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アイリスの減らず口、その理由(わけ)

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 アイリスは四年宿舎の廊下を、ローフィスと並んで歩きながら尋ねる。
「どうしてオーガスタス殿とリーラス殿は…免除なんです?」
「二人は課題を俺に、依頼する側だから」

アイリスはチラ…と背後を見る。
ディングレーとギュンターが、話しながら後を付いて来る。
「…あの二人は、戻るんですか?」
ローフィスはチラと振り向き
「…そんな感じだな」
と告げて自室の扉を開ける。

真面目なマレーとローランデはもう、腰掛けて羽根ペンを動かし、ヤッケルはまだ食べていて、フィンスは椅子の背に手をかけ、ちょうど椅子に座った所だった。

シェイルはローフィスを睨み
「なんでそいつの報告、僕は聞けないの?」
と文句付けた。

ローフィスは髪を掻くと俯き
「…四年向きだから」
と言い、背後からギュンターとディングレーが入室すると、シェイルにギン!と睨まれ
「…と三年」
ぼそりと付け足す。

ディングレーとギュンターは二人がけソファに腰下ろし、羽根ペンを持ち上げ、ローフィスも椅子に座るのを見て、アイリスはぼやいた。

「…本当に、私の手は借りないと?」

ローフィスは面倒くさそうにつぶやく。
「別にお前が参加したいというなら、断らない」

アイリスはヤッケルまでもがテーブルにつくと、羽根ペンを持ち上げるのを見て。
しかめっ面をしたものの、ヤッケルの横の僅かな隙間を見つけ、ヤッケルの横に立って尋ねる。
「ここ、使えます?」

ヤッケルは背もたれの無い丸い椅子を部屋の隅から持って来ると、横に置いて言った。
「どうぞ」

アイリスが座り、羽根ペンを渡され、手本の羊皮紙と白紙の羊皮紙を渡されながら、注意事項を言い渡されていた。

「綺麗な字はダメ。
見本はそこに吊ってあるあれ。
丸写しは禁止。
適当に文を変えて書く」

アイリスは吊ってある見本のギュンターの文字を見て
「…あれ…ほぼ読めなく無いですか?」
と尋ねる。
ヤッケルは無言で頷き、口開く。
「それぐらいじゃないと、講師に代筆とバレるそうだ」

アイリスは呆れつつも、全員無言でペンを走らすのを見て、文字を書き写し始めた。

暫く後
「眠くなってきた」
とヤッケルが言うと、フィンスが
「食べ過ぎだよ。
あんなに食べたら眠くなって当たり前」

「だな」
と、背後から声がするのでフィンスとヤッケルが振り向くと。
ディングレーの肩にギュンターがもたれかかって、うたた寝していた。

「…流石にあれだけの美貌だと、寝顔も綺麗」
ヤッケルがぼそりと言うと、ギュンターが言い返す。
「聞こえてる。
ちょっと目を閉じてただけだ」

そしてディングレーの肩を借りてたと気づくと
「…悪い。
綺麗ってのは女に言うセリフで、間違っても男に使うな!」
とヤッケルに怒鳴る。

シェイルが
「そうだよ!
綺麗って言われても、全然嬉しくないんだから!」
とギュンターに同意し、ギュンターも頷き倒す。

「ナニか?
ディングレーに綺麗とかって、使うかお前ら!」

ディングレーが、う゛っ…とペンと体を揺らす。
「…どうしてここで、俺を出す?
せめてアイリスだろう?」
と言い、今度はアイリスが声を張る。
「そりゃ、一発で綺麗だと目が行くのが、シェイル殿とギュンター殿だから。
つい、口から出ちゃうんですよ。
もし他人にあなた方の顔の特徴聞かれたら。
“綺麗”と言う形容詞は、必須です」

けどギュンターが
「…お前に言われてもな」
とため息交じりに言われ、シェイルにまで
「アイリスって…鏡見た事無いの?
綺麗って普通、女装がどれだけ似合うかでしょ?
アイリスだって絶対、女にしか見えないと思う」
とぼやいた。

アイリスはペンを走らせながら、ぼそり…と言い返す。
「…そりゃ女顔だとの、自覚はありますけど。
お二人程、目立ちませんよ?」

言った途端、フィンスもディングレーもローフィスまでもが、大きなため息を吐くので、アイリスは顔を上げた。

けれどヤッケルが、眠気覚ましに叫ぶ。
「女装大会って、おふざけでヤルよな?」

ローフィスが、半分閉じた目で叫ぶ、ヤッケルを睨む。
「…秋にな。
だがあれは、たいてい絶対似合いそうに無い、ごっつい男が女装して『誰が一番不気味か?』を競うのが醍醐味だ。
後は村の祭りの美女コンテストに、冗談で綺麗な男を女装させて紛れ込ませ、どれだけバレないかを競うのも確かにあるが…。
罰ゲームに近い」

ギュンターが、ぎん!と眼光鋭く怒鳴る。
「俺に女の服なんて着せやがったら!
そいつ、ぶっ殺す!!!」

ローランデとマレーが、その勢いにびっくりして目を見開き、ペン持つ手が止まるのを見て、ローフィスが囁く。
「…寝ぼけてるんだ。
寝起きだから」

ローランデとマレーは
『そっか』
とほっとして、またペンを走らせ始めた。

懲りないアイリスが、口開く。
「…でもきっと、ドレス凄く似合いますよ?
ギュン…」
「そこまでだ!
口閉じてないと、部屋から追い出す!」
ローフィスにぴしゃり!と言われ、アイリスはしぶしぶ口を閉じた。

「お前、墓穴を掘るって言葉の意味、もしかして知らないの?」
横のヤッケルに尋ねられ、アイリスがこっそり囁き返す。
「聞いてました?
私が口開くと、追い出すって」

ヤッケルは頷いて言う。
「人を逆なでする意見を吐いた時だろ?
今喋ろうとしたのがそうじゃないなら、ローフィスも怒らない」
アイリスは『ホントに?』とローフィスをこっそり見つつ、ヤッケルに言葉を返した。
「…いつもの習慣で、つい『勝った』と思うまで言い返してしまうんです」

ヤッケルも目を見開いたけど。
顔下げてペン走らせてる、フィンスとディングレーもそれを聞いて、無言で呆れた。

「…お前それ、最悪な習慣」
ヤッケルが言うと、アイリスは頷く。
「…ここに来て感じたんですけど。
実家は大公の叔父以外は、ほぼ女だらけなので。
大抵が口喧嘩なんで、どれだけ言い返しても平気で言葉が、帰ってくるんです。
でも男だらけの『教練キャゼ』では。
大抵途中から、怒られるか拳握ってきますよね?
幸い私は大貴族なので。
殴りかかられた事は無いですけど」

それ聞いてローフィスが
「…大貴族で、良かったな…」
とぼそりと言い、ディングレーも頷きながら
「平貴族ならとっくに顔の形、変わってたぞ」
と言葉を足す。

アイリスは、ローフィスとディングレー。
そしてディングレーの横でぷりぷり怒ってるギュンターらを、見回して言う。

「…男って喋るの苦手で、直ぐ暴力で言う事、聞かせようとしますよね?」
ヤッケルがとうとう
「俺今、女と喋ってる?!」
と叫び、ローランデとマレーを笑わせた。

ローフィスが頷いて
「覚えとけ。
口でいいように翻弄すると、男相手なら直ぐ殴られる。
言った後、逃げる用意しとけ」
と忠告する。
アイリスが殊勝に
「心がけます」
と頷くのを見て、ディングレーは歯を剥いて異論を唱えた。
「もっと発言する前に!気遣って言葉を選ぶべきだと!
警告すべきだ!」
ギュンターも大きく頷いて、同意する。
「言った後じゃ、遅すぎる!
言われた方は、めちゃくちゃ腹が立ってるからな!」

ローフィスは二人の意見を聞いた後、アイリスにぼそっ、と言った。
「男って真っ当で、言われたことそのまんま、受け取るから。
口から産まれて来たような女と違って、ダメージ、デカいんだ」

アイリスはペンを宙で止め、暫し羊皮紙を見つめたまま、つぶやいた。
「…つまり私の言葉は、攻撃と同じ?」

ヤッケルは呆れて言う。
「お前それ。
気づかず拳振り回しまくってるのと、同じだぞ?」

アイリスは暫く、固まったまま。
やっとほっ。と短く吐息といき吐いて言った。
「…ああそうか…。
私がいつも一緒に同行するのは、大人の男ばかりだから…。
みんな笑って、受け流してくれるけど。
年が若いと、真に受けてかっか来るんですね?」

ローフィスは呆れきって、髪梳き上げ呻いた。
「お前ずっと、気づかなかったの?
わざとやってんのかと思いきや…」

アイリスは、ローフィスを睨んだ。
「わざとだなんて…!
そんな性格、悪くないです!」

ローランデが、優しく口挟む。
「でも分かるよ。
いつも大人の男相手にしてると、同年の男の子が相手の時、反応が読めなくて、凄く戸惑うよね?」

アイリスはにっこりと、一つ年上の貴公子に微笑んだ。
「分かって頂けて、嬉しいです」

ローランデはとても感じ良く、にっこり微笑み返すので。
アイリスがローランデに好感持ちまくったのが、その場の誰もに一発でバレまくった。
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