【不定期更新】ラッキースケベに憧れて 〜明るく楽しい異世界生活〜

香月ミツほ

文字の大きさ
56 / 66
記憶喪失……?

2-19 袖擦り合うも……?

『バル・無口なアニタ』で働き、宿に帰って寝て起きて朝食を食べ、市場をうろついて昼食を食べたらまた『バル・無口なアニタ』へ。

こんなルーティンを繰り返す事3日。

市場で怪しい露店を見つけた。

「さぁさぁ、どうだ! 貴族の御令嬢がお忍びをしたときにつけたペンダントだよ!」

それは平民の普通のアクセサリーでは?

「こっちは幸運を測る干し肉だ」
「痛みかけじゃないか!!」

運が良ければ腹を壊さない、ってアホか!
思わずツッコミ入れちゃったよ。

「アンタ……、きれいなのにノリがいい。どこかで会わなかったか?」
「初対面です」
「そうかぁ? まぁ、俺みたいな有象無象はアンタみたいな別嬪さんの記憶にゃあ残らんだろうな。で、艶の木の実から搾った油なんてどうだ?」
「艶の木?」
「種から油が搾れるんだが、葉が艶々してるんだ。だから艶の木」

椿みたいなものか。

「アンタのきれいな黒髪が濡れたようになって色気がえらいことになるぞ?」
「色気」
「どんな男もイチコロだ」

ウィシェールさんも……?

「いくら?」
「おぉ! ありがとよ! こいつは銀貨20枚だ。けど、アンタなら大負けに負けて銀貨18枚でいいぜ!」

瓶の大きさからして150ml。18000円は高くない? 悩むなぁ。

「おや、これはタカラ様。またしてもそちらを気に入られたのですか?」
「……どちら様?」

フェイスベールをつけた怪しい男に名前を呼ばれた。誰だよ!?

「以前お会いした時には警戒を解いてくださったのに、また嫌われてしまいましたか?」
「会ったこと、あるの?」
「ありますよ。……なにやら事情がおありのようですね」

怪しさ満点の砂漠の民っぽい人がオレを知っているらしい。なぜに?

「思い出した! キアトリル王国で会ったんだ。あの時もこのお人が買ってくれて、でも別嬪さんはナンパに怒って受け取らずに帰っちまったんだよなー」

露店の主が話してくれたけど記憶にないので他人の空似なんじゃない? でも名前……。

「……本当に?」
「えぇ、恋人を誘うものを他の男に買ってもらうつもりはない、と」

それはそうだよね。
モーゼスと名乗った怪しい男は、ベイセル師団長によろしく、と言って雑踏の中に消えていった。

師団長……?



*******



「ねぇ、ハリー。キアトリル王国のベイセル師団長て知ってる?」
「知らね」

だよね!
ハリーだもんね!!

「ハリー、知らないのかい?」
「アクさん知ってるの?」
「もちろんさ! かの御仁は強く、逞しく、雄々しい。隣国との争いで数々の武勲を挙げておられるのだ」

常連客で役者のアクトールさんが朗々と語り始めた。そんなすごい人なの? もしかしたらオレの旦那様かも知れない人って。

「けどタカラの着てた服、クヴァノスのだったよ?」
「いったいどんなドラマがあったのだろうねぇ!」

期待の眼差しで見られても知らないよ!

「いらっしゃいませー! あっ、ウィシェールさん……」
「あぁ、飲みにきたぞ」
「用事は済んだ?」
「まぁ、なぁ」

上手くいかなかったのかな。
とりあえずエールと本日のおすすめを出す。本日のおすすめはタコのカルパッチョと暴れ牛の煮込み、そしてサラダ。

「どんな用事だったのか、聞いてもいい?」
「収穫はなかったんだがな」

苦笑しながらも、ウィシェールさんは出かけた理由を教えてくれた。

「身元の手がかり?」
「あぁ。実は俺には記憶がないんだ。それで名前が彫ってあったという装飾品を返してもらおうと世話になってた家まで行ったんだが、捨てられてしまったようで手に入らなかったんだ」
「装飾品……?」
「見たこともない、キラキラと光る宝石がついていたらしいんだ」

それってもしかして!!

「あのっ! コレじゃないっ!?」

首に巻き付けた革紐を解き、夜光貝から出てきた大きな指輪を見せる。

「すまん。俺は覚えていないんだ」
「でも、試してみて?」

ドキドキしながら強引に同意を得、ウィシェールさんの大きな左手を取る。そして太くて節くれだった薬指に指輪をあてがうと、吸い込まれるようにピッタリ嵌まった。

リーーーーンゴーーーーン……

脳内に響く鐘の音。
この指輪の持ち主はやっぱりウィシェールさん!

「「「「「ぴったり!」」」」」

いつの間にか見守ってくれていた店内の人たちの声が揃った。

「あっ、でもこれ、ベイセルって彫……」
「まっ、まさにベイセル師団長だ! 燃えるような赤い髪で巨大な馬に乗って戦場を駆け抜け、敵陣にすら道を切り拓く英雄!」
「見たことあるの!?」
「噂だけだ!」

アクトールさぁんんんっ!!

演劇の題材として聞いたことがあるだけで上演もされなかったからみんなは知らないんだって。アクトールさんは台本を読んで気に入ったけど大柄な役者さんがいなくて保留中だとか。

役者をやらないかってウィシェールさんをスカウトしてる……。

その後は筋肉自慢達の羨望の眼差しを浴びながらオレの仕事を眺めていたウィシェールさんだけど、店が終わる前に帰ってしまった。

アフターのお誘いがあっても良いのになぁ。




店が終わり、ハリーに宿まで送ってもらおうと表に出るとウィシェールさんが待っていた。

アフターのお誘い!!(違)

「タカラ、少し話がしたいんだがいいか?」
「もちろん!!」
「ハリー、タカラは送っていくから任せてくれ」
「助かるけど……。船長から言われてるんだ。タカラに手ぇ出すなよ?」
「大切にする」
「ハリー! オレは大人なんだからそんなの自分で決めるよ!」
「けど船長がタカラは預かりモンだから、って……」

大事にしてくれるのはありがたいけど束縛はお断りします。まぁ、ベイセル師団長とかいう人は気になるけどね。

ウィシェールさんが手土産にお酒を買ってきてくれたので屋台でつまめるものを買って宿に帰る。うふふふふ、お部屋デート!



*******



部屋のソファで向かい合わせに座り、お酒を注いでとりあえず乾杯。ウィシェールさんは焼酎みたいなお酒、オレには蜂蜜酒を買ってきてくれていた。

「ウィシェールさん、蜂蜜酒って高いんでしょう?」
「まぁ、それなりにな。だが美味いだろう?」
「うん! 甘くて美味しいよ」
「タカラには甘い酒が似合うような気がしてな」

ぺ、ぺろりと味見しても良いんですよ!?

やっぱりウィシェールさんだと最後までしても良い気がする。他の人だと憧れはしても実践はしたくない感じだったのに、どうしてだろう。どストライクだからかな。

「あ、指輪……」
「すまん、付けたままだったな。なんだかとてもしっくりくるんだが……」
「それには『ベイセルへ、タカラより』って書いてあるんだって。ウィシェールさん……、ウィシェール・ベイセルなんて名前だったりしない!?」
「いや……、どうだろう?」

西洋風の世界ならミドルネームとかあってもおかしくないのでは!?

「店でも言ったが俺の名前を示す物は捨てたそうだ。だから俺が何者なのかはまだ分からない。だが、タカラに惹かれて仕方がないんだ。アンタがベイセル師団長とやらの元に戻るまでで良い。仮初めの……、いや、身代わりでも……、恋人にしてもらえないだろうか」

とても苦しそうに告げながら、瑠璃色の石をあしらった銀色のブレスレットを差し出した。

「これは……?」
「英雄の話にあやかって、ラピスラズリだ。情けないが虹水晶には手が出なくてな」
「情けなくない!! ならこれ、受け取ってくれる?」

オレは手元に残してあった晶洞の半分をウィシェールさんに差し出して続ける。

「オレもさ、部分的にだけど記憶がないんだよ。ベイセル師団長、て名前にはときめくけど今いないし、覚えてないんだ。それでオレ……、ウィシェールさんのこと、好きになっちゃって……。軽いと思われるかも知れないけど、ベイセルよりウィシェールさんと恋人になりたいです!」

ウィシェールさんは少し目を見開いて驚いたけど、すぐにオレの手をとって熱のこもった眼差しで見つめてくれた。

感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
ファンタジー
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

魔王(よしこ62歳)と勇者パーティ

歩人
ファンタジー
保育園を定年退職した田中よしこ(62歳・大阪)が目覚めると、異世界の魔王になっていた。討伐に来た勇者パーティは全員ボロボロの少年少女——よしこの目には、ごはんも食べていない、ろくに眠れていない「要保護児童」にしか映らない。「まずお手て洗おうね(^^)」から始まる、世界で一番やさしい魔王の物語。魔王軍の幹部も勇者も、みんなまとめて面倒を見る。だって元保育士やもん。剣でも魔法でもなく、「ちゃんと見てあげること」が最強の武器だった——ごはんと「えらいな」で世界を変える、おばちゃん魔王の子育てファンタジー。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。