エルベスらが眠る別寝室へと飛ばす。

ローフィスはほっ…。
と吐息吐くと、睨むシェイルに怖気て振り向く。
途端、シェイルが怒鳴った。

「傷は…?!
あれだけ無茶したんだから!
また開いてたら、もう容赦しないからな!!!」
「痛むが…開いてない………」
「ホントだな?!」

ゼイブンが、思い切り情けないローフィスに同情し、顔を下げた。


ギュンターはローランデに怒鳴られ続け、キョロキョロしたいのを必死で我慢した。
だって…幻影判定の部屋に居たはずだ。

“…どうして一緒の部屋に寝てるんだ”

心の中で“里”の奴らを呪いつつ、ローランデの怒号を聞き続け、どこで腕を掴み、口づけで黙らせようか。と、顔下げたまま、機会を伺い続けた。

止まぬローランデの罵り声のその向こう…笑いこける、ディンダーデンの笑い声を聞きながら、心の中でディンダーデンに怒鳴り付ける。

“笑ってないで、ローランデを止めろ!!!”

「日頃あれだけ平気な君がどうして!!!
あそこで躊躇うんだ?!
どれだけみんなが苦労して、あの幻影から出ようとしていたのか!!!
君は解らないくらい馬鹿か?!
しかもたかが、キスだ!!!
しかも君は、垂らしが代名詞だろう?!」

ゼイブンは止まぬ噴出したローランデの怒号の周囲で、“里”の者らが…サーチボルテス、アッカマン達迄も、狂喜で飛び跳ねてるのをぼんやり見つめ…流石、アースラフテスは居ないな…。
と、ほっとしてる自分に気づいた。

アースラフテスまで飛び跳ねていたら、きっとこれはまだ夢で、目が覚めたらまたあそこに戻ってるんじゃないか…。
と思い、きっと大層、ぞっとした事だろう…。

ディングレーはギュンター怒鳴り付けていたスフォルツァとラフォーレンが一転、アシュアークに、どうしてギュンターのキスの相手が、アイリスじゃなきゃならなかったのか。
を、それは苦労して説明してるのをぼんやり見つめた。

“あれだけ苦労して死にかけて…これが結末か?”

凄く口に出して言いたかった。
が、我慢した。



 テテュスとレイファスは、突然寝室にアイリスが飛び込んで来てテテュスをきつく抱きしめてるのに、びっくりした。

ファントレイユがそっ…と隣の寝台の、レイファスに囁く。
「何か金髪の…凄い綺麗な人…居たよね?」
「…アシュアーク?」
「ええと…………」

ファントレイユは説明しようにも…確かに在った存在感がどんどん霧散して朧になっていく様に、困惑した。

どんどん…消えて行く。
確かに…あの金髪の美しい人は横に居て…けど、掴まえようとすると、灰のように崩れて…掻き消えて行く………。

レイファスは横のファントレイユの頬に、ぽろっ…と涙が滴り、頬に伝うのを見て、囁く。
「…うん…。
僕も、帰って来られて嬉しい」

ファントレイユは一瞬
『違う…』
と言いかけ、だが頷いた。

レイファスはファントレイユの大人のちゃらい騎士姿を、からかおうとしたけど、記憶がどんどん薄れて行くのに首、捻る。

飛び魔(イレギュレダ)や狂凶大猿(エンドス)や…。
けど、口にしようとすると途端、あれ程…怖かったその姿が、どんどんぼやけて行く。

掴まえようのない、霧のように。
「…確かに、居たよね?」

ファントレイユは咄嗟に顔上げ、大きく頷く。
『うん!!!居た!!!
あの金髪の美しい人は、間違いなく!!!』


テテュスはあんまり…アイリスがきつく、きつく抱く腕の中で、アイリスを必死に抱き返した。
記憶は砂の城のように崩れ、どんどん鮮明さを無くす中、アイリスの温もりだけが、確かなもののように思われて。

その、綺麗な形の青年の頬に頬寄せ、その濃紺の自分を見つめる瞳が、潤んでるのを見つめ返す。

「大好きだ。アイリス。
戻って来てくれて…」

そこ迄言って、喉が詰まる。
決して、決して失いたく無い人。

アイリスも感極まって、言葉が出ない。
ぎゅっ!と小さなテテュスの体を、抱きしめる。

確かに…大きかった。
肩並べる程。
数年先に、きっと会える。
けど今は…………。

小さな、愛おしい息子を抱きしめられた感激で、やっぱりアイリスは言葉出ず、ただテテュスをかき抱き続けた………。




 ディアヴォロスはワーキュラスが…微笑むのを感じた。
黄金に輝く彼が身の内に居るのを今は確かに、感じる。

途端、オーガスタスが目前で…潤む黄金の瞳を、向けていた。
もう…体当たるように抱きついていて…ディアヴォロスもが、感激で瞳が、潤んだ。

オーガスタスは無言で抱き付きながら、全身で告げていた。

“来てくれて嬉しい”

ただその言葉だけを、繰り返し繰り返しその温もりでずっと、語り続けていた………。

エルベスは起き上がるアルファロイスの横顔を見つめる。
もう…記憶が薄れ始めていた。
が、解った。
アルファロイスが何を思い…遠い目で消え行く幻影を追うのかを…。
宙に視線を、彷徨わせたまま。

エルベスですら、思った。
抱き止めた、大人のテテュスの感触。

アイリスと…重さは同じくらい。
けれど…そうあれは間違いなく…今のテテュスがそっくり大きくなったような…。
素直で誠実で…木訥な。

が、やはりそれがどんどん…空虚な幻となって消えて行く。

エルベスもアルファロイスも…その感触を思い起こしながらそれが記憶の中から消えて行くのを…黙して宙を、ただ見つめていた。

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