若き騎士達の危険な日常

あーす。

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ディアヴォロスの訪問

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 シェイルが出て行った後。
ローフィスはそろり…と身を起こす。
シェイルに抱きつかれ、禁欲の為に強力睡眠薬を立て続けに服用し、眠気でふらふらだった。
が、少しは動きたい。

けどちょっと横にズレるだけで、ヒビの入ったアバラはずきっ!と鋭く痛む。
4カ所だったから、あっちにズレるとこっちが痛み…。

暫くあちこち体をズラしてみて、ローフィスは油汗が出始め…ようやく諦めた。
その時、扉が開く。

ローフィスは振り向きながら
「忘れ物か?」と聞き、入って来た相手を見て、目を見開く。
「…ディアヴォロス…」

オーガスタスと、ほぼ同じ位の長身。
幅広い肩にゆったりとした態度。

黒い縮れ毛を背まで伸ばし(身分の高い男は大抵とても長く髪を伸ばしてる)小顔で整いきった美男。
何より纏う雰囲気が…透明で澄んでいて、明るい光に包まれているようで…独特の崇高さを醸し出していた。

彼は寝台に近寄り、横の椅子に座る。
「…ディングレーが。
君が私にとても会いたがっていると」
「…連絡を?!」
「いや。
心の中で、強く思った。
私と居る光竜ワーキュラスは…私と近い者の強烈な思いを直ぐ、感じ取る」

ローフィスは暫く…神の如くの神秘な男、ディアヴォロスを…じっと見つめてしまった。

ディアヴォロスはローフィスを、見つめ返して囁く。
「…私がシェイルを引き受けたら…彼を求める。
彼とは…一度肌を共にしてるから」

ローフィスは目を見開いてディアヴォロスを見つめる。
頭を金槌で殴られたようなショックを受けて。

ディアヴォロスはもう一度、ローフィスに告げる。
「シェイルが望んでるのは…けれど君、ただ一人。
それだけ思われて君は自分の欲望が制御出来ないからと…自分を欲するシェイルから、みずからを遠ざけるのか?
はっきり言っておく。
私では、ダメだ。
一時、保たせる程度。
君が抱かなければ、シェイルは絶望に落ちる」

ローフィスが、顔を大きく揺らす。
「本当に愛してるんなら抱き、そして自分の欲望を制御しろ。
それが出来て初めて、君は本当にシェイルを愛していると言える」

ローフィスは俯く。

ワーキュラスが、ディアヴォロスの心の中で瞬く。
マグマのようにき止められた欲望。
それを…ローフィスは必死で…とても微力ながら必死で。
制御しようと試みて…為す術無くマグマに飲まれる…。

それはワーキュラスからの警告。
ローフィスには荷が重すぎると、脳裏に浮かぶ映像で見せていた。

それが見えても尚、ディアヴォロスはローフィスに突きつける。

「シェイルを抱いたのは君が女性と親しくなり、捨てられると絶望していたから。
彼は生きる力を失って、すぐ死んでしまいそうで…放って置けなかった」

ローフィスが、顔を上げる。
ディアヴォロスの声は低く小さく…けれど響き渡るようにはっきり聞こえた。
「君はシェイルの心の闇を知らない。
それがある限りシェイルは…常に不安定で、君に捨てられたと思えば直ぐ、生きる事を止めてしまうだろう…」

ローフィスが、愕然と顔を伏せる。

「…抱いて、やる事だ。
その強い結びつきだけが…シェイルをこの世に繋ぎ止める。
それが出来るのは君だけ。
私が抱いても、出来るのはせいぜい一時の、やしのみ
この世に光は存在してると…信じさせることは出来ても…。
光は彼の中にあると信じさせられるのは、長い間細心の愛情をささげ続けた、君だけだ」

が、ローフィスはディアヴォロスを怒鳴りつけた。
「あんただって…シェイルに惚れてるんだろう?
同族は直ぐ分かる!
それで俺に…抱けと言う気か?!
…本当の意味で俺からシェイルを奪い取れる…あんたは唯一の男なのに!!!」

だがディアヴォロスは静かに言った。

「惚れているから、彼の求める者が見える。
惚れているから…真にシェイルに、幸福になって欲しい」

ローフィスはその偉大な男の言葉に、表情を歪めて小声で尋ねる。

「例え自分が、シェイルに欲されなくとも?」

ローフィスに聞かれ、ディアヴォロスは頷いた。

ディアヴォロスは無言で、ローフィスの胸の上に手の平をかざす。

ローフィスは突然、ヒビの入った箇所がじんわり温かくなって…。
そして暫く後、ずっと痛み続けた場所から痛みが遠のいて、気持ち良すぎて目を閉じる…。

ディアヴォロスの手の平から発した光が、そこで止まる。

“これ以上は…。
急激に治すと彼も保たないし、君も…”

ワーキュラスに言われて、ディアヴォロスは頷く。

そして目を閉じる恋敵ローフィスを、少し苦しげに見つめ…そっとその場所を離れ、部屋を出た。

ディングレーの召使いはディアヴォロスの姿に一礼し、ディアヴォロスは
「邪魔した」
と一声かけて、ディングレー私室を後にした。


ディアヴォロスは真っ直ぐ、『教練キャゼ』の端に止めた馬車へと歩き去る。
ワーキュラスはずっと、ディアヴォロスの心の中で瞬き続けた。

“どうして恋敵に、愛する者を託す?”

ディアヴォロスはワーキュラスに囁く。
“シェイルが望む相手だから…”
“けれどディアス。
ローフィスは苦しんでいる。
彼の言ったように君だけが。
シェイルをローフィスから、しんに奪える。
それは君の本意だし、ローフィスも…自分を抑える苦労はしなくて済む”

ディアスは俯く。
ワーキュラスは尚も瞬く。

“…なのにシェイルと抱き合う事が出来るよう…君は今、大変な時期なのに力を使ってローフィスの怪我を癒し、君は自身は消耗し、危機を、とても招きやすくしている…”

“危険があれば警告してくれ”

ワーキュラスは切なげに瞬いた。
“当然、それはする…だが。
シェイルの思いは今、君に無い。
なのに…シェイルの心を自分に向けるためで無く…自分の身を心を削ってまで…シェイルをローフィスと抱き合わせる為、癒すのか?
君にとっては…とても辛いことだろう?”

ディアスは同情してくれるワーキュラスに、心の中で微笑む。
“私も、ローフィスにとても苦しいことをしろと焚きつけた。
だから私も…とても辛いことをする。
シェイルの、為に”

けれどワーキュラスにはディアスの心が。

シェイルが心から欲するローフィスと抱き合う姿を想像しただけで、胸が焼けてしまう程嫉妬で辛く激しく、脈動するのを感じた。

柔らかに瞬き、少しでも…ディアスの辛さを癒そうとする。

ディアスは、再び霊廟へと出立する揺れる馬車の中で、微笑んだ。

ワーキュラスの慰めを、とても暖かいと感じながら。

優しい…柔らかな光の瞬きを、心の中でそっと抱きしめながら…。


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