アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

文字の大きさ
383 / 389
第九章 新しい生活

進む婚約式の準備

しおりを挟む
 エルベスがオーガスタスに告げる。
「それで…式の後、めでたい事なので、宴会を開くつもりなんですが…。
出て頂けますか?」

皆が一斉に、オーガスタスを見る。
「………出ても良いが…」

エルベスは、にっこり笑うとギュンター四兄弟に振り向く。
「作業してる全員に、声かけて頂けますか?」

ギュンター四兄弟は、お互いの顔を見合わせる。

アルンデルが代表で言った。
「声かけるのはいいが…」

が、会議後、持ち場に散っていった男の一人が、四兄弟の背後へと、駆け込んで怒鳴る。
「…荷馬車に食料品が、山と積まれて!!!
大勢のコック付きで、何台も到着してる!!!」

シュティッツェが振り向き、怒鳴る。
「ギュンターの知り合いの男の、婚約式の後、城中の男で祝いの宴会だそうだ!!!」

「ひゃっほーーーーー!!!」

アルンデルが振り向き、叫ぶ。
「全員に声かけろ!!!」

が、シュティッツェがほぞり…と言った。
「とっくにそこら中に、触れ回るに決まってる」

リンデルも頷く。
「問題は、城の作業してる人間、以外にも触れ回るかも」

ラッツェも呻いた。
「わんさか押し寄せたら。
絶対足りないぞ、食料」

エルベスは、目を見開いた。
「確かに、城の作業する人数の、倍の食料を注文しましたが…。
それより多いとなると、足りませんね」

シュティッツェが、それを聞くなり廊下をすっ飛び、走る。
「城の中の人間、限定にしとけ!!!
食い物が足りなくなるぞ!!!」
そう、怒鳴る声が遠ざかって行った。

ギュンターが、顔を下げて侘びる。
「すまん…。
なんせ貧乏領主ばっかで、しかも子だくさんで、更にいつも食料が足りないから…。
こういう機会があると、親たちはこぞって子供に
『ぶんどってでも腹一杯食え』
と連れて来る」

エルベスは素早く室内から出て行く。
「追加注文してきます!!!」
と叫んで。

三兄弟らは横を通り過ぎていく大公を見送り、顔をギュンターに戻す。
「気前の良いヤツだな」(アルンデル)
「大金持ちなのか?」(リンデル)
「…間に合うのか?」(ラッツェ)

ラッツェの言葉に、アルンデルとリンデルが揃って末弟を見る。
「どっちの話だ?」
アルンデルが聞き、リンデルも言う。
「シュティッツェか、大公か」

ラッツェは、肩すくめた。
「シュティッツェが間に合えば、食料が余るな」

が、アルンデルもリンデルも、同時に言った。
「それは無い」

けれどその時、突如兄弟の背後に、人が姿を現す。

とても長身な、その人物に
「場を開けてくれ」
と言われ、三人は固まった。

「…もしかして…人外の?」
アルンデルが、かろうじて聞くと、サーチボルテスは頷く。
「『光の里』の者だ。
女性を中に入れてくれ」

言われて三人が廊下を見ると、クリーム色の、花のコサージュが一面美しくちりばめられ、レースで飾られたドレス姿の女性と、明るい緑色が地色で、ピンクの薔薇の刺繍が美しいドレスを来た女性の、二人と。
着飾った三人の子供が、笑顔でやって来るのを見た。

三人は横に避けて、その華やかな集団を室内へと通す。

三人が『光の里』の男に視線を戻すと、彼は透けて行き、そして消えた。

そして三人は、しばらくの間固まった。

「…マディアン…」

オーガスタスは着飾った彼女を見た途端、名を呼んだきり…声が出なかった。

彼女は微笑んで、オーガスタスの前に進み出る。
それでもオーガスタスは言葉が出ず、とうとうローフィスが助け船を出す。

「あなたが、あんまり綺麗で。
彼は言葉を失ってる」

オーガスタスはその声に頷き、抱きついて来る彼女を、抱きしめた。

ディングレーはローフィスの横に、こっそり来ると
「俺の時も、頼む」
と小声で依頼した。

ローフィスはディングレーを睨む。
「いっつも、してるだろう?」
横にいるシェイルも、ローフィスの言葉に思い切り、頷いた。
「気づいてないの?
言葉が上手く出ない時。
突然黙って、ローフィスの言葉を待つくせに」

ディングレーはシェイルに言われて、項垂れた。

ディングレーの側にいたディンダーデンは、項垂れる王族の男を見る。
「言葉が出ない事なんて、あるのか?」

ローフィスが、代わって言った。
「慎重に話す必要が、ある相手の時は」

ディンダーデンは、思いっきり頷く。
「確かに俺も、そういう相手は徹底的に避けるし、避けきれない時は喋らない」

ディングレーは少し羨ましそうに、ディンダーデンを見た。
「…俺は避けられない」
ディンダーデンも、頷く。
「王族だしな。
逃げたら、王族の権威が台無しだ」

ディングレーは、その通りだ。
と頷いた。

「王族?
あんた王族なのか?」
ラッツェが、叫ぶ。

ディングレーが頷くと、ラッツェはギュンターに顔を向ける。
「王族なのに、なんで兄貴は敬わない?」

ギュンターは、ラッツェに説明する。
「王族ってのは格好つけてなきゃいけないんで、肩が凝るそうだ。
お前も、普段通りに接してやれば、あいつも思いっきり、地でいける」

ラッツェはしたり顔で頷く。
「なる程。ギュンターがダチできるはずだ」

だがギュンターは、頷いた。
「そうだ。
だから俺の仲間は身分高いヤツもいるが、地で話せるヤツばかりだ」

アルンデルが、頷く。
「…だいたいお前、敬語使えるのか?」
リンデルが言う。
「俺は、無理」
ラッツェも言う。
「使ったことない」

とうとう、室内の男達は、くすくす笑った。

アイリスは嬉しげにテテュスとファントレイユ、レイファスを見て
「とても素敵だ。
花嫁は幸運だ。
君達に祝われて!」
と告げ、テテュスはそんなアイリスに抱きつき、ファントレイユもレイファスも、嬉しそうに頬を染めた。

ローフィスは表情も変えないゼイブンに、振り向く。
ゼイブンはローフィスの視線を受け、唸る。
「俺の分も、アイリスが言った」

ディンダーデンは肩すくめる。
「こういうのも一応、父親だ」

ゼイブンはその皮肉に、眉を寄せた。

室内に入る者らを通すため、戸口の横に避けたアラィリン、ラデッサ、スフォルツァ、ラフォーレンらは、顔を見合わす。

スフォルツァが代表して言った。
「結婚式があるのか?」

アイリスが笑顔で振り向く。
「オーガスタスとその相手のマディアンとの、婚約式をするんだ!
君達も宴会に出られる時間があるなら。
祝ってあげてくれないか?」

ラフォーレンが、スフォルツァを見、スフォルツァが口を開きかけた時。
レイファスが言った。

「ギュンター、そっくり」

その声の後、ファントレイユがギュンターを見、テテュスも見、最後にレイファスも見た。

ギュンターの直ぐ上の兄、まだ戸口にいるアルンデルが、ギュンターに代わって言った。
「隠し子の、判明してる内の一人だ」

「まだいるの?!」
テテュスが目をまん丸にして叫び、ファントレイユはローランデを見る。
「…ローランデも…ギュンターに、“浮気して良い”
って…言ったの?」

聞かれてローランデは目を見開き、ギュンターが慌てて怒鳴る。
「俺の知らない間に出来た子だ!
知ってたらちゃんと面倒見てた!!!」

三人の子供は、ラデッサの横の、母親らしきアラィリンを見る。
見られてアラィリンは、にっこり、微笑んだ。

途端、真ん中にいるレイファスに、テテュスもファントレイユも顔を寄せる。
「そんな事、可能?」(テテュス)
「方法は、あると思うけど」(レイファス)
「後で聞かせて。
けどギュンター、ずっと知らなかったの?
浮気しないで子供って出来るものなの?」(ファントレイユ)

そこで三人は、一斉にゼイブンに振り返る。
ゼイブンは視線を注がれ、不愉快そうに怒鳴った。

「不可能に決まってる!!!」

ラフォーレンは発言を子供達に遮られ、口を開けたまま声を発せ無いスフォルツァを、気の毒げに見た。

アラィリンは、ラデッサに尋ねる。
「宴会ですって。
どうする?」
ラデッサは室内の男達と花嫁を嬉しそうに見つめる長身の体格良い男を見た後。
戸口のギュンター三兄弟を見る。
そして三人の年の近い子供達も見た。
「…面白いかも」
「じゃ、出ましょう」

そう言った時、ラフォーレンが満開の笑顔でスフォルツァを見る。
「彼女たちの警護が役目ですよね?!」

スフォルツァは右将軍補佐に
「出来れば早めに帰還して欲しい」
と要請されたことを、ラフォーレンも聞いてるので。
宴会に出たくて喜んでる。
と分かってた。

が、ため息吐くと、言った。
「分かった。
が、二人から目を離すな」

ラフォーレンは思いっきり、笑顔全開で頷いた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

処理中です...