【不定期更新】ラッキースケベに憧れて 〜明るく楽しい異世界生活〜

香月ミツほ

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記憶喪失……?

2-7 釣り迷人……? とほほ。

アニタさんから辛気臭いから帰れ、と言われたけどワインがよく売れたことで許されたオレは、賄いをツマミにしてもらってそのまま店じまいまでバカ言い合いながらお客さんと呑んだ。

即席サングリアを2杯、薄めの果実酒を1杯でふわふわだ。元々強くないしなぁ。

そしていつも通りハリーに送ってもらって眠った。



*******




翌朝はうっすら二日酔い。
水を飲んでシャワーを浴びたらほとんど治った程度。それで、宿の食堂に降りて朝食を食べていたら船長がやって来た。

「昼過ぎに出港だ。荷物をまとめろ」
「いきなり!?」
「悪いな。急がなきゃならなくなったんだ」

季節によって海流は変わる。とくに流れが複雑で手強い海域があり、今回はそこを通った先の島に届け物をするらしい。

「オレも一緒に行った方がいいの?」
「お前さんの身元の手がかりがあったのなら信用できる奴に預けてもいいんだが、ここにはなさそうだ。だから連れて行く」

そうなのか。
まぁ、オレ船酔いしない体質みたいだし、船長と一緒にいられるのは割と嬉しいからいいけど。

たいした荷物もないのでささっとまとめ、船長と共にハリーを迎えにアニタさんの店に行った。



「アニタさん、短い間でしたがありがとうございました。また来たら働かせてくれます?」
「……このままうちでずっと働いてくれてもいいんだよ?」
「気に入られたな。だがこいつは連れて行く」

船長は前半はオレに向かって、後半はアニタさんに向かって言った。なんか、仲悪い……?

アニタさんにとって船長は可愛がってたハリーを危険な海に連れて行っちゃった敵! って認識らしい。ハリーは人懐こくてかわいいもんね。でも船長、ハリーのこと大事にしてるよ? たぶん。

アニタさんがハリーとの別れを惜しんでいる間、オレは末っ子を膝に乗せてたんだけど、すべすべの肌着に気づかれて撫で回され、笑い転げて椅子から落ちた。末っ子は死守したぞ!

「ふ、ふぎゃぁぁぁぁぁ!」
「いててて……。大丈夫? どこか痛い?」
「んー? あぁ、驚いただけさ。気にしなくていいよ」

そういえばちびっ子って驚いただけで泣くよな。

アニタさんが抱いてあやすと、末っ子は豊満な胸に顔を埋めて泣き止んだ。母親ってすごい。

そういえばハリーの両親には会えなかったな。

お父さんは大物を捕まえに少し遠い海に出かけてしまって、いなかった。お母さんはおばあちゃんが腰を痛めたから看病に行っている。だから今はアニタさん夫婦がハリー兄弟のお母さん代理だ。

アニタさんの旦那さんはとにかく無口で、結局会話はできなかった。頷くか首を振るか、アニタさんが通訳するか。アニタさんに「おい」って言ってるのは聞いたから喋れない訳でもない。

おしゃべりなオレからすると不思議でしかたない。でも幸せそうだからそれでいいんだろう。アニタさんが3人分くらい喋ってるし。

ハリーの弟妹にお別れのハグとキスをして船に向かう。ハリーはお姉さんのアニタさん、12歳の弟、7歳の妹、2歳の弟の5人きょうだいだった。12歳の弟くんは照れてぎこちなかったけど、この世界の船旅は二度と会えない可能性もあるのでちゃんとハグしてくれた。みんなかわいい!!



*******



「船長! すんません……」
「おれ達、しばらく船を離れます」
「あ? どうしたんだ?」

若いこんがりゴリマッチョ2人がいきなり船長に謝った。聞けばいざ出発となった今日、昔馴染みに拝み倒されて大工仕事を手伝わなくてはならなくなったらしい。

「世話になったオヤジが骨折しちまって、若いのも2人巻き込まれて……」

船に乗る前、成人前でヤンチャしてた2人をみっちり仕込んでくれた近所のオヤジさんなんだって。巻き込まれた2人もよく知ってる人で、1人は病気の家族のために頑張ってたのに怪我でしばらく無収入になってしまうらしい。

そりゃ助けるしかないよね。

「だがせめて1人は力自慢が入らねぇと次からがきついな……」
「「すんません……」」
「まぁ、仕方ない。どっかで臨時に雇うさ。お前らは恩返ししてこい」

船長ぉぉぉ!
なんて良い人なんだ!!
惚れちゃう……♡

そうして前より2人少ない乗組員10人とオレの合計11人で、ノア船長の船「アルカ」は出港した。



*******



「ハリー、見張りって楽しい?」
「いや、遊んでるわけじゃ……」
「あの高いところ怖くない?」
「それが怖くちゃ船乗りなんてやってらんねぇよ」

アルカ号は2本マストの中型の帆船。
みんなマストの上の方に据え付けられた見張り用の籠みたいな所までするすると登っていくので、だんだん登ってみたくなった。

高いけど。

「登っていい?」
「やめとけ!!」

掃除を手伝おうとしたけど邪魔にされ、料理を手伝おうとしたら船の揺れで指を切り、見張りを希望すれば却下される。

することがない。

「たかだか3日だ。大人しくしとけ」
「退屈なのー!!」

そう。
オレは退屈していた。
スマホもなく、本もない。カードゲームはあるけどルールが分からない。それに昼間はみんな仕事してるから構ってくれない。

「何かさせてー!!」
「あー、分かった。釣りしろ」
「釣り?」
「そうだ。ただし、静かにしてねぇと魚が逃げるぞ」
「やってみる!」

したことないけど、海といえば釣りだよね。
スキンヘッドの副長、その名もダルマツィーオが面倒を見てくれることになった。この船1番の釣り名人らしい。

ダルマさんだけに、じっと待つのは得意なのかも。

「餌、つけられるか?」
「エサ……、これ?」

異世界にもミミズはいました。
まぁ人間がいるんだからミミズだってオケラだってアメンボだっているよね、きっと。

うぅ……。

「つけてやる。ほれ」
「ありがとうございます!」

針にミミズをつけてもらった竿を受け取る。

日本で見たのとは違うけど、ちゃんとリールもついてる。テグスもあるんだな。

船の横に糸を垂らして当たりを待つ。

………………。

………………………………。

………………………………………………。

来ない。

「………………しっ!」

ダルマさんがまず釣り上げたのは50cmくらいの鯵っぽい魚。鱗がキラキラしてきれい。

「えっ! それ、どうするの?」
「もっと大物を狙うための餌だ」

せっかく釣った魚をさっきとは別の釣り竿にセットし、投げ入れる。今度の竿は竿もテグスも前より太い。どんなのが釣れるんだろう?

「来たっ!!」

ぐいんと竿がしなり、ダルマさんは上手く緩めたり引いたりして魚を弱らせる。しばらく駆け引きすると魚はゆらりと浮き上がり、その姿を見せた。

「大きい!!」
「まぁまぁだな」
1mはある大きな魚は、身が厚くて美味しそうだ。長い柄の先にフックがついた道具でエラを引っ掛け、引き上げる。1人で持ち上げるの、すごくない?

「おい、引いてるぞ」
「えっ!? わっ! ホントだ!!」

ダルマさんの釣果ちょうかに気を取られていたらオレの方にも何かかかっていた。

慌てて引くも、結構重い。

「ふぐぐぐぐっ!!」
「がんばれ! 手を離すなよ!!」

すぐにダルマさんが手伝ってくれて無事に釣り上げられた。

が。

「ふやっ!」

釣り上げられ、びちゃっとオレの胸に張り付いたのは大きなタコだった。

衝撃で尻餅をつき、そのままひっくり返るオレ。

目まぐるしく色を変えるその姿は異世界でも同じで、シャツの色に変化しようとして白くはなれず、隠れようとしたのかシャツの隙間に入り込んできた。ぎゃー! にゅるにゅるする!

「ムリぃ……、だめぇ、大き過ぎぃ……! 入らな……」
「お、おぉ……」
「うわぁ……」

足を広げたら2mを超える大ダコでは、シャツに潜り込もうったって無理!!

と思ったけど入った。

「おい、お前ら何見てんだ」
「船長! 助けてぇ~!!」

駆けつけた船長の指示で大ダコは引き剥がされたけど、しっかり吸い付いた吸盤で身体中に痕がついてしまった。

タコのキスマークとかギャグか!!




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