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王族ディングレー私室を、アスランを連れて訪れるギュンター
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ディングレーはどん!と扉が音と共に揺れ、体当たったようなその衝撃に顔を、跳ね上げる。
扉を開けるとギュンターが、裸のアスランをシーツに包み、運んで来ていた。
扉を開けるなりずかずかと入り込み
「寝室はどっちだ?」
と尋ねるので、隣部屋を目で指すと、金髪の派手な美貌の男は一つ、頷いてずかずかとそっちに身を進める。
ディングレーはアスランを抱いて両手塞がってるギュンターを目にし、慌てて寝室の扉に駆け寄り、開けてやる。
ギュンターはその素早い対応に、感謝の代わりにまた一つ、頷いて、中へと入る。
ディングレーが戸口で見ていると、ギュンターは入った部屋の豪華さに一瞬足を止め、目を見開いて周囲を見回し、が思い直して寝台にアスランを、そっと下ろす。
心配げに見つめる、黒髪の美少年を見つめ返し、そっと囁く。
「…安心な奴を寄越すから。
…それまで、ここにいてくれ。
いいな?」
豪奢な金の髪に囲まれた、キラリと宝石のように輝く紫色の瞳の、ギュンターの美貌に見つめられたアスランは、こっくり。と頷く。
ギュンターはそっ…とその顔に、被さって…。
言って聞かせるような口づけをし、顔を離し囁く。
「何も…心配は要らない」
アスランはやっぱりギュンターの美貌に見惚れながらも、どこにも不安が無いように、微かに頷いた。
ディングレーは、心から感心した。
だってロクに話もしてない、相手な筈なのに。
アスランはもう、ギュンターをすっかり信頼してる。
ギュンターはさっ!と顔を戸口のディングレーに向ける。
見つめられてディングレーは、組んでいた腕を振り解く。
ギュンターはディングレーを真っ直ぐ見つめ、早口でつぶやいた。
「ローフィスってのが来て。
シェイルにアスランを頼めと。
だが俺は、シェイルを知らない。
それに…俺の部屋を、グーデン配下が見張ってたようだ」
ディングレーの、眉が寄る。
「奪還のつもりで?」
「多分な。
…俺がシェイルってのを探し、ここに連れて来るまで…。
悪いが、預かってくれ」
ディングレーは、ローフィスの意図がはっきり解った。
不器用な自分では、傷ついた繊細な少年の世話はとても無理と判断し、ギュンターにシェイルを勧めたのだと。
しかもそれは、正しい。
「…で、お前はどうした?
すごく、急いでないか?」
ディングレーにそう尋ねられたものの、ギュンターは話す間も惜しいように、戸口に歩を進めながら振り向く。
「故郷より急使だ!
誰かが急病だから、こっちでしか手に入らない薬草を手に入れ、直ぐ持って来いと!
俺は不案内だが、ここらでどこに行けば薬草が手に入る?」
ディングレーは吐息を吐いた。
「…何て薬草だ?」
ギュンターは慌てて、尻のポケットから丸めた書状を引き出し、見つめる。
「…シースムーク?」
ディングレーは一つ、頷く。
「高熱の時の、解熱剤だな」
言って、呼び鈴を手にし、引いて鳴らす。
直ぐ、隣室から侍従が顔を出す。
「シースムークを。
あるだけ彼に、渡してやれ」
主の言葉に、侍従は一つ頷き、ギュンターに顔を向ける。
「…少し、御待ちを」
そして直ぐに扉を閉め、下がる。
ギュンターはディングレーに、笑顔で寄って行った。
「ありがたい!常備してたのか?」
ディングレーはつい『医療室へ行くのが嫌で、一通り揃えた』とは言えず、俯く。
「幾ら、払えばいい?」
ギュンターに詰め寄られ、尋ねられ。
薬草の値段なんて知らないディングレーは、頭を横に振った。
「気にするな」
が、ギュンターの瞳がきつくなる。
「そうはいくか!
薬草は高価だ。
幾ら…あんたが金持ちだろうが。
…簡単に譲られる金額の、代物じゃない筈だ!」
が、世事に疎いディングレーは、眉間を寄せる。
「助っ人に入ってくれた、俺の礼だ」
ギュンターの、眉も寄る。
「俺は礼を期待して、助っ人に入ったんじゃない!」
…とうとう、ディングレーは面倒になって怒鳴った。
「金額なんて、知るか!
お前の必要な物を、俺が持ってる!
だからそれを友達に贈るのは、当然の事だ!
それとも俺を、友達と思わない気か?!」
言って、ディングレーは、はっ。とした。
友達。はマズかったかもしれない。
今後、事あるごとに友達面し、たかられても面倒だ。
が、ギュンターはまだ眉間を寄せていた。
「…貧乏人への施しじゃなくて?
本当に、会って間も無い大して知らない俺を、友達扱いする気か?」
ディングレーは、むっとして言った。
「一緒に喧嘩したろう?
それ位の好意は、受けたっていい筈だ」
ギュンターは即答した。
「受け取るには高価過ぎる」
「30ガリオン。
それだけ今、お持ちですか?」
侍従が戸口でそう、つぶやく。
手に、薬草を持って。
ギュンターは慌ててポケットを探り、袋の中から小さな銀貨を三枚、侍従に手渡す。
侍従はにっこり笑って、金を受け取り、代わりに薬草を差し出した。
が、ギュンターは薬草を手に、侍従に顔を寄せて小声で尋ねる。
「…そんなに安いのか?
第一、主人は金は受け取らない。と言ってるのに。
逆らって、後でぶたれないか?」
二人はこっそり、ディングレーを見た。
が、ディングレーは眉間を思い切り深く、寄せている。
「それ位でぶったりはしないし第一!
小声にする意味があるのか!
筒抜けだぞ!」
侍従はディングレーの怒鳴り声を聞いた後、ギュンターに顔を向けて囁く。
「知り合いが栽培しているので安く入手できますし、私のご主人様は、聞く耳をお持ちです」
ギュンターは、安堵して頷く。
が、顔を上げてディングレーに告げる。
「俺は金の貸し借りは、友達でも気をつけろと言われてる。
友情が、ぶっ壊れる要因になるからと」
ディングレーは髪が揺れる程頷き、呻いた。
「いいから行け。
シェイルには使いを出して、ここに来るよう俺が伝える」
ギュンターは目を、丸くした。
「…いいのか?
何から何まで」
ディングレーは一つ、吐息を吐くと言った。
「忘れてないか?
面倒を起こしたのは、俺の兄だ。
弟として、尻ぬぐいは当然だ」
ギュンターの紫色の瞳が、尊敬で輝いた。
「…偉いな。
俺ン家でグーデンのようなマネをしたら、とっくにぼこぼこに殴られて、後始末は自分でしろ!と怒鳴られてる所だ」
このセリフに、ディングレーはギュンターの熾烈な家庭環境を伺い見、どうしてギュンターが喧嘩っ早いのか、納得がいって青ざめた。
嵐が来たようなギュンターが去ると、マレーがくすくす笑う姿を目にする。
部屋の隅の大きな椅子で、事の始終を見ていたからだ。
『可笑しいか?』
聞いて、やりたかったがマレーが無邪気に笑う姿を見て、ほっとする。
表情が、無かった。
人形のように。
それが、氷が溶けたように微笑む様は、ディングレーを心からほっとさせた。
「シェイルはどうせ、まだ授業だ。
終わるまでここで預かるから…話す気なら、寝室へ行ってアスランと話せ」
マレーの表情が、突然泣き顔に変わる。
俯き、肩は震えていた。
片方の拳をきつく握り…もう片手でその手を、握り込んでいる。
ディングレーは吐息を吐いた。
やっぱり…自分は不器用だ。
人の気持ちを推し量れず、無様な事を言っちまう。
一つ、息を吸い呼び鈴を鳴らす。
直ぐ、侍従が顔を出した。
「…二年の…講義室を探し…シェイルを呼んで来てくれ。
ここに来るようにと」
侍従は頷くと、部屋を出て行った。
ディングレーは扉が閉まる音がした後、そっ…とマレーの座る椅子の肘掛に腰掛け、俯くマレーを見やる。
震えているマレーが、顔を上げるから。
ディングレーはギュンターを見習って、微かに頷いて微笑んだ。
「シェイルがじき来て、アスランの相手をしてくれる」
マレーは微かに頭を揺らし…寂しい笑顔を作って見せた。
ディングレーはその笑顔に胸が痛み…眉を悲しげに、寄せた。
扉を開けるとギュンターが、裸のアスランをシーツに包み、運んで来ていた。
扉を開けるなりずかずかと入り込み
「寝室はどっちだ?」
と尋ねるので、隣部屋を目で指すと、金髪の派手な美貌の男は一つ、頷いてずかずかとそっちに身を進める。
ディングレーはアスランを抱いて両手塞がってるギュンターを目にし、慌てて寝室の扉に駆け寄り、開けてやる。
ギュンターはその素早い対応に、感謝の代わりにまた一つ、頷いて、中へと入る。
ディングレーが戸口で見ていると、ギュンターは入った部屋の豪華さに一瞬足を止め、目を見開いて周囲を見回し、が思い直して寝台にアスランを、そっと下ろす。
心配げに見つめる、黒髪の美少年を見つめ返し、そっと囁く。
「…安心な奴を寄越すから。
…それまで、ここにいてくれ。
いいな?」
豪奢な金の髪に囲まれた、キラリと宝石のように輝く紫色の瞳の、ギュンターの美貌に見つめられたアスランは、こっくり。と頷く。
ギュンターはそっ…とその顔に、被さって…。
言って聞かせるような口づけをし、顔を離し囁く。
「何も…心配は要らない」
アスランはやっぱりギュンターの美貌に見惚れながらも、どこにも不安が無いように、微かに頷いた。
ディングレーは、心から感心した。
だってロクに話もしてない、相手な筈なのに。
アスランはもう、ギュンターをすっかり信頼してる。
ギュンターはさっ!と顔を戸口のディングレーに向ける。
見つめられてディングレーは、組んでいた腕を振り解く。
ギュンターはディングレーを真っ直ぐ見つめ、早口でつぶやいた。
「ローフィスってのが来て。
シェイルにアスランを頼めと。
だが俺は、シェイルを知らない。
それに…俺の部屋を、グーデン配下が見張ってたようだ」
ディングレーの、眉が寄る。
「奪還のつもりで?」
「多分な。
…俺がシェイルってのを探し、ここに連れて来るまで…。
悪いが、預かってくれ」
ディングレーは、ローフィスの意図がはっきり解った。
不器用な自分では、傷ついた繊細な少年の世話はとても無理と判断し、ギュンターにシェイルを勧めたのだと。
しかもそれは、正しい。
「…で、お前はどうした?
すごく、急いでないか?」
ディングレーにそう尋ねられたものの、ギュンターは話す間も惜しいように、戸口に歩を進めながら振り向く。
「故郷より急使だ!
誰かが急病だから、こっちでしか手に入らない薬草を手に入れ、直ぐ持って来いと!
俺は不案内だが、ここらでどこに行けば薬草が手に入る?」
ディングレーは吐息を吐いた。
「…何て薬草だ?」
ギュンターは慌てて、尻のポケットから丸めた書状を引き出し、見つめる。
「…シースムーク?」
ディングレーは一つ、頷く。
「高熱の時の、解熱剤だな」
言って、呼び鈴を手にし、引いて鳴らす。
直ぐ、隣室から侍従が顔を出す。
「シースムークを。
あるだけ彼に、渡してやれ」
主の言葉に、侍従は一つ頷き、ギュンターに顔を向ける。
「…少し、御待ちを」
そして直ぐに扉を閉め、下がる。
ギュンターはディングレーに、笑顔で寄って行った。
「ありがたい!常備してたのか?」
ディングレーはつい『医療室へ行くのが嫌で、一通り揃えた』とは言えず、俯く。
「幾ら、払えばいい?」
ギュンターに詰め寄られ、尋ねられ。
薬草の値段なんて知らないディングレーは、頭を横に振った。
「気にするな」
が、ギュンターの瞳がきつくなる。
「そうはいくか!
薬草は高価だ。
幾ら…あんたが金持ちだろうが。
…簡単に譲られる金額の、代物じゃない筈だ!」
が、世事に疎いディングレーは、眉間を寄せる。
「助っ人に入ってくれた、俺の礼だ」
ギュンターの、眉も寄る。
「俺は礼を期待して、助っ人に入ったんじゃない!」
…とうとう、ディングレーは面倒になって怒鳴った。
「金額なんて、知るか!
お前の必要な物を、俺が持ってる!
だからそれを友達に贈るのは、当然の事だ!
それとも俺を、友達と思わない気か?!」
言って、ディングレーは、はっ。とした。
友達。はマズかったかもしれない。
今後、事あるごとに友達面し、たかられても面倒だ。
が、ギュンターはまだ眉間を寄せていた。
「…貧乏人への施しじゃなくて?
本当に、会って間も無い大して知らない俺を、友達扱いする気か?」
ディングレーは、むっとして言った。
「一緒に喧嘩したろう?
それ位の好意は、受けたっていい筈だ」
ギュンターは即答した。
「受け取るには高価過ぎる」
「30ガリオン。
それだけ今、お持ちですか?」
侍従が戸口でそう、つぶやく。
手に、薬草を持って。
ギュンターは慌ててポケットを探り、袋の中から小さな銀貨を三枚、侍従に手渡す。
侍従はにっこり笑って、金を受け取り、代わりに薬草を差し出した。
が、ギュンターは薬草を手に、侍従に顔を寄せて小声で尋ねる。
「…そんなに安いのか?
第一、主人は金は受け取らない。と言ってるのに。
逆らって、後でぶたれないか?」
二人はこっそり、ディングレーを見た。
が、ディングレーは眉間を思い切り深く、寄せている。
「それ位でぶったりはしないし第一!
小声にする意味があるのか!
筒抜けだぞ!」
侍従はディングレーの怒鳴り声を聞いた後、ギュンターに顔を向けて囁く。
「知り合いが栽培しているので安く入手できますし、私のご主人様は、聞く耳をお持ちです」
ギュンターは、安堵して頷く。
が、顔を上げてディングレーに告げる。
「俺は金の貸し借りは、友達でも気をつけろと言われてる。
友情が、ぶっ壊れる要因になるからと」
ディングレーは髪が揺れる程頷き、呻いた。
「いいから行け。
シェイルには使いを出して、ここに来るよう俺が伝える」
ギュンターは目を、丸くした。
「…いいのか?
何から何まで」
ディングレーは一つ、吐息を吐くと言った。
「忘れてないか?
面倒を起こしたのは、俺の兄だ。
弟として、尻ぬぐいは当然だ」
ギュンターの紫色の瞳が、尊敬で輝いた。
「…偉いな。
俺ン家でグーデンのようなマネをしたら、とっくにぼこぼこに殴られて、後始末は自分でしろ!と怒鳴られてる所だ」
このセリフに、ディングレーはギュンターの熾烈な家庭環境を伺い見、どうしてギュンターが喧嘩っ早いのか、納得がいって青ざめた。
嵐が来たようなギュンターが去ると、マレーがくすくす笑う姿を目にする。
部屋の隅の大きな椅子で、事の始終を見ていたからだ。
『可笑しいか?』
聞いて、やりたかったがマレーが無邪気に笑う姿を見て、ほっとする。
表情が、無かった。
人形のように。
それが、氷が溶けたように微笑む様は、ディングレーを心からほっとさせた。
「シェイルはどうせ、まだ授業だ。
終わるまでここで預かるから…話す気なら、寝室へ行ってアスランと話せ」
マレーの表情が、突然泣き顔に変わる。
俯き、肩は震えていた。
片方の拳をきつく握り…もう片手でその手を、握り込んでいる。
ディングレーは吐息を吐いた。
やっぱり…自分は不器用だ。
人の気持ちを推し量れず、無様な事を言っちまう。
一つ、息を吸い呼び鈴を鳴らす。
直ぐ、侍従が顔を出した。
「…二年の…講義室を探し…シェイルを呼んで来てくれ。
ここに来るようにと」
侍従は頷くと、部屋を出て行った。
ディングレーは扉が閉まる音がした後、そっ…とマレーの座る椅子の肘掛に腰掛け、俯くマレーを見やる。
震えているマレーが、顔を上げるから。
ディングレーはギュンターを見習って、微かに頷いて微笑んだ。
「シェイルがじき来て、アスランの相手をしてくれる」
マレーは微かに頭を揺らし…寂しい笑顔を作って見せた。
ディングレーはその笑顔に胸が痛み…眉を悲しげに、寄せた。
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