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『教練(キャゼ)』への帰還中の女性の絡んだドタバタ劇
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『教練』目指し駆け始めて間もなく。
向かいから、濃い緑色の護衛連隊、隊服を着けた一群が向かって来る。
皆、一斉に道の脇に馬を寄せ、すれ違おうとした際。
先頭のオーガスタスを見、隊長らしき騎士が声かける。
「盗賊は、この先か?!」
すかさずローフィスが叫ぶ。
「崖道の、上がって直ぐ!
皆手負いだが、動ける者は逃げてるだろうな!」
隊長は感謝の笑顔を浮かべ、言葉を返す。
「逃げ込む先は、予想出来てる。
だが毎度、捕まらなくてね!」
五人居る後続の騎士らは、馬上ですれ違い様、皆に会釈して行く。
オーガスタスが、振り向いて怒鳴った。
「『教練』講師が、連絡したのか?!」
その迫力ある声に、隊員騎士らはこぞって振り向き、隊長が怒鳴り返す。
「転がってるだろうから、拾って逮捕してくれと!
連絡を受けた!!!」
護衛連隊騎士らは、馬を止めること無くそのまま駆け去り、リーラスがぼそりと
「講師のヤツ、確信犯だな」
と呟き、横のローフィスもが、頷く。
「オーガスタスがいるから。
間違いなく退治すると、思ったんだろうな」
ギュンターは馬を、護衛連隊が通り過ぎて開いた横へと導き、尋ねる。
「助っ人として、寄越したんじゃ無くて?!」
リーラスは、ギュンターを見てぼやく。
「オーガスタスはとっくに、生徒の粋なんて超えてる。
盗賊退治任せたのだって、腕がなまらないようにと。
ストレス解消だろうな。
…ところでローフィス。
女同伴の時は、殺さないんだな?」
ギュンターが横並びの二人を見ると、聞かれたローフィスは俯いて頷く。
「…そういや、騎乗して女連れ。
って、初めてのパターンか?」
リーラスが、その言葉に頷き返す。
ローフィスが、顔を上げてリーラスを見る。
「基本、女連れの時は、極力悲惨な事は避ける」
リーラスは少し納得出来ない表情で、憮然と言った。
「目配せくれたから、気づいたが。
後片付けが必要な時は、声かけとけ」
途端、二人はふと、じっ…と会話を聞いてる、一番外側に居るギュンターに気づく。
リーラスはローフィスを親指で指して、説明始めた。
「こいつが短剣投げて、殺し損ねたヤツを沈めるのが、俺の毎度の役目だ」
ギュンターは見えない程早く正確だった、ローフィスの短剣技を思い返し、呟く。
「ハズす事なんて、あるのか?」
ローフィスは頷き、リーラスが口開く。
「馬に乗って無くて、接近戦だとな。
群れて揉み合ってる時、オーガスタスはローフィスにしか、短剣使わせない」
ギュンターは察して呻く。
「…仲間が、逆に危険だから?」
リーラスが、大きく頷いた。
ギュンターは少し俯き、ローフィスを見る。
「…いつもは、殺すのか?」
リーラスは目を見開き、ローフィスは真顔で告げた。
「地元のゴロツキは、手に負えない連中以外は、殺さないが。
崖を越えて来た奴らは、毎度必ず」
ギュンターがリーラスを見ると、リーラスは呆れて告げる。
「当然、殺すだろう?
奴ら、さらう価値のない女子供、更に抵抗する力無い老人や病人ですら、容赦無く殺す。
地元のゴロツキは、俺らが可愛がってやるが。
物騒な崖越え盗賊は、ほぼオーガスタスとローフィスに任す」
ギュンターは体格良く偉そうなリーラスを、目を見開き見つめて問うた。
「…あんたは、高見の見物か?」
「俺と仲間達は、二人が殺し損ねた奴らを殺る」
ギュンターはため息交じりに頷く。
「つまりもう。
連係プレーが出来てるんだな」
ローフィスは笑う。
「お前とディングレーは、説明しなくても俺達に付いて来れるだろう?」
ギュンターが頷いてると、ローフィスの背後の令嬢が口開く。
「地元のゴロツキと、崖越えの盗賊の、見分けってつくんですの?」
皆、一斉に令嬢に振り向く。
少し前を駆けてるディングレーが、振り向き呆れた声で告げる。
「…崖越え盗賊に狙われてたら。
あんたとっくに、捕まって売られてたぞ?」
リーラスが俯く。
「…いや。
さらわれたのは多分、年の割に体のエロい美人護衛の方で、彼女は…」
ローフィスは慌てて令嬢アレクサンドラに振り向き、リーラスの言葉を取りなした。
「いや!
まだ成熟してない美人を調教したがるスケベ親父に需要があるから、さらわれてたさ!」
ディングレーがその説明に顔を、思いっきり下げ。
後ろのグリネスは、振り向いてローフィスを怒鳴りつける。
「せっかく戦ってる時は格好いいと、見直したのに!
どうして、そういうスケベ発想しか出来ないのかしら!
それに貴方も!!!」
と、リーラスを激しく睨み付ける。
「どこが、エロいんです?!」
咄嗟、ローフィスはリーラスに振り向き、先頭のオーガスタスは
「ヤバい相手に、とんでもない質問、しやがって…」
と顔下げて呻く。
リーラスはジロジロと斜め前のグリネスを見
「だって胸だけでなく、尻も凄く、むっちりしてるし。
それで16で処女とか言われても、ダレも信じないと思うぞ?!」
と、恐ろしい言葉を、しらっと吐いた。
オーガスタスは振り向くと、ディングレーに顎しゃくり、ディングレーは慌てて振り向くと、馬の尻から飛び降りそうなグリネスの腕を咄嗟、手綱握ってない手で掴み、馬上に引き留める。
「こんだけ速度上げてるのに!
飛び降りて、あいつに襲いかかろうとか、するな!」
と激しく怒鳴り付ける。
グリネスはディングレーに止められ、振り向いてリーラスを、殺気すら混じる凄まじい目で、睨み付けた。
ローフィスとギュンターが、呆れ混じりにリーラスを見つめてると。
リーラスは、肩すくめて言葉を吐く。
「…美人が睨むと。
誘ってるとしか、思えない」
ギュンターとローフィス、ディングレーですら、呆れて言葉の出ない中。
オーガスタスが先頭で
「お前、いつか絶対、女で命落とすぞ!!!」
と全員を代表して、怒鳴った。
が、リーラスは真顔で
「…腹上死で?!」
と叫び返し、皆、分かってないリーラスに、首を横に振りまくった。
『教練』の校門を駆け抜ける。
門番が飛び出て来て
「その女性は?!」
と叫ぶ。
オーガスタスは振り向いて
「講師は承知だ!!!」
と叫び返した。
講師らの居住してる建物の、玄関階段前へと馬を着け、オーガスタスがディングレーとローフィスに、首を振る。
二人は先に降りると、女性二人に手を貸し、馬から下ろす。
グリネスは降りると直ぐ、リーラスの馬へと寄って行き、馬上のリーラスを叱りつけた。
「女性に向かって!
エロい体って、ナニよ?!」
激しく噛みつくグリネスを馬上から見下ろし、リーラスはやっぱり、しらっ、と言い切る。
「最上の、褒め言葉だ」
グリネスは、更に怒鳴った。
「どこが!
貴方、女性の体しか、見てないの?!」
リーラスは真顔で頷く。
「まず、最初が胸で。
次が尻。
君は胸の形も尻の形も、綺麗な上色気もあって、最高にイイ女だ」
「褒めてないわ!」
が、リーラスは頷いて言う。
「16で無ければ。
真面目に、口説いてた」
その時、グリネスはマトモにリーラスの顔を見てしまった。
よく見ると、切れ長の瞳の、整った顔の男らしいハンサム。
肩幅も胸も広く、背も高く逞しかった。
見つめ続けるグリネスの頬が、ほんのり赤く、染まり始める。
その件を見た途端、オーガスタスはディングレーとローフィスに首振って
「後を頼む」
と言い、ギュンターに
「ローフィスについて、令嬢の視線を釘付けさせとけ」
と命ずる。
ギュンターは、皆の馬を従え、厩に向かうオーガスタスに、歯を剥く。
「俺はカオだけか?!」
オーガスタスは頷きながら馬達を従え、去って行く。
ローフィスが階段を上がりかけ、令嬢に振り向くと。
令嬢はディングレーとギュンターの間に挟まれ、頬染めて二人を交互に見つめてた。
「お二人とも、背がとってもお高いのね?」
ディングレーは顔を背ける。
「頼むから、俺にはその気になるな。
縁談の嫁候補として、家にあんたの肖像画まで、来てるから」
令嬢は、頬に両手当ててディングレーを見る。
「…まさか…「左の王家」の、ディングレー様?!
あの?!」
言われてディングレーは、俯く。
「(…あの?)
…どの…あのだ?」
ローフィスは階段上がりつつ、背後に続くディングレーの、そのアホな返答に、がくっ。と首下げた。
「…だっ……。
ああそう言えば…真っ直ぐな…長い黒髪と青い瞳は…我が家に届いた肖像画と、同じですわ?」
「どこがどれだけ、肖像画と違う?」
令嬢は慌てて、首に下げた宝石付きの豪華なロケットを出し、蓋を開けてディングレーに差し出す。
「肖像画を写し取った、ミニチュアですわ。
母がこの方と絶対結婚出来るよう、常に身に着けろと…」
ディングレーは屈み、反対横のギュンターですら、覗き込む。
そこには髪型と目の色、だけは同じながら、ひ弱で軟弱な色男が笑顔で描かれていた。
「……………………………」
ギュンターは言葉が出ず、ディングレーは怒髪天を突く。
「…別の男の肖像と、絶対間違えてるだろう?!
第一宮廷舞踏会で、俺に紹介されてたのに、覚えてナイのか?!」
令嬢は、目を見開いてディングレーを見る。
「あの…最近のことですの?」
ディングレーは言い淀み
「…いや。
もっとガキの頃の話だ。
確か…10になったかならないかで…そんなトシで、将来の嫁としてどうだ?
とお前の親父さんに言われたって、普通10才のガキなら、呆れて相手にしない」
と、だんだん小さくなる声で、答えた。
令嬢は目を見開くと、ディングレーを人差し指で指して呟く。
「…あの…もしかして…。
どう見ても悪餓鬼にしか見えない…王族の…?」
ギュンターが見てると、ディングレーは顔下げて
「…悪餓鬼にしか見えず、悪かったな」
と呟く。
その後、言い訳をした。
「あの時は、犬が噴水に落ちて出られなくなって。
俺が飛び込んで助け出した後、滑って転んで泥だらけで。
…だからだろう?
お前の親父、俺が王族だから一応、丁寧語だったが。
娘が病気になると困るから、出来れば直ぐ、着替えて欲しいと。
俺に言ったのを覚えてる。
たったあの程度の泥で、病気を心配するなんて。
どれだけ過保護な親父だ、と呆れた」
けれど令嬢は、ミニチュア肖像画とディングレーを見比べ
「ぜんっぜん、違うわ?!」
と叫ぶ。
ディングレーは俯ききって
「肖像画通りなら、俺はとっくに自殺してる」
とぼやいた。
令嬢は横で、ギュンターが同意するように頷くのを見、もう一度ミニチュア画像を見る。
「でもこの絵の方…。
誰に見せても、素敵♡って言われるわ。
ちょっと…貴方系よね?」
そう言われ、令嬢に見上げられたギュンターは、一瞬で固まる。
「…俺…こんなイケすかない、ニヤケ男に似てるのか?」
思いっきりトーンの落ちた声でギュンターに聞かれても、ディングレーは直ぐ返答できず
「…お前はこんな、スケベでだらけた笑顔は、浮かべない」
と、何とかフォローした。
「あら。
素敵な笑顔なのに」
ミニチュア画を見つめ、そう呟く令嬢から。
ギュンターもディングレーも揃って顔を、背けた。
階段を上がりきる前に、オーガスタスが駆けて戻って来て、振り向くギュンターに
「途中で馬丁に出会ったから、預けてきた」
と告げた。
その時、オーガスタスの前で階段上がってた、険悪なグリネスとリーラスの二人は。
揃ってオーガスタスに振り向いたが、その拍子にグリネスが階段に足を乗せそびれ、バランス崩して階段から落ちかける。
すかさずリーラスが腕を掴み、抱き込んで転ぶのを止めた。
オーガスタスはグリネスが、リーラスの逞しさと男らしさに頬染めて見上げるのを見た。
「あの…。
もう大丈夫だから」
グリネスの言葉に、リーラスは笑う。
「抱き心地が良かったから、つい…」
そう言って、グリネスの体を放す。
その後、オーガスタスはグリネスがリーラスを意識し、頬染めて俯き、睨むのも言葉で噛みつくのも止める様子を見
「(…これだから、リーラスは懲りずにつけ上がるんだ)」
と、ため息を吐いた。
向かいから、濃い緑色の護衛連隊、隊服を着けた一群が向かって来る。
皆、一斉に道の脇に馬を寄せ、すれ違おうとした際。
先頭のオーガスタスを見、隊長らしき騎士が声かける。
「盗賊は、この先か?!」
すかさずローフィスが叫ぶ。
「崖道の、上がって直ぐ!
皆手負いだが、動ける者は逃げてるだろうな!」
隊長は感謝の笑顔を浮かべ、言葉を返す。
「逃げ込む先は、予想出来てる。
だが毎度、捕まらなくてね!」
五人居る後続の騎士らは、馬上ですれ違い様、皆に会釈して行く。
オーガスタスが、振り向いて怒鳴った。
「『教練』講師が、連絡したのか?!」
その迫力ある声に、隊員騎士らはこぞって振り向き、隊長が怒鳴り返す。
「転がってるだろうから、拾って逮捕してくれと!
連絡を受けた!!!」
護衛連隊騎士らは、馬を止めること無くそのまま駆け去り、リーラスがぼそりと
「講師のヤツ、確信犯だな」
と呟き、横のローフィスもが、頷く。
「オーガスタスがいるから。
間違いなく退治すると、思ったんだろうな」
ギュンターは馬を、護衛連隊が通り過ぎて開いた横へと導き、尋ねる。
「助っ人として、寄越したんじゃ無くて?!」
リーラスは、ギュンターを見てぼやく。
「オーガスタスはとっくに、生徒の粋なんて超えてる。
盗賊退治任せたのだって、腕がなまらないようにと。
ストレス解消だろうな。
…ところでローフィス。
女同伴の時は、殺さないんだな?」
ギュンターが横並びの二人を見ると、聞かれたローフィスは俯いて頷く。
「…そういや、騎乗して女連れ。
って、初めてのパターンか?」
リーラスが、その言葉に頷き返す。
ローフィスが、顔を上げてリーラスを見る。
「基本、女連れの時は、極力悲惨な事は避ける」
リーラスは少し納得出来ない表情で、憮然と言った。
「目配せくれたから、気づいたが。
後片付けが必要な時は、声かけとけ」
途端、二人はふと、じっ…と会話を聞いてる、一番外側に居るギュンターに気づく。
リーラスはローフィスを親指で指して、説明始めた。
「こいつが短剣投げて、殺し損ねたヤツを沈めるのが、俺の毎度の役目だ」
ギュンターは見えない程早く正確だった、ローフィスの短剣技を思い返し、呟く。
「ハズす事なんて、あるのか?」
ローフィスは頷き、リーラスが口開く。
「馬に乗って無くて、接近戦だとな。
群れて揉み合ってる時、オーガスタスはローフィスにしか、短剣使わせない」
ギュンターは察して呻く。
「…仲間が、逆に危険だから?」
リーラスが、大きく頷いた。
ギュンターは少し俯き、ローフィスを見る。
「…いつもは、殺すのか?」
リーラスは目を見開き、ローフィスは真顔で告げた。
「地元のゴロツキは、手に負えない連中以外は、殺さないが。
崖を越えて来た奴らは、毎度必ず」
ギュンターがリーラスを見ると、リーラスは呆れて告げる。
「当然、殺すだろう?
奴ら、さらう価値のない女子供、更に抵抗する力無い老人や病人ですら、容赦無く殺す。
地元のゴロツキは、俺らが可愛がってやるが。
物騒な崖越え盗賊は、ほぼオーガスタスとローフィスに任す」
ギュンターは体格良く偉そうなリーラスを、目を見開き見つめて問うた。
「…あんたは、高見の見物か?」
「俺と仲間達は、二人が殺し損ねた奴らを殺る」
ギュンターはため息交じりに頷く。
「つまりもう。
連係プレーが出来てるんだな」
ローフィスは笑う。
「お前とディングレーは、説明しなくても俺達に付いて来れるだろう?」
ギュンターが頷いてると、ローフィスの背後の令嬢が口開く。
「地元のゴロツキと、崖越えの盗賊の、見分けってつくんですの?」
皆、一斉に令嬢に振り向く。
少し前を駆けてるディングレーが、振り向き呆れた声で告げる。
「…崖越え盗賊に狙われてたら。
あんたとっくに、捕まって売られてたぞ?」
リーラスが俯く。
「…いや。
さらわれたのは多分、年の割に体のエロい美人護衛の方で、彼女は…」
ローフィスは慌てて令嬢アレクサンドラに振り向き、リーラスの言葉を取りなした。
「いや!
まだ成熟してない美人を調教したがるスケベ親父に需要があるから、さらわれてたさ!」
ディングレーがその説明に顔を、思いっきり下げ。
後ろのグリネスは、振り向いてローフィスを怒鳴りつける。
「せっかく戦ってる時は格好いいと、見直したのに!
どうして、そういうスケベ発想しか出来ないのかしら!
それに貴方も!!!」
と、リーラスを激しく睨み付ける。
「どこが、エロいんです?!」
咄嗟、ローフィスはリーラスに振り向き、先頭のオーガスタスは
「ヤバい相手に、とんでもない質問、しやがって…」
と顔下げて呻く。
リーラスはジロジロと斜め前のグリネスを見
「だって胸だけでなく、尻も凄く、むっちりしてるし。
それで16で処女とか言われても、ダレも信じないと思うぞ?!」
と、恐ろしい言葉を、しらっと吐いた。
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「こんだけ速度上げてるのに!
飛び降りて、あいつに襲いかかろうとか、するな!」
と激しく怒鳴り付ける。
グリネスはディングレーに止められ、振り向いてリーラスを、殺気すら混じる凄まじい目で、睨み付けた。
ローフィスとギュンターが、呆れ混じりにリーラスを見つめてると。
リーラスは、肩すくめて言葉を吐く。
「…美人が睨むと。
誘ってるとしか、思えない」
ギュンターとローフィス、ディングレーですら、呆れて言葉の出ない中。
オーガスタスが先頭で
「お前、いつか絶対、女で命落とすぞ!!!」
と全員を代表して、怒鳴った。
が、リーラスは真顔で
「…腹上死で?!」
と叫び返し、皆、分かってないリーラスに、首を横に振りまくった。
『教練』の校門を駆け抜ける。
門番が飛び出て来て
「その女性は?!」
と叫ぶ。
オーガスタスは振り向いて
「講師は承知だ!!!」
と叫び返した。
講師らの居住してる建物の、玄関階段前へと馬を着け、オーガスタスがディングレーとローフィスに、首を振る。
二人は先に降りると、女性二人に手を貸し、馬から下ろす。
グリネスは降りると直ぐ、リーラスの馬へと寄って行き、馬上のリーラスを叱りつけた。
「女性に向かって!
エロい体って、ナニよ?!」
激しく噛みつくグリネスを馬上から見下ろし、リーラスはやっぱり、しらっ、と言い切る。
「最上の、褒め言葉だ」
グリネスは、更に怒鳴った。
「どこが!
貴方、女性の体しか、見てないの?!」
リーラスは真顔で頷く。
「まず、最初が胸で。
次が尻。
君は胸の形も尻の形も、綺麗な上色気もあって、最高にイイ女だ」
「褒めてないわ!」
が、リーラスは頷いて言う。
「16で無ければ。
真面目に、口説いてた」
その時、グリネスはマトモにリーラスの顔を見てしまった。
よく見ると、切れ長の瞳の、整った顔の男らしいハンサム。
肩幅も胸も広く、背も高く逞しかった。
見つめ続けるグリネスの頬が、ほんのり赤く、染まり始める。
その件を見た途端、オーガスタスはディングレーとローフィスに首振って
「後を頼む」
と言い、ギュンターに
「ローフィスについて、令嬢の視線を釘付けさせとけ」
と命ずる。
ギュンターは、皆の馬を従え、厩に向かうオーガスタスに、歯を剥く。
「俺はカオだけか?!」
オーガスタスは頷きながら馬達を従え、去って行く。
ローフィスが階段を上がりかけ、令嬢に振り向くと。
令嬢はディングレーとギュンターの間に挟まれ、頬染めて二人を交互に見つめてた。
「お二人とも、背がとってもお高いのね?」
ディングレーは顔を背ける。
「頼むから、俺にはその気になるな。
縁談の嫁候補として、家にあんたの肖像画まで、来てるから」
令嬢は、頬に両手当ててディングレーを見る。
「…まさか…「左の王家」の、ディングレー様?!
あの?!」
言われてディングレーは、俯く。
「(…あの?)
…どの…あのだ?」
ローフィスは階段上がりつつ、背後に続くディングレーの、そのアホな返答に、がくっ。と首下げた。
「…だっ……。
ああそう言えば…真っ直ぐな…長い黒髪と青い瞳は…我が家に届いた肖像画と、同じですわ?」
「どこがどれだけ、肖像画と違う?」
令嬢は慌てて、首に下げた宝石付きの豪華なロケットを出し、蓋を開けてディングレーに差し出す。
「肖像画を写し取った、ミニチュアですわ。
母がこの方と絶対結婚出来るよう、常に身に着けろと…」
ディングレーは屈み、反対横のギュンターですら、覗き込む。
そこには髪型と目の色、だけは同じながら、ひ弱で軟弱な色男が笑顔で描かれていた。
「……………………………」
ギュンターは言葉が出ず、ディングレーは怒髪天を突く。
「…別の男の肖像と、絶対間違えてるだろう?!
第一宮廷舞踏会で、俺に紹介されてたのに、覚えてナイのか?!」
令嬢は、目を見開いてディングレーを見る。
「あの…最近のことですの?」
ディングレーは言い淀み
「…いや。
もっとガキの頃の話だ。
確か…10になったかならないかで…そんなトシで、将来の嫁としてどうだ?
とお前の親父さんに言われたって、普通10才のガキなら、呆れて相手にしない」
と、だんだん小さくなる声で、答えた。
令嬢は目を見開くと、ディングレーを人差し指で指して呟く。
「…あの…もしかして…。
どう見ても悪餓鬼にしか見えない…王族の…?」
ギュンターが見てると、ディングレーは顔下げて
「…悪餓鬼にしか見えず、悪かったな」
と呟く。
その後、言い訳をした。
「あの時は、犬が噴水に落ちて出られなくなって。
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…だからだろう?
お前の親父、俺が王族だから一応、丁寧語だったが。
娘が病気になると困るから、出来れば直ぐ、着替えて欲しいと。
俺に言ったのを覚えてる。
たったあの程度の泥で、病気を心配するなんて。
どれだけ過保護な親父だ、と呆れた」
けれど令嬢は、ミニチュア肖像画とディングレーを見比べ
「ぜんっぜん、違うわ?!」
と叫ぶ。
ディングレーは俯ききって
「肖像画通りなら、俺はとっくに自殺してる」
とぼやいた。
令嬢は横で、ギュンターが同意するように頷くのを見、もう一度ミニチュア画像を見る。
「でもこの絵の方…。
誰に見せても、素敵♡って言われるわ。
ちょっと…貴方系よね?」
そう言われ、令嬢に見上げられたギュンターは、一瞬で固まる。
「…俺…こんなイケすかない、ニヤケ男に似てるのか?」
思いっきりトーンの落ちた声でギュンターに聞かれても、ディングレーは直ぐ返答できず
「…お前はこんな、スケベでだらけた笑顔は、浮かべない」
と、何とかフォローした。
「あら。
素敵な笑顔なのに」
ミニチュア画を見つめ、そう呟く令嬢から。
ギュンターもディングレーも揃って顔を、背けた。
階段を上がりきる前に、オーガスタスが駆けて戻って来て、振り向くギュンターに
「途中で馬丁に出会ったから、預けてきた」
と告げた。
その時、オーガスタスの前で階段上がってた、険悪なグリネスとリーラスの二人は。
揃ってオーガスタスに振り向いたが、その拍子にグリネスが階段に足を乗せそびれ、バランス崩して階段から落ちかける。
すかさずリーラスが腕を掴み、抱き込んで転ぶのを止めた。
オーガスタスはグリネスが、リーラスの逞しさと男らしさに頬染めて見上げるのを見た。
「あの…。
もう大丈夫だから」
グリネスの言葉に、リーラスは笑う。
「抱き心地が良かったから、つい…」
そう言って、グリネスの体を放す。
その後、オーガスタスはグリネスがリーラスを意識し、頬染めて俯き、睨むのも言葉で噛みつくのも止める様子を見
「(…これだから、リーラスは懲りずにつけ上がるんだ)」
と、ため息を吐いた。
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「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
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