若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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戻って来たレナルアン

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 フィンスとヤッケルは、ひとしきり楽しく猥談し、笑いこけた後。
ノックの音に、ぎくっ!と身を揺らした。

恐る恐る扉に振り向く。
召使いはもう下がらせてしまったので、フィンスはそっ…と腰を上げ、扉を開けに行く。
開ける前、背後のソファに座るヤッケルにこっそり振り向くと、ヤッケルは顔を下げていた。

フィンスは意を決し、扉を開ける。
案の定オーガスタスが立っていて、フィンスは長身の上級生を見上げ
「…やっぱり、引き取り手がいなかったんですね?」
と、小声で尋ねる。

オーガスタスは頷くと
「セシャルの引き取り手がいたから、お前に優先的に聞く。
ラナーンとレナルアン、どっちを取る?」

唐突に言われ、フィンスは固まる。
背後のヤッケルが、即座に答えた。
「レナルアン。
ラナーンをシュルツの元に運ぶ」

オーガスタスは、フィンスを見下ろす。
フィンスはヤッケルの意見に、うんうん。
と、二度頷いた。

「…いいんだな?」
オーガスタスに念押しされ、フィンスはまた、頷いて言った。
「ヤッケルとシェイルは良くこの部屋に来ますが…。
二人とラナーンは遺恨があるので、ラナーンが居ると正直、気まずい」

オーガスタスは顔を下げ、フィンスの顔に顔を近づけ、改めて尋ねる。
「ホントにレナルアンで、納得なんだな?」
フィンスは顔が強ばってたけど。
しっかりした口調で、請け合う。
「大丈夫です」

オーガスタスはやっとフィンスの目前をどく。
すると背後に、レナルアンを腕に巻き付けたギュンターが、立っていた。
「…ここでいいって?」
オーガスタスを見上げ、ギュンターはそう尋ね、オーガスタスは頷く。

ギュンターはレナルアンを腕に巻き付けたまま、入って来る。
フィンスは横に退き、ソファに座るヤッケルは、目を見開いた。

「…離れないのか?」

ギュンターに腕を巻き付け、頬染めてギュンターに見惚れてたレナルアンは、ヤッケルに振り向く。
「今の、俺に聞いた?」

ヤッケルは首を大きく、横に振る。

レナルアンとヤッケルに見つめられ、ギュンターは二人を交互に見た後、ぼそり。
と言った。
「ディングレー私室から、ずっと」

ヤッケルは無言で頷く。

オーガスタスは戸口でギュンターに
「ラナーンをシュルツの部屋に運んでくれ。
俺はセシャルを三年宿舎に送ってく」
と声かけ、廊下に姿を消す。

ギュンターは、レナルアン、ヤッケルの順に見つめ
「ラナーンって、ダレだっけ?」
と尋ねた。


ギュンターが寝室を覗いた時。
ラナーンは目を閉じていたけれど、ぱちっ!と開けて、ギュンターを見る。
ギュンターはラナーンに寄ると
「昼間、会ったな?
あのせいで、酷い扱い受けたのか?」
と聞く。

けれどラナーンは、ギュンターが直ぐ側に立っているのを見、頬を染めまくって囁く。
「…やっぱあんた、凄く綺麗♡」

けど突然レナルアンが乱入すると、またギュンターの腕に腕を巻き付け、ラナーンに怒鳴る。
「ギュンターは俺の!」
「…さげんな!」
掛け布団を跳ね上げ、ラナーンは飛び起きると、巻き付けたレナルアンの腕を掴みにかかる。

ギュンターはラナーンの腕を掴み、レナルアンとの揉み合いを阻止しようとした。
が、レナルアンはギュンターに巻き付けた腕を外し、ギュンターの背後を回って、反対側の脇から顔を出し、ラナーンを挑発する。
「バーカ!
捕まるかよ!」

ラナーンはギュンターに腕を掴まれながらも飛びかかろうとし、ギュンターは決死でラナーンの腕を掴み、引き留める。
首を背後に振って、扉から顔だけ出して見てる、ヤッケルとフィンスを怒鳴りつけた。
「見てないで、止めろ!」

ギュンターに吠えられ、二人は顔を見合わせ、ヤッケルが小声でフィンスに尋ねる。
「どっち?」
「…先に決めていいのか?」
フィンスに聞かれ、ヤッケルは顔下げる。
「…体格からしたら、俺がラナーンね」
フィンスは頷く。

ギュンターはレナルアンが、背後から右脇、左脇と交互に顔を出し、掴みかかろうとするラナーンをからかいうのを見て、睨み付けようとする。
が、睨む前に自分の背に隠れられ、その都度飛びかかろうとするラナーンの腕を引き、必死で二人の喧嘩を止めていた。

やっと、ヤッケルが飛び込んで来ると、またひょい!とギュンターの背後から右脇に顔を出す、レナルアンに飛びかからんばかりのラナーンの、背後から抱きつく。

「放せっ!!!」

ラナーンに叫ばれるものの、小柄なヤッケルですら、ラナーンより体が大きい。

フィンスはギュンターの背に張り付くレナルアンの、背後から胴に腕を回し、ギュンターの背から引き剥がした。

が、レナルアンは胴に後ろから腕を巻き付けるフィンスを、振り向いて見上げ
「あ、俺バックから迫られるの、凄くヨワい」
と頬染めて明るく告げる。

フィンスはあえて怖い顔をし
「ここで喧嘩は禁止!」
と脅した。

が、レナルアンは陽気に笑う。
「俺は、からかっただけ。
喧嘩したいのは、あいつ」

と、胴に腕回す、フィンスの腕に手を添えて、あっけらかん。
と言って退ける。

ギュンターはヤッケルに寄ると
「後は俺がする」
と言い、屈んでラナーンの膝下に腕を入れ、もう片腕ラナーンの背に添えると、一気に抱き上げた。
ヤッケルはラナーンから両腕、ぱっ!と放し、ラナーンは抱き上げるギュンターの首に、腕を回す。

レナルアンを背後から捕まえてるフィンス。
そして背後からフィンスに抱かれてるレナルアンの横を、ラナーンを抱き上げたギュンターが通る際。
ラナーンはギュンターの首に回した腕を引き寄せ、胸にしなだれかかって、レナルアンに舌を突き出す。

フィンスもヤッケルも、子供っぽい仕返しするラナーンに呆れる中、レナルアンは言って退けた。
「お前より、ギュンター、俺に落ちるし。
テクナシのお前がいいって変態は、グーデンくらい」

ギュンターはレナルアンの捨て台詞を聞いた途端、急ぎ足で扉に向かう。
が、ラナーンは振り向いて、足をバタつかせまくり、空を蹴り上げた。

ギュンターは腕の中で暴れるラナーンを見て
「よせ!
落ちたいのか!!!」
と眉間寄せて怒鳴り、ラナーンは口尖らせると
「首に抱きついてるから、落ちないし。
あんたは俺に、オチるよな?」
と言い返す。

ギュンターは取り合う気が無い無表情で、さっさと扉を潜ろうとする。
が、ラナーンが言った。

「俺が、あんたと寝たい。
って言ったら?」
ギュンターが、ぼそり。と告げる。
「恋愛抜きなら、断らない」

その返答を聞いたレナルアンは、部屋から出て行くギュンターの背をきっ!睨み付け、わめく。
「ナニそれ!
じゃ俺が“寝たい”って言ったら?!!!!」

ギュンターの消えた、扉の向こうから
「…だから恋愛抜きで、情事だけなら。
基本俺は、誘いを断らない」
と遠ざかって行く、ギュンターの声がする。

レナルアンは思わず叫び返した。
「つまりそれ、あんたに恋しなきゃ、俺とでも寝るってコト?!」

レナルアンを背後から抑えてるフィンスと、ヤッケルが呆れつつも顔を見合わせてると。
廊下へと続く扉を開ける音と共に、ギュンターの
「そうだ!!!」
と叫ぶ声がし、その後、バタン!!!と扉の閉まる音がした。

レナルアンはフィンスに振り向くと
「分かるよ?!
俺だって、恋愛感情ヌキでずっとグーデン配下の無骨男らと、寝てきたから!!!
けどさ、あれってアリな訳?!
あんたらの常識から言って!!!」
と叫ぶので、フィンスとヤッケルはまた、顔を見合わせた。

結果、フィンスがぼそり、と呟く。
「ギュンターは私達の常識から、いちじるしく外れてるし」

レナルアンがヤッケルに振り向くと、ヤッケルは腕組みし、二度、頷いた。
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