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オーガスタスの配慮

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 酒場に入ると案の定。
見慣れた顔は皆、目当ての女に張り付き、しきりに機嫌を取りまくってた。

ローフィスは忙しそうな仲間達が、入って来る自分らに一瞬視線を投げたものの、直ぐ横の女に視線を戻すのを、ため息交じりに見た。

人気の無い空いた一角の、テーブルに腰掛けると、オーガスタスはそのままカウンターへと酒を注文しに、去って行く。

自分が誘った時。
いつもオーガスタスは決まって二人分の酒を、暗黙の了承で持ってきてくれることになってた。

オーガスタスはカウンターで酒を注文し、ふと気づいてテーブルに残して来たローフィスを見やる。
三年グーデン配下のごろつきらが、椅子に座るローフィスに近付くのに気づいて、長く跳ねた赤毛を肩で揺らす。

ローフィスは下げてた顔を、上げた。
いちゃもん付け始める三年グーデン配下の猛者らに、ローフィスは外で話そう。と席を立ちかける。

「俺の親友に、何か用か?」

ふいに現れたオーガスタスに、その男達は顔を恐怖に歪めた。

自分達を殴り倒すくらい強い、四年の猛者らの顔をぼこぼこに腫らし、自分は掠り傷一つ負わなかった怪物モンスターを目前にして。

体格自慢の三年猛者らですら、見上げる長身。
陽気な態度と微笑み。

が、その鳶色の瞳の奥がぎらり!と光る。

オーガスタスの中の野獣が、敵を前に暴れ出す機会を狙い澄ます。

「…酒場の余興に、俺も一役買うぜ?」

が。
オーガスタスのその一言で。
三年グーデン配下らは、ひっ!と叫び、背を向け、逃げ出した。

ローフィスはそれを目で追い、正面に座る親友の顔を見る。
「折角のご指名だったのにな…」

オーガスタスは顔を下げた。
「…だって針を、刺すか、飛ばすつもりだったんだろう?
針先に、毒は塗ってないな?」

ローフィスは憮然。と言った。
「それっくらいの分別はある!」

尚も見つめるオーガスタスに、ローフィスは解ったよ!と怒鳴る。
「塗ったのは睡眠薬だ!」

オーガスタスはようやく、頷く。
「拳で殴られた方が、奴らに取っちゃ親切だぜ」

ローフィスは呆れた。
「あの、逃げ出し方を見ても、そう思うのか?
殴られる相手は俺じゃなく、お前なんだぞ?」
「だから?」
「虎かライオンくらい、タチが悪いだろう?」

オーガスタスは、気づいてつぶやく。
「そうかもな」
ローフィスは頷き、言った。
「庇ってもらえて、楽できて嬉しい。
が、一度俺を相手にするとどうなるか、思い知らせて置かないと、また絡んで来る」
「そうだろうな…。
熱烈ご指名だもんな!」

ローフィスはやれやれ。と首を振る。
「奴らは王族のディングレーが殴れないから、俺で鬱憤うっぷん晴らしがしたいんだ」

オーガスタスはぼやいた。
「つくづく、お前はモノ好きだ。
シェイルに…次はディングレー?
秘蔵っ子のシェイルは別にして…放っとけないのか?
あんなデカイ面したガタイのいい、王族の男前飼い慣らして、どうする気だ?」

ローフィスは注文した酒がテーブルに置かれるのを見て、グラスを取り上げる。
「あれで結構可愛い」

オーガスタスが、頷く。
「ディングレーの同族で、いとこのディアヴォロスが、そう言うのなら解る」

ローフィスが吐息を吐いた。
「まあ…いつかお前もあいつと親しくなれば解る」
「気の毒だとは思う」
「グーデンの弟だから?」

オーガスタスは、たっぷり頷いた。
「あんな…育ちのいいデカい狼に。
懐かれて、そんなに嬉しいか?」

ローフィスは、すましきって言った。
「親友に、最高にデカくて獰猛なライオンがいるから、どって事無い」

顔を上げるとオーガスタスは苦笑いし、曖昧あいまいに顔を揺らすから。

ローフィスは心の底から、にっこり笑い返した。

間もなく、リサとアンナがやって来ては、ローフィスとオーガスタスの横に座る。
ローフィスは横にかける、アンナの胸の谷間を、つい見やった。

リサが、口をとがらせオーガスタスに尋ねる。
「今日、金髪の坊やは?
一緒じゃ無いの?」

「約束してないからな」

ローフィスも畳みかける。
「連れが俺で、悪かったな」

けれどアンナはにっこり、ローフィスに笑いかけた。
「私は、貴方で良いわよ?
やたら胸が大きいから。
って、力任せに揉んだりしなくて、紳士的だから大好き」

オーガスタスは呆れて手を振り
『行け!』
と合図を送り、アンナが立ち上がるとローフィスも席を立って、二人一緒に個室がずらりと並ぶ、二階へ登って行った。

リサはまだ、オーガスタスにギュンターがまだ来ないのかを問い正し、オーガスタスは他にグーデン配下がウロついてないか。

店内の監視に回った。

ローフィスがアンナを、寝台に笑って押し倒すと、彼女は笑顔でローフィスの首を抱き寄せる。
倒れ込むアンナの顔に、シェイルの笑顔がダブる。

ローフィスは切なさに、心がちぎれそうに痛んだ。

けれどさっと顔を、彼女の胸に埋める。
途端、アンナが甘い、吐息を零す…。

惚れ込んだ、少し前に死んだ男が忘れられないアンナは…ローフィスの愛撫に甘やかに喘ぐ。
どっちも他の相手を、一時忘れるための情事…。

慰め合う、ためだけの。

それでもアンナは、ローフィスに優しいキスを繰り返したし、ローフィスはアンナを優しく扱った。

熱い時間は、ほんの僅か。
けれど互いの肌の温もりが…互いの辛い心を一時、癒した。

コトを終えて、ローフィスが階段を降りていくと、オーガスタスはまだ、リサと飲んでいた。

階段を降りた所でアンナと分かれるローフィスの姿を目にすると、席を立つ。

横に来るオーガスタスは
「送ってく」
と言うから。

ローフィスはオーガスタスを見上げ、尋ねた。

「…お前は良いのか?」

オーガスタスは笑う。
「リサの目当ては三年編入生だそうだ。
この分だとその内、俺に寄って来てた女はみんな、編入生に押し寄せるな」

ローフィスは呆れた。
「お前の巨砲を忘れる女なんていない。
新しいのが、珍しいだけだろう?
どれだけ編入生に押し寄せようが、零れた女はお前を誘うさ!」

オーガスタスは朗らかに笑って、酒場の扉を開け、言った。
「その予測が。
当たればいいけどな!」

ローフィスはまた呆れて、オーガスタスを見上げた。

「もう少し待てば、絶対誘いが来る。
第一どの女もお前に最高ランク、付けてるってのに。
そんなヤツが、言うセリフか?
ドロッティが聞いたら
『嫌味に聞こえる』
と文句言われるぜ?」

オーガスタスはまた笑い、ローフィスの背を押した。

ローフィスは酒場の中で仲間達が、編入生が姿を見せず、目当ての女性らと楽しげに盛り上がる様子をチラと見、酒場を出た。

が、外の木々の暗がりに。
四年グーデン配下の猛者らの、姿がうごめいたのを、ローフィスは見逃さなかった。

“早々に酒場を出たのは、このせいか…”

酒場の皆を、仲間達を。
ゆっくり楽しませたい。
そう思ってるから…オーガスタスは標的の自分の警護に徹し…そして目的が果たされたら早々に帰る…。

オーガスタスの大きな体から、暖かい親密感が流れ込む。

こんなさり気ない気が使えるから。

みんな、彼を慕ってた。
口には絶対、出さないけど。

ローフィスはオーガスタスと肩を並べ、自分を気遣ってくれる親友を心から慕った。

オーガスタスは
“そんな事、とっくに知ってる”

そんな…返答を全身から返した。
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