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始まりは断罪の目撃から
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長々と過去を振り返っていたが、現実に戻ろう。
「わたくしの話、聞いて下さる?」
この一言で、会場のほぼ全ての視線が俺に向けられた気がする。
突然見た事のない奴が関係者しか入れない式典にいて、尚且つ注目の茶番劇に横槍を入れてきたら、流石にザワつくよな。俺も当事者じゃなければ何事かと思って見ちゃうもん。
視線を集めるのも目的の一つだから、見るなとも言えないし!嫌な汗出る!
現状を軽くおさらいすると、現在地はマッチェレル学園のホール。卒業式典と銘打ったおめでとうパーティのど真ん中。
派手なドレスを纏ったアリナ嬢を抱き寄せたルーベンス殿下が、アイローチェ様に「真実の愛を見つけたから婚約破棄だぞ!」と、盛大にやらかしたところに切り込まされた俺(ドレス装備)。
俺に与えられたミッションは、ルーベンス殿下と愉快な仲間たちの婚約者であるご令嬢方の名誉を守ること。
婚約破棄については、されても痛くない(家はどうかわからない)そうなので、触れなくていいそうだ。
この日のために何故か淑女教育までされてしまった俺は、見た目と所作だけ見れば名家の令嬢。
また「あの子は誰?」と思われているのだろう。
観衆の耳目は十分に集めた。さあ、マイクパフォーマンス(茶番)の始まりだ!
「許可なく発言するとは無礼な!名を名乗れ!」
突然現れた知らない奴(俺)が「話を聞けよ」って割り込んできたからか、ルーベンス殿下がちょっと戸惑っている。まあ、そうだろうな。
「晴れの場を楽しみにされていたであろう皆様の許可なく祝いの場を汚す方々に、名乗る名などございません」
名乗るとかしませんよ。令嬢ではないのですからね。ほほほ。
視界の端でアイローチェ様がよしよしと頷くのが見えた。
いい感じに噛み付けたのだろう。出だしは好調のようだ。
「ただわたくしのことは、罪なき令嬢を護る者、と認識していただけると嬉しく思います」
愉快な仲間たちを見据え、ふっと微笑む。周囲の令息、令嬢達が息を飲む空気が伝わってきていたたまれない。
え、だって前世から目立つの嫌だったし。見られるの落ち着かないわコノヤロー!
もう不可能なレベルになっているだろうが、今でも生涯モブ生を貫きたいと思っている。
どいつから始めてやろうかと愉快な仲間たちを見ていたら、うっかり兄上と目が合ってしまった。視線が合わないように気をつけていたつもりだったのだが…
向こうがガン見していたら逃げられないもんな…
兄上は俺の目を探るように見つめていたが、すぐに何かに気付いたような顔をし、手で口元を隠す。これは、バレたな。
帰ったら確実に家族会議だろう。嫌だな。もう帰りたい。いや、帰ったら家族会議だから帰りたくない。どっちだよ。
この状況は俺のせいじゃない!むしろ兄上のせいだからな!俺は悪くないぞ!
「聖女であるアリナを散々貶めておきながら、罪が無いとは笑わせてくれるじゃないか」
マーロル公爵令息(メガネ)がメガネの縁に指を添えながら、こちらを小馬鹿にしたように吐き捨てる。
「内容は?」
「何だと?」
「どのようにして「散々貶め」たのでしょう?ご来場の皆様にも判るように教えてくださいませ。このような場で言い放たれるのですから、揺るがぬ証拠も勿論添えて頂けるのでしょう?」
当然ご用意なのでしょう?と優雅に振舞ってみせるが、内心は「売られた喧嘩は買うぞ、この野郎。そのメガネにたっぷり指紋をつけてやる」状態である。早く終わらせたい。
「そこまで言うなら聞かせてやろう!そこな令嬢達はアリナの美貌に嫉妬し、アリナ嬢を悪し様に罵るだけでなく私物の破損、階段から突き落とすなど数々の悪事を働いたのだ!」
美貌に嫉妬!アリナ嬢は確かに整った顔立ちだが、アイローチェ様の方が遥かに美人だ。
美貌にも嫉妬にも草まみれですわ!名も知らぬ草花でガーデンパーリーですわ!度を調整して出直せ。
「証拠は?」
「何だと?」
「物的証拠です。目撃証言でも構いません。実際に見た者はどちらに?また、証言があったとして、裏付けはしっかり取られましたか?」
「アリナが涙ながらに訴えた事が偽りだというのか!」
「片方にしか話を聞いていない時点で、証拠としては成り立たないことは子供でもわかる話です。ああ、涙を流せば妄言でも信じてくださるのでしたか?」
泣いてみせましょうか?と笑ってみせると、メガネがぐぅ…、と言葉に詰まる。おい、その程度で詰まるなよ!
嫌がらせの内容も傍から見れば事件(名誉毀損、器物破損及び傷害)だが、明確な証拠がないものを出しても無駄でしかない。
「あの子が泣いたからお前が悪い!」とか、幼稚園児の喧嘩でもしない事をよくもまあ恥ずかしげもなくこの衆人環視の中でやったな!鋼の心だな!
王家の宝をくすねた罪をでっち上げられたら反論に困るなぁ…とか、あれこれ考えて備えたの無駄だったじゃないか!
何より、目撃証言や証拠の捏造もせず、自分たちの発言だけで断罪できると思っていたことが逆に凄いわ!
やべぇ、盛大にツッコミたい。我慢我慢…
「そもそも、ルーベンス殿下をはじめ、ご令息の皆様には婚約者がおられますね」
「それがどうした?」
次はミノウス男爵(メイジ)か。自力で地位を掴み取っただけに、こちらの方が頭は良さそうだ。
「家が定めたとはいえ婚約者のいる男性に擦り寄る女性と、簡単にそれを受け入れる男性。不貞と言われても仕方ありません。これは立派な婚約破棄案件ですよ。勿論、男性側の有責で」
ここでも爽やかな笑顔攻撃だ。
ああ、兄上が小刻みに震えている。
見るの怖いんだけど、視界に入っちゃうから気になって仕方ない!いっその事、数歩下がっていて欲しい。
俺は(後ろの圧が強くて)下がれないんだ。
「わたくしの話、聞いて下さる?」
この一言で、会場のほぼ全ての視線が俺に向けられた気がする。
突然見た事のない奴が関係者しか入れない式典にいて、尚且つ注目の茶番劇に横槍を入れてきたら、流石にザワつくよな。俺も当事者じゃなければ何事かと思って見ちゃうもん。
視線を集めるのも目的の一つだから、見るなとも言えないし!嫌な汗出る!
現状を軽くおさらいすると、現在地はマッチェレル学園のホール。卒業式典と銘打ったおめでとうパーティのど真ん中。
派手なドレスを纏ったアリナ嬢を抱き寄せたルーベンス殿下が、アイローチェ様に「真実の愛を見つけたから婚約破棄だぞ!」と、盛大にやらかしたところに切り込まされた俺(ドレス装備)。
俺に与えられたミッションは、ルーベンス殿下と愉快な仲間たちの婚約者であるご令嬢方の名誉を守ること。
婚約破棄については、されても痛くない(家はどうかわからない)そうなので、触れなくていいそうだ。
この日のために何故か淑女教育までされてしまった俺は、見た目と所作だけ見れば名家の令嬢。
また「あの子は誰?」と思われているのだろう。
観衆の耳目は十分に集めた。さあ、マイクパフォーマンス(茶番)の始まりだ!
「許可なく発言するとは無礼な!名を名乗れ!」
突然現れた知らない奴(俺)が「話を聞けよ」って割り込んできたからか、ルーベンス殿下がちょっと戸惑っている。まあ、そうだろうな。
「晴れの場を楽しみにされていたであろう皆様の許可なく祝いの場を汚す方々に、名乗る名などございません」
名乗るとかしませんよ。令嬢ではないのですからね。ほほほ。
視界の端でアイローチェ様がよしよしと頷くのが見えた。
いい感じに噛み付けたのだろう。出だしは好調のようだ。
「ただわたくしのことは、罪なき令嬢を護る者、と認識していただけると嬉しく思います」
愉快な仲間たちを見据え、ふっと微笑む。周囲の令息、令嬢達が息を飲む空気が伝わってきていたたまれない。
え、だって前世から目立つの嫌だったし。見られるの落ち着かないわコノヤロー!
もう不可能なレベルになっているだろうが、今でも生涯モブ生を貫きたいと思っている。
どいつから始めてやろうかと愉快な仲間たちを見ていたら、うっかり兄上と目が合ってしまった。視線が合わないように気をつけていたつもりだったのだが…
向こうがガン見していたら逃げられないもんな…
兄上は俺の目を探るように見つめていたが、すぐに何かに気付いたような顔をし、手で口元を隠す。これは、バレたな。
帰ったら確実に家族会議だろう。嫌だな。もう帰りたい。いや、帰ったら家族会議だから帰りたくない。どっちだよ。
この状況は俺のせいじゃない!むしろ兄上のせいだからな!俺は悪くないぞ!
「聖女であるアリナを散々貶めておきながら、罪が無いとは笑わせてくれるじゃないか」
マーロル公爵令息(メガネ)がメガネの縁に指を添えながら、こちらを小馬鹿にしたように吐き捨てる。
「内容は?」
「何だと?」
「どのようにして「散々貶め」たのでしょう?ご来場の皆様にも判るように教えてくださいませ。このような場で言い放たれるのですから、揺るがぬ証拠も勿論添えて頂けるのでしょう?」
当然ご用意なのでしょう?と優雅に振舞ってみせるが、内心は「売られた喧嘩は買うぞ、この野郎。そのメガネにたっぷり指紋をつけてやる」状態である。早く終わらせたい。
「そこまで言うなら聞かせてやろう!そこな令嬢達はアリナの美貌に嫉妬し、アリナ嬢を悪し様に罵るだけでなく私物の破損、階段から突き落とすなど数々の悪事を働いたのだ!」
美貌に嫉妬!アリナ嬢は確かに整った顔立ちだが、アイローチェ様の方が遥かに美人だ。
美貌にも嫉妬にも草まみれですわ!名も知らぬ草花でガーデンパーリーですわ!度を調整して出直せ。
「証拠は?」
「何だと?」
「物的証拠です。目撃証言でも構いません。実際に見た者はどちらに?また、証言があったとして、裏付けはしっかり取られましたか?」
「アリナが涙ながらに訴えた事が偽りだというのか!」
「片方にしか話を聞いていない時点で、証拠としては成り立たないことは子供でもわかる話です。ああ、涙を流せば妄言でも信じてくださるのでしたか?」
泣いてみせましょうか?と笑ってみせると、メガネがぐぅ…、と言葉に詰まる。おい、その程度で詰まるなよ!
嫌がらせの内容も傍から見れば事件(名誉毀損、器物破損及び傷害)だが、明確な証拠がないものを出しても無駄でしかない。
「あの子が泣いたからお前が悪い!」とか、幼稚園児の喧嘩でもしない事をよくもまあ恥ずかしげもなくこの衆人環視の中でやったな!鋼の心だな!
王家の宝をくすねた罪をでっち上げられたら反論に困るなぁ…とか、あれこれ考えて備えたの無駄だったじゃないか!
何より、目撃証言や証拠の捏造もせず、自分たちの発言だけで断罪できると思っていたことが逆に凄いわ!
やべぇ、盛大にツッコミたい。我慢我慢…
「そもそも、ルーベンス殿下をはじめ、ご令息の皆様には婚約者がおられますね」
「それがどうした?」
次はミノウス男爵(メイジ)か。自力で地位を掴み取っただけに、こちらの方が頭は良さそうだ。
「家が定めたとはいえ婚約者のいる男性に擦り寄る女性と、簡単にそれを受け入れる男性。不貞と言われても仕方ありません。これは立派な婚約破棄案件ですよ。勿論、男性側の有責で」
ここでも爽やかな笑顔攻撃だ。
ああ、兄上が小刻みに震えている。
見るの怖いんだけど、視界に入っちゃうから気になって仕方ない!いっその事、数歩下がっていて欲しい。
俺は(後ろの圧が強くて)下がれないんだ。
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