この状況には、訳がある

兎田りん

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それはキャンプとして成立していない

19

「ハーゴン教授は職員間でも遭遇が難しいんですか?」
 イスラー教授と見間違えてる可能性は…?
「僕はそんなつもりないんだけどね」
 ハーゴン教授はちゃんと学園でもお仕事してくださいね。
「(双子の)片割れのイスラー教授が「鏡がなかったら顔を忘れそうなレベル」と言うくらいに会えないらし…あ、ファルム君だ。いつ戻っ………」
 どうやらアルバ教授は俺が戻っていることに今気づいたようだ。そして白豆を見た瞬間フリーズ。これはバレましたね。
 兄弟が顔を忘れそうなレベルは流石まずいと思います。年単位で会ってないとかじゃないとそうならないよね?
「ちょ………これ…………」
 連れてきたメイナース先生を見ながら「マジで?」みたいな顔になるアルバ教授。メイナース先生はニコリと微笑みながらこう告げた。
「その件で聞くことと申し渡すことがある」
 相談じゃなくて決定事項か。まず「この子何に見える?」って聞いてからの「みんな(チーム肉)には内緒だよ」の流れですねわかります。

「ファルム君がちょっと目を離した隙にとんでもないものを従えてきた…」
 アルバ教授がヤツメウサギを抱いたままつぶやく。額の目(仮)が見えてるから、浄化チャレンジはまだの様だ。
 チャレンジ直前に俺が吹っ飛ばされちゃったから仕方ないとは思いますが、俺のことを問題児みたいに言うのは御遠慮下さい。
 魔物の研究者でもあるアルバ教授も初見では白豆がシルバーフェンリルだとは判らなかったかった様だが、普通の子犬じゃないことは見抜いていた。さすが教壇に立つだけの事はある。
 だが、この状況下でもヤツメウサギを手放さない辺りにはふもふへの執念を感じる。
 アルバ教授に抱かれているヤツメウサギは大人しい。吹っ飛ぶ直前に見た時より、綺麗なっている気がするからお手入れされたのだろう。何がアルバ教授をそうさせるのか…もふもふ…恐ろしい子!
「私のファルムは素晴らしいでしょう?唯一無二の存在ですよ」
 兄上は隙あらば俺を高みに追いやるのやめて下さいね。俺は一般ピープルでいたいんですから。
「この状況下で「自分は一般王都民である」みたいな顔をしても通用せぬぞ」
「ピンポイントに突いてくるのは御遠慮下さい」
 メイナース先生が俺の願いを打ち砕きに来るのは何故でしょうかね。

「シルバーフェンリル…幻獣の育成を間近で見るチャンス…」
「僕ら…というかファルムファス君が認める人物以外への情報拡散は参加資格の剥奪だからね」
「特に肉ら(ゴルラフ隊長with騎士科学生の皆さん)にはならぬぞ。あれらは拡散器故迂闊に広めまくって要らぬ難を持ち込む未来しか見えぬ」
 アルバ教授をハーゴン教授とメイナース先生で挟んで両側から圧をかける。
 細身で快活なインドアみたいな風貌のなお二人だから圧迫感とか恐怖感はないんだけど、こんこんと詰められそうな気はするので俺はされたくない。
 まあ、相手はアルバ教授だし白豆の為になるなら思う存分やっちゃって下さい(お任せモード)。

 アルバ教授にはハーゴン教授が「ファルムファス君が飛ばされた先にフィールドワーク中の僕がいて、その地に住んでいたこの子(シロマメ)に気に入られたファルムファス君がなんやかんやあって一緒に帰ってきた」的な説明をしている。
 間違ってはいないのだが、俺が聞き手なら「その「なんやかんや」を詳しく」ってなる。
 だが、白豆のつぶらな瞳に見つめられたアルバ教授は「そうですか。色々あったのですね」と考えるのをやめた。
 その「なんやかんや」に最重要ポイントである大神様の事が含まれていることは言うまでもない。 

「シロマメがファルムファス君の元から離されることがあったら、アルバ教授のせいだって伝言を残して旅に出てやる」
 その脅し文句は酷い。
「この場で決断せねばお触りも無しであるぞ」
「誓う!ファルム君の意に沿わない事はしない!だからせめて一撫での慈悲をッ!」
 アルバ教授陥落。即落ちに近い速さである。説得より説明の時間の方が長かった気がする。そんなにもふもふしたいのか。もふもふが目の前にいるのにモフれないのは確かに辛いものがあるけどさ。
「兄上、どうしましょうか」
 結果は大体予想できてはいるけど、とりあえず「独断ではありませんよ」の体を見せておこう。あわよくば継続中のバックハグを解除してもらいたい…
「うん、言う事ちゃんと聞いてくれるならシロマメを一撫でするくらいならいいんじゃないかな。ファルムに触れたら許さない。同じ空気を吸えるのは私だけだと心得よ」
 途中まではよかったのに、俺の話にすり替えた瞬間におかしな事になった。どこからの目線なの?メイナース先生の口調が感染した?
「キュウ?」
 白豆もどう反応したらいいか困ってるじゃないか。俺は聞く相手を間違えたかもしれない。

 途中経過はどうあれアルバ教授を無事に仲間にした俺たちは、焼肉パーティに興じているチーム肉と合流。
「帰ってきたのか。無事でよかった。このいい感じに焼けた肉をあげよう」
「…ありがとうございます?」
 完全スルー…だと?いやこれは肉に気を取られて他の事を気遣えないだけかもしれない…どこに行っていたのかとか聞かないのか?いや、アルバ教授もそういえば聞いてこなかったな。
「ファルム君、可愛いわんちゃんだね。この子への肉は少し冷ました方がいいだろうから皿にのせておくよ」
「ありがとうございます」
 ゴルラフ隊長がスルーしているせいなのか、学生たちも俺や白豆のことを違和感なく?受け入れている。
「これが普通の反応というものなんでしょうか?」
「彼らが特殊なだけだと思うな」
 そうだと信じていますよ?

「僕の事はまだ認識してないみたいだね」
「ゴン氏ではなくイス氏と思われている気がする。それでも疑問が生じぬあたりが肉よ」
 大人たちの反応が騎士科に厳しい。肉にしか意識が向いていないのが悪いと思います。
「それにしても、完全にシロマメを普通の子犬として受け入れたことが驚きです」
 兄上も流石に「マジかよ」みたいな顔をしている。
 確かに。アルバ教授まではいかなくても「何かがおかしい」とはならないのだろうか。
「ラスよ、ああなるでないぞ」
「そんな特殊な環境下では育っていませんのでご安心ください。私はファルムさえいてくれればいいんです」
 騎士科の学生の皆さんは入学するまで普通の生活をしていたと思いますよ?…あれ?そうなると感染源はゴルラフ隊長?
「兄上はもう少し弟離れするべきです」
「だか断る」
 好みの顔面で言われちゃうと大抵の事は許してしまう自分をどうにかしたい。
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