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レイファスの見解
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しおりを挟む四歳のある日、レイファスは自分を産んでから体調の優れないと言われてる母、アリシャに尋ねた。
「アイリス伯父さんの他にも、アリシャは兄弟が、いるんだよね?」
アリシャは白いレースのカーテン垂れ下がる、天蓋付き寝台の上で横たわり、その白く華奢な手の甲を額に乗せていたけど、寝台横の椅子にちょこん。とかけてる愛らしい自分の小さな息子を見つめ、微笑んだ。
自分と同じ、明るい栗色の肩迄ある巻き毛。
やはり自分同じ、栗色の長い睫に縁取られた、くっきりとした青紫色の大きな瞳。
柔らかで小さめの、ピンクの唇。
白い頬もピンクに染まり、本当に愛くるしい天使のように綺麗な子。
「(子供の頃、三つの誕生日に貰った人形にそっくり。
乳母は私がいつでも抱いているその人形を
『二番目のアリシャ』
と呼んでたわ。
双子のように、私にそっくりだから。って)」
アリシャは子供の頃の大のお気に入りの人形そっくりの、とても愛らしい自分の息子を、心から愛していた。
だから病を気遣いつつも、側で質問の答えを待っているレイファスに囁きかける。
「姉妹。よレイファス。
お姉様が居るの」
「アイリス伯父さんは?」
「私のお兄様」
「…ぼく…はどうして、お兄様もお姉様も居ないの?」
アリシャはまだ少し青冷めていたけど、レイファスの方へ手を伸ばして囁く。
「一番最初に産まれた子供はいないの。
アイリスお兄…伯父様は、レイファスと同じで一番初めに産まれたから、お兄様もお姉様も、いらっしゃらないでしょ?」
レイファスはその、明るい栗毛の肩迄の髪を振って俯く。
つん。と形の良い鼻筋。
ぷるん。とした小さく愛らしいピンクの唇を少し尖らせて、大きな青紫色の瞳を向けて来る。
あんまり可愛らしくて、アリシャは再び自分の息子に見惚れた。
「じゃ…ぼくの下に、子供が産まれたら…僕が、お兄様?」
アリシャはレイファスのその利発さに、感激した。
が、乳母が遮る。
「もうお休み下さい。奥様。
大体こんなにお悪くなられたのも、レイファス様の園遊会に出かける御衣装を、夜遅くなっても選んでらしたからですよ!」
レイファスは横に立ち、顎をしゃくって促す乳母に従い、椅子からお尻を滑り落とし、戸口へと歩き出して振り向く。
アリシャは寝台の上で微笑んでいた。
「……………………」
レイファスは少し頭を揺らすと、俯いたまま戸口へと歩き出す。
廊下の反対側から、父親カレアスが、領地見回りから帰ったばかりの急く様子でやって来る。
「アリシャは、ひどく悪いって?!」
真っ直ぐの明るい栗毛。
ヘイゼル(黄色がかった緑)の瞳。
少年のように背が低く華奢なカレアスは、レイファスと並ぶといつも
「貴方のお兄様?」
と客人に聞かれる程父親からかけ離れていた。
外見だけでなく、その中身も。
「…僕の園遊会の衣装を、ずっと選んでて無理して明け方迄起きてたせいだって」
俯き、小声で呟くレイファスの言葉に、カレアスは顔下げた。
レイファスも父親同様、顔下げ囁く。
「…どうせ、具合が悪くなってまた、中止だよね?
ぼくが、最初アリシャが勧めた衣装が嫌い。
って言った、せい?」
見上げるとカレアスは俯いたまま、呻いた。
「君のせいじゃない。
夕べそのう…君の、弟か妹を作ろうとして………」
レイファスは一辺に、瞳輝かせた。
「出来たの?!」
「はぁ………」
カレアスの溜息で、レイファスは父親を見守る。
カレアスはバツが悪そうに囁く。
「子供は草々簡単に、出来ないんだ。
その…産まれて来る迄に、うんとかかる」
「………うんと?」
「もし今出来たとしても、赤ちゃんとして君が目に出来るのは…君が五歳になった頃だ」
「五歳になったら、ぼくお兄様?」
「………多分、無理だろう………」
レイファスはもう、それ以上何も聞けなかった。
だってカレアスと来たら、顔、下げきってしょげていたから。
レイファスも一緒にしょげかけたけれど、突然顔、上げて言った。
「アリシャはお姉様が居るって!」
「ああ…セフィリアだろう?
家(うち)はアリシャの具合が悪くて、あちらはセフィリアの息子、ファントレイユがしょっ中熱を出して、いつも機会が無くて…。
そう言えば君、一度も会ってないな」
「アリシャの、お姉様?」
「と、その息子だ。
確か…君と同じ年だ」
そしてカレアスは思い立って顔を上げ、弟か妹をレイファスが忘れてくれるように祈り、話を別に振った。
「…弟が出来なくても、従兄弟と友達になれるぞ?」
「いとこ?」
カレアスは頷く。
レイファスは思い出してカレアスを見つめる。
「いつかアイリス伯父様が、息子のテテュスに会わせるって。
テテュスはいとこだって」
カレアスはようやく、笑う。
「アリシャの兄弟の子供は皆、従兄弟だ」
「カレアスのいとこは?」
「私は一人っ子で兄弟が居ないから…。
その、子供も当然居ない」
「カレアスのいとこは居ないの?」
カレアスは、頷く。そして尋ねる。
「アリシャは真っ青だった?」
レイファスはふ…と吐息吐く。
「それ程でも。
けど、目眩がするって」
「多分また、貧血だな」
レイファスはもっと、顔下げる。
「アリシャは少女の頃、元気だって。
僕を産んだから弱くなったって。
乳母が」
カレアスは首、横に振る。
「ここは…湿度が高いから…湿気が良くないと主治医が言ってた。
君の、せいじゃない」
「しつど。って何?」
「じめじめしてる事さ。
風の通りも悪いしな……。
ほら、丘の上だと風が吹くから、あまりじめじめしない」
「どうして丘の上に家、建てないの?」
「この辺りの丘はあまり広くないから」
「アリシャ用に、小さな家を建てたら?」
「考えてみる。
それより療養地に出かける方がいいと、医者が勧める」
「それ、どこ?」
「ここより南で…暖かくて過ごしやすくて、じめじめしていない所だ」
レイファスは黙った。
近くの“丘”はどうやら、療養地に勝つ見込みが薄いようだったから。
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