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第八章 『中央護衛連隊長就任』
華麗なるダンス
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その後女性達は足を前後に、腰が床に着くまで広げる。
ギュンターは以前
「足が痛くなって、あんまり広げられない」
と言ってたアナフラティシアが、他の女性よりうんと腰を下げているのを見た。
アナフラティシアは驚きに目を見開くギュンターに、にこっ。
と笑ってみせる。
差し伸べるアナフラティシアの手首を掴み、一気に引き上げる。
が、アナフラティシアはすっ、と立ち、二人は一回転して場所を入れ替え、再び女性達は足を前後に開いて、腰を低く落とす。
ディンダーデンの相手の黒髪の美少女は、あまり腰を下げられなくて、けれどディンダーデンに魅力たっぷりの笑顔で腕を引かれ、立ち上がって可憐に微笑んでた。
アルファロイスの妻、金髪美女のララベルと、そしてアイリスの伯母ニーシャ、アナフラティシアの三人は、ほぼ床に腰が着くほど低く、低さと体の柔らかさを競ってるように見えた。
ニーシャは妖艶な微笑を浮かべ、余裕。
一方アルファロイスの妻、ララベルは、表情も変えず気位が高そうでつんとして見えた。
けれど一番年若いアナフラティシアは、本当に嬉しそうで楽しげで可愛らしくて、会場の貴族達の、微笑を誘った。
ディアヴォロスの声が、ワーキュラスの声音で頭の中に響く。
“肩を落として、女性を肩に乗せる”
ギュンターはいっぺんでその動作を思い出し、今度は余裕で、アナフラティシアの横で腰を下げ、右肩下げて促した。
彼女は微笑んで、ギュンターの肩の上に腰を下ろす。
ディアヴォロスの気配を感じ、ギュンターは他の男性達に揃って立ち上がり、肩に乗せたアナフラティシアを、高く引き上げた。
ようやく、ギュンターにも他の踊り手達が視界に入る。
国王は陽気さを同族のアルファロイスと競い、けれど王妃はアルファロイスの妻、ララベルと違い、始終笑顔。
踊りが楽しくてたまらない様子ではしゃいでいた。
ディンダーデンは「左の王家」の少しぎこちない黒髪の美少女を、巧みなリードでカバーし、彼女の初々しさが際だって見えた。
ダンザインは隙無く密やかで、それでいて大胆。
銀髪の美少女は、始終ダンザインに見つめられ、うっとりした表情を見せていた。
ディアヴォロスの相手は栗毛の美女で、落ち着いた、たおやかな風情で、難なくこなしてる。
彼と同族のアドラフレンは、大輪の薔薇のようなニーシャを、上品で巧みなリードで、更にあでやかに見せる粋さを見せ、会場のため息を誘っていた。
ギュンターは嬉しそうに踊るアナフラティシアを、もっと楽しませようと、彼女を肩に乗せたまま、くるりくるりとその場を回る。
会場の視線は、ギュンターの肩の上で無邪気に笑顔を見せるアナフラティシアの可愛らしさに、魅了された。
正直ギュンターは、アナフラティシアに会場の視線が集中し、ほっとした。
ゆっくり優しく下ろした後。
女性達は男性の周囲を、ドレスを華麗に翻しながら、くるくる回って一周する。
他の男性達は、女性が回りやすいように、腰に手を添えてサポートする。
が、ギュンターは、アナフラティシアが少しもブレずに綺麗に回るので、添えた手が彼女の邪魔にならないよう、気遣った。
それが分かったのが、アナフラティシアは嬉しそうな微笑を、ギュンターに送った。
「…ディアヴォロスが見かねて、心話でギュンターに教えたみたいだな」
ローフィスの言葉を聞いて、子供達は一斉に、安堵のため息を吐く。
「…お前ら、そんなにギュンターを心配したのか?」
シェイルに言われ、レイファスはふくれっ面で言い返す。
「だって、お披露目の舞踏会なのに」
ファントレイユは頷く。
「恥なんて掻いたらどうしようって…思うよ。僕だって」
テテュスも、同意に頷く。
「やれやれ…。
ギュンターはまるで、見世物だな?」
突然背後から、聞き慣れた声。
ローフィスが思わず振り向く。
ゼイブンが姿を見せ、ファントレイユが一気に頬染めて、瞳輝かせる。
「ゼイブン…!」
ゼイブンは腿に抱きつくファントレイユを抱き止め、自分を凝視するローフィスと、間にディングレーを挟んだ横のアイリスを、交互に見つめ言い渡す。
「直、アースラフテスがミラーレスと治癒一団連れ、到着する…」
言われた途端、ローフィスとアイリスが、揃って顔を下げた。
ゼイブンの背後から、エルベスが姿を見せて皆に告げる。
「アースラフテスの依頼を受けて、私とダーフスで神聖神殿隊付き連隊長を通し、彼らに招待状を出した。
だって無茶しちゃマズイ病人が、わんさか居るから…!
彼らだって、出来るだけここでの消耗減らし、後の治癒を楽にしたいんだろう?」
ローフィスが、それ聞いてぼやく。
「…つまりその無茶しちゃマズイ病人の中に、俺も居るんだな…」
シェイルは感激滲ませて囁く。
「アースラフテスの配慮に心から感謝する…!」
オーガスタスも、心からほっとした様子で、やっと笑顔を見せた。
ゼイブンは顔下げて頷いていたが、ぼそり、と呟く。
「…で、俺はお前らの護衛しろと。
神聖神殿隊付き連隊長のお達し受けた。
幸い「夢の傀儡王」の一件は知れ渡り、普通の仕事は当分免除。
…無理ナイよな。
里中で、映像共有して大宴会が続いてる。
多分今日のこの舞踏会の映像も、ダンザイン通して里に流れてるぜ。
で、俺は。
休暇じゃなく、当分お前らが無茶しないよう見張れ。と。
ふざけきってると思うだろう?
…それにしてもここは、高貴な美女が山盛りだな?」
ローフィスが、俯いて囁く。
「…お前、俺とアイリス見張るつもりなんて、まるで無いな?」
エルベスとローランデが見ていると、アイリスも俯く。
「…単に、アースラフテスを案内してお役御免。
美女を口説きに来たんだろう…?」
エルベスが、すかさず口を出す。
「私の侍従を君に就けるから、口説いちゃマズイ美女は彼の意見に従って控えてくれ。
君の意向で、侍従がその美女と話を付けるように手配するから」
ゼイブンが満面の笑みを湛え、エルベスに寄ろうとした。
が、ファントレイユはゼイブンの、腿の衣服を放さなかった。
ゼイブンはまるで重し。の息子に、顔下げる。
「…ファントレイユ。
こういう滅多に来られない格上の舞踏会で、どれだけ高貴な美女を堕とせるか。
は男にとって大事な試練だ。
お前だって…ちっぽけな舞踏会や酒場でちょっとモテる、程度の低い色男の父親なんて、自慢出来ないだろう?」
「自慢出来なくていい!」
ゼイブンが腿に張り付く小さな息子に屈んで、説得に入り、皆がやれやれ。
と相変わらずお気楽なゼイブンに、首横に振りまくった。
アイリスはローランデに、じっ…と見つめられ、そっと屈むゼイブンに囁く。
「…私が神聖神殿隊付き連隊長に修まったら、君やローフィスは間違いなく、ここの常連になる。
二人は私の大事な右腕だから。
…その時になったら幾らでも、高貴な美女が口説ける。
だから今夜は、少しは息子の面倒見たら、どうだ?」
ゼイブンはふ…と、顔上げる。
そして…皆を見回した。
「夢の傀儡王」の結界に閉じ込められたメンバーが皆…この、国でも最高級の舞踏会に、将来自身の身分で顔揃える。
それが、おぼろに解った。
「その時は、ギュンターともディンダーデンとも挨拶程度できっちり、縁が切れてる事を願うぜ…。
ギュンター絡むといつも、大事に成るからな…!」
ゼイブンのぼやきに、オーガスタスは大らかに笑った。
「あっちもそう思ってる。
お前が絡まなきゃ、大事になるのを避けられる。
そうぼやいてたからな…!」
ゼイブンは直ぐ怒鳴る。
「俺じゃなく、原因はギュンターだろう?」
けど、ファントレイユが見上げて言った。
「でも、エリューデ婦人のとこでは、僕ら同様二人で、迷ってた…」
レイファスも俯く。
「アイリスの城に盗賊が押し寄せた時だって、ゼイブンとギュンターが二人で出かけて…ああなったんだよね?」
そういうレイファスを、横のテテュスはじっ…と見た。
ローランデも優しく言う。
「二人の取り合わせがきっと、大騒ぎになるんだ。
どっちのせいとかじゃなく」
ゼイブンは思い切り、異論を唱えたかった。
が、ローフィスに言われる。
「大して覚えてないだろうが…「夢の傀儡王」の結界で、命捨てる覚悟だった場を、大人のファントレイユに助けられたろう?」
ゼイブンは一つ、吐息吐く。
「…いいだろう…。
ファントレイユ。
今ギュンターがやってる見せ舞踊は、上手く踊れると舞踏会で目立ちまくるし、名だたる舞踏会の美女に踊りを申し込まれる。
難しい舞踊だから、練習と称してお前とでも踊れる。
この後…俺と踊るか?」
皆が一斉に、ゼイブンを凝視した。
「(本気か…?)」(ローランデ、アイリス)
「(あの、男めちゃ嫌い、女大大大好き。のゼイブンが息子とはいえ、男と踊るなんて…!)」(シェイル)
「(「夢の傀儡王」の結界で、頭しこたま、打ったのか…?!)」(オーガスタス)
ローフィスがその場の雰囲気ひしひしと感じ、皆に補足説明する。
「それ位、大人のファントレイユの登場に、俺達は助けられたんだ…。
このゼイブンが、ど・シリアスで60人の盗賊にたった一人で立ち向かい、俺一人逃がす気でいた…」
皆がそれ聞いて、それぞれ一度は里の能力者に、夢の傀儡王の結界での映像を、見せて貰ったことがあったので、一気に口閉じた。
ファントレイユはあどけない顔を上げ、父親を見つめる。
「…でもそれ、僕じゃないよ?
ワーキュラスが呼んだ、未来の僕だよ?」
「だが、お前だ」
ゼイブンに言われ、ファントレイユは嬉しげに思い切り、頷いた。
アイリスがすかさずテテュスに笑顔で振り向く。
が、口開く前に、声。
「テテュスの相手は私がする」
エルベスに釘刺され、アイリスは慌ててエルベスに振り向く。
「テテュスと舞踏会に出られる機会なんて…」
が、エルベスは傷付いた甥にきっぱり、言い渡す。
「この先、幾らでもある。
君がその肩の傷をすっかり治した後に」
エルベスに真顔で見つめられ、アイリスはがっくり。
と首垂れた。
レイファスはローランデに優しく
「私と踊ろうか?」
と誘われ、全開の笑みを披露した。
が、レイファスはシェイルと…そしてオーガスタスを見つめる。
気づいたシェイルは憮然とし
「お前、放り投げて受け止めたら手がイカれるし、ローフィス見張ってないと!」
と腕組んで言い、オーガスタスも朗らかに笑って言う。
「ローランデは踊りの名手として名高い。
今や北領地[シェンダー・ラーデン]の大公だから、こっち(都)に来る機会も少ない。
相手して貰える滅多に無い機会(チャンス)だぞ?」
が、ローランデはレイファスに屈み、微笑む。
「私の後に、オーガスタスに相手して貰えばいい…!
きっともっと、踊りを覚えられるから!」
それ聞いて、オーガスタスが項垂れるのを、ローフィスとシェイルは見た。
オーガスタスは、唸ってた。
「…名手の、ローランデの後に俺と…?」
アイリスが、ふと気づいて囁く。
「そういえば、オーガスタスが踊る様ってあんまり…見ないな」
ディングレーが、ぼそりとつぶやく。
「オーガスタスが踊ると、そこら中の婦人の熱い視線が集まって、その旦那に一斉に怒鳴り込まれるからだと。
ローフィスが言ってたぜ?」
皆が一斉に、オーガスタスを見る。
ローフィスは解説の為に口開く。
「なぜかオーガスタスは気品ある控えめな婦人に人気で、しかも大抵旦那持ち。
その旦那はこういう舞踏会では、大層身分が高いから、婦人の誘いに迂闊に乗ると大変な事になる」
「…だからあんまり、踊らないの?」
小さなレイファスに聞かれ、オーガスタスは肩竦める。
「酒場程度だったら旦那に喧嘩売られても、大丈夫だがな」
レイファスはローランデを見る。
「ローランデなら、平気?」
オーガスタスが、請け負った。
「睨むのは、ギュンターくらいだ」
が、ファントレイユとテテュスが見ていると、レイファスは途端、顔下げて震った。
けれどオーガスタスは、励ますようにレイファスに囁く。
「お前とローランデの踊りは、怪我人の踊り見た後じゃ、たいそうほっとする。
頼むから楽しそうに踊る姿を、俺に見せてくれ」
レイファスはようやく、顔を上げてにっこり笑った。
「…ディアヴォロス…そんなに怪我が大変そう?」
ディングレーとスフォルツァ、ラフォーレンが、エルベスにこっそり尋ねられ、三人は顔を見合わせる。
結果、ディングレーが
「オーガスタスが始終、心配しまくって、見てられないほどだ」
と言い、エルベスは頷くと
「ではしっかりミラーレスに治癒して頂こう…」
と言葉を返した。
ギュンターは以前
「足が痛くなって、あんまり広げられない」
と言ってたアナフラティシアが、他の女性よりうんと腰を下げているのを見た。
アナフラティシアは驚きに目を見開くギュンターに、にこっ。
と笑ってみせる。
差し伸べるアナフラティシアの手首を掴み、一気に引き上げる。
が、アナフラティシアはすっ、と立ち、二人は一回転して場所を入れ替え、再び女性達は足を前後に開いて、腰を低く落とす。
ディンダーデンの相手の黒髪の美少女は、あまり腰を下げられなくて、けれどディンダーデンに魅力たっぷりの笑顔で腕を引かれ、立ち上がって可憐に微笑んでた。
アルファロイスの妻、金髪美女のララベルと、そしてアイリスの伯母ニーシャ、アナフラティシアの三人は、ほぼ床に腰が着くほど低く、低さと体の柔らかさを競ってるように見えた。
ニーシャは妖艶な微笑を浮かべ、余裕。
一方アルファロイスの妻、ララベルは、表情も変えず気位が高そうでつんとして見えた。
けれど一番年若いアナフラティシアは、本当に嬉しそうで楽しげで可愛らしくて、会場の貴族達の、微笑を誘った。
ディアヴォロスの声が、ワーキュラスの声音で頭の中に響く。
“肩を落として、女性を肩に乗せる”
ギュンターはいっぺんでその動作を思い出し、今度は余裕で、アナフラティシアの横で腰を下げ、右肩下げて促した。
彼女は微笑んで、ギュンターの肩の上に腰を下ろす。
ディアヴォロスの気配を感じ、ギュンターは他の男性達に揃って立ち上がり、肩に乗せたアナフラティシアを、高く引き上げた。
ようやく、ギュンターにも他の踊り手達が視界に入る。
国王は陽気さを同族のアルファロイスと競い、けれど王妃はアルファロイスの妻、ララベルと違い、始終笑顔。
踊りが楽しくてたまらない様子ではしゃいでいた。
ディンダーデンは「左の王家」の少しぎこちない黒髪の美少女を、巧みなリードでカバーし、彼女の初々しさが際だって見えた。
ダンザインは隙無く密やかで、それでいて大胆。
銀髪の美少女は、始終ダンザインに見つめられ、うっとりした表情を見せていた。
ディアヴォロスの相手は栗毛の美女で、落ち着いた、たおやかな風情で、難なくこなしてる。
彼と同族のアドラフレンは、大輪の薔薇のようなニーシャを、上品で巧みなリードで、更にあでやかに見せる粋さを見せ、会場のため息を誘っていた。
ギュンターは嬉しそうに踊るアナフラティシアを、もっと楽しませようと、彼女を肩に乗せたまま、くるりくるりとその場を回る。
会場の視線は、ギュンターの肩の上で無邪気に笑顔を見せるアナフラティシアの可愛らしさに、魅了された。
正直ギュンターは、アナフラティシアに会場の視線が集中し、ほっとした。
ゆっくり優しく下ろした後。
女性達は男性の周囲を、ドレスを華麗に翻しながら、くるくる回って一周する。
他の男性達は、女性が回りやすいように、腰に手を添えてサポートする。
が、ギュンターは、アナフラティシアが少しもブレずに綺麗に回るので、添えた手が彼女の邪魔にならないよう、気遣った。
それが分かったのが、アナフラティシアは嬉しそうな微笑を、ギュンターに送った。
「…ディアヴォロスが見かねて、心話でギュンターに教えたみたいだな」
ローフィスの言葉を聞いて、子供達は一斉に、安堵のため息を吐く。
「…お前ら、そんなにギュンターを心配したのか?」
シェイルに言われ、レイファスはふくれっ面で言い返す。
「だって、お披露目の舞踏会なのに」
ファントレイユは頷く。
「恥なんて掻いたらどうしようって…思うよ。僕だって」
テテュスも、同意に頷く。
「やれやれ…。
ギュンターはまるで、見世物だな?」
突然背後から、聞き慣れた声。
ローフィスが思わず振り向く。
ゼイブンが姿を見せ、ファントレイユが一気に頬染めて、瞳輝かせる。
「ゼイブン…!」
ゼイブンは腿に抱きつくファントレイユを抱き止め、自分を凝視するローフィスと、間にディングレーを挟んだ横のアイリスを、交互に見つめ言い渡す。
「直、アースラフテスがミラーレスと治癒一団連れ、到着する…」
言われた途端、ローフィスとアイリスが、揃って顔を下げた。
ゼイブンの背後から、エルベスが姿を見せて皆に告げる。
「アースラフテスの依頼を受けて、私とダーフスで神聖神殿隊付き連隊長を通し、彼らに招待状を出した。
だって無茶しちゃマズイ病人が、わんさか居るから…!
彼らだって、出来るだけここでの消耗減らし、後の治癒を楽にしたいんだろう?」
ローフィスが、それ聞いてぼやく。
「…つまりその無茶しちゃマズイ病人の中に、俺も居るんだな…」
シェイルは感激滲ませて囁く。
「アースラフテスの配慮に心から感謝する…!」
オーガスタスも、心からほっとした様子で、やっと笑顔を見せた。
ゼイブンは顔下げて頷いていたが、ぼそり、と呟く。
「…で、俺はお前らの護衛しろと。
神聖神殿隊付き連隊長のお達し受けた。
幸い「夢の傀儡王」の一件は知れ渡り、普通の仕事は当分免除。
…無理ナイよな。
里中で、映像共有して大宴会が続いてる。
多分今日のこの舞踏会の映像も、ダンザイン通して里に流れてるぜ。
で、俺は。
休暇じゃなく、当分お前らが無茶しないよう見張れ。と。
ふざけきってると思うだろう?
…それにしてもここは、高貴な美女が山盛りだな?」
ローフィスが、俯いて囁く。
「…お前、俺とアイリス見張るつもりなんて、まるで無いな?」
エルベスとローランデが見ていると、アイリスも俯く。
「…単に、アースラフテスを案内してお役御免。
美女を口説きに来たんだろう…?」
エルベスが、すかさず口を出す。
「私の侍従を君に就けるから、口説いちゃマズイ美女は彼の意見に従って控えてくれ。
君の意向で、侍従がその美女と話を付けるように手配するから」
ゼイブンが満面の笑みを湛え、エルベスに寄ろうとした。
が、ファントレイユはゼイブンの、腿の衣服を放さなかった。
ゼイブンはまるで重し。の息子に、顔下げる。
「…ファントレイユ。
こういう滅多に来られない格上の舞踏会で、どれだけ高貴な美女を堕とせるか。
は男にとって大事な試練だ。
お前だって…ちっぽけな舞踏会や酒場でちょっとモテる、程度の低い色男の父親なんて、自慢出来ないだろう?」
「自慢出来なくていい!」
ゼイブンが腿に張り付く小さな息子に屈んで、説得に入り、皆がやれやれ。
と相変わらずお気楽なゼイブンに、首横に振りまくった。
アイリスはローランデに、じっ…と見つめられ、そっと屈むゼイブンに囁く。
「…私が神聖神殿隊付き連隊長に修まったら、君やローフィスは間違いなく、ここの常連になる。
二人は私の大事な右腕だから。
…その時になったら幾らでも、高貴な美女が口説ける。
だから今夜は、少しは息子の面倒見たら、どうだ?」
ゼイブンはふ…と、顔上げる。
そして…皆を見回した。
「夢の傀儡王」の結界に閉じ込められたメンバーが皆…この、国でも最高級の舞踏会に、将来自身の身分で顔揃える。
それが、おぼろに解った。
「その時は、ギュンターともディンダーデンとも挨拶程度できっちり、縁が切れてる事を願うぜ…。
ギュンター絡むといつも、大事に成るからな…!」
ゼイブンのぼやきに、オーガスタスは大らかに笑った。
「あっちもそう思ってる。
お前が絡まなきゃ、大事になるのを避けられる。
そうぼやいてたからな…!」
ゼイブンは直ぐ怒鳴る。
「俺じゃなく、原因はギュンターだろう?」
けど、ファントレイユが見上げて言った。
「でも、エリューデ婦人のとこでは、僕ら同様二人で、迷ってた…」
レイファスも俯く。
「アイリスの城に盗賊が押し寄せた時だって、ゼイブンとギュンターが二人で出かけて…ああなったんだよね?」
そういうレイファスを、横のテテュスはじっ…と見た。
ローランデも優しく言う。
「二人の取り合わせがきっと、大騒ぎになるんだ。
どっちのせいとかじゃなく」
ゼイブンは思い切り、異論を唱えたかった。
が、ローフィスに言われる。
「大して覚えてないだろうが…「夢の傀儡王」の結界で、命捨てる覚悟だった場を、大人のファントレイユに助けられたろう?」
ゼイブンは一つ、吐息吐く。
「…いいだろう…。
ファントレイユ。
今ギュンターがやってる見せ舞踊は、上手く踊れると舞踏会で目立ちまくるし、名だたる舞踏会の美女に踊りを申し込まれる。
難しい舞踊だから、練習と称してお前とでも踊れる。
この後…俺と踊るか?」
皆が一斉に、ゼイブンを凝視した。
「(本気か…?)」(ローランデ、アイリス)
「(あの、男めちゃ嫌い、女大大大好き。のゼイブンが息子とはいえ、男と踊るなんて…!)」(シェイル)
「(「夢の傀儡王」の結界で、頭しこたま、打ったのか…?!)」(オーガスタス)
ローフィスがその場の雰囲気ひしひしと感じ、皆に補足説明する。
「それ位、大人のファントレイユの登場に、俺達は助けられたんだ…。
このゼイブンが、ど・シリアスで60人の盗賊にたった一人で立ち向かい、俺一人逃がす気でいた…」
皆がそれ聞いて、それぞれ一度は里の能力者に、夢の傀儡王の結界での映像を、見せて貰ったことがあったので、一気に口閉じた。
ファントレイユはあどけない顔を上げ、父親を見つめる。
「…でもそれ、僕じゃないよ?
ワーキュラスが呼んだ、未来の僕だよ?」
「だが、お前だ」
ゼイブンに言われ、ファントレイユは嬉しげに思い切り、頷いた。
アイリスがすかさずテテュスに笑顔で振り向く。
が、口開く前に、声。
「テテュスの相手は私がする」
エルベスに釘刺され、アイリスは慌ててエルベスに振り向く。
「テテュスと舞踏会に出られる機会なんて…」
が、エルベスは傷付いた甥にきっぱり、言い渡す。
「この先、幾らでもある。
君がその肩の傷をすっかり治した後に」
エルベスに真顔で見つめられ、アイリスはがっくり。
と首垂れた。
レイファスはローランデに優しく
「私と踊ろうか?」
と誘われ、全開の笑みを披露した。
が、レイファスはシェイルと…そしてオーガスタスを見つめる。
気づいたシェイルは憮然とし
「お前、放り投げて受け止めたら手がイカれるし、ローフィス見張ってないと!」
と腕組んで言い、オーガスタスも朗らかに笑って言う。
「ローランデは踊りの名手として名高い。
今や北領地[シェンダー・ラーデン]の大公だから、こっち(都)に来る機会も少ない。
相手して貰える滅多に無い機会(チャンス)だぞ?」
が、ローランデはレイファスに屈み、微笑む。
「私の後に、オーガスタスに相手して貰えばいい…!
きっともっと、踊りを覚えられるから!」
それ聞いて、オーガスタスが項垂れるのを、ローフィスとシェイルは見た。
オーガスタスは、唸ってた。
「…名手の、ローランデの後に俺と…?」
アイリスが、ふと気づいて囁く。
「そういえば、オーガスタスが踊る様ってあんまり…見ないな」
ディングレーが、ぼそりとつぶやく。
「オーガスタスが踊ると、そこら中の婦人の熱い視線が集まって、その旦那に一斉に怒鳴り込まれるからだと。
ローフィスが言ってたぜ?」
皆が一斉に、オーガスタスを見る。
ローフィスは解説の為に口開く。
「なぜかオーガスタスは気品ある控えめな婦人に人気で、しかも大抵旦那持ち。
その旦那はこういう舞踏会では、大層身分が高いから、婦人の誘いに迂闊に乗ると大変な事になる」
「…だからあんまり、踊らないの?」
小さなレイファスに聞かれ、オーガスタスは肩竦める。
「酒場程度だったら旦那に喧嘩売られても、大丈夫だがな」
レイファスはローランデを見る。
「ローランデなら、平気?」
オーガスタスが、請け負った。
「睨むのは、ギュンターくらいだ」
が、ファントレイユとテテュスが見ていると、レイファスは途端、顔下げて震った。
けれどオーガスタスは、励ますようにレイファスに囁く。
「お前とローランデの踊りは、怪我人の踊り見た後じゃ、たいそうほっとする。
頼むから楽しそうに踊る姿を、俺に見せてくれ」
レイファスはようやく、顔を上げてにっこり笑った。
「…ディアヴォロス…そんなに怪我が大変そう?」
ディングレーとスフォルツァ、ラフォーレンが、エルベスにこっそり尋ねられ、三人は顔を見合わせる。
結果、ディングレーが
「オーガスタスが始終、心配しまくって、見てられないほどだ」
と言い、エルベスは頷くと
「ではしっかりミラーレスに治癒して頂こう…」
と言葉を返した。
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