十字架のソフィア

カズッキオ

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第二章

娯楽都市ザハルータ

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 湖の街トリスの一件から数日経った頃、ライルとソフィアは中立都市の一つ娯楽都市ザハルータに来ていた。

「ここが娯楽都市ですか!  沢山人がいますねライル  」

ソフィアは都市を囲んでいる城壁の門を通ると声を上げる。

「ライル、ここは何故こんなに人がいるのですか? 」


「娯楽都市ザハルータは名前の通り貴族達の娯楽であるギャンブルや剣闘なんかで栄えた中立都市だ。
暮らしに余裕のある奴等が毎日金を稼ぎ、また金を流している  」

「ギャンブルですか?  」

ソフィアは首を傾げる。

「興味あるのかソフィア?  」

ライルの言葉にソフィアは首を振る。

「いえ、ギャンブルは必ず親が得をするように出来ていると聞いています  」

「へえ、詳しいな  」

「はい、アンナさんが言っていました  」

『あのシスターはソフィアにどんな知識を教えたんだ、てかむしろシスターはギャンブルやっていいのか?  』

ライルは心中で疑問を抱く。

「まあいいや、とりあえず付いて来てソフィア  」

ライルはソフィアの手を引いて歩き出す。

「あ、ちょっと待って下さい!  」

ソフィアは慌てて付いて行く。

「どこに行くのですか?  」

ライルの隣に追い付いたソフィアはライルに聞く。

「いいからいいから  」

ライルは答えてくれない。

ソフィアはふとライルと手を繋ぎっぱなしな事に気づく。

「あ、あのライル、手……  」

「ん?  ああ人が多いから逸れちゃうかと思って……嫌だった?  」

ライルは手を離そうと力を弱めようとする。しかしソフィアは更に手を強く握り言う。

「い、いえ…嫌じゃないです…ただこ、恋人みたいだなと…  」

ソフィアは顔を赤くする。
そんなソフィアをライルは笑ってからかう。

「ははは、じゃあ周りからは俺達恋人に見られてるのか。そう見えているなら俺も鼻が高いな  」

「あの、それはどういう意味ですか?  」

ソフィアの質問にライルはまた笑う。

「いや、ソフィアみたいな美人を連れて歩けるなんて男冥利に尽きるって事だよ  」

「~~~~~~か、からかわないで下さい!  」

ソフィアは更に顔を真っ赤に染める。

ライルはそんなソフィアを見て内心安心する。
何故ならトリスの一件以来ソフィアはあまり元気がなかったからだ。
自分では元気に振舞っていても無理しているのがバレバレなのだ。
だからライルはこんな冗談で笑ったりできるなら大丈夫だなと思う。


 「はい、到着  」

しばらく歩くと目的地に着く。

「ここは……服屋ですか?  」

ソフィアは店に出ている看板を見てライルに聞く。

「そうだよ。ソフィアの服を買おうと思って  」

「そんな悪いです服なんて高い物を買ってもらうなど、私は修道服で充分です  」

しかしライルは首を横に振る。

「ダメだ、その服じゃ旅する時に無駄に体力を使うし何しろ目立つ、これからの為にも服は必要だ  」

「う、わ、分かりました  」

ソフィアは渋々店内に入る。

「いらっしゃいませ。本日はどの様な要件でしょう?  」

店内に入ると女性店員が出迎える。

「この子の服を作ってくれ  」

ライルはソフィアを見て言う。

「かしこまりました。ではこちらへどうぞ  」

店員が促すのでライルとソフィアは後に続く。

「ではお名前を教えて下さい  」

店員は一枚の羊皮紙とペンを出すのでソフィアは名前を書いて店員に渡す。

「では採寸をしますので奥へどうぞ。…お連れ様はどうなさいますか?   」

店員の女性はライルを見て言う。

「外で待ってるよ。どのくらいで終わる?  」

「昼頃には終わるかと  」

店員が言うとライルはテーブルに銀貨を三枚置く。

「これで足りるか?  」

「!?お客様こんな額頂けません!  」

店員は置かれた銀貨を見て言う。

「じゃあこれで彼女に似合う服を作ってくれ  」

ライルはそう言うと店を出る。

「さて、これからどうするか…… 」

ライルは大通りを行き交う人々を見る。

昼までまだ時間がある。ライルが悩んでいるとどこから大歓声が聞こえる。

「剣闘か…… 」

ライルは大通りの一番奥にある大闘技場を見る。

この都市で最も有名なのは都市の中央にある大闘技場だ。
闘技場では毎日剣闘士達が巨大な魔物や動物、他の剣闘士と戦っている。

元々は血を見るのが好きな貴族や王族が娯楽として見にくる場所だが今では一般市民にも人気だ。

その理由は試合の前にお金を賭け見事剣闘の勝利者を当てると外した人の賭け金が一度集められ当選者に分配される。
つまり二分の一の確率で賭け金が増えるのだ。それも観客の数だけ集められる金額が増える為いつも沢山の人々で埋め尽くされている。
また一部の人気剣闘士にはファンがいる為人気剣闘士の試合は前日からチケットを買わないと席がないという状態になる。

ライル自身も昔別の闘技場で剣闘士をしていた事があったがその時はそれなりに儲かってはいた。

剣闘士になる者は大体が裕福層に飼われている奴隷たちだ。しかし奴隷でも名を上げればそれなりに良い生活が出来るらしい。

その次に多いのが傭兵や盗賊崩れの荒くれ者、次に純粋に剣で生計を立てている者だ。

ライルは大通りを歩き闘技場に着く。
今やっている試合に出ている剣闘士の名前が書かれた紙が木の看板に貼り付けられている。
これから行われる試合は剣闘士対剣闘士の試合らしい。
しかしどちらもライルは聞いたことのない名前だ。
どうやら先程の大歓声が起こった試合はもう終わったらしい。

ライルは受け付けでこれから行われる試合のチケットを買うと闘技場内に入る。
ライルは適当に空いている席に座るとこれからまさしく試合が始まろうとしていた。

一人の男は盾持ちの片手剣士、もう片方は槍使いの男だ。

ちなみに対人戦では武器の刃は潰してある為殺す事は出来ない。
しかし双方の同意のもとでなら真剣を使う事もある。

 しばらくすると試合開始の銅鑼が鳴らされる。

先に動いたのは槍使いだ。ロングレンチからの連続攻撃。
しかし盾持ち片手剣士は盾で上手いこと防いでいる。

そんな試合を見ているとライルは退屈で欠伸が出てしまう。
ライルから見れば酷く双方の戦いが遅いのだ。あれでは実際の戦場では直ぐに殺されるだろう。

ライルが退屈していると隣から声が聞こえる。

「お、今日は珍しいのがいるな  」

ライルは隣を見ると一人の男性がいた。
ボサボサの髪の二十歳位の男。
ライルはその顔を見て言う。

「ん? おお久しぶりだなフーゴ!  」

ライルは懐かしい顔に驚く。
フーゴはこの都市に住む商人をしている青年でライルの友人だ。

「よっライル旅の途中で寄ったのか?  」

「ああ、それで暇だから来たんだけど…… 」

「この試合も退屈だったと、ははさすが勇者様は言う事が違うね~ 」

「まだ何も言ってねぇだろ  」

ライルは笑うフーゴの脇腹を肘で小突く。

「はははそうだライル明日の剣闘出てみねーか?   」

「剣闘? なんでだよ  」

「それがよぉとんでもなく強い剣士が来てよ、黒髪の長髪の東洋人なんだけどよ   」

フーゴが自分の髪と照らし合わせながら特徴を説明する。

「東洋人?秦帝国しんていこくか?  」

「いや、大和ノ国やまとのくにだ   」

ライル珍しい国の名前に少し驚く。

「へー極東の島国の武人がどうして剣闘なんか   」

「わかんねーけどとりあえずめちゃくちゃ強くてよ、今日だって人食い鬼オーガを一瞬で倒しちまったんだ  」

どうやら先程の歓声はその試合だったらしい。

「なるほど、そりゃ強い。だけどなんで俺が出なきゃいけないんだよ  」

ライルの言葉にフーゴはニヤリと笑う。

「いやなに簡単な事さ、今やあいつは人気者だ、そこにお前が参加してもお前が魔王討伐の勇者だってみんな知らねーだろ。だから観客のほとんどがあいつに金を賭ける。もちろん俺はお前に賭けてお前が勝てば一気に億万長者って訳だ! な、頼むよお前も旅の金が手に入るしお前が勝ったら俺からも少しは分けてやる!悪い話じゃないだろ!  」

フーゴの熱弁にライルは少し考える。

「……分かったいいぜ明日の試合でてやるよ。もし俺が買ったら金貨三枚な  」

ライルはニヤリと笑う。

『これで剣闘自体の報酬で少なくとも銀貨十五枚、フーゴのを合わせれば旅の路銀はかなり賄えるな…… 』

「よっしゃ流石ライルだぜ!大丈夫だあいつの試合はいつも満員だから金貨三枚なんて直ぐに稼げるぜ!  」

「よし、交渉成立だ  」

ライルとフーゴは拳をコツンとぶつけ交渉を成立させた———————。



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